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第五十八話 おもてなし
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最近はなぜかリオと私の仲を応援する令嬢がいます。
私はリオと関わりたくないのでやめてほしく、貴族らしい遠回な言い方でお断りしても妄想の世界に入った令嬢には届かず諦めました。
レオ様のお願いでエイミー様とリオと4人で演奏しました。
フルートの練習をしていなかったので指導が恐ろしかったです。
リオはバイオリンは上手でした。
エイミー様の指導も涼し気なお顔で流していました。こんなに逞しいとは予想外でした。演奏室で過ごしていたら外が暗くなっていたので送るというリオの強引な誘いを断れませんでした。
「レティシア、次の休み出かけないか?」
「申し訳ありません。お茶会があります」
「忙しすぎないか」
「公爵令嬢ですから」
残念そうな顔で見られてます。
この方を私のリオと間違えたんですよね…。
「お茶会が終わったあとでいいよ。これ行かないか?」
差し出されたサーカスのチケットに興味を惹かれましたが行けません。
まずリオとは絶対に行きたくありません。
本音を伝えると失礼にあたるので、言葉は選ばないといけませんね。
「残念ですが、お茶会の後だと間に合いません。それに私はビアード領以外は自由に出歩けません。ほかの」
「レティシア以外は誘わないから。うちの夜会に参加してることにして出かけようよ。護衛の手配はするよ」
笑顔で恐ろしい提案をするリオに引きました。
そんな嘘が見つかれば恐ろしいことがおこります。
それに、もし私の身になにかあれば護衛の首が飛ぶかもしれません。
許可なくビアード領を出ないとエイベルとも約束してます。
ルメラ領の時に物凄く心配をかけましたので・・。
行く気はありませんが、行ける理由も一つも思いつきません。
「できません」
明らかにしょんぼりした顔をするリオに悩みます。
ウォントがお世話になったんですよね…。
まさかリオがフラン王国語を教えていたとは知りませんでした。上達したウォントに話を聞いて驚きましたわ。
ビアードならリオと一緒にいる所を見られても平気でしょうか…。
他の令嬢にはフラれたんでしょうか…。
臣下がお世話になったお礼はしないといけませんよね。
ため息を飲み込みました。
午後の視察は急ぎではないので後日にしましょう。
「お茶会はお昼には終わります。ビアード領でしたらご案内しますわ」
「本当?」
「はい。ウォントも誘いましょう」
「市で待ち合わせな」
嬉しそうに笑ったリオとは寮に着いたので礼をして別れました。
市で待ち合わせですか!?
ビアード公爵邸ではないんですか!?
確認するにもわざわざ手紙を出すほどではないので気にすることはやめました。
合流できなくても、ビアードなら幾らでも手が回せますもの。
***
休養日にお茶会をすませてリオとの待ち合わせ場所に行きました。護衛はウォントを連れています。
私のリオは穏やかな顔が多かったですが今世のリオは明るい笑顔ばかりです。
嬉しそうな顔でリオが駆け寄ってきました。
「食事に行こう。良い店があるんだ」
私が案内するつもりが手を引かれて歩いています。
案内されたのは食堂でした。
リオが一人で注文してますが、私にはメニューを見せてもらえないんでしょうか。
注文してすぐに運ばれた料理に目を丸くしました。
暖かいパンやパイの上にキラキラとした蜂蜜がかかってます。まさか食堂に蜂蜜があるとは思いませんでした。
「どうぞ」
久しぶりの蜂蜜に頬が綻びます。リオとウォントはサンドイッチを食べてます。
「まさかビアードにこんな高級な店が」
高価で手に入りにくい蜂蜜に出会えるなんて幸せです。
「マールにも蜂蜜を取り扱う店があるから今度行こう。母上にお願いするよ」
「お気持ちだけで」
「真面目だな」
私はリオと関わりたくないというのは伝わっていないんでしょうか?
