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第六十一話後編 厄介事
夫のリオの恋しい腕の中で幸せに浸ります。
ゆっくりと頭を撫でている手が止まり、頬を優しく包まれ額が重なりました。
「シア、このままでいいのか?俺はずっと腕の中に閉じ込めていたい。でもシアが後悔して、泣くのがわかるから・・・」
「リオ、やだ、ここにいたい」
「俺はずっと傍にいるよ。シア、遊んでおいで。シアが帰ってくるのは俺のところだ」
零された言葉で、またいなくなるのがわかりました。
離れたくない。抱きつく腕に力をこめると宥めるように優しく頭を撫でられます。
「リオがいない世界は寂しい」
「シアの世界に俺がいないわけないだろう?」
「酷い」
「どこに行っても捕まえるよ。シアのことはなんでもわかるよ。俺はシアのここにいるよ。どんなシアも愛しているよ」
極上の笑みを浮かべリオの大きい手が左胸に置かれる。この笑みには敵いません。
リオの手に手を重ねて目を閉じると大好きな顔が浮かんできます。
目を開けて、リオの愛しい瞳と優しい顔を見つめます。
「リオ、ちゃんと迎えにきてください。私はもう少しだけ頑張ってきます」
「行っておいで。俺は傍にいる。シアが帰るのは俺のところだ」
リオの笑顔に励まされて頭に響いていた自分を呼ぶ声に意識を傾けゆっくりと目を開ける。
「レティシア!!」
泣きそうな顔で3度目の人生の大事な人達が集まってました。
リオの言葉の意味がわかりました。
本当に敵いませんわ。夢でさえも欲しい言葉をくれ、いつも包んでくれる愛しい人。
「飛び出すな。人のかわりに刺されるな」
事故なのでルメラ様のかわりに刺されたわけではありません。
「体が勝手に動きましたわ」
エイベルの泣きそうな顔も弱った声も初めて聞きました。
まだまだ子供ですのね。
騎士はいかなるときも冷静にですわよ。
「ご無事で良かったです」
「ステラが後を追うって大変だったんだぜ。死んでからにしろって必死に止めた俺に感謝しろよ」
「ステラ、心配かけてごめんなさい。後を追うのは絶対にやめて。フィル、余計な一言がなければなければ感謝しましたわ」
暗い顔で泣いているステラ、恐ろしい冗談を言い涙の跡があるのにごまかすフィルにニッコリと笑いかけます。
ステラが愛らしく笑い、フィルが泣きそうな笑いを返してくれました。
ステラの涙が止まり、二人の顔も明るくなったことに安堵の息をこぼれました。
お腹は痛いですが、血は止まってます。
ディーネはお願いしないと私に治癒魔法はかけられません。
治癒魔法をかけてくれたベリーの成長が誇らしいですわ。限られた魔力と時間の中で自分の出来る範囲を見極め、必要な処置を施すのは治癒魔法において大事です。
ベリーの魔力と渡している魔石では止血と鎮静が精一杯。短剣を抜かなかったのも良い判断です。
「ベリー、助けてくれてありがとうございます。上出来ですわ。魔法がうまくなりましたね」
「私の力では」
「充分です。貴方のおかげで生きてます。さすが私の自慢の弟子ですわ」
歪んだ顔をしていたベリーの瞳からポタリと涙を落ち、くしゃくしゃの笑顔を浮かべました。
泣くのを我慢して魔法をかけてくれたんでしょう。
幼くとも初めての治療でも自分を律して冷静に対処できるなら将来が楽しみですわ。
肌を刺すような冷たい空気に視線を向けるとリオが冷たい顔で青い顔のルメラ様を見ていますわ。このお顔の時は怒っているので言葉が聞こえないんですよね・・。
不敬ですが令嬢に向けるお顔ではありませんし、
「そのお顔はやめてください」
やはり見向きもされません。
試しに言ってみましょうか。
「私だけと言いながら他の令嬢を見つめる方など信用できません」
「この女の所為で」
聞こえたようです。
優しいリオに心配をかけたんでしょう。
学園内で殺傷事件なんてクロード殿下の機嫌が悪くなりブリザードに襲われますもの。
「私は大丈夫ですわ。私は優しい笑みが好きです。そのお顔やめてください」
「代わりなんて認めないんじゃ」
