聖獣様は愛しい人の夢を見る

xsararax

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40 王宮からの使者

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 ギルド長から収納目当てで頼まれ、『黒狼』の三人とダンジョン『トーリア迷宮』に潜ってきた慧吾は、ダンジョンの拠点の街『トーリア』でのんびりしていた。ダンジョンで怪我をした魔術師のイオの療養のため、一泊の予定が二泊に伸びたからだ。
 暇ができた慧吾はレヴィンと連絡を取ることにした。


――シスイ! 今どこにいる?
――トーリア迷宮に行った帰りで今トーリアに宿泊してるよ。
――私も行きたかったのに!
――無茶言うな。何日も休みがないだろう? 今度は転移で行けるから日帰りでいつか行こう。

 などとたわいのないやり取りから本題に入る。四階で予想外のグリフォンが出て氷魔法で倒したことや、黒狼メンバーがそれを黙っていてくれることなどを話した。

――それであのギルド長は信用できる人?
――うむ、確かな人物だ。元Sランク冒険者で国にも貢献した。
――だったら俺がシスイだって話したほうが動きやすいかなって思ってるんだよ。

 慧吾は、昔ユークリッドがギルド長に命じてギルド長に味方になってもらったことを話した。もちろん、こちらも何かあればギルドに協力するつもりだ。

――これからも長くいるつもりだからね。うまくやっていきたいなと思ってるんだよ。魔石を大量に買って疑われたりしてるしなあ。
――わかった。シスイの思うとおりにしたら良い。殿下にもお伝えしておこう。
――ありがとう、レヴィン。頼むな。

 レヴィンと念話を終えると慧吾は心が軽くなった。ジルとも連絡が取れたらうれしいのにとチラと考えたが、ジルと心の中で話すと思うだけで恥ずかしい、やめやめと頭を振ってその考えを振りはらった。

 時間の余った慧吾は街をぶらつき、露天で売られていたダンジョン産の薬草などをジルへのお土産に購入した。今回は自分で取る暇がなかったからだ。いいものがあればトーリア迷宮に通ってもいいかもしれない。




 見慣れた王都の門が見えてきて慧吾はハーッと息を吐いた。恋人になれた次の日から離れ離れ。長かった。しかしまだギルドへの報告がある。馬車を預け、黒狼メンバーのそれぞれの荷物は彼らの定宿へ先に置いてきた。それから四人でギルドに向かった。

 一階のたまに見かける職員に帰還した旨を伝えると、ギルド長室に行くように言われた。グリフォンのこともあるからちょうどいい。職員の案内で四人で二階のギルド長室に向かった。職員がノックし、中から「入れ」と言われてぞろぞろと入室する。
 最後に慧吾が入る。するとそこにはなぜかお茶を飲んでいるレヴィンが座っていた。

「えっ!? わざわざ来てくれたの? 仕事は?」
「おかえり。こちらの用事のほうが大事に決まっている。それに早く会いたかったし」

 と、優雅な仕草で足を組みなおし、麗しく目を細めて微笑んだ。今日は長い金髪をみつあみにして前側に垂らしている。それも激しく似合う。王子様のようなキラキラしい容貌で殺し文句を口にするレヴィンに、黒狼の三人が『恋人はこれか?』と慧吾に目で問うた。慧吾はブンブンと首を振る。

「それより必ず今度は私も連れていってくれよ?」

 黒狼の三人が『やっぱりそうだろ』と目で告げている。

「違うから!」

 我慢できなくなった慧吾は大きな声を出して否定した。

「おまえらすっかり打ちとけたようだな。成果はどうだ?」

 ギルド長のシドがニヤニヤと柄悪く笑っている。リーダーのジャスが真面目に答えた。

「はい、上々でした。あとで分けます。……それで報告なのですが、奇妙なことにトーリア迷宮の四階にグリフォンが出ました」
「知らせは聞いている。よく倒せたな」
「それについては……」

 慧吾をちらりと見て続ける。

「弱ったグリフォンを俺たち三人で倒し、ケイは隠れていた……ということにします」
「本当は?」

 シドは腕を組んだ。下になっているほうの手をせわしなくグーパーしている。

「あ、俺が……氷魔法で倒しました」
「それで保護者が出張ってきたわけか」
「いえ、保護者は彼のほうですよ」

 レヴィンはふふふと笑って慧吾に「ね?」と首を傾げてみせた。

「ほう、そうなのか。なるほどねえ?」

 値踏みするようなシドの視線に慧吾はつい目をそらした。


「しかし四階にグリフォンが出るとは。うちのイオが怪我をしてしまいましたし。トーリア迷宮はしばらく閉めることになりますか?」
「近々第四騎士団が調査に入る予定だ。それまでは立ち入り禁止だな」