苦笑するリオは放っておいてお代を女将さんに渡そうとすると受け取ってもらえませんでした。
すでにリオが支払ったようです。
全然気づきませんでした。
女性慣れしてるからでしょうか。リオの顔を立てて甘えることにしました。
「花が見頃だから見に行くか」
手を引かれて歩いてますが案内はいらないようです。
「詳しいですね」
「ここの民は親切だから色々教えてくれる。お転婆なお嬢様の話も」
何を話してるんですか!?
うちの領民と仲が良いんですか!?
「申し訳ありません」
「いいよ。君のリオとも出かけたのか?」
懐かしい思い出です。
でもここはリオと歩いたことはありません。
「はい。いつも外に連れ出してくれるのはリオ兄様です。お忍びで遠乗りをよくしましたわ。時々サーカスに連れて行ってくれたり、外出許可はいつもリオが取ってくれました」
「次は遠乗りに行こうか」
リオとは出かけたくありません。
他の令嬢に見られて噂が立てば恐ろしいですわ。
「今は自由に行けますのでお気遣い不要です。それに当分は忙しいのでお預けです」
「そうか・・」
今後はお付き合いする予定もありません。
今回はウォントのお礼ですから。
是非他の令嬢を誘ってくださいと言おうとするとローブを少女に掴まれました。
「お嬢様!!」
お忍び用のローブを着てましたが見つかってしまいました。
「来て、お母さんが」
慌てる少女の様子に揉め事でしょうか…。
「マール様、申し訳ありません。ウォント、マール様のおもてなしを。護衛はいりませんわ」
「どこに行けばいいんだ?」
「ついてくるんですか!?」
「ああ。邪魔はしないよ」
時間が惜しいのでリオは放っておいて少女の家に向かいました。
少女の家に入ると夫人が血を吐いて倒れていました。触れると体は冷たく息はありません。
外傷はなく、部屋も荒らされた形跡はないので病でしょう。
「ウォント、家族を呼んでください。私の命と伝えてください」
「お嬢様、お母さん、」
少女に縋りつかれますが、私にできることはありません。もう亡くなってます。
「どうして、おばさん助けてくれたのに、お母さんは駄目なの!?」
「ごめんなさい。私には助けられません」
「嫌、お母さん、助けて、なんでもする」
ハンカチを濡らして夫人の顔を拭いて、血を落とします。
助けたくてもできません。
治癒魔法は死人には効きません。
また死人を蘇らるのは禁術であり命への冒涜です。
私はその魔法を使えませんし、覚えるつもりもありません。どんなに恋しくても手を出してはいけないものです。
扉が勢いよく開き男性が駆け込んできました。
「お父さん、お母さんが」
「レティシア様・・・」
真っ青な顔の男性に頭を下げます。
「申しわけありません。私にできることはありません。最期の時間を」
「わかりました」
「お父さん、どうして!!お母さん、なんで助けてくれないの!!」
「レティシア様、失礼しました」
何度見ても慣れません。
助けられない光景は。
治癒効果のあるルーンの血があればと思ったこともありましたわ。
でも血を使っても効果のない方もたくさん出会いました。
落ち込むのは一人になってからです。
頭を下げる男性に礼をして立ち去りました。私がいては家族の別れの邪魔になります。
真顔のリオに笑みを浮かべます。おもてなしを再開しないといけません。
「マール様、どうしますか?」
「歩こうか」
手を引かれて森の方に向かって行きます。
素材集めでもしたいんでしょうか?
無言のせいか泣き叫ぶ少女の声と顔が頭を離れません。
森に入ると抱き寄せられているのはなんででしょうか。
「なんですか?」
「泣いていいよ」
「泣きません。よくあることなので気にしないでください。」
心配そうに見ているリオに笑みを浮かべます。
私は弱い姿を見せてはいけません。
いつまでも子供ではいられません。
領民達にとって頼れる存在にならないといけません。
「せっかく来ていただいたのに碌なおもてなしも、できてませんね」
「リオになら言えるのか?」
リオがいたら?
