聖獣様は愛しい人の夢を見る

xsararax

文字の大きさ
43 / 44

40 王宮からの使者

しおりを挟む
 ギルド長から収納目当てで頼まれ、『黒狼』の三人とダンジョン『トーリア迷宮』に潜ってきた慧吾は、ダンジョンの拠点の街『トーリア』でのんびりしていた。ダンジョンで怪我をした魔術師のイオの療養のため、一泊の予定が二泊に伸びたからだ。
 暇ができた慧吾はレヴィンと連絡を取ることにした。


――シスイ! 今どこにいる?
――トーリア迷宮に行った帰りで今トーリアに宿泊してるよ。
――私も行きたかったのに!
――無茶言うな。何日も休みがないだろう? 今度は転移で行けるから日帰りでいつか行こう。

 などとたわいのないやり取りから本題に入る。四階で予想外のグリフォンが出て氷魔法で倒したことや、黒狼メンバーがそれを黙っていてくれることなどを話した。

――それであのギルド長は信用できる人?
――うむ、確かな人物だ。元Sランク冒険者で国にも貢献した。
――だったら俺がシスイだって話したほうが動きやすいかなって思ってるんだよ。

 慧吾は、昔ユークリッドがギルド長に命じてギルド長に味方になってもらったことを話した。もちろん、こちらも何かあればギルドに協力するつもりだ。

――これからも長くいるつもりだからね。うまくやっていきたいなと思ってるんだよ。魔石を大量に買って疑われたりしてるしなあ。
――わかった。シスイの思うとおりにしたら良い。殿下にもお伝えしておこう。
――ありがとう、レヴィン。頼むな。

 レヴィンと念話を終えると慧吾は心が軽くなった。ジルとも連絡が取れたらうれしいのにとチラと考えたが、ジルと心の中で話すと思うだけで恥ずかしい、やめやめと頭を振ってその考えを振りはらった。

 時間の余った慧吾は街をぶらつき、露天で売られていたダンジョン産の薬草などをジルへのお土産に購入した。今回は自分で取る暇がなかったからだ。いいものがあればトーリア迷宮に通ってもいいかもしれない。




 見慣れた王都の門が見えてきて慧吾はハーッと息を吐いた。恋人になれた次の日から離れ離れ。長かった。しかしまだギルドへの報告がある。馬車を預け、黒狼メンバーのそれぞれの荷物は彼らの定宿へ先に置いてきた。それから四人でギルドに向かった。

 一階のたまに見かける職員に帰還した旨を伝えると、ギルド長室に行くように言われた。グリフォンのこともあるからちょうどいい。職員の案内で四人で二階のギルド長室に向かった。職員がノックし、中から「入れ」と言われてぞろぞろと入室する。
 最後に慧吾が入る。するとそこにはなぜかお茶を飲んでいるレヴィンが座っていた。

「えっ!? わざわざ来てくれたの? 仕事は?」
「おかえり。こちらの用事のほうが大事に決まっている。それに早く会いたかったし」

 と、優雅な仕草で足を組みなおし、麗しく目を細めて微笑んだ。今日は長い金髪をみつあみにして前側に垂らしている。それも激しく似合う。王子様のようなキラキラしい容貌で殺し文句を口にするレヴィンに、黒狼の三人が『恋人はこれか?』と慧吾に目で問うた。慧吾はブンブンと首を振る。

「それより必ず今度は私も連れていってくれよ?」

 黒狼の三人が『やっぱりそうだろ』と目で告げている。

「違うから!」

 我慢できなくなった慧吾は大きな声を出して否定した。

「おまえらすっかり打ちとけたようだな。成果はどうだ?」

 ギルド長のシドがニヤニヤと柄悪く笑っている。リーダーのジャスが真面目に答えた。

「はい、上々でした。あとで分けます。……それで報告なのですが、奇妙なことにトーリア迷宮の四階にグリフォンが出ました」
「知らせは聞いている。よく倒せたな」
「それについては……」

 慧吾をちらりと見て続ける。

「弱ったグリフォンを俺たち三人で倒し、ケイは隠れていた……ということにします」
「本当は?」

 シドは腕を組んだ。下になっているほうの手をせわしなくグーパーしている。

「あ、俺が……氷魔法で倒しました」
「それで保護者が出張ってきたわけか」
「いえ、保護者は彼のほうですよ」

 レヴィンはふふふと笑って慧吾に「ね?」と首を傾げてみせた。

「ほう、そうなのか。なるほどねえ?」

 値踏みするようなシドの視線に慧吾はつい目をそらした。


「しかし四階にグリフォンが出るとは。うちのイオが怪我をしてしまいましたし。トーリア迷宮はしばらく閉めることになりますか?」
「近々第四騎士団が調査に入る予定だ。それまでは立ち入り禁止だな」