 ジャスの質問にシドは渋い顔をした。レヴィンも頷く。

「はい、調査が終わり次第すぐに再開できると思いますよ」

 黒狼の三人は安堵して表情を緩めた。

「さて、ジャス、パリス、イオ。おまえらはもう帰っていいぞ。伯爵閣下は私に何かご用があったのでしょう? さきほどのことも含めて」
「はい。お時間をいただきたく」

 慧吾は黒狼の三人にすまなそうに言った。

「悪いな。あとでさっきの宿に行くよ。そこで魔石を分けよう」
「わかった。またな」

 明るい顔で黒狼の三人はギルド長室をあとにした。ドアが閉まったのを確認したレヴィンは、カップを置いておもむろに立ちあがった。それから慧吾の横に並ぶ。慧吾もそれまでずっと被っていたローブのフードを外した。レヴィンと慧吾の瞳の色が同じ紫色であることにギルド長はほんの少し表情を動かした。

「ギルド長、今日私が来たのはこのシスイについての王家からの通知書があるからだ」

 王家からと聞けばギルド長もさすがに驚いた顔になった。

「王家からとは……拝聴つかまつります」 ビシリと背を伸ばし、礼をとったギルド長に、レヴィンはひとつ頷き通知書の冒頭を読みあげた。

「このケイと名乗る冒険者は、建国より王家の守護をなされてきた聖獣シスイ様の人化した姿である」

 ギルド長は目を見開いて慧吾をマジマジと見た。

「はい。ちょっと聖獣になりますね」

 突如として部屋いっぱいに広がった光にギルド長はウッと呻いて目を細めた。光が治まったのを感じ、ゆっくり目を開いてみるとそこには白い大きな……聖獣が座っていた。
 ギルド長は寸の間呆然としたあと、我に返って膝をついた。触っていいのか悪いのかと手をわきわきさせてレヴィンを見あげる。レヴィンがどうぞと言ったため、おそるおそる背を撫でてみている。

「なんということだ……。聖獣様にお目にかかることができるとは何たる僥倖!」

 返事をするため慧吾は素早く人化した。二人はちょっと残念そうだ。

「いやそんなおおげさな。ただ勝手に飛ばされて時を渡ってきただけの若造ですよ。今までどおりでお願いします」
「お言葉ですが建国にもご尽力いただいたとか」

 ギルド長は慧吾の話が謙遜だと思い言いつのった。

「いえ……全然。ユークリッドに二回目に会ったときにはもう国王になってて『イーダン国王がガミガミ言うから別に国作っちゃった』みたいなノリでしたよ」

 聖獣に夢を見ていたギルド長はショックを受けたのか絶句している。それにレヴィンが異論を唱えた。

「しかし建国できたのはシスイが初代様を助けたおかげだ。間違いではない」
「レヴィンは欲目がすぎるからね」
「私の今の幸せは何もかもシスイのおかげだ。王都学園に通わせてくれ、相談にも乗ってもらい……」

 慧吾は呆れたようにレヴィンをたしなめた。

「それはレヴィン自身の実力だよ。……とにかくそういうことで、これからもギルドにお世話になります。おかしなことがあっても見のがしてください。逆に何かあれば協力しますので。俺もちょくちょく顔を出すようにします」
「それはありがたい。……そういえばあの大量の魔石は何に使われるので?」
「ああ」

 慧吾は良い機会とばかりに結界石を見せた。レヴィンもギルド長も興味津々だ。

「これは?」
「俺が作った『結界石』です。ひとつ置くと半径十メートルは魔獣を寄せつけません」
 
 二人は目を爛々と輝かせてめいめい結界石を取りあげ、ためつ眇めつ眺めた。レヴィンのほうからさすがシスイとかなんとか聞こえてくる。

「これをまずは王宮に収め、必要なところに分配してもらいたい。俺が勝手に置くよりそのほうがいいと思う。騎士たちの仕事を増やして悪いけど。それがすんだらギルドに収めるつもりです」

 レヴィンは大きく何度も頷いた。

「殿下にも話を通しておく。これは魔獣に苦しむ地方の村にとってはすばらしい朗報だ。もちろん騎士団にも尽力してもらおう」
「ギルドにも卸していただけるとは。これで冒険者の生存率もグッとあがります。……これからは魔石を積極的に買い取らなければなりませんな」

 ギルド長の喜び勇んだ言葉に、慧吾は「あ」と口を開けた。

「そうなると買っているところは見られないほうがいいですね」
「確かに。ひき渡しについては別室をご用意しましょう」
「ありがとうございます。……それとギルド長、俺は冒険者のケイです。どうかそのように扱ってください。ほんとにただの若造なんで遠慮はいっさい無用です」
「わか……わかった」

 ギルド長は重々しく了承した。慧吾はにこりと笑って頭を下げた。

「すみません、巻き込んで。味方になってくださってありがとうございます」
「いや、話してもらって感謝する」

 やっと話がついてギルド長室を辞去し、ギルドを出てから慧吾はレヴィンに礼を言った。

「わざわざ来てくれてありがとう。殿下にもよろしくね」
「うむ。では私は王宮に帰ろう。シスイもさきほどの冒険者のところに寄るのだろう?」
「うん、じゃあまたね。ありがとう」

 慧吾は重ねて礼を言い、レヴィンと別れて黒狼パーティの定宿へ足を向けた。

 なお慧吾とレヴィンが帰ってから渡された通知書には、最後にジルについて言及されており、それを読んだギルド長はハラリと書類をとり落としたのだった。
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