私のリオになってほしいとは思ってません。
リオはリオらしく生きればいいんです。
リオらしくない、聞いたことのないような弱ったお声ですわ。
「どうでしょう。でも貴方の優しい顔は好きですわ」
「俺のものになる気になったのか」
「いいえ」
リオが苦笑して冷たい空気もなくなり、いつもの調子に戻ったのでもう大丈夫ですね。
青い顔で静かに座り込んでいるルメラ様を見つめます。
「ルメラ様、何をしたかったんですか?」
「レティシア」
「口出し不用ですわ」
咎めるエイベルと周りの空気が冷たくなったのでにっこりと笑います。
私が近づかないように手を回していたのは気付いてました。
ルメラ様が私の悪評を立てていたのは気にしませんでした。
ただ噂が過剰に広まらなかったのは影で動いてくれていたエイベル達のお蔭でしょう。
話してくれないのは私に知られたくないのかと思ってましたので・・。
ですがこの件は私に任せていただきますわ。
「怒りません。正直に話してください」
ルメラ様を静かに見つめているとゆっくりと口を開きました。
「権力が欲しかった。権力があれば何でも手に入るって。何でも思い通りになる」
やはりお母様に洗脳されてます。
言葉は悪いですが下位貴族や平民の方々はよく勘違しています。
きちんとお伝えしないといけませのに当たり前すぎて忘れていましたわ。
「権力があっても思い通りになれません。両王子殿下は国のために生きており私利私欲など許されません。もし王妃を目指すなら、休む時間もない過酷なお勉強が始まります。公爵家に嫁いでも家のためにならない願いは受け入れてもらえません。権力のある家に生まれた私達は生まれた時から決まった箱庭の中で家と国のために生きる運命。限られた自由しかありません」
顔を上げて目を丸くして驚いた顔で見られてます。今は私の言葉を聞いていただけるようです。
「嘘!?」
「男爵家は力を持ちません。ご存知ないでしょうが力の持つ家の貴族ほど幼い頃から厳しい教育を受けます。矜持と誇りと義務を背負って務めは果たすように。エイベルは騎士以外を選べません。私もお父様の望む方に嫁いで家を繁栄させる道しかありません。不自由ない生活を送らせてもらっていますが、逃れられない役目があります。貴方のお母様が思い描くような豪華で自由気ままな生活など送れません。ただ常に優雅に立ち振る舞わないといけないので、そう見えるかもしれません。私は許されるなら平民に生まれたかったですわ」
自分の意思で生き方を決めてみたいですわ。
平民には平民の大変さもありますが・・。一人で幸せな思い出に浸りながら畑を耕し、狩りをしながら気楽に生きるのも憧れますわ。
「そんな、今まで、私は・・・・」
動揺している初めて言葉が届いたルメラ様にもう一度同じことを聞きます。
「貴方は何がしたかったんですか?」
「レティシアが邪魔だった。皆の心を手に入れて、レティシアがいなくなればハクは会いに来てくれるって。ハクはレティシアがいなくなれば」
泣きそうな顔をしているルメラ様はまだハク様を想っていたんですね。私とハク様の関係はありません。そして、騙されたんでしょう。恋心を利用するなど最低です。
「リアナ、殿下に選ばれれば貴方は他の殿方の手を取ることは許されません。ハク様が誰かはわかりません。私は知らないので身分は低い方でしょう。エイベル達も同じく高位の者に選ばれたなら、その方のために一心に尽くさないといけません。想い人がいても心の中に隠して役目を全うしないといけません。令嬢は愛人を持つことは許されません。ハク様と一緒にいたいなら高位の方々に目をつけられてはいけません」
「お母様の話と違う」
