9 / 19
9 side アズサ
しおりを挟む
なんとか意識は保っていたが、それでも体の全てが痛みで溢れかえり立ち上がることはできなかった。
「ウホーーー!」
マウントゴリラは勝利の雄叫びをあげた。
(...さっきのあの窪みは間違いなく落とし穴。まるで子供が作ったような拙い物だけれどこんなところに子供が来るとも思えない。だからこれを作った犯人はどう考えても、いま私の目の前にいるあのモンスターしかいない………)
アズサは体を押さえながら必死にその考えに至る。
(きっと最初から私は誘い込まれていた。私の攻撃で相手が引いていたのではなく、相手がこの罠のある場所まで私を誘いこんでいた。そんな事にも気付かずに私はただあいつを追い詰めていると思い込んでいた)
『訓練と実践じゃ全然違う』
アズサはナオトの言葉を思い出していた。
(あなたの言った通りねタチバナ君。私はまるで理解していなかった。冷静さを欠き、無闇矢鱈に突っ込み、結果相手の罠にまんまと嵌まる)
マウントゴリラは横たわるアズサのもとへゆっくりと近づいて来る。
「ウホホホー」
その雄叫びを間近でアズサは聞く。それは自分を死へと誘う死神の足音。なのになぜかあまり恐怖を感じてはいなかった。
いや、感じなかったのではない。ただ、それ以上の後悔にかき消されていただけだった。
他人(ナオト)の助言を聞かず、1人でやれると過信し、結果今こうして、起き上がる事さえ出来ずにいる自分の状況に。
(...だとしても私はこんな所で終わるわけにはいかない...)
後悔をしてもなおアズサは諦めるということはしなかった。ろくに手足も動かせはしなかったがそれでも立ち上がった。彼女の心はまだ折れてはいなかった。
「負けない...こんな所で私は!」
右手に小さくも鋭い氷の槍を作り出した。マウントゴリラはアズサの前で大きく振りかぶった。その攻撃を避ける体力も受け止める魔力ももうなかった。
だからもうアズサは既に覚悟を決めていた。攻撃が来ると同時にほんの一瞬早く相手の喉元に突き刺すカウンター。
こんな満身創痍の状態でそれが成功する確率が極めて低いことは分かっていた。それでもアズサは諦めなかった。たとえ1%の望みもなかったとしても。
「...私にはまだやらなくちゃいけないことがある。こんなところで死んではいられない!」
そしてとうとうマウントゴリラが腕を振り下ろそうとしたちょうどその時、コツンと何か石ころのような小さなものがマウントゴリラの顔に当たった。
アズサがその物体が飛んできた方向に目を向けると、ある一人の男が怯えながら立っていた。
「あなたは!」
そこに立っていたのは先程アズサが助けた、商人の父親だった。手には商売道具と思われる木製の剣のようなものを持っていた。
「なぜ、ここに来たの!」
アズサは痛む体を無視して声を上げる。
「あ、あ、あんたを助けにきたんだ!」
商人の父親は震えながら答える。
「無理に決まっているでしょう。何の訓練もしていないただの人間があれに勝てるわけがない!」
「そ、それでも俺はあんたを助ける」
そう言って商人の父親は持っていた木製の剣を構えながらマウントゴリラに向かって突撃する。
「おぉぉぉぉ!!」
商人の父親は力一杯マウントゴリラに何度も何度もその木製の剣を叩きつける。マウントゴリラはその一打一打を全て食らう。
どうしてマウントゴリラが反撃をしなかったかはアズサにはわからなかった。しかし、もしもモンスターに感情というものがあるのなら、マウントゴリラは確かに笑っているようにアズサには見えた。
その笑みは商人の攻撃が全くの無意味だと商人自身が気付くまで、そして商人が絶望する瞬間まで待つというサイコパスのような笑みだった。とうとう商人の力が尽き、攻撃が止む。
「はぁ、はぁ、どうだこんちくしょう」
しかし、当然のことながらマウントゴリラにはほとんどダメージは入っていない。マウントゴリラは優しく振りかぶり、行商人の顔を平手打ちする。
