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第五話 春の雪①
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毎週土曜の夜。安理は店に顔を出した。私が律儀に毎週来て確かめているとも言えるのだが。
何も約束通りに行かなくても、ましてや店を変えても良いわけなのだが、彼を年齢を口実に軽くあしらおうとしたことが、今となっては嘘を吐いた後ろめたさとなっていて、それが足枷となっていたのだ。
もはや安理が私への興味が失せて店に来なくなるのを待つ他ない。年齢も若いし、すぐに恋人が他にできるか、性への欲求から靡かない相手には早々に見切りをつけるだろう。そう高を括っていた。
しかし、ひと月ふた月と経っても安理は店に来た。寧ろ私の定位置であるカウンターの端の席を「確保しておきました」と言わんばかりにその隣の席に腰を下ろして待っていた。まるで忠犬ハチ公のようにして。
そうして約束の四月をあとひと月先に控えた三月上旬。
「伊涼さん!」
顔を見るなり、先週くしゃみをしていた彼が風邪でダウンしていないかと期待していたために、思わず溜息が出そうになった。が、ぐっと堪えて席に座る。
そうすると、安理はいかにも常連と言った感じで「マスター、いつもの二つ!」と私の分まで注文するのだ。もはや数ヶ月近く毎週来ているのだから常連客には違いない。
「……相変わらず元気そうで何よりだ」
「伊涼さんも最近寒いですから、気をつけてくださいね。来週特に冷え込むそうですよ。季節外れの雪になるかもってニュースで言ってました」
相変わらず丸型のサングラスを掛けたまま微笑む。彼はその「秘密主義」を絶対に貫き通す気でいるようだ。
それ以外の服装はコートやベルトなど以外は必ず違う服装で来る。家が金持ちなのだろうか、ある程度財力が無ければ難しいだろう。髪型もファッションに合わせてアレンジする。
そして、服のセンスは好みかどうかはさておき、自分に似合うスタイルを分かっているというか、単純に良いと思う。ゲイの間ではモテるファッションという定型のスタイルがあるのだが、そこに依らない彼は珍しいタイプだった。
今日は白のカットソーにワインレッドのニットを重ね着して、タイトな黒のパンツに黒のレザーシューズ、黒のMA-1ジャケットを羽織っている。髪型は少しルーズめに団子のようにして後ろで結んでいる。
ちなみに私はといえば、灰色のストライプのシャツに黒のジャケットとパンツ、黒のトレンチコートだ。大体それぞれの色が変わるだけでほとんどスタイルは変わらない。
「先週から何かありました?」
「いいや。相変わらず平凡な日常だ」
「そうなんですね。俺はまた姉さんから連絡がありました。仕事が順調かどうか心配らしくて」
未だに互いの仕事は何をしているのか知らないままだ。こういう場であれば、仕事どころか相手の素性などは一切知らないままでいるというのもよくあるし、今まで交際していた相手ですらあまり知らないでいた。知る必要もなく、たいして気にもならなかったからだ。
しかし、安理は割合何でも話す男だった。両親を幼い頃に立て続けに病気で亡くし、歳の離れた姉に育てられたという身の上話なども。
何も約束通りに行かなくても、ましてや店を変えても良いわけなのだが、彼を年齢を口実に軽くあしらおうとしたことが、今となっては嘘を吐いた後ろめたさとなっていて、それが足枷となっていたのだ。
もはや安理が私への興味が失せて店に来なくなるのを待つ他ない。年齢も若いし、すぐに恋人が他にできるか、性への欲求から靡かない相手には早々に見切りをつけるだろう。そう高を括っていた。
しかし、ひと月ふた月と経っても安理は店に来た。寧ろ私の定位置であるカウンターの端の席を「確保しておきました」と言わんばかりにその隣の席に腰を下ろして待っていた。まるで忠犬ハチ公のようにして。
そうして約束の四月をあとひと月先に控えた三月上旬。
「伊涼さん!」
顔を見るなり、先週くしゃみをしていた彼が風邪でダウンしていないかと期待していたために、思わず溜息が出そうになった。が、ぐっと堪えて席に座る。
そうすると、安理はいかにも常連と言った感じで「マスター、いつもの二つ!」と私の分まで注文するのだ。もはや数ヶ月近く毎週来ているのだから常連客には違いない。
「……相変わらず元気そうで何よりだ」
「伊涼さんも最近寒いですから、気をつけてくださいね。来週特に冷え込むそうですよ。季節外れの雪になるかもってニュースで言ってました」
相変わらず丸型のサングラスを掛けたまま微笑む。彼はその「秘密主義」を絶対に貫き通す気でいるようだ。
それ以外の服装はコートやベルトなど以外は必ず違う服装で来る。家が金持ちなのだろうか、ある程度財力が無ければ難しいだろう。髪型もファッションに合わせてアレンジする。
そして、服のセンスは好みかどうかはさておき、自分に似合うスタイルを分かっているというか、単純に良いと思う。ゲイの間ではモテるファッションという定型のスタイルがあるのだが、そこに依らない彼は珍しいタイプだった。
今日は白のカットソーにワインレッドのニットを重ね着して、タイトな黒のパンツに黒のレザーシューズ、黒のMA-1ジャケットを羽織っている。髪型は少しルーズめに団子のようにして後ろで結んでいる。
ちなみに私はといえば、灰色のストライプのシャツに黒のジャケットとパンツ、黒のトレンチコートだ。大体それぞれの色が変わるだけでほとんどスタイルは変わらない。
「先週から何かありました?」
「いいや。相変わらず平凡な日常だ」
「そうなんですね。俺はまた姉さんから連絡がありました。仕事が順調かどうか心配らしくて」
未だに互いの仕事は何をしているのか知らないままだ。こういう場であれば、仕事どころか相手の素性などは一切知らないままでいるというのもよくあるし、今まで交際していた相手ですらあまり知らないでいた。知る必要もなく、たいして気にもならなかったからだ。
しかし、安理は割合何でも話す男だった。両親を幼い頃に立て続けに病気で亡くし、歳の離れた姉に育てられたという身の上話なども。
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