恋は意図せず落ちるモノ

ひづき

文字の大きさ
8 / 9

しおりを挟む

 そんなタイミングで唐突にドアが開き、ドサッと投げ入れられたのは蓑虫の如く簀巻にされたカレアドだった。王妃は驚愕を露わにソファーを蹴倒す勢いで席を立つ。

「カレアド!貴様ら、私の息子に何を!!」

「不法侵入、しかも緊急時にのみ許されるルートを使うという悪質性。取り敢えず叔父として躾けを少々しただけです」

 ゼリュート様は美しく微笑むだけ。対する王妃はカレアドの傍らに駆け寄り、振り向きつつゼリュート様を睨む。

 ビチビチと跳ねるカレアドは気味が悪い。カレアドは王妃を無視してリーセルを睨み付けた。

「リーセル!お前は叔父上に、その男に騙されてるんだ!!」

「…は?」

 何を言い出すのかとリーセルは呆気にとられた。隣でダントン氏がブハッと盛大に吹き出し、カレアドに指差されたゼリュート様は大きく目を見開く。

「この俺がお前を愛してやるから戻って来い、リーセル!!」

「ぜっっったい嫌だッ!!!!!」

 不敬を考える余地すらなく、リーセルは全力で叫んでいた。

「何故だ!?俺はお前を抱きたいのに!!」

 ガタンッと大きな物音を立ててゼリュート様は立ち上がる。その眼光は鋭く、害虫を見るかのような表情でカレアドを見下ろす。

「───殺ス」

「ゼリュート様!」

 リーセルは慌ててゼリュート様に抱きつく。彼が本気で殺人を犯すとは考えたくないし、戦場に出た事もないリーセルにはゼリュート様がどのくらい本気なのかなんて分からない。分からないが、本能が危険を察知して、彼を離してはいけないと訴えている。

 その隙にダントン氏が人を呼び、股間を濡らしたカレアドを部屋から運び出す。王妃はそんなカレアドの後を追い掛けて行く。気づいた時には壁際に控えていたはずの執事達も退室済み。様子のおかしいゼリュート様と二人きりにされてしまったらしい。

 標的に逃げられたことで諦めがついたらしく、ゼリュート様の身体から力が抜けた。それを合図にリーセルは胸を撫で下ろし、ゼリュート様に抱き着く腕の力を緩めていく。

「ぜ、ゼリュート様…?」

「リーセル」

 痛いほどの力で顎を掴まれ、引き寄せられる。強引に重ねられた唇は呼吸すら咎めるように荒々しい。リーセルの全身の筋肉が悦びに震え、胎内に埋め込まれた張型を締め付ける。下着の中、根本を戒められている陰茎はファールカップ内で窮屈さに情けなく体液を滲ませており、張り詰めて痛い。痛いのに、ゼリュート様に支配されているのだという愉悦を与えてくる。最早立っていられない。

「あ…ッ」

 崩れる身体の重さに負けて唇が離れてしまった。床に情けなく座り込んで立てない。謝りたいのに呼吸が整わず言葉が出ない。

「リーセルは僕のモノだ」

 その言葉の重みを、ようやく思い知る。何度も繰り返されたセリフなのに、そこに今までの甘さや柔らかさはない。棘のついた重厚な鎖のようにリーセルを絡め取り、縛り上げる言葉だ。身震いした。シャツの下で乳首が固くなり、浅く呼吸をする度に先端が擦れて気持ちいい。

「もちろんです、ゼリュートさま」

 この人の剣を収める鞘になりたい。怒れる剣を鎮めることができるような唯一の鞘になりたい。





「んあ!ひ、ひぁ、ぅあ…っ」

 カレアドから求愛されたリーセルに対して独占欲を剥き出しにしたゼリュート様の怒張を後ろから捩じ込まれる。手綱を引くように両腕を後ろに引かれて逃げられない。

 目の前には応接ソファー。更にその向こうには庭園。穏やかな昼下がりなのに、窓硝子に反射して見える自身の姿は赤く腫れた乳首を主張させ、涎を垂らしながら男に貫かれて悦んでいる。羞恥からリーセルは窓から目を逸らした。それが現実から逃れようとしているように見えたのか、舌打ちと共に慎重さを見失った剛直が、暴力的な勢いで狭い狭い胎内を押し開いて突き進もうとする。気持ちよさは二の次で、今はただひたすら全てを収めることに集中しているらしい。

 不思議と痛みはあまり感じない。張型で慣らされた成果なのか、違和感がある程度。穿たれている場所よりも、後ろに引かれている腕や肩の方が痛いくらいだ。力を抜いて全てを受け入れようと、意識的に深い呼吸をゆっくり繰り返す。燃えるように熱い塊が腫れ上がった前立腺を掠めると呼吸を乱されて締め付けてしまい、下腹部が苦しくなる。

「ぐッ」

 苦痛に満ちた色っぽい声がリーセルの首筋を撫でる。その近さに、生々しさに、「ひっ」と声を漏らして身悶えた。

「───あぁ、溜まらないな」

「んぐ、やぁ───ッ」



 リーセルが目を覚ますと、夕暮れが室内を照らしていた。全身に甘い熱が篭り、怠い。全身のあらゆるところが悲鳴を上げており、指一本動かしたくなかった。

 いつの間にベッドまで運ばれたのだろう。見覚えのある天井。恐らくゼリュート様の寝室だと気づき、部屋の主を探す。ゼリュート様は簡易的な書き物机にて万年筆を走らせている。裸体にバスローブを軽く羽織っただけの姿は芸術的な絵画のような美しさがあり見惚れてしまう。

「そんなに見つめられると、真顔を貫くのも流石に難しいな」

「邪魔をしてしまい、申し訳ありません」

 喉に違和感を覚えて声が掠れた。振り向いたゼリュート様は優しい笑みを零す。

「ごめんね、あんな場所で、暴走してしまった。自分がこんなにも嫉妬深いだなんて思わなかったんだ」

 あんな場所───応接室で、昼間から、何を。思い出してしまい、全身から火を吹くかのような熱さを覚えて思考を振り払う。

「俺は、その、嬉しかったです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

【完結】王弟殿下の欲しいもの

325号室の住人
BL
王弟殿下には、欲しいものがある。 それは…… ☆全3話 完結しました

愛人少年は王に寵愛される

時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
憧れの騎士、アレックスと恋人のような関係になれたリヒターは浮かれていた。まさか彼に本命の相手がいるとも知らずに……。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

好きだから手放したら捕まった

鳴海
BL
隣に住む幼馴染である子爵子息とは6才の頃から婚約関係にあった伯爵子息エミリオン。お互いがお互いを大好きで、心から思い合っている二人だったが、ある日、エミリオンは自分たちの婚約が正式に成されておらず、口約束にすぎないものでしかないことを父親に知らされる。そして、身分差を理由に、見せかけだけでしかなかった婚約を完全に解消するよう命じられてしまう。 ※異性、同性関わらず婚姻も出産もできる世界観です。 ※毎週日曜日の21:00に投稿予約済   本編5話+おまけ1話 全6話   本編最終話とおまけは同時投稿します。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

処理中です...