「貴方のお母様は知らないでしょう。貴族の世界の厳しさを。強い魔力をもつ令嬢は他国に高値で売れます。私達は攫われて他国の益になるなら迷わず自刃を選べと教えられます。大事にしている民は不満があれば牙をむきます。殿下の婚約者は自分を捨てなさいと教わります。全てを殿下のために捧げ、相応しくなるために血がにじむような努力を強いられます。弱さや甘えを見せれば、冷たい目で見られます。煌びやかな世界は、どこにもはありません。リアナ、もしハク様が貴方に望んだならやめたほうがいいです。男爵令嬢が公爵令嬢を害すれば命の保障はありません。それに他の殿方のためにクロード殿下に近づいたと知ればアリア様は貴方を許しません。貴方の行いは自分の首を絞めているだけです。死にたくないなら手を引くべきです。今回だけは見逃します。ハク様のことを想ってもいいです。でも貴方を幸せにしてくれない方に関わるのはやめなさい」
「私は、今までハクのためだけに」
「自分のために生きればいいんです。きっともっと素敵な出会いもありますわ。今度こそ貴方を大事にしてくださる方と結ばれることを祈ってます。もしハク様に会うことがあれば私が報復してあげますので教えてください。私は貴方とお話しただけです。ただ次は見逃しません」
今回は身内だけなのでことを収められます。ただここまで話しても駄目なら、諦めるしかありません。他の令嬢や殿下に同じようなことをするなら絶対に見逃せません。そしたら斬らないといけません。公にすれば騙されたと言っても殺意と今までの不敬で情状酌量の余地もなく斬首。そしてルメラ男爵家も連座に。
「いい加減にしろ!!許せるわけないだろう」
怒っているエイベルに睨まれてます。
「更生の機会を。それに、ディーネ、力を貸して」
短剣を抜くとディーネが傷を治してくれました。
「傷などありません。せっかくですから帰ってお茶にしましょう」
「お前を刺した女を許せと」
刺さったのは事故ですが、興奮してるので信じてもらえませんよね・・。鎮静作用のあるお茶でも淹れましょう。今は、
「傷などありません。肌をさらすなど淑女としてあるまじき行為ですが確認しますか?」
「バカか。死にかけたのに」
「生きてます。元気です」
にっこり笑ってごまかします。相当心配をかけたようですわ。
「エイベル様、無駄です。この感じは絶対に意思を曲げません」
「レティシア様の願いなら今回だけは見逃します。ただ次はありません。私が斬ってさしあげます」
「私はもっと勉強します」
フィル達が私の味方に付いてエイベルを宥めてくれています。ステラの物騒な言葉は聞き間違いですわ。ベリーの向上心がすばらしいです。
それにちょっと痛かったですが良いことがあったんです。いたずらっ子のような笑みを浮かべます。
「お兄様、私は良い夢が見れました。次は華麗に助けてくださいね」
「お人好しが」
私はお人好しではありません。エイベルのほうがよっぽどてす。心配をかけたので文句は我慢しましょう。
「お兄様の妹ですもの」
「義兄上、俺が守るから安心してよ」
「妹はやらない」
リオも冗談を言える余裕が出てきて良かったです。
冷たい空気もいつの間にか払拭されました。たまにはリオの遊びに乗ってあげましょう。
「マール様、私のリオになりたいならお兄様に認められるのは最低条件ですわ」
呆れて言葉を失っているエイベルの放置を決めました。ゆっくりと立ち上がって座り込んでるルメラ様に手を差し出します。
「せっかく笑うと可愛いんです。次は本当に好きな方だけイチコロさせてください」
「怒ってないの?」
子供のようにしゅんとしたお顔のルメラ様に笑みが零れます。
「はい。ハク様には怒ってますが貴方には。次は悪い方に捕まらないでくださいね。目を養って素敵な方を捕まえてください」
重ねられた手を思いっきり引っ張ります。
「レティシアの夢は?」
「王家とビアード領の繁栄ですが、私個人としては大好きな腕の中に帰ることですわ」
「もう会えない愛する人?」
「はい。心の中に住んでる大切な人です。恋が叶わなくても幸せになれます。だから幸せになることを諦めないでください。誰かに言われて人を傷つけるのはいけません。もちろん自分自身も」
立ち上がったルメラ様の背中を軽く押して手を振ります。
ルメラ様が前に進めるといいです。ハクのためではなく自分のために人生を送れますように。
今世こそは幸せを掴めることを祈ってますわ。