 ジャスの質問にシドは渋い顔をした。レヴィンも頷く。

「はい、調査が終わり次第すぐに再開できると思いますよ」

 黒狼の三人は安堵して表情を緩めた。

「さて、ジャス、パリス、イオ。おまえらはもう帰っていいぞ。伯爵閣下は私に何かご用があったのでしょう? さきほどのことも含めて」
「はい。お時間をいただきたく」

 慧吾は黒狼の三人にすまなそうに言った。

「悪いな。あとでさっきの宿に行くよ。そこで魔石を分けよう」
「わかった。またな」

 明るい顔で黒狼の三人はギルド長室をあとにした。ドアが閉まったのを確認したレヴィンは、カップを置いておもむろに立ちあがった。それから慧吾の横に並ぶ。慧吾もそれまでずっと被っていたローブのフードを外した。レヴィンと慧吾の瞳の色が同じ紫色であることにギルド長はほんの少し表情を動かした。

「ギルド長、今日私が来たのはこのシスイについての王家からの通知書があるからだ」

 王家からと聞けばギルド長もさすがに驚いた顔になった。

「王家からとは……拝聴つかまつります」 ビシリと背を伸ばし、礼をとったギルド長に、レヴィンはひとつ頷き通知書の冒頭を読みあげた。

「このケイと名乗る冒険者は、建国より王家の守護をなされてきた聖獣シスイ様の人化した姿である」

 ギルド長は目を見開いて慧吾をマジマジと見た。

「はい。ちょっと聖獣になりますね」

 突如として部屋いっぱいに広がった光にギルド長はウッと呻いて目を細めた。光が治まったのを感じ、ゆっくり目を開いてみるとそこには白い大きな……聖獣が座っていた。
 ギルド長は寸の間呆然としたあと、我に返って膝をついた。触っていいのか悪いのかと手をわきわきさせてレヴィンを見あげる。レヴィンがどうぞと言ったため、おそるおそる背を撫でてみている。

「なんということだ……。聖獣様にお目にかかることができるとは何たる僥倖!」

 返事をするため慧吾は素早く人化した。二人はちょっと残念そうだ。

「いやそんなおおげさな。ただ勝手に飛ばされて時を渡ってきただけの若造ですよ。今までどおりでお願いします」
「お言葉ですが建国にもご尽力いただいたとか」

 ギルド長は慧吾の話が謙遜だと思い言いつのった。

「いえ……全然。ユークリッドに二回目に会ったときにはもう国王になってて『イーダン国王がガミガミ言うから別に国作っちゃった』みたいなノリでしたよ」

 聖獣に夢を見ていたギルド長はショックを受けたのか絶句している。それにレヴィンが異論を唱えた。

「しかし建国できたのはシスイが初代様を助けたおかげだ。間違いではない」
「レヴィンは欲目がすぎるからね」
「私の今の幸せは何もかもシスイのおかげだ。王都学園に通わせてくれ、相談にも乗ってもらい……」

 慧吾は呆れたようにレヴィンをたしなめた。

「それはレヴィン自身の実力だよ。……とにかくそういうことで、これからもギルドにお世話になります。おかしなことがあっても見のがしてください。逆に何かあれば協力しますので。俺もちょくちょく顔を出すようにします」
「それはありがたい。……そういえばあの大量の魔石は何に使われるので?」
「ああ」

 慧吾は良い機会とばかりに結界石を見せた。レヴィンもギルド長も興味津々だ。

「これは?」
「俺が作った『結界石』です。ひとつ置くと半径十メートルは魔獣を寄せつけません」
 
 二人は目を爛々と輝かせてめいめい結界石を取りあげ、ためつ眇めつ眺めた。レヴィンのほうからさすがシスイとかなんとか聞こえてくる。

「これをまずは王宮に収め、必要なところに分配してもらいたい。俺が勝手に置くよりそのほうがいいと思う。騎士たちの仕事を増やして悪いけど。それがすんだらギルドに収めるつもりです」

 レヴィンは大きく何度も頷いた。

「殿下にも話を通しておく。これは魔獣に苦しむ地方の村にとってはすばらしい朗報だ。もちろん騎士団にも尽力してもらおう」
「ギルドにも卸していただけるとは。これで冒険者の生存率もグッとあがります。……これからは魔石を積極的に買い取らなければなりませんな」

 ギルド長の喜び勇んだ言葉に、慧吾は「あ」と口を開けた。

「そうなると買っているところは見られないほうがいいですね」
「確かに。ひき渡しについては別室をご用意しましょう」
「ありがとうございます。……それとギルド長、俺は冒険者のケイです。どうかそのように扱ってください。ほんとにただの若造なんで遠慮はいっさい無用です」
「わか……わかった」

 ギルド長は重々しく了承した。慧吾はにこりと笑って頭を下げた。

「すみません、巻き込んで。味方になってくださってありがとうございます」
「いや、話してもらって感謝する」

 やっと話がついてギルド長室を辞去し、ギルドを出てから慧吾はレヴィンに礼を言った。

「わざわざ来てくれてありがとう。殿下にもよろしくね」
「うむ。では私は王宮に帰ろう。シスイもさきほどの冒険者のところに寄るのだろう?」
「うん、じゃあまたね。ありがとう」

 慧吾は重ねて礼を言い、レヴィンと別れて黒狼パーティの定宿へ足を向けた。

 なお慧吾とレヴィンが帰ってから渡された通知書には、最後にジルについて言及されており、それを読んだギルド長はハラリと書類をとり落としたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

処理中です...