聖獣様は愛しい人の夢を見る

xsararax

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26 親友の機嫌のとり方は

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 慧吾は今、正座をしている。正座をして、涼介に尋問を受けている。

「それで? いなかったときは異世界に行ってたわけだ。そこで魔法を覚えて冒険者もしてたと」
「ハイ」

 自分が聖獣なことは黙っていた。もふもふのかわいい犬になったとか(犬じゃないけど)親友に言いたくない。

「俺も連れてけ」
「は?」
「俺も連れてけよう!」

 涼介はがばりと床に伏した。慧吾ばっかりとかぶつぶつ言っているのが聞こえてくる。

「うーん?」

 慧吾は首をひねった。

「転移のときにたまたまいっしょにいて、手をつなぐとか? でも帰ってこれるかわかんないよ?」
「ううう……行ってみたいけど帰れないのも困るな」
「うん、毎回ドキドキよ。でもさ、帰りたくないなあとも思う」

 涼介は唐突に起きあがった。

「帰らないの!? それはダメだろ!」

 慧吾の肩を掴んでガタガタゆする。

「う、うん……」

 舌を噛まないように慧吾は口を閉じたまま返事をすると、ようやく涼介の手が肩から離れた。

「ご両親も悲しむぞ。ちゃんと帰ってこいよ。頑張って帰ってこい」
「うん、そうだね」

 涼介はまだ心配そうだ。慧吾は言い訳を始めた。

「なんだか最初に知り合った王様の縁が切れないみたいでね。子孫の危機に駆けつけてるみたいなんだ。自分ではどうしようもないんだよ」
「その王様はどうなったんだ? 資料があったんじゃないのか」

 慧吾は次に異世界に行ったとき、またギルドに行っていろいろ調べたことを思いだした。
 それにユークリッドの息子で、慧吾が遊んでやったシスランや、その孫のミクリルに教えてもらったことも。

「あるにはあったけど……その王様の息子のシスラン公って人の孫と仲良くなってね。小さいときに遊んでもらったとかで、そのころ亡くなったとは言ってたんだ。そのあとシスラン公から直接聞いたよ。息子に国王を譲って隠居しててね」

 聖獣の姿で会ったんだけどね。と慧吾は心の中でつけ加えた。シスランは慧吾が言葉がわかることを知っていたのでユークリッドのその後のことを語ってくれた。

「ユークリッド、八十六歳で亡くなったんだって。長生きして……俺を待ってたんだって。最期まですっごく美形のおじいちゃんだったんだって」

 途中から涙をこらえて唇を震わせながら話す慧吾に、涼介も目を潤ませた。

「泣くなよ。もらい泣きしちゃったじゃん」
「泣いてない」
「泣いてる泣いてる。……でもさ、幸せな人生だったんでしょ? その人。良かったじゃん」
「うんうん。それにレヴィンて……いや、そんなはずないよな……」

 慧吾はそれきり無言でうつむき、しばらくたってからまた口を開いた。

「寂しいもんだよ。あっちで知り合ってもさよならも言えずにお別れしてそれっきりだから。最初は記録を調べたりしたんだ」
「そうなんだ」
「でも、Aランクだった冒険者の人なんかそれからすぐにダンジョンで行方不明になってた。それから怖くなって調べるのはやめたんだよ」
「それって……」

 涼介は複雑な顔をした。ダンジョンで行方不明といったらだいたいどうなったのか想像がつく。励ますように菓子を差しだし、そしてわざと明るい声で質問した。

「そういえばさ、ほかにはなんかチートとかないの?」
「あ、外国語がペラペラになったのが一番便利かな」
「なにそれ!」

 ズルいズルいと涼介が騒ぐ。

「あとは氷魔法とか結界とか浄化とか収納とか」
「エッ、マジで!? マジでチートじゃん」
「それでも日本じゃ弱体化してるんだよ」

 それで荷物が少ないのかと涼介は感心している。それからひととおりの魔法を披露させられた。部屋の隅から隅まで転移したときが一番驚いていた。

「異世界転移もできたらいいのにね」
「ほんとにね。こっちではいろいろ弱体化してるからなあ。レベルと魔力が足りないかな」
「そっかあ、できるようになったら俺も連れていってな」
「ハイハイ、いつかね」