生家のことは頼れません。
でも何も言わずに抱きしめてくれてたでしょうが…。
でも、生前はほとんど目にすることはありませんでした。
意識を切り替えます。
目の前にいるのは従兄ではなく同派閥のマール公爵家子息です。
情けない姿を見せるなど許されません。
もう一度令嬢モードに武装して笑みを浮かべます。
「いいえ。ビアード公爵令嬢ですから。家のことで甘えは許されません」
「いつか壊れるんじゃないか」
私の弱気が見抜かれたのでしょう。
いけませんわ。
公爵令嬢は常に優雅に、心を見せてはいけません。
「そんなに弱くはありません。心配不要ですわ」
「リオなら」
「マール様、その考え方はやめてください。貴方とリオは別人です。私はリオになってほしいとは思いません」
「俺は君のために何もしてあげられないから」
悲しい顔を向けられると戸惑います。
正直に言うと苦手です。
このリオは誰にでも優しいのかもしれません。
身内でもないウォントに言葉を教えるためにわざわざ通ってくれました。
そういえば学園でも何の関係のない私や後輩達を気に掛けています。
私を心配してるんでしょうか・・。優しい彼に正直に何も望んでないとは言えませんね。慈愛に満ちた笑みを作ります。
「私、蜂蜜が好きなんです。調べてくれてありがとうございました。」
「え?」
「嬉しかったです。それだけで十分ですわ」
「そうじゃなくて、」
案内された食堂は美味しくて嬉しかったんですが、納得していただけないようですね。
悲しそうな顔のリオを見つめます。
知りませんでしたが、誰にでも優しい人なんでしょう。
私のリオのフリをしたのも、リオのことを聞くのも私のためですかね…。
そこまで弱って見えたのでしょうか。
気付くまでは、幸せな時間をもらったのは確かなこと。
「頂いた本も。何より私のリオを否定しないでもらえることに救われてますわ」
「え?」
「リオのフリをしたのは心配したからでしょ?あの時は悲しくて思いつきませんでした。ただ冷静になればわかります。弱った私を放っておけなかったと。マール様は誰にでも優しい方ですから」
リオの胸を押して離れます。
そろそろ帰らないといけません。
このまま顔が暗いままなら後でチョコケーキでも差し入れしましょうか。
「レティシア」
「帰りましょう。碌なおもてなしもできずに申し訳ありません。よければどうぞ」
ポケットに入れておいたリオの髪と同じ色の糸で刺繍したハンカチを渡します。
アナがリオが刺繍入りのハンカチを欲しがっていると言っていました。
「これは?」
「深い意味はありません。ウォントがお世話になったお礼です。不要でしたら処分してください」
「嬉しいよ。ありがとう」
ハンカチなんてたくさん貰ってるのに不思議です。
やはりたくさん集めることに意義があるんでしょうか。
よくわかりませんが暗い顔が明るくなったのでよかったです。
上機嫌なリオと別れて、うちに帰りました。
反省は一人になった時にすることです。
緊急時に領民が医務官を手配できる方法を考えないといけません。
治癒魔法の勉強ももう一度復習しましょう。
やることはたくさんあります。
落ち込んでいる時間があれば前を向かないといけません。
ルーンと違いビアードは厳しく管理されていません。
優秀な治癒魔導士や医務官も少なく、私の嗜み程度の治癒魔法に劣る者ばかり。
怪我の応急処置だけは強みですが、それ以外には弱いのです。
騎士も応急処置はできるんですが、その先はの管理は杜撰…。
課題はたくさんありますわ。
ビアード公爵夫妻がビアードに治癒魔導士を欲した理由もよくわかりました。
ビアード公爵夫人は水属性ですが治癒魔法は使えません。
もしも私の体が持ち主に返す時のために細かい治癒魔法の使い方を書きとめておきましょう。
魔法にも向き不向きはありますが、同じ体なら大丈夫ですよね・?