「ウッホ!」
「ぶっ...」
商人は後ろに吹き飛んだ。それでも商人はよろよろと立ち上がり、マウントゴリラに向かって再び攻撃する。
そして再び商人は吹き飛ばされる。何度も何度も吹き飛ばされては立ち上がった。しかし、さすがにこの商人も、もう限界だった。
「もうやめなさい!」
アズサは叫んだ。商人の元に近寄ろうにも体が言う事を聞かなかったから叫ぶしかなかった。一歩一歩が鉛のように重かった。
それでも商人はアズサの言葉に耳を傾けはしなかった。そして再びモンスターに突っ込み、再度商人は吹き飛ばされた。
「どうして、なぜ、逃げないの!」
アズサは再び声を上げる。
「お...俺は商人です...商売で大事なのは金と金とのやりとりなんかじゃない! 人と人とのやりとりだ!! あんたは俺を助けてくれた、だったら、俺があんたを助けないわけにはいかない!!!」
そう言って商人は再び、マウントゴリラに目掛けて突っ込んで行く。
「商売魂なめんじゃねーーーー!!!」
商人はそう叫びながら勢いよく駆けていった。けれど、もうその商人が限界だということは分かっていた。
アズサは持っていた氷の槍を手放し残っていた最後の力を振り絞り、もともと枯れ木と一緒にくっついて残っていたマウントゴリラの氷を媒介として、マウントゴリラの体全体を絡めとるような氷を生成しマウントゴリラの動きを止めた。
「ウホっ!」
「どうして貴方達親子はそんなに自分勝手なの! 少しは他人の話を聞きなさい!」
マウントゴリラはその氷を壊そうと、全身に力を入れる。
「だっ、だったらあなたも!」
「私のことはいいから早く逃げなさい!本当にもうこれ以上は持たない...」
マウントゴリラに絡まるようにくっついているアズサの氷はビキビキとヒビが入り始める。
「早く…行きなさい...」
とうとう、マウントゴリラの全身に絡んでいたアズサの氷は粉々に砕け散った。
「ウホーーー!」
マウントゴリラはアズサと商人の目の前まで近寄る。そして腕を大きく振りかぶる。
アズサと商人は息を呑んだ。これで何もかも全てが終わりだと思って。
瞬間マウントゴリラの体が宙に浮いて後ろに吹っ飛ばされドスンという音とともにマウントゴリラは背中から地面に落ちた。
商人は何が起きたか理解出来ていなかった。しかし、アズサは理解した。
「……待たせすぎよ...さっさと駆けつけなさいと言ったこと、忘れたの」
「………億が一にもないんじゃなかったのかよ」
マウントゴリラは蹴り飛ばされた。駆けつけたナオトによって。
「ウホーーー!」
マウントゴリラは勝利の雄叫びをあげた。
(...さっきのあの窪みは間違いなく落とし穴。まるで子供が作ったような拙い物だけれどこんなところに子供が来るとも思えない。だからこれを作った犯人はどう考えても、いま私の目の前にいるあのモンスターしかいない………)
アズサは体を押さえながら必死にその考えに至る。
(きっと最初から私は誘い込まれていた。私の攻撃で相手が引いていたのではなく、相手がこの罠のある場所まで私を誘いこんでいた。そんな事にも気付かずに私はただあいつを追い詰めていると思い込んでいた)
『訓練と実践じゃ全然違う』
アズサはナオトの言葉を思い出していた。
(あなたの言った通りねタチバナ君。私はまるで理解していなかった。冷静さを欠き、無闇矢鱈に突っ込み、結果相手の罠にまんまと嵌まる)
マウントゴリラは横たわるアズサのもとへゆっくりと近づいて来る。
「ウホホホー」
その雄叫びを間近でアズサは聞く。それは自分を死へと誘う死神の足音。なのになぜかあまり恐怖を感じてはいなかった。
いや、感じなかったのではない。ただ、それ以上の後悔にかき消されていただけだった。
他人(ナオト)の助言を聞かず、1人でやれると過信し、結果今こうして、起き上がる事さえ出来ずにいる自分の状況に。
(...だとしても私はこんな所で終わるわけにはいかない...)
