追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第五十九話 問題児 

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ごきげんよう。レティシア・ビアードです。
ビアード領は治癒魔導士を募集しています。
最近はベリー・ストレイン伯爵令嬢に治癒魔法を教えてます。魔力が少ないので、魔石や魔導具で補助が将来的には必要ですが、一番大事な意欲があります。
ベリーは私の弟子と名乗っています。弟子など恐れ多いですが、本人が望むので好きにさせることにしました。お師匠様と呼ぶのはやめてもらいました。一心に慕われるのは照れてしまいつい頬に熱が籠ってしまいます。

「いい加減にしろよ!!嫉妬は見苦しい」
「ルメラ様と親しくするなら婚約破棄してからでお願いします」
「は!?」
「私はあんな女に骨抜きにされた殿方などごめんですわ」

ベリーの訓練が終わり帰る途中に聞こえる声に足を止めました。ベリーを先に帰してよかったです。
ため息を我慢して言い争う令嬢と令息に声をかけることにしました。廊下で激しく言い争うなど貴族としてあるまじき行為ですわ。

「どうされました?」

私に気付き顔を向けた二人を静かに見つめます。ここで気付いて行動を正してくれるなら見逃しますわ。

「ビアード様、申し訳ありません」

頭を下げる令嬢は声を掛けられた理由に気付いたようです。

「大事な話をしているんで口を挟まないでいただきたい」

私を睨む彼は気付かないようです。
平等の学園でも貴族であることはかわりません。
学園は公共の場であり社交の場です。学ぶことに身分はいりませんが、貴族としてふさわしくない振舞いは王国の恥です。まず令嬢に声を荒げるなどいけません。エイベルは場をわきまえているので目を瞑ります。エイベルがご令嬢に無礼な態度をとればディーネと一緒に水攻めにしてお説教です。

「貴族として相応しい振舞いではありません」
「恐れながら、貴方だけには言われたくない」
「ビアード様になんてことを」

令息を眉を吊り上げて睨む令嬢に首を横に振ると睨むのをやめました。

「大丈夫ですわ。気にしないでください。平等の学園で家の名を使っている自覚はあります。ですが」
「弱い立場の者を貶めて楽しいか?」
「え?」

遮られて敵意をこめた言葉に驚きましたが。慌てて平静な顔を装います。騎士道精神に反するようなビアードの禁忌を犯した覚えはありません。

「お前がリアナにしたことは知っている。騙して、酷いことを言って、傷つけてるだろう?今だって目の敵にしている!!」

ルメラ様に礼儀を諫める以外で関わっていないんですが・・・。
目の敵?問題ばかりおこすので動向は調べてますが・・。
監視してると勘違いされてます?常にではありませんよ。
でも貴族の世界は情報戦。隠れて監視をつけても咎められませんよね。ご本人に見つかるような無能な監視はつけたりしませんし。認識の違いでしょうか。

「私は貴族として恥じる行為はしていません。礼儀を諫めることはあっても、」
「水をかけたり、酷い言葉を浴びせた!!」
「私はルメラ様に水をかけたことはありませんわ」

侍女失格と酷い言葉は言いましたが・・。でも雇う以上は主として必要なら臣下は咎めるのは当然ですし、

「黙りなさい。これ以上ビアード様への無礼は許しません!!お父様に報告しますわ。うちはビアード公爵家に不敬を働く婿などいりません。もう私は貴方のことなど知りません。覚悟してください。失礼しますわ」

令嬢が物凄い勢いで立ち去っていきました。

「レティシア、帰るなら送るよ。何事?」

私を睨む令息を見てリオに事情を問われます。笛を吹くのを忘れてましたがリオがいるならいいですね。

「取り締まり中です。一人で帰れますのでお気遣いなく」

「俺が任されるよ」

涼しい顔をしているリオは、確かに適任です。
令嬢の教育は任せられませんが殿方の教育なら頼りになります。彼は私の言葉を聞いてくれませんのでリオに任せましょう。先ほどから言葉を遮られてばかりで会話になりません。

「紳士とはどんなものか指導をお願いします。私は失礼します」

礼をして帰ることにしました。今日は寮に帰ってやることがあります。ビアード公爵夫人の課題の刺繍が全然終わっていません。

***

最近、殿方をイチコロしているルメラ様に対する令嬢達の嫌悪の視線が厳しいです。ルメラ様の取り巻きは殿方ばかりで危険なので、揉め事や不満等あれば私や生徒会に声をかけてほしいと親しい生徒に広めてもらえるように頼んでいます。