 ともかく、突然大学に来なくなっても涼介がフォローしてくれることになった。余計な心配もかけてしまうが……。



「ステータスなんかで魔力とかわかんないのか?」

 ぼうっとしていたら涼介に聞かれて、そういえばとステータスを開いてみた。あまり不便を感じていなかったこともあってずっと開いてなかったのだ。


【名前】 水原慧吾(聖獣シスイ)
【レベル】 九十六
【スキル】 浄化魔法MAX 時空魔法Ⅷ(時空魔法Ⅸ) 氷魔法Ⅵ(氷魔法Ⅴ) 結界魔法MAX 言語理解 毒・瘴気・状態異常無効 身体強化 (人化)


「あれ」

 慧吾は思わず声を漏らした。

「どうした?」
「浄化と結界がMAXだ。弱体化してない。MAXだと弱体化しないのかな。だからヒールが使えたのかも。うーん、あとはなんだろ。読めないわ。とりあえずレベルは九十六だった。そのくらいしかわからないんだ」

 涼介は怪訝な顔になった。

「読めないってなによ」

 涼介には見えていないというのに慧吾は宙を指さした。スキル欄の魔法の後ろだ。

「レベルがローマ数字なんだけどさ……。これなんて読むんだっけ。ま、とにかくさっき言った魔法しか使えないし、それでじゅうぶんだから構わないだろ」
「そうだ、じゅうぶんすぎるぞ。俺も魔法使いたい。氷魔法かっけぇ! 浄化とか収納とか、掃除しなくていいじゃん!」
「そもそも浄化も収納もどっちにしろレアなんだけど……」

 涼介に駄々をこねられて慧吾は眉尻を下げたが、

「あっ! そうだ! 収納にさ」

 と、すごいことを思いだした。そして「ジャジャーン!!」とあるものを得意げに取りだす。

「うわ!! なにそれ!!」
「ふふん、これはな、『魔牛串』だぞ。あっちの世界の串焼き」
「エエッ!? これが異世界の串焼き!?」

 涼介は大興奮である。キラキラした目、いやギラギラした目で慧吾に迫った。

「食べていいの!?」
「ちょ、ちょっと待って。いちおう『浄化』ど、どうぞ……」

 涼介はよろこぶとは思ったが、予想以上でちょっと怖い。慧吾は串を握った手だけを涼介に差しだして、本体をできるだけ引っこめた。
 それを意外にも丁重に受けとった涼介は、まず端っこにちびりと齧りついた。

「んま!」

 それから丈夫な歯でガブリガブリと肉を串から剥ぎとった。ちょっと硬いので咀嚼時間が長い。ようやく話せるようになった涼介は言った。

「もっとナイの?」

 間髪入れず、慧吾は次を渡した。

「今度行ったらいろいろ名物持って帰るよ。消えものなら」

 双方の世界の物は人に渡さないほうがいいだろう。慧吾は目の前で涼介に食べてもらうくらいにしておくつもりだ。

「さすが親友。頼むよ」
「うん、その代わり話を聞いてもらうからね。相談料だ」

 涼介はほくほくしている。慧吾からしたら相談かもしれないが話を聞かせてもらうのは願ってもないことだ。
 その晩は二人とも興奮してほとんど徹状態だった。
 

 眠い目をこすりながら涼介が帰ってから、大学の食堂の休みをホームページで調べると八月十日からと書いてあった。

 その前日、慧吾は実家に帰る荷物をまとめていた。大きなものは収納に入れるかなと考えているときに、ふと何かに呼ばれている気がした。

「ん? 気のせいかな? まあいいか」

 と、再び作業に戻る。結局小さなリュックに荷物を少し入れ、あとは収納に入れておくことにした。





 帰省の朝、早めに起きるつもりが起きたらもう十時だった。ベッドに入ったあと、うっかり買ったばかりの推理小説を手に取ってしまったのだ。気になって最後まで読んでしまった。
 電車で帰るつもりでいたのに、軽く朝食を食べて身支度をしたら面倒になってしまった。だいたい推理小説は電車で読むために買ったのだ。読みたかったんだから仕方がない。

 手っ取り早く実家の裏手に転移をするつもりで、昨日用意したリュックを手に転移を唱える。
 とたんにいつもと違う違和感を感じた。なんだかグラグラする。身の危険を感じ、身軽になるためと損傷を防ぐため、急いでリュックは収納にしまった。

「なんだ! うわあああ!!」

 次の瞬間、突如として慧吾の両足が地面を離れ宙に浮きあがった。真っ暗な空間の中で上下左右もわからず、ひたすらグラグラぐるぐると翻弄される。
 酔ってしまったのか、吐き気がこみ上げてきた。そのうえ身体が絞りとられるような感覚に陥り、ものすごいダルさに襲われた。


 ヤバい、と思ったのを最後に、慧吾は沼に引きずられるように意識を消失した。
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