聖獣様は愛しい人の夢を見る

xsararax

文字の大きさ
21 / 44

19 シスイ

しおりを挟む
 それから二年の月日がたち、レヴィンは五年生、十六歳になった。身長が伸びてほどよく筋肉がつき騎士らしいしっかりとした身体つきになった。実力も上位のほうだ。
 平民出身ではあるがリーンハルトのパーティで重用されている。ますますユークリッドに似てきており、人外じみた匂いたつような美貌は、リーンハルトの横に立っても見劣りしないどころか並んだ美形に目が眩みそうである。レヴィンとリーンハルトは親戚だけあって、このごろは良く似てきた。

 あるときルークが「お二人が並ぶと良く似ておりますね。ご兄弟のようです」と言った折に、

「それはそうだろう。公爵子息の君も私の遠い親戚に当たるが、レヴィンはもっと近い親戚だ。又従兄弟かの?」

 と、リーンハルトが爆弾発言を投げつけてきたことがあった。実際、学園にいるひとつ下の弟や、ふたつ下の妹よりもよく似ている。
 レヴィンが混乱して、え、えとしか言えないでいるのに、リーンハルトはそれには無頓着な様子で説明をした。

「君は曽祖父のエングリット王の落し胤だ。だからアングレア家を守護してきたシスイ殿がそばにおるであろう」

 まだ良くわかっていないレヴィンにリーンハルトは後日聖獣について書かれた文献を貸し出した。


 レヴィンは自室で文献を読み、自分の出自よりもシスイがいなくなるということにかなりショックを受けた。レヴィンはシスイの首に腕を回して額を埋めた。

「シスイ……僕が一人前になったら……帰ってしまう? 僕を置いて?」

 シスイもおそらくそうではないかと考えていた。黙って目をつぶって俯く。

「帰ったらもう会えないのかな……今までの人たち、みたいに……僕の家族はシスイだけなのに……」

 シスイの耳元に小さな声でささやくと、シスイはたまらなくなったようにレヴィンから身体を離した。そしてあたり一面の光――――。


「え、ケイさん?」

 レヴィンは目を瞬いた。光がおさまると、さっきまでシスイがいたところにケイがいてこちらを見つめている。

「黙っててごめん」

 慧吾が謝ってもレヴィンは黙っている。もう何も言ってくれないのかと諦めはじめたとき、レヴィンの宝石のような紫の瞳から涙が静かに頬を伝った。

「ほんとに見守っててくれたんだね……」

 慧吾は詰めていた息を吐きだした。それからいったん自分の目を片手で覆って上を仰いでから答えた。

「そう……。ずっと黙ってるつもりだったんだ。聖獣っていうのも人になれるのも。殿下に後を頼んでね。でも……黙ったまま消えたらやっぱり後悔するかもしれない」

 こちらを向きなおった慧吾もまた同じ色の瞳を潤ませていた。今度の別れはユークリッドとの別れと変わらないくらいつらいと思う。いっしょに過ごした期間はもっと長いのだ。

「いつまでいれるかわからないけど、いれる時間を楽しもうよ。ね?」

 
 今まで話せなかったぶん、二人は夜遅くまで話をした。リーンハルトにした説明に加え、自分が異世界人であることも話した。

「ええ! シスイ……ケイさんはほんとは人間なの!? しかも僕とおんなじ学生」
「今までどおりシスイでいいよ。シスイでいる間は時間が進まないんだけどね。帰ったら勉強忘れてる気が……課題があるんだよなあ」
「ええ……シスイが学校の課題……それなのに僕と過ごしてくれてありがとう。そうだね、悲しむより、いっしょに過ごせた時間を喜ぶことにする」


 翌日の登校時、レヴィンは廊下でルークを連れたリーンハルトとすれ違った。レヴィンが頭を下げると、泣きはらした目元を覗きこまれた。

「よく話したか。シスイ殿は過保護すぎる。知らぬほうがもっとつらいこともあるのだぞ」

 シスイは若干心にくすぶるものがあり、じとりとリーンハルトを見てから頭をぺこりと下げた。

 レヴィンに何も知らせなかったのは端的に言うと過保護のせいでもあるが、シスイの心の保護のためでもある。ユークリッドのことがあってから、心を持っていかれた上に逝かれてしまうのが耐えられなかったのだ。
 しかしこのやり方は、今までもあまりうまくいっているとは言えなかった。


