恋は意図せず落ちるモノ

ひづき

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「ほら、これでペニスに集中できるよね?男らしく射精するところ、見せて」

「い、いじわる…っ」

 男らしくという形容詞に、唇を噛む。華奢さもない、丸みもない。こんな自分が女のように愛でられている現実、おかしい。おかしいと思うのに、絶対的な雄を前に身体は雌になりたくて、下された命令に下腹部の筋肉を痙攣させ悦んでいる。

 震える両脚を大きく開き、自身の陰茎を軽く握った。

 ───コンコン。

 ノックの音にビクッとして、リーセルの手が止まる。見上げれば、ゼリュート様がドアを睨んで舌打ちしてした。

「どうした」

 そうドアの向こうに問い掛ける声音は低く、少し恐ろしい。

『お楽しみのところ申し訳御座いません。王妃殿下がお仕掛けて来ました』

 ドアの向こうにいるのはゼリュートの乳兄弟のようだ。まだきちんと会ったことのない人物だが、そのように推測した。仮にも王妃が“お仕掛けてきた”など不敬な物言いを一介の執事や使用人に言える訳がないのだから。しかも“お楽しみのところ”などとゼリュート様を揶揄するなんて、余程親しくない限り口に出来ないだろう。

 何をしに来たのか分からないが、王妃はカレアドの生母。嫌な予感しかしない。





「婚約の白紙撤回など認められません。ルーティア嬢を引き渡しなさい」

 招かれざる客のはずなのに、王妃はまるで自分が女王であるかのように客間の豪華な椅子に踏ん反り返って命じる。赤みを帯びたブラウンの髪は息子のカレアドと同じ色。キツい美人とよく言われる容貌もカレアドとよく似ている。

 まだ向かい側に座ってもいなかったゼリュート様は、不遜な来客の発言を無視して腰掛ける動作を優先した。その動作は余裕に溢れ、焦る様子はない。

「まだ私は貴方に座る許可を出しておりませんよ」

 そんな王妃の責めを聞き流し、腰を下ろしたゼリュート様は優雅に脚を組んだ。

「自宅の椅子に座るのに貴女様の許可が必要なのですか。それは初耳ですね」

 リーセルは壁際に控えて同じ空間にいた。リーセルの隣にはゼリュート様の最側近であり、乳兄弟でもあるダントンという人物が立っている。ダントン氏は長身の、一見麗人と見間違うような男性だ。妻子持ちで三人の父親らしい。どう見ても女性なのに、声は男性。慣れるまで違和感しか覚えない。

 ゼリュート様よりも王妃よりもダントン氏にリーセルの意識が向いていることに気づいたのか、ゼリュート様は一瞬だけチラリとダントン氏を睨みつけた。ダントン氏は可愛らしくウィンクを返す。本当に仲が良い。羨ましい程に。

 そうやって周囲に意識を向けないと秘処に捩じ込まれた張型の存在を意識してしまいそうで困る。一段階太くなった張型を押し出そうと直腸が締め付けるが、衣類に阻まれ押し戻され、胎内を抉ってしまう。正直リーセルは立っているのも辛い。

「ヴァンフォーレ公爵令息」

 そんな中で王妃の鋭い眼光を向けられ、リーセルは嘆息を必死に呑み込んだ。ちらりとゼリュート様を一瞥し、発言の許可を求める。ゼリュート様は頷くことで許可をくれた。却下してくれても良かったのに、という不満を表に出さないよう取り繕う。

「恐れながら王妃殿下、今の自分はただの壁に過ぎません。お話でしたら王弟殿下を優先なさってください」

「ルーティア嬢は国を担う責任を負っています。貴方達が隠すのは国の為になりません。至急引き渡しなさい」

 王妃はまっすぐリーセルに向かって言い放つ。リーセルはどうしたものかとゼリュート様を再度見遣った。

 恐らく王妃がゼリュート様とリーセルを足止めし、その隙にカレアド王子がルーティアを連れ出すという算段だったのだろう。カレアド王子が捕まっている時点で破綻しているし、カレアド王子の護衛達も無効化された為、王妃はまだカレアド王子の現状を知らないようだ。

「僕はリーセルを通してカレアドから婚約解消に力を貸せと依頼されて動きました。実際に婚約が消えた以上、ヴァンフォーレ公爵令嬢が背負っていた責任も最初からなかったことになる。これはカレアドが望んだことでしょう?それとも僕の甥は、貴女の息子は、そんなリスクも考えずに婚約解消を願うほど愚かだと?」

 愚かという単語に反応した王妃は改めてゼリュート様を睨みつける。

「貴方も覚えがあるはず。若さ故の万能感。若さ故の過ち。まさにそれです。むしろ貴方は年長者としてあの子を諌めなくてはならない立場でしょう!何故言われるがまま流されたのですか!」

「相手に聞く耳と理解できるだけの頭がないなら諌めても無意味なんですよ、王妃様。残念ながらそんな無意味なことに割く時間は持ち合わせておりません」

 ゼリュート様からの返事に王妃の顔は屈辱に紅潮する。お前の息子には聞く耳も理解できるだけの頭もないと遠回しに罵られたのだから当然の反応ではある。

「そこのお前は側近として何故あの子を咎めなかったの!?」

 突然王妃の怒りが向けられたことにリーセルは驚いた。許可を得ないまま口を開く。

「進言も、忠告も、妹を大切にして欲しいという家族としての願いも繰り返し殿下にお伝えしました。しかし聞き届けては頂けず、最早不要だと捨てられた身です。捨てられた以上、最早お役目も責任もありません。兄として全力で妹を守らせて頂きます」

 カレアドには聞く耳も理解できるだけの頭もない、という結論をリーセルも遠回しに言っている。ますます王妃は屈辱に震えた。頭の血管が切れるのではないかと心配になるほど力を込めて歯を食いしばる様はなかなか怖い。

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