リオ、私の目標が一つ叶いそうですわ。髪を揺らし肌を撫でる優しい風がリオを思い出させ、きっとよくやったと優しい顔で微笑んでくれていますわね。
一時の幸せな夢と達成感に頬が緩み笑みが零れますわ。
ゆっくりと頭を撫でている手が止まり、頬を優しく包まれ額が重なりました。
「シア、このままでいいのか?俺はずっと腕の中に閉じ込めていたい。でもシアが後悔して、泣くのがわかるから・・・」
「リオ、やだ、ここにいたい」
「俺はずっと傍にいるよ。シア、遊んでおいで。シアが帰ってくるのは俺のところだ」
零された言葉で、またいなくなるのがわかりました。
離れたくない。抱きつく腕に力をこめると宥めるように優しく頭を撫でられます。
「リオがいない世界は寂しい」
「シアの世界に俺がいないわけないだろう?」
「酷い」
「どこに行っても捕まえるよ。シアのことはなんでもわかるよ。俺はシアのここにいるよ。どんなシアも愛しているよ」
極上の笑みを浮かべリオの大きい手が左胸に置かれる。この笑みには敵いません。
リオの手に手を重ねて目を閉じると大好きな顔が浮かんできます。
目を開けて、リオの愛しい瞳と優しい顔を見つめます。
「リオ、ちゃんと迎えにきてください。私はもう少しだけ頑張ってきます」
「行っておいで。俺は傍にいる。シアが帰るのは俺のところだ」
リオの笑顔に励まされて頭に響いていた自分を呼ぶ声に意識を傾けゆっくりと目を開ける。
「レティシア!!」
泣きそうな顔で3度目の人生の大事な人達が集まってました。
リオの言葉の意味がわかりました。
本当に敵いませんわ。夢でさえも欲しい言葉をくれ、いつも包んでくれる愛しい人。
「飛び出すな。人のかわりに刺されるな」
事故なのでルメラ様のかわりに刺されたわけではありません。
「体が勝手に動きましたわ」
エイベルの泣きそうな顔も弱った声も初めて聞きました。
まだまだ子供ですのね。
騎士はいかなるときも冷静にですわよ。
「ご無事で良かったです」
「ステラが後を追うって大変だったんだぜ。死んでからにしろって必死に止めた俺に感謝しろよ」
「ステラ、心配かけてごめんなさい。後を追うのは絶対にやめて。フィル、余計な一言がなければなければ感謝しましたわ」
暗い顔で泣いているステラ、恐ろしい冗談を言い涙の跡があるのにごまかすフィルにニッコリと笑いかけます。
ステラが愛らしく笑い、フィルが泣きそうな笑いを返してくれました。
ステラの涙が止まり、二人の顔も明るくなったことに安堵の息をこぼれました。
お腹は痛いですが、血は止まってます。
ディーネはお願いしないと私に治癒魔法はかけられません。
治癒魔法をかけてくれたベリーの成長が誇らしいですわ。限られた魔力と時間の中で自分の出来る範囲を見極め、必要な処置を施すのは治癒魔法において大事です。
ベリーの魔力と渡している魔石では止血と鎮静が精一杯。短剣を抜かなかったのも良い判断です。
「ベリー、助けてくれてありがとうございます。上出来ですわ。魔法がうまくなりましたね」
「私の力では」
「充分です。貴方のおかげで生きてます。さすが私の自慢の弟子ですわ」
歪んだ顔をしていたベリーの瞳からポタリと涙を落ち、くしゃくしゃの笑顔を浮かべました。
泣くのを我慢して魔法をかけてくれたんでしょう。
幼くとも初めての治療でも自分を律して冷静に対処できるなら将来が楽しみですわ。
肌を刺すような冷たい空気に視線を向けるとリオが冷たい顔で青い顔のルメラ様を見ていますわ。このお顔の時は怒っているので言葉が聞こえないんですよね・・。
不敬ですが令嬢に向けるお顔ではありませんし、
「そのお顔はやめてください」
やはり見向きもされません。
試しに言ってみましょうか。
「私だけと言いながら他の令嬢を見つめる方など信用できません」
「この女の所為で」
聞こえたようです。
優しいリオに心配をかけたんでしょう。
学園内で殺傷事件なんてクロード殿下の機嫌が悪くなりブリザードに襲われますもの。
「私は大丈夫ですわ。私は優しい笑みが好きです。そのお顔やめてください」
「代わりなんて認めないんじゃ」
私のリオになってほしいとは思ってません。