 教室に入るとネージュ、ネージュのパーティメンバーのセリアがシスイを撫でにやってきた。そしてレヴィンの目が赤いのに気づいて騒ぎたてる。

「どうしたの!? 目が赤いじゃん。治療してもらいに行く?」

 その声を聞いたクラスメイトたちも集まってきた。

「ほんとだ! 何かあった?」

 と、ざわざわしている。レヴィンはふるふると首を振った。

「心配してくれてありがとう。ちょっと本を読んで泣いちゃって」

 と、まんざら嘘でもないことを言う。ネージュはなーんだと言いながら、レヴィンの頭をくしゃくしゃと撫でた。シスイと同じ扱いである。クラスメイトたちもよかったーと口々に言いながら、ついでにシスイをもふって席に戻っていく。

 レヴィンはまた目尻にじんわり涙が溜まるのを感じた。シスイと、それから最初に声をかけてくれたネージュ、リーンハルトのおかげでクラスメイトたちも良くしてくれる。孤独にひとり教室の隅で本を読んでやり過ごしていたときとは違うのだ。レヴィンは胸が温かくなった。

「えっ、どうした。なんでまた泣いてるの?」

 ネージュの慌てた声に、レヴィンは笑顔を作って答えた。

「ううん、思いだし泣き」
「そ、そっか……」

 はかなげに見えるレヴィンの笑顔に、ネージュとセリアは挙動不審になって席に戻る。

「あれはやばい」
「やばいね」

 ネージュとセリアはヒソヒソとささやきあっていた。シスイにはしっかり聞こえていて、ウンウンと頷いていた。


 さて、卒業を来年に控え、レヴィンたち五年生は進路をそろそろ考えなければならなくなった。ネージュたちは騎士団の入団試験を受けたり、冒険者になったり、家業を継いだりするそうだ。
 レヴィンは平民の身分だが、リーンハルトに気に入られていることもあり、騎士団に入ってまずは騎士爵を得るのだろうと思われている。リーンハルトの強い勧めもあって、レヴィンもその方向で将来を考えるようになっていた。

 リーンハルトは卒業と同時に正式に立太子する見通しとなり、その数年後には王として即位することになる。それから婚約者と婚姻し、子供を持つ。
 リーンハルトには婚約者候補が数名おり、選定している途中だ。今のところ、ルークの妹のスーヴィア公爵令嬢が最有力候補である。スーヴィアはほかの女性のように口うるさくなく、それでいてどっしりと頼りになるところがリーンハルトも気にいっている。彼女は兄のルークとともに良くリーンハルトを支えてくれるだろう。
 たとえ後嗣ができなくても、リーンハルトには弟も叔父もいる。王家は安泰なのである。

 もしもレヴィンに王位継承権が発生したとしても、十位くらいにしかならない。シスイが守護していることを加味しても、五位より上には上がらないだろう。だからレヴィンが何らかの地位を手に入れても王位争いには参加できない。逆に言うと、出世しても本人の安全が保証されていると言ってもいいだろう。





「シスイはどうして僕が騎士に向いてるってわかったの?」

 夜、ベッドに腰かけてレヴィンが聞いたので、答えるために慧吾は人型になった。

「俺の最初の主人はユークリッドだった……」
「初代様だね」
「そう、ユークリッドは優秀な騎士だったんだ。でも魔法は得意じゃなかった。君と同じタイプだったよ」
「僕と同じ……」

 慧吾は首を傾けてじっとレヴィンを見つめた。だがレヴィンは、慧吾の眼差しが自分を素通りしているように感じていた。

「ユークリッド……は」

 そこで慧吾は夢から覚めたように目を瞬いた。

「……君はユークリッドに似てるんだ。顔も姿も匂いも……」
「僕が初代様に……」
「だからすぐに君がユークリッドの子孫だってわかった。もっとも、君くらい似てる人は今までいなかったけどね。その、紫の瞳も。俺がユークリッドに加護をあげてからユークリッドの瞳は紫に変わった。だけど、子孫には引継がれなかったんだよ。……そして君の瞳の色は生まれつきのもの……」

 レヴィンは慧吾が何を言いたいのかわからず、じっと慧吾の言葉を待った。しかし慧吾がその続きを語ることはなかった。

「さ、明日も早い。そろそろ寝よう」
「え……、うん。わかった。おやすみ」

 唐突に話が打ちきられたことに戸惑ったレヴィンだったが、諦めてその夜はベッドに潜りこんだのだった。けれどいろいろなことが頭をくるぐると回って、なかなか寝つけない夜を過ごすことになったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

処理中です...