TOKOSHIE

一条咲穂(花宮守から改名)

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第2章 若き刑事の苦悩

第23話

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 事務所に戻る途中、恵麻に母親から電話が入った。気分がいいので家族三人、久しぶりに外で食事をしたいから、帰る時間を知らせてほしいということだった。
「うーん、今日の仕事を簡単にまとめておきたいから……」
 腕時計を見て思案する彼女に、小声で「僕がやっておきます」と言うと、大きな目が輝いた。
「お母さん、やっぱりすぐ帰れそうだから待ってて。うん。じゃあ、あとでね」
 大崎はタクシーをつかまえ、運転手に見当で金を渡した。礼を言って乗り込む恵麻に、翌日の予定を告げる。
「じゃあ明日、九時に現地で」
「はい。お疲れ様でした。あの……」
「はい?」
「大崎さん、チョコって大丈夫ですか?」
 チョコに幽霊が憑いていないかとか、幽霊は怖いがチョコも怖いかとか、そういう話じゃないよなと、頭の中がグルグル回る。
「大丈夫ですよ」
 さり気なさを装って返事をした。恋愛経験が乏しくても、これぐらいはわかる。未来は明るい。
「よかった! じゃあ……明日」
「お昼からの、楽しみにしてます」
 運転手は穏やかな人物で、離れがたい様子の若者二人を応援するように、発進を待ってくれた。
「俺は気になることがあるから、いったんお前と事務所へ戻る」
 その後また彼女の警護につくから、と暗に言ってくれる葉桜に目で頷き、扉から離れた。
 カーブの向こうへと、車が消えるまで見送った。
「あ」
 重大なことに気付いた。彼女は、いったん事務所で浄化させるべきだったのではないか。明日も現地直行だ。大崎や葉桜の目の届かないところで、霊が暴れ出すことはないだろうか。
 青ざめて、呼び戻そうとスマートフォンを取り出すと、「落ち着け」と制された。
「俺は二時間もすれば彼女のところへ行くし、その間、常に人の目がある」
「ですよね……」
「やばいのはお前の方だ。行くぞ」
 何がやばいのか教えてもらえないまま、少し歩いて路地裏へ入った。そこからは、事務所へ飛ばしてもらった。

 帰所して最初に済ませたのは、今回の依頼人への連絡だった。やはり幽霊案件であったこと、霊は祓ったこと、調査料としていただくのは基本料金のみでよいことを伝えた。
「いくら振り込んでくると思う」
「うーん、二倍……いや、三倍かな」
「相場がわかってきたな」
「これだけやっていれば、まあ」
 ノートパソコンを閉じ、冷蔵庫へと歩いた。ミルクを出して大きめのカップに注ぎ、インスタントコーヒーを少量混ぜて、電子レンジへ。手っ取り早くカロリーを摂取したいから、熱々になったところへ砂糖を二杯入れた。そういえば、鞄を庁舎に置きっ放しだ。このあと、取りに行かなくては。
「ふぅ……」
 所長のデスクに軽く寄りかかって、ゆっくりと飲む。
「座れよ。疲れただろ」
 庁舎から例の土地へ飛ばされたあと、大して時間はかかっていないが、霊に入り込まれて消耗したのは確かだ。
「今日は、やけに優しいですねえ。では遠慮なく」
 葉桜はというと、椅子に座った大崎に斜めに背を向ける形で、デスクに腰かけた。
「それで、気になることって何です?」
「あのな」
「はい」
 次の言葉まで、たっぷり三十秒はあった。
(恵麻さん、無事着いたかな。明日、何着てこうかなあ。午前中は仕事だしなあ……)
 万が一にも優勝できたらディナーを獲得できる。いつもの素っ気ないスーツより、一段上のお洒落がしたい。ホテルの宿泊券もついてくるが、そこまで一気に望んでも許されるものだろうか……。
 楽しい計画は、所長の真剣な声に遮られた。
「バレンタイン・ホラーが済んだら、しばらく怨霊退治を休んだ方がいい」
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