私はリオと関わりたくないのでやめてほしく、貴族らしい遠回な言い方でお断りしても妄想の世界に入った令嬢には届かず諦めました。
レオ様のお願いでエイミー様とリオと4人で演奏しました。
フルートの練習をしていなかったので指導が恐ろしかったです。
リオはバイオリンは上手でした。
エイミー様の指導も涼し気なお顔で流していました。こんなに逞しいとは予想外でした。演奏室で過ごしていたら外が暗くなっていたので送るというリオの強引な誘いを断れませんでした。
「レティシア、次の休み出かけないか?」
「申し訳ありません。お茶会があります」
「忙しすぎないか」
「公爵令嬢ですから」
残念そうな顔で見られてます。
この方を私のリオと間違えたんですよね…。
「お茶会が終わったあとでいいよ。これ行かないか?」
差し出されたサーカスのチケットに興味を惹かれましたが行けません。
まずリオとは絶対に行きたくありません。
本音を伝えると失礼にあたるので、言葉は選ばないといけませんね。
「残念ですが、お茶会の後だと間に合いません。それに私はビアード領以外は自由に出歩けません。ほかの」
「レティシア以外は誘わないから。うちの夜会に参加してることにして出かけようよ。護衛の手配はするよ」
笑顔で恐ろしい提案をするリオに引きました。
そんな嘘が見つかれば恐ろしいことがおこります。
それに、もし私の身になにかあれば護衛の首が飛ぶかもしれません。
許可なくビアード領を出ないとエイベルとも約束してます。
ルメラ領の時に物凄く心配をかけましたので・・。
行く気はありませんが、行ける理由も一つも思いつきません。
「できません」
明らかにしょんぼりした顔をするリオに悩みます。
ウォントがお世話になったんですよね…。
まさかリオがフラン王国語を教えていたとは知りませんでした。上達したウォントに話を聞いて驚きましたわ。
ビアードならリオと一緒にいる所を見られても平気でしょうか…。
他の令嬢にはフラれたんでしょうか…。
臣下がお世話になったお礼はしないといけませんよね。
ため息を飲み込みました。
午後の視察は急ぎではないので後日にしましょう。
「お茶会はお昼には終わります。ビアード領でしたらご案内しますわ」
「本当?」
「はい。ウォントも誘いましょう」
「市で待ち合わせな」
嬉しそうに笑ったリオとは寮に着いたので礼をして別れました。
市で待ち合わせですか!?
ビアード公爵邸ではないんですか!?
確認するにもわざわざ手紙を出すほどではないので気にすることはやめました。
合流できなくても、ビアードなら幾らでも手が回せますもの。
***
休養日にお茶会をすませてリオとの待ち合わせ場所に行きました。護衛はウォントを連れています。
私のリオは穏やかな顔が多かったですが今世のリオは明るい笑顔ばかりです。
嬉しそうな顔でリオが駆け寄ってきました。
「食事に行こう。良い店があるんだ」
私が案内するつもりが手を引かれて歩いています。
案内されたのは食堂でした。
リオが一人で注文してますが、私にはメニューを見せてもらえないんでしょうか。
注文してすぐに運ばれた料理に目を丸くしました。
暖かいパンやパイの上にキラキラとした蜂蜜がかかってます。まさか食堂に蜂蜜があるとは思いませんでした。
「どうぞ」
久しぶりの蜂蜜に頬が綻びます。リオとウォントはサンドイッチを食べてます。
「まさかビアードにこんな高級な店が」
高価で手に入りにくい蜂蜜に出会えるなんて幸せです。
「マールにも蜂蜜を取り扱う店があるから今度行こう。母上にお願いするよ」
「お気持ちだけで」
「真面目だな」
私はリオと関わりたくないというのは伝わっていないんでしょうか?
