死ぬほど愛してる

ひづき

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 そろそろ身体の限界が近いようだ。式典以降、リューダス殿下のことを考えただけで激しく咳き込み、吐血するようになった。流石に両親にも体調不良がバレてしまい、胸元に浮かび上がる呪いの印を見られてしまった。

 どうして、どうしてと嘆き悲しむ両親には心が痛んだけれど、レナードの心は揺らがない。

「………婚約が解消されたところで呪いが解ける保障などどこにもありませんから」

 呪いを隠した表向きの理由を口にする。

 このまま死ぬ気なのだと両親には伝わったらしい。

「王命が何!王族が、王子が何よ!そんなものより貴方の方が何倍も大切だわ!!」

「さすがに不敬ですよ…、母上」

 思わず笑うと胸部が締め付けられるように痛んだ。話せるのも今のうちかもしれない。そう思い、レナードは気力を振り絞る。

「親不孝で、ごめんなさい。でも、ぼくは、」



 死ぬほど、リューダス殿下をお慕いしているんです───





 夢を見た。

 随分と大人になった殿下がマントを翻した際、その背中に向かって放たれた矢。必死に駆け出し、全身でその矢を受け止めた。痛いのか熱いのか分からないのも一瞬、すぐに急激な寒気が走り、倒れ込んだ身体を殿下に抱き留められる。殿下は泣きながら必死に名前を呼んで下さり、死ぬなと叫ぶ。

 ───死ぬほど、愛してる

 そう返事をして、その生に幕を下ろした。





「繰り返して溜まるかよ、馬鹿野郎」

 そんな声で夢から醒めた。レナードは見覚えはあるが馴染みのない天井をぼんやりと眺め、ついで、声の主を見遣る。リューダス殿下だ。信じられず瞬きを繰り返す。リューダス殿下にしては言葉遣いが荒かったような…?

 そんなことよりも───

「………矢は?ぼく???ここどこ???」

「矢のことは忘れろ。お前はレナード。ここは俺の家だ」

 まるで別人のように珍しくよく喋るリューダス殿下に驚きを隠せない。だが、こちらの方がしっくり来るから不思議だ。

 王城の敷地内にあるリューダス専用の邸宅だと知り、道理で天井の柄に見覚えがあるはずだと納得する。茶会で気不味くなると天井の絵柄を視線でなぞっていた。

「もしかして僕、殿下のベッドに寝てます!?」

 大変だ!と飛び起きようとしたら、両肩を押さえつけられ、寝台に沈められる。

「もうごちゃごちゃ考えるのはやめたからな、覚悟しろ」

「かくご?」

 何の話だろう。ベシっと軽く頭を叩かれた。

「まずは説教からだ!お前ときたらまた・・勝手に死のうとしてやがって!ホイホイ自己犠牲を押し付けられる側の身にもなってみろ!!」

「───殿下、そんなにたくさん喋れたんですね…!」

 初めて聞いたと感動していると、殿下は上掛けごと抱き締めてきた。

「お前が死んだら、俺も死ぬ」

「だ、だめですよ、そんな!僕なんかが死んでも世界は変わりませんけど、殿下が儚くなったら世の損失ですよ!」

「うるせぇ。俺を過大評価し過ぎだ。お前がいなきゃ俺は息の仕方も分かんねぇんだよ。お前がいなきゃ俺は死ぬ」

「そんな大袈裟な」

 レナードの存在に価値を与えようとしてくれるリューダス殿下の言葉が擽ったくて笑う。笑ってから、異変に気づいた。

「───あれ?痛くない?」

 リューダス殿下と会うだけで心臓が痛んで死にそうだったのに。今は密着している。少し動悸はするが、痛むわけではない。

「呪いなら解けてる。つってもギリギリだったからな、結構ダメージ残ってて、お前5日以上寝てたんだぞ」

「呪いを解くって、一体どうやって…」

 解けるなんて聞いたこともない。

「どうって…術者を見つけ出してタコ殴りにした」

 返ってきた答えに唖然とする。まさかの物理的解答。

「術者なんてよく見つけられましたね…」

「お前の立場を妬む奴らを片っ端から脅したら案外簡単だったよ」

「……………………」

 脳筋。そんな単語が頭に浮かぶ。もちろん口には出さないが。

「悪かった。お前が俺の弱点として狙われないようにと考えて素っ気なくしてたんだが、まさかそれが裏目に出て換えの利く存在だと軽視されるとは予想してなかった。お前が呪われたのは俺のせいだ」

 ぎゅーっと抱き締める腕に力を込められ、正直苦しい。強く抱き締められるなんて初めてでドキドキするのに、一方で懐かしさを覚えて胸が切なくなる。

「いえ、あの、あくまで僕の力不足で…」

「自分じゃ役に立たないからとか言ってまた・・逃げようとか考えてねぇだろうな?あ?」

「え、また・・?逃げたことありましたっけ???」

 何だか会話が噛み合っていないような気がする。

「逃げたら両足を切り落としてでも連れ戻すから覚えておけ」

 物騒な脅しだな、と。そう思い、リューダス殿下の表情をうかがう。冗談など微塵も感じさせない真顔で、真剣で。あ、これ本気だ、と気付き目を逸らす。

「な、なんで、そんなに、僕なんかを、」

 ぐっと顎を挟み込むように捕まれ、驚きと少しの痛みに呻く。呻きごと喰らうように口を塞がれ、入り込んできた熱に、接吻されているのだと気づいて目を見開いた。

「んー!!!!!」

 嫌ではない。口蓋こうがいを舐められ、ゾクゾクと背中が震える。身に覚えのない刺激に、懐かしさのある乱暴さ。頭が混乱して、冷静になる為に離れなければと藻掻く。離れたことに安堵して荒々しい呼吸を繰り返し、新鮮な酸素を取り込んでいると、上下する鎖骨をリューダスに噛みつかれた。

「あうっ!」

「あー、何でだろうな。この手で殺してやりたい。それくらい愛してる」

 レナードの涙を拭う指先は優しい。



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