「差し入れを持ってきました!!」

生徒会室にルメラ様が現れました。扉を勢いよくあけるのも淑女としていけません。
今日は会議があるので役員は集まりはじめています。

「クロード様、どうぞ」

ノックもなく入室し、クロード殿下の口元にお菓子を差し出すなど不敬がすぎます。

「ルメラ様、おやめください。殿下に無礼です」
「レティシア様、ひどい。お仕事が大変と聞いたので、」

大変だから関わらないで欲しいんです。今の殿下は一歩間違えると機嫌が悪くなります。機嫌の悪い殿下は冷たくて怖いんです。ブリザードが吹き荒れる生徒会室がどれほど・・・。
現実逃避している場合ではありませんでした。

「お気遣いいただきありがとうございます。ですが殿下は大事な御身です。毒味もなく召し上がったりしません」
「毒なんて仕込んでない。いつも」

うるんだ瞳で見つめられますがイチコロされたりしません。

「レティシア」

クロード殿下の冷たい声が聞こえてきました。ルメラ様が私を見て笑いました。
殿下の前ですべき行動ではありませんでした。会議ももうすぐ始まります。

「申し訳ありません。ルメラ様、会議が始まりますのでご遠慮ください。また差し入れは殿下の侍従にお渡しください」

「クロード様、私、お手伝いします」

私の言葉を全く聞かないルメラ様の腕を引いて生徒会室から連れ出します。

「ルメラ様、これ以上殿下の機嫌を損ねないでください。マナ、寮まで送ってさしあげて」

不満そうな顔で睨むルメラ様と今はお話する時間はないのでマナに任せました。
ルメラ様の所為で冷たい空気になった生徒会室で会議が始まりました。そろそろ茶会の時期ですね。今年は何事もなく終わるといいですわ。殿下、もう少し取り繕ってください。冷酷王子っていつか民に言われても知りませんよ。嘘です。余計なことを考えてすみません。殿下の視線が怖いです。早く会議が終わることを祈りましょう。

***

最近はマール公爵家から頼まれる翻訳の量が増えました。
送られた書類をフラン王国語に翻訳して送り返す作業です。
簡単な物なのですぐに終わりますが迅速に仕上げないといけません。
マール公爵家に送る手配も終えたので天気が良いので、散歩に行きましょうか。
登校時間までまだまだ余裕があります。
人が多く賑やかな学園も活気がありますが早朝の人が少ない静かな学園もいいんです。
生前はリオや偶然会ったクロード殿下と散歩したことが懐かしいです。
周りに生徒がいないので木に登りました。
高いところは好きです。風属性なら空を自由自在に飛びまわれるのが羨ましいです。水の中で自由自在の水属性に不満はありませんが・・。
今日もロベルト先生と研究生達が訓練をしてますね。私も強くなる志をもつ者が集まるロベルト先生の研究室に入りたかったんですが、エイベルに反対されました。
生徒会で忙しくなるから体力的に無理と・・。ビアード公爵家は私への訓練の制約が多いんです。
ロベルト先生の研究室に入ればいつかエイベルに勝てると思ったんですが中々うまくいきません。
ロベルト先生達が手合わせをやめました。今日の訓練は終わりでしょう。そろそろ生徒も増えますかね。もう少しだけぼんやりしたら木から降りて登校しましょう。

「レティ、起きて、授業に遅れる」

ディーネの声で目を開けると、眠ってしまったみたいです。
木から飛び降りると、下に人の気配がありました。

「どいてください」

着地場所は変えられないので踏んだら治癒魔法をかけることにしましょう。うん?風に体を包まれました。
この魔力は・・。
地面に下ろされ、踏むかと心配した相手はリオでした。

「おはようございます」
「大丈夫か?」
「飛び降りたので。ご心配おかけしました」
「危ないだろう。」
「このくらいの高さなら華麗に着地できますわ。マール様も散歩ですか?」
「見えたから」
「はい?」
「なんでもない。急ごう。遅刻する」

リオに手を引かれて急ぎ足で進みます。
リオのお腹の音が聞こえました。寝坊したんでしょうか。鞄の中からおやつを出します。

「マール様、良ければ。休憩時間にお腹に入れてください」

おやつを受け取り嬉しそうに笑いました。

「ありがとう」

玄関に着いたので、礼をして別れました。
教室に入り席に着くとすぐに先生が来ました。本当に時間がギリギリでした。リオに感謝しないといけません。遅刻して殿下に怒られずにすんだことにほっと息を吐いて授業の準備をはじめました。
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