苦笑するリオは放っておいてお代を女将さんに渡そうとすると受け取ってもらえませんでした。
すでにリオが支払ったようです。
全然気づきませんでした。
女性慣れしてるからでしょうか。リオの顔を立てて甘えることにしました。
「花が見頃だから見に行くか」
手を引かれて歩いてますが案内はいらないようです。
「詳しいですね」
「ここの民は親切だから色々教えてくれる。お転婆なお嬢様の話も」
何を話してるんですか!?
うちの領民と仲が良いんですか!?
「申し訳ありません」
「いいよ。君のリオとも出かけたのか?」
懐かしい思い出です。
でもここはリオと歩いたことはありません。
「はい。いつも外に連れ出してくれるのはリオ兄様です。お忍びで遠乗りをよくしましたわ。時々サーカスに連れて行ってくれたり、外出許可はいつもリオが取ってくれました」
「次は遠乗りに行こうか」
リオとは出かけたくありません。
他の令嬢に見られて噂が立てば恐ろしいですわ。
「今は自由に行けますのでお気遣い不要です。それに当分は忙しいのでお預けです」
「そうか・・」
今後はお付き合いする予定もありません。
今回はウォントのお礼ですから。
是非他の令嬢を誘ってくださいと言おうとするとローブを少女に掴まれました。
「お嬢様!!」
お忍び用のローブを着てましたが見つかってしまいました。
「来て、お母さんが」
慌てる少女の様子に揉め事でしょうか…。
「マール様、申し訳ありません。ウォント、マール様のおもてなしを。護衛はいりませんわ」
「どこに行けばいいんだ?」
「ついてくるんですか!?」
「ああ。邪魔はしないよ」
時間が惜しいのでリオは放っておいて少女の家に向かいました。
少女の家に入ると夫人が血を吐いて倒れていました。触れると体は冷たく息はありません。
外傷はなく、部屋も荒らされた形跡はないので病でしょう。
「ウォント、家族を呼んでください。私の命と伝えてください」
「お嬢様、お母さん、」
少女に縋りつかれますが、私にできることはありません。もう亡くなってます。
「どうして、おばさん助けてくれたのに、お母さんは駄目なの!?」
「ごめんなさい。私には助けられません」
「嫌、お母さん、助けて、なんでもする」
ハンカチを濡らして夫人の顔を拭いて、血を落とします。
助けたくてもできません。
治癒魔法は死人には効きません。
また死人を蘇らるのは禁術であり命への冒涜です。
私はその魔法を使えませんし、覚えるつもりもありません。どんなに恋しくても手を出してはいけないものです。
扉が勢いよく開き男性が駆け込んできました。
「お父さん、お母さんが」
「レティシア様・・・」
真っ青な顔の男性に頭を下げます。
「申しわけありません。私にできることはありません。最期の時間を」
「わかりました」
「お父さん、どうして!!お母さん、なんで助けてくれないの!!」
「レティシア様、失礼しました」
何度見ても慣れません。
助けられない光景は。
治癒効果のあるルーンの血があればと思ったこともありましたわ。
でも血を使っても効果のない方もたくさん出会いました。
落ち込むのは一人になってからです。
頭を下げる男性に礼をして立ち去りました。私がいては家族の別れの邪魔になります。
真顔のリオに笑みを浮かべます。おもてなしを再開しないといけません。
「マール様、どうしますか?」
「歩こうか」
手を引かれて森の方に向かって行きます。
素材集めでもしたいんでしょうか?
無言のせいか泣き叫ぶ少女の声と顔が頭を離れません。
森に入ると抱き寄せられているのはなんででしょうか。
「なんですか?」
「泣いていいよ」
「泣きません。よくあることなので気にしないでください。」
心配そうに見ているリオに笑みを浮かべます。
私は弱い姿を見せてはいけません。
いつまでも子供ではいられません。
領民達にとって頼れる存在にならないといけません。
「せっかく来ていただいたのに碌なおもてなしも、できてませんね」
「リオになら言えるのか?」
リオがいたら?