リオはリオらしく生きればいいんです。
リオらしくない、聞いたことのないような弱ったお声ですわ。
「どうでしょう。でも貴方の優しい顔は好きですわ」
「俺のものになる気になったのか」
「いいえ」
リオが苦笑して冷たい空気もなくなり、いつもの調子に戻ったのでもう大丈夫ですね。
青い顔で静かに座り込んでいるルメラ様を見つめます。
「ルメラ様、何をしたかったんですか?」
「レティシア」
「口出し不用ですわ」
咎めるエイベルと周りの空気が冷たくなったのでにっこりと笑います。
私が近づかないように手を回していたのは気付いてました。
ルメラ様が私の悪評を立てていたのは気にしませんでした。
ただ噂が過剰に広まらなかったのは影で動いてくれていたエイベル達のお蔭でしょう。
話してくれないのは私に知られたくないのかと思ってましたので・・。
ですがこの件は私に任せていただきますわ。
「怒りません。正直に話してください」
ルメラ様を静かに見つめているとゆっくりと口を開きました。
「権力が欲しかった。権力があれば何でも手に入るって。何でも思い通りになる」
やはりお母様に洗脳されてます。
言葉は悪いですが下位貴族や平民の方々はよく勘違しています。
きちんとお伝えしないといけませのに当たり前すぎて忘れていましたわ。
「権力があっても思い通りになれません。両王子殿下は国のために生きており私利私欲など許されません。もし王妃を目指すなら、休む時間もない過酷なお勉強が始まります。公爵家に嫁いでも家のためにならない願いは受け入れてもらえません。権力のある家に生まれた私達は生まれた時から決まった箱庭の中で家と国のために生きる運命。限られた自由しかありません」
顔を上げて目を丸くして驚いた顔で見られてます。今は私の言葉を聞いていただけるようです。
「嘘!?」
「男爵家は力を持ちません。ご存知ないでしょうが力の持つ家の貴族ほど幼い頃から厳しい教育を受けます。矜持と誇りと義務を背負って務めは果たすように。エイベルは騎士以外を選べません。私もお父様の望む方に嫁いで家を繁栄させる道しかありません。不自由ない生活を送らせてもらっていますが、逃れられない役目があります。貴方のお母様が思い描くような豪華で自由気ままな生活など送れません。ただ常に優雅に立ち振る舞わないといけないので、そう見えるかもしれません。私は許されるなら平民に生まれたかったですわ」
自分の意思で生き方を決めてみたいですわ。
平民には平民の大変さもありますが・・。一人で幸せな思い出に浸りながら畑を耕し、狩りをしながら気楽に生きるのも憧れますわ。
「そんな、今まで、私は・・・・」
動揺している初めて言葉が届いたルメラ様にもう一度同じことを聞きます。
「貴方は何がしたかったんですか?」
「レティシアが邪魔だった。皆の心を手に入れて、レティシアがいなくなればハクは会いに来てくれるって。ハクはレティシアがいなくなれば」
泣きそうな顔をしているルメラ様はまだハク様を想っていたんですね。私とハク様の関係はありません。そして、騙されたんでしょう。恋心を利用するなど最低です。
「リアナ、殿下に選ばれれば貴方は他の殿方の手を取ることは許されません。ハク様が誰かはわかりません。私は知らないので身分は低い方でしょう。エイベル達も同じく高位の者に選ばれたなら、その方のために一心に尽くさないといけません。想い人がいても心の中に隠して役目を全うしないといけません。令嬢は愛人を持つことは許されません。ハク様と一緒にいたいなら高位の方々に目をつけられてはいけません」
「お母様の話と違う」
「貴方のお母様は知らないでしょう。貴族の世界の厳しさを。強い魔力をもつ令嬢は他国に高値で売れます。私達は攫われて他国の益になるなら迷わず自刃を選べと教えられます。大事にしている民は不満があれば牙をむきます。殿下の婚約者は自分を捨てなさいと教わります。全てを殿下のために捧げ、相応しくなるために血がにじむような努力を強いられます。弱さや甘えを見せれば、冷たい目で見られます。煌びやかな世界は、どこにもはありません。リアナ、もしハク様が貴方に望んだならやめたほうがいいです。男爵令嬢が公爵令嬢を害すれば命の保障はありません。それに他の殿方のためにクロード殿下に近づいたと知ればアリア様は貴方を許しません。貴方の行いは自分の首を絞めているだけです。死にたくないなら手を引くべきです。今回だけは見逃します。ハク様のことを想ってもいいです。でも貴方を幸せにしてくれない方に関わるのはやめなさい」
