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しおりを挟むいづれミツルから恋人や結婚相手を紹介される日が来るかもしれない。それでも笑って祝福できるようにしなくては。
そう思うのに、会えばミツルが嬉しそうに笑ってくれるから。温かな視線を向けてくれるから。諦められなくて。遠く離れてもミツルを好きだと思う気持ちは手放せなかった。
そんな過去回想を夢に見つつ目を覚ましたマコトは驚愕する。目の前にミツルがいて。しかも、ミツルの腕に抱き締められて寝ていた!
慌てて飛び退くと、コタツの中で何かを蹴飛ばしてしまった。マコトを蹴ってしまったのか?と、コタツ布団を捲り上げて中を覗けば、第三者───弟のトウマを蹴飛ばしたようである。…なら、まぁ、いいか。蹴飛ばした相手がマコトでないことに安堵した。
「もー、なんだよぉ」
不平不満を訴えるトウマの声に、ミツルも目を覚ます。目が合うと、いつものようにミツルは柔らかい笑みを浮かべた。
「おはようございます、マコトさん」
いつも通りだ。昨夜の記憶はないけれど、どうやら何も問題は起こしていないらしい。安堵すると肩の力が抜けた。
「おはよう、ミツル」
「いやいや、ちょっとちょっと!何でマコトも兄ちゃんも俺にはノーコメントなの!?」
「そうやってすぐ騒ぐからだよ」
ミツルが呆れを全面に嘆息する。その冷たさのある表情はマコトには向けられたことのないものだ。マコトの前では常にミツルの微笑みは標準装備なのである。彼の見せる温度差にマコトは毎回ドキッとしてしまう。
「ふん。いいもん、いいもーん、2人より先にお風呂入ってやる!」
トウマが拗ねたふりをしながらコタツを抜け出しバタバタと駆けていく。
「おい、トウマ!」
呼び止めるミツルの声も無視だ。我が弟ながら騒々しい。遠方から帰省した兄にも配慮せず、客人であるはずのミツルにも遠慮せず真っ先に浴室を使おうとする当たり、うちの弟は相変わらずだなとマコトは苦笑する。そんな時だ、トウマの向かった方から音楽が鳴ったのは。電話かとも思ったが、どうやらタイマーだったらしい。
「あー!!やば、バイトじゃん!!行かなきゃ!!」
「「は?」」
聞こえてきた叫び声に思わず戸惑いの声を上げる。ミツルも知らなかったらしく、開いた口が塞がらないようだ。
浴室方面に向かったはずのトウマの足音が居間の前を通り過ぎ、そのまま慌ただしく玄関方面へ向かう。ドアを開け閉する音からして、どうやら本当に出かけたらしい。
思わずミツルと顔を見合わせた。
「うちのバカがすまん」
「いえ…、アイツらしいなって、思います」
怒りや呆れなどないらしい。その様子に兄としては安堵する。もっともそのくらい寛容でないと、あの愚弟の親友などやってられないだろう。
「ほんと、すまん。先にシャワー使うか?着替えは?」
「あ、お気持ちだけで大丈夫です。実家、すぐそこですし」
「俺一人だけの為に風呂沸かしたら水もガス代も勿体無いだろ。それにお前までいなくなったら俺が寂しいじゃん」
大晦日に一人ぼっちだなんて、何の為に帰省したのかわからなくなる。そんな虚しさが顔に出ていたのか、ミツルは大人びた苦笑を滲ませて。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「よし。取り敢えず風呂沸かしてタオル出してくるから」
いそいそとコタツから出て、温度差にぶるりと身体を震わせる。彼を引き止められた、それが嬉しくて寒さなんて気にならない。浴室に向かい、空の浴槽に栓をしてボタンを押す。その間、無意識に鼻歌を口ずさむほどに気持ちが上向いている。脱衣所に作り付けられた吊り戸棚を開け、来客用のタオルを探していたマコトは背後から近づく人の気配に手を止めた。
「ん?───どうした、ミツル。一人で寂しくなったか?」
機嫌の良さそのままに子供扱いをして揶揄う。対して、ミツルは口元を緩め、その腕で呆気なくマコトを捕らえる。抱き締められ、年上の余裕や自尊心が聞こえない音を立てて固まった。
「寂しい…、そうですね、寂しいのかもしれません」
すん、と首筋の空気を吸われ、肌を撫でた微かな流れに慌てた。
「嗅ぐな!風呂これからなんだからやめろ!」
引き離そうとする手を捕まれ、治まったはずの酔いが再び巡る勢いで動揺する。
「一緒にお風呂入りましょう」
───聞き間違いだよな?
そう願いつつ肩越しに見たミツルの容貌は、端正な顔立ちで。どこか照れたように頬を染めて微笑んでいる。
「いやいやいやいや、さすがに男二人は狭いから!」
「どうやら本当に酔いは覚めてるみたいですね」
「お、おう?」
何の確認?と訝ると、押し付けるように口に、ミツルの唇が押し当てられた。あまりにも近くに彼の顔があって、吐息が香って、呆然としている間に舌が入り込んでくる。
「っ、」
泣きたくなるほど、ゆっくりと丁寧に口の中の天井を舐められ、背中が震えて。頭が真っ白になる。何も考えられない。
「舌、出して」
離れたと認識する間もなく囁かれた指示に従い、おずおずと舌を出すと吸われた。痺れて、ミツルの口の中に招かれて、もう何も考えられない。
突如始まったキスは、突如終わり、試すような視線がこちらを見ている。
「例え覚えてなくても、キスしても良いと許可したのはマコトさんですから。僕は謝りませんよ」
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