生家のことは頼れません。
でも何も言わずに抱きしめてくれてたでしょうが…。
でも、生前はほとんど目にすることはありませんでした。
意識を切り替えます。
目の前にいるのは従兄ではなく同派閥のマール公爵家子息です。
情けない姿を見せるなど許されません。
もう一度令嬢モードに武装して笑みを浮かべます。
「いいえ。ビアード公爵令嬢ですから。家のことで甘えは許されません」
「いつか壊れるんじゃないか」
私の弱気が見抜かれたのでしょう。
いけませんわ。
公爵令嬢は常に優雅に、心を見せてはいけません。
「そんなに弱くはありません。心配不要ですわ」
「リオなら」
「マール様、その考え方はやめてください。貴方とリオは別人です。私はリオになってほしいとは思いません」
「俺は君のために何もしてあげられないから」
悲しい顔を向けられると戸惑います。
正直に言うと苦手です。
このリオは誰にでも優しいのかもしれません。
身内でもないウォントに言葉を教えるためにわざわざ通ってくれました。
そういえば学園でも何の関係のない私や後輩達を気に掛けています。
私を心配してるんでしょうか・・。優しい彼に正直に何も望んでないとは言えませんね。慈愛に満ちた笑みを作ります。
「私、蜂蜜が好きなんです。調べてくれてありがとうございました。」
「え?」
「嬉しかったです。それだけで十分ですわ」
「そうじゃなくて、」
案内された食堂は美味しくて嬉しかったんですが、納得していただけないようですね。
悲しそうな顔のリオを見つめます。
知りませんでしたが、誰にでも優しい人なんでしょう。
私のリオのフリをしたのも、リオのことを聞くのも私のためですかね…。
そこまで弱って見えたのでしょうか。
気付くまでは、幸せな時間をもらったのは確かなこと。
「頂いた本も。何より私のリオを否定しないでもらえることに救われてますわ」
「え?」
「リオのフリをしたのは心配したからでしょ?あの時は悲しくて思いつきませんでした。ただ冷静になればわかります。弱った私を放っておけなかったと。マール様は誰にでも優しい方ですから」
リオの胸を押して離れます。
そろそろ帰らないといけません。
このまま顔が暗いままなら後でチョコケーキでも差し入れしましょうか。
「レティシア」
「帰りましょう。碌なおもてなしもできずに申し訳ありません。よければどうぞ」
ポケットに入れておいたリオの髪と同じ色の糸で刺繍したハンカチを渡します。
アナがリオが刺繍入りのハンカチを欲しがっていると言っていました。
「これは?」
「深い意味はありません。ウォントがお世話になったお礼です。不要でしたら処分してください」
「嬉しいよ。ありがとう」
ハンカチなんてたくさん貰ってるのに不思議です。
やはりたくさん集めることに意義があるんでしょうか。
よくわかりませんが暗い顔が明るくなったのでよかったです。
上機嫌なリオと別れて、うちに帰りました。
反省は一人になった時にすることです。
緊急時に領民が医務官を手配できる方法を考えないといけません。
治癒魔法の勉強ももう一度復習しましょう。
やることはたくさんあります。
落ち込んでいる時間があれば前を向かないといけません。
ルーンと違いビアードは厳しく管理されていません。
優秀な治癒魔導士や医務官も少なく、私の嗜み程度の治癒魔法に劣る者ばかり。
怪我の応急処置だけは強みですが、それ以外には弱いのです。
騎士も応急処置はできるんですが、その先はの管理は杜撰…。
課題はたくさんありますわ。
ビアード公爵夫妻がビアードに治癒魔導士を欲した理由もよくわかりました。
ビアード公爵夫人は水属性ですが治癒魔法は使えません。
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