「私は、今までハクのためだけに」
「自分のために生きればいいんです。きっともっと素敵な出会いもありますわ。今度こそ貴方を大事にしてくださる方と結ばれることを祈ってます。もしハク様に会うことがあれば私が報復してあげますので教えてください。私は貴方とお話しただけです。ただ次は見逃しません」
今回は身内だけなのでことを収められます。ただここまで話しても駄目なら、諦めるしかありません。他の令嬢や殿下に同じようなことをするなら絶対に見逃せません。そしたら斬らないといけません。公にすれば騙されたと言っても殺意と今までの不敬で情状酌量の余地もなく斬首。そしてルメラ男爵家も連座に。
「いい加減にしろ!!許せるわけないだろう」
怒っているエイベルに睨まれてます。
「更生の機会を。それに、ディーネ、力を貸して」
短剣を抜くとディーネが傷を治してくれました。
「傷などありません。せっかくですから帰ってお茶にしましょう」
「お前を刺した女を許せと」
刺さったのは事故ですが、興奮してるので信じてもらえませんよね・・。鎮静作用のあるお茶でも淹れましょう。今は、
「傷などありません。肌をさらすなど淑女としてあるまじき行為ですが確認しますか?」
「バカか。死にかけたのに」
「生きてます。元気です」
にっこり笑ってごまかします。相当心配をかけたようですわ。
「エイベル様、無駄です。この感じは絶対に意思を曲げません」
「レティシア様の願いなら今回だけは見逃します。ただ次はありません。私が斬ってさしあげます」
「私はもっと勉強します」
フィル達が私の味方に付いてエイベルを宥めてくれています。ステラの物騒な言葉は聞き間違いですわ。ベリーの向上心がすばらしいです。
それにちょっと痛かったですが良いことがあったんです。いたずらっ子のような笑みを浮かべます。
「お兄様、私は良い夢が見れました。次は華麗に助けてくださいね」
「お人好しが」
私はお人好しではありません。エイベルのほうがよっぽどてす。心配をかけたので文句は我慢しましょう。
「お兄様の妹ですもの」
「義兄上、俺が守るから安心してよ」
「妹はやらない」
リオも冗談を言える余裕が出てきて良かったです。
冷たい空気もいつの間にか払拭されました。たまにはリオの遊びに乗ってあげましょう。
「マール様、私のリオになりたいならお兄様に認められるのは最低条件ですわ」
呆れて言葉を失っているエイベルの放置を決めました。ゆっくりと立ち上がって座り込んでるルメラ様に手を差し出します。
「せっかく笑うと可愛いんです。次は本当に好きな方だけイチコロさせてください」
「怒ってないの?」
子供のようにしゅんとしたお顔のルメラ様に笑みが零れます。
「はい。ハク様には怒ってますが貴方には。次は悪い方に捕まらないでくださいね。目を養って素敵な方を捕まえてください」
重ねられた手を思いっきり引っ張ります。
「レティシアの夢は?」
「王家とビアード領の繁栄ですが、私個人としては大好きな腕の中に帰ることですわ」
「もう会えない愛する人?」
「はい。心の中に住んでる大切な人です。恋が叶わなくても幸せになれます。だから幸せになることを諦めないでください。誰かに言われて人を傷つけるのはいけません。もちろん自分自身も」
立ち上がったルメラ様の背中を軽く押して手を振ります。
ルメラ様が前に進めるといいです。ハクのためではなく自分のために人生を送れますように。
今世こそは幸せを掴めることを祈ってますわ。
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