死ぬほど愛してる

ひづき

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 この国の王族は昔から、第三王子以下は他国に婿入りするか、自国内で同性婚をすることとなっている。

 他国に婿入りといっても、政治的な制約がガチガチに絡んだ婚姻であり自由は全く無い。自国内で同性婚をする場合、幾ら王子の実子でも王族とは決して認められない。同性間で子は出来ないのだから当たり前。不貞の子など正当な血筋ではない、ということらしい。そうやって王族の血統を守っている。



 王族の血統とやらに何の意味があるのか。伯爵家の次男に過ぎないレナードには分からない。分からないが、レナードには婚約者がいる。その婚約者こそ我が国の第三王子リューダス殿下だ。

 リューダス殿下は優秀な方だそうで、王族への残留をご兄弟から強く望まれており、レナードが王子として嫁ぐ。これは異例なのだとか。大概は王子が婿入りして、婚家の爵位を継ぐものらしい。とは言え前例が全く無いわけではなく、その希少例は伝説や御伽噺と化している。継ぐ家もなく自身で身を立てなくてはならない次男坊以下には夢のような縁談なのだ。羨ましがられるを通り越して妬まれる。

 どれだけ優秀なのか、どれだけ眉目秀麗なのかと、社交の場で値踏みされ、侍従に間違えられたり、ガッカリされたり、憤慨されたり、嫌味を言われたり。

 譲れるものなら喜んで譲る。そのくらいレナードにとっては身に余る婚約だ。当然そこにレナードの意思はない。王命だからレナードの一存ではどうにもできない。頭では分かっていても納得できない婚約だから皆レナードに文句を言う。レナードも納得できない婚約なので「ですよねー!!」と同意するばかりだ。





「リューダス殿下、本日のお招きに感謝致します」

 婚約者なので定期的に城内でお茶会があり、レナードはリューダス殿下と向かい合う。

「───」

 レナードが挨拶をしてもリューダス殿下は応えず、じっとレナードを見つめるばかり。いつものことなのでレナードは気にしない。

 眉目秀麗を体現するかのようなリューダス殿下としても、やはりこの婚約は不服なのだろう。レナードは殿下がまともに話すのを聞いたことがない。お茶会は向かい合ってお茶を飲むだけ・・の時間だ。最初こそレナードは一生懸命話しかけていたが「あぁ」「いや」が返事の大半で、一番長い返答と言えば「考えたことがない」である。最早会話をする気がないとしか思えず、レナードは早々に諦めた。

 結婚して家族になる。婚約の先に控えている未来を想像すると、随分と寒々しい。伴侶からは置物のように扱われ、周囲から嘲笑され、リューダス殿下の引き立て役にすらなれず、下手したら殿下の汚点となる。

 ぐずぐずと心臓が痛んだ。痛みが冷たい未来予想図すらも踏み躙り、嘲笑う。

「殿下」

「?」

 視線だけが続きを促してくる。

「もう少しだけお待ちください」

「─────?」



 ぎゅぅぅぅッと心臓を鷲掴みにされるような痛みに、レナードは脂汗を浮かべ、浅い呼吸を繰り返す。馬車の中で蹲り必死に耐えるしか出来る事はない。

 リューダス殿下と会った後は毎回酷く痛み、酷く苦しむ。リューダス殿下に会ったことを咎める痛みだ。これは病気などではなく呪いだ。リューダス殿下の婚約者の座を明け渡せという脅迫である。

 このまま呪いを解かなければ1年も経たずしてレナードは死ぬ。

 これはチャンスだと、レナードは喜んだ。これでリューダス殿下を婚約から解放してあげられる。

 王が決めた婚約を破断にするのは難しい。リューダス殿下にさえ難しい。そのくらい王命は絶対なのだ。レナードに非があれば話は別だが、それでは実家の伯爵家が非難の的になるだろう。あとはレナードが死ぬくらいしか手段が思いつかない。とはいえ国教により自死も恥ずべきこととされている為、やはり実家に迷惑をかけてしまう。

 しかし。レナードが呪いで死ねば、誰にも迷惑をかけずリューダス殿下を解放してあげられるではないか!それはレナードにとって光明でしかない。婚約者を呪い殺された哀れな殿下、息子を呪い殺された哀れな伯爵夫妻。これなら非難が彼らに向くことはない。むしろ同情が集まり、その後の言動によっては大きな賛同を得られる機会にすら成り得る。

 何も言わず、無言で寄り添うように話を聞いて下さるリューダス殿下。不出来な妃が彼の汚点になってはならない。





 公務の一環で行われた式典でリューダス殿下と同席するのも婚約者の務めだ。呼吸をする度に肺に針を刺されるような痛みがあるが、欠席するという選択肢はレナードにない。

「顔色が───」

 普段と変わらない表情のリューダス殿下が伸ばしてきた手がレナードの頬に触れようとする。レナードは咄嗟に後ろへと下がって避けた。リューダスに触れられたら吐血しそうで、彼の式典用の服を汚すのが怖かった。

「お気遣いなく」

「……………そうか」

 リューダス殿下の行き場のない手が躊躇いがちに宙を泳いだ後、降ろされる。

 他の婚約カップルのように触れ合うようなエスコートは一切なく、侍従のようにレナードはリューダス殿下に付き従い、式典の工程をこなした。

「この後だが───」

「不慣れな場で疲れましたので下がらせて頂きます」

 早く人目のない場所で盛大に吐血したい。込み上げて来る気持ち悪さを呑み込むので忙しく息苦しくて参る。リューダス殿下を見遣る余裕などなく、レナードは頭を下げ、言いたい事だけ言い残して踵を返した。


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