死ぬほど愛してる

ひづき

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 リューダス殿下を、こんな婚約から解放して差し上げよう。そんなレナードの考えは無駄どころか大迷惑だった。

 この呪い事件で得た収穫はそんな学びだ。



「あの、僕、家に帰りたいのですが…」

 公務を投げ出し、つきっきりでレナードの看病をするリューダス殿下に、思い切ってそんなことを言ってみた。そろそろ公務に復帰して欲しいと側近達が懇願する声を盗み聞きしてしまったから、というのが一番の理由である。目覚めて2日間程はトイレに行くのにもリューダス殿下に抱えられて移動するという辱めを味わったが、今はもう歩ける。まだ心配だとリューダス殿下に支えられて移動しているが、別にリューダス殿下でなく専用の介護人を呼べば雇えばいいだけ。

「俺はな、例え看病だろうが介護だろうが、お前が俺以外の人間と密着するのを許せるほど人間できてねぇんだよ!!」

 レナードの気遣いも遠慮も、リューダス殿下にはお見通しのようで。帰りたいと言っただけなのに考えていることを全拒否された。何故この人はそんなに自分のことを理解しているのだろう。

 呪いが発覚した時点でレナードの両親は密かにリューダス殿下に相談し、レナードの命をリューダス殿下に預けたらしい。両親もレナードの命の恩人であるリューダス殿下には最早何も言えないようだ。両親への手紙にも『帰りたい』と書いたが、父からの返事は『すまん、無理』という簡潔なものだった。

「だからといって殿下の仕事が滞るのは他の方々へのご迷惑になります!巡り巡って民を困らせることになるのですよ?貴族として容認出来ません」

 城で過ごすようになってから、リューダス殿下が冷徹で恐ろしい人間だと側近達から言われていることを知った。何か1ついえば10倍になって反論が返ってくる。その上口が悪い。しかも権力者だ。確かに怖い、横暴だ。だが、根は良い人だし、真面目なのだ。納得さえすれば理不尽に怒ったりはしない。

「……………レナードがそう言うなら仕方ない。仕事はする」

 良かった。レナードを始め、聞き耳を立てていた側近達は胸を撫で下ろした。



「───で、何でこうなる!?」

 喚くレナードは寝間着にガウンを着せられ、毛布に包まれ、リューダス殿下の膝の上である。

「お前が仕事しろって言うからだろ」

「僕がここにいる必要あります!?」

 リューダス殿下専用の執務室内にいる補佐官達は誰一人としてレナードと目を合わせず、黙々と目の前の仕事に集中している。

「お前がいなきゃ不安で仕事なんかやってられるわけねぇだろ!!国がどうなろうが、民がどうなろうが、お前さえ無事なら知ったこっちゃねぇんだよ!!」

「ちょ、それ、思ってても口に出しちゃ駄目なやつですから!!!!!」

「仕事はするからお前は寝ろ!起きてる元気があるなら全身舐め回すぞ!」

「ご自分が何言ってるかわかってます!?」

「大丈夫だ、分かってる。初夜まで純潔は守ってやるから安心しろ」

「何も安心できない!!!!!」

 何故リューダス殿下は平然としていられるのだろう。言われているレナードは恥ずかしくて居た堪れないし、聞こえてしまった周囲も気まずくて居た堪れない。

 まさか口を開いたらこんな人だったなんて詐欺も良いところだ!それでも好きだけど!!!!!





 結局、全回復してもレナードはリューダス殿下の邸宅に住み続けた。たまに実家の伯爵家に顔を出しに行くが、必ずリューダス殿下が同行し、夕方には連れ帰られてしまう。両親の呆れを含んだ生温かい視線が居た堪れない。

 寝るのは毎晩同じベッドだ。ちょっとエッチな悪戯もされるけど、宣言通り純潔は一応守って… 守っているうちに入るのか?というキワドイところまでされている気がする。無知は武器だ。知らなければ気づけない。だからレナードは何も知らない、ということにした。

 式典で襟の高い服を着るようになったレナードに、国王夫妻が哀れみを含む視線を向けてくるのも気づかないふりをする。



 最早看病も介抱も要らないのに共に湯に浸かる。最初こそ抵抗したが今では当たり前の習慣だ。湯船の中、レナードの身体を後ろから抱き締めるリューダス殿下は、あちこちに口づけを落とす。特に入念に、必ず痕を残す場所がある。

「リューは、僕の背中にキス痕を残すのが好きなの?」

 死ぬはずだった1年の間に、婚約者を愛称で呼ぶのにも慣れてしまった。婚姻は第一王子と第二王子の結婚式が終わってからになるのでまだ先である。たぶん3年後くらい。その頃レナードは21歳、リューダス殿下は23歳になっているはずだ。

「───あー、まぁ、な」

 リューダス殿下は言葉を濁す。

 レナードは気づいていた。思い出したという方が正しいかもしれない。前世で恋い焦がれた人を庇って毒矢が刺さった場所、リューダス殿下が欠かさず口づけをする場所はそんな因縁の場所だ。

「リュー、」

 肩越しに振り向き、呼びながら舌を差し出せば、意図を組んだリューダス殿下が優しくレナードの舌を食み、口の中を愛で始める。

 レナードの呼吸がやや苦しくなった頃、音を立ててリューダス殿下の唇は離れて行った。

「俺より先に死ぬなよ、レナード」

 リューダス殿下の懇願を前にレナードは笑う。笑って誤魔化す。

 悪いとは思うが、約束は出来ない。



 死んでも良いほど、愛しているから。



[完]
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