後悔をしてもなおアズサは諦めるということはしなかった。ろくに手足も動かせはしなかったがそれでも立ち上がった。彼女の心はまだ折れてはいなかった。
「負けない...こんな所で私は!」
右手に小さくも鋭い氷の槍を作り出した。マウントゴリラはアズサの前で大きく振りかぶった。その攻撃を避ける体力も受け止める魔力ももうなかった。
だからもうアズサは既に覚悟を決めていた。攻撃が来ると同時にほんの一瞬早く相手の喉元に突き刺すカウンター。
こんな満身創痍の状態でそれが成功する確率が極めて低いことは分かっていた。それでもアズサは諦めなかった。たとえ1%の望みもなかったとしても。
「...私にはまだやらなくちゃいけないことがある。こんなところで死んではいられない!」
そしてとうとうマウントゴリラが腕を振り下ろそうとしたちょうどその時、コツンと何か石ころのような小さなものがマウントゴリラの顔に当たった。
アズサがその物体が飛んできた方向に目を向けると、ある一人の男が怯えながら立っていた。
「あなたは!」
そこに立っていたのは先程アズサが助けた、商人の父親だった。手には商売道具と思われる木製の剣のようなものを持っていた。
「なぜ、ここに来たの!」
アズサは痛む体を無視して声を上げる。
「あ、あ、あんたを助けにきたんだ!」
商人の父親は震えながら答える。
「無理に決まっているでしょう。何の訓練もしていないただの人間があれに勝てるわけがない!」
「そ、それでも俺はあんたを助ける」
そう言って商人の父親は持っていた木製の剣を構えながらマウントゴリラに向かって突撃する。
「おぉぉぉぉ!!」
商人の父親は力一杯マウントゴリラに何度も何度もその木製の剣を叩きつける。マウントゴリラはその一打一打を全て食らう。
どうしてマウントゴリラが反撃をしなかったかはアズサにはわからなかった。しかし、もしもモンスターに感情というものがあるのなら、マウントゴリラは確かに笑っているようにアズサには見えた。
その笑みは商人の攻撃が全くの無意味だと商人自身が気付くまで、そして商人が絶望する瞬間まで待つというサイコパスのような笑みだった。とうとう商人の力が尽き、攻撃が止む。
「はぁ、はぁ、どうだこんちくしょう」
しかし、当然のことながらマウントゴリラにはほとんどダメージは入っていない。マウントゴリラは優しく振りかぶり、行商人の顔を平手打ちする。
「ウッホ!」
「ぶっ...」
商人は後ろに吹き飛んだ。それでも商人はよろよろと立ち上がり、マウントゴリラに向かって再び攻撃する。
そして再び商人は吹き飛ばされる。何度も何度も吹き飛ばされては立ち上がった。しかし、さすがにこの商人も、もう限界だった。
「もうやめなさい!」
アズサは叫んだ。商人の元に近寄ろうにも体が言う事を聞かなかったから叫ぶしかなかった。一歩一歩が鉛のように重かった。
それでも商人はアズサの言葉に耳を傾けはしなかった。そして再びモンスターに突っ込み、再度商人は吹き飛ばされた。
「どうして、なぜ、逃げないの!」
アズサは再び声を上げる。
「お...俺は商人です...商売で大事なのは金と金とのやりとりなんかじゃない! 人と人とのやりとりだ!! あんたは俺を助けてくれた、だったら、俺があんたを助けないわけにはいかない!!!」
そう言って商人は再び、マウントゴリラに目掛けて突っ込んで行く。
「商売魂なめんじゃねーーーー!!!」
商人はそう叫びながら勢いよく駆けていった。けれど、もうその商人が限界だということは分かっていた。
アズサは持っていた氷の槍を手放し残っていた最後の力を振り絞り、もともと枯れ木と一緒にくっついて残っていたマウントゴリラの氷を媒介として、マウントゴリラの体全体を絡めとるような氷を生成しマウントゴリラの動きを止めた。
「ウホっ!」
「どうして貴方達親子はそんなに自分勝手なの! 少しは他人の話を聞きなさい!」
マウントゴリラはその氷を壊そうと、全身に力を入れる。
「だっ、だったらあなたも!」
「私のことはいいから早く逃げなさい!本当にもうこれ以上は持たない...」
マウントゴリラに絡まるようにくっついているアズサの氷はビキビキとヒビが入り始める。
「早く…行きなさい...」
とうとう、マウントゴリラの全身に絡んでいたアズサの氷は粉々に砕け散った。
「ウホーーー!」
マウントゴリラはアズサと商人の目の前まで近寄る。そして腕を大きく振りかぶる。
アズサと商人は息を呑んだ。これで何もかも全てが終わりだと思って。
瞬間マウントゴリラの体が宙に浮いて後ろに吹っ飛ばされドスンという音とともにマウントゴリラは背中から地面に落ちた。
商人は何が起きたか理解出来ていなかった。しかし、アズサは理解した。
「……待たせすぎよ...さっさと駆けつけなさいと言ったこと、忘れたの」
「………億が一にもないんじゃなかったのかよ」
マウントゴリラは蹴り飛ばされた。駆けつけたナオトによって。
0
あなたにおすすめの小説
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件
fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。
実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。
追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。
そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。
これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。
醜悪令息レオンの婚約
オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。
ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、
しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。
このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。
怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる