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第六十三話後編 事件
フィルに朝食に誘われました。食後に散歩に誘われたどり着いたのはフィルが刺された場所。
「マール様に許可はもらったから調べたい。気付かなかったけど、魔法が使われた気がする」
「確かに気配に敏感なフィルが気付かず遅れをとるなんておかしいですわ」
フィルは騎士として優秀です。エイベルにも時々勝ちます。魔力が少ない分、コントロールが上手く魔法の気配に敏感。気配を読むことに関しては私やエイベルよりも優れています。フィルとの隠れんぼはいつも負けてしまいます。
魔力をぶつけてリオの作った結界を壊します。
集中して魔力を広げていくと、木の根元に違和感があります。
フィルに声を掛けて掘り進めると魔法陣の書かれた紙が出てきました。魔石が消えているなら効力はありません。狩りの時に大活躍の眠りを誘う魔法陣です。
純度の高い魔石と共に埋めれば、上に立っただけで意識を奪えます。そのあとに、さらに魔法を重ね掛けすれば中々起きません。刺されても起きなかった理由は魔法の所為でしょう。ただ人目のある場所に誘い込んだのはどうしてでしょうか?
手元の魔法陣がフィルに取り上げられました。
「ありがとな。愉快な時間の始まりだ。授業に遅れないようにそろそろ行くか」
「え?」
「報復するから。また手が欲しければ頼むよ」
ニヤリと企む顔をしているフィルに苦笑します。報復する気満々です。フィルが動くなら私が手を回すと邪魔になるので傍観しましょう。
「ご武運を」
「ああ」
学園に噂は広がっていませんでした。刺されたフィルが元気だからでしょうか。
フィルが頑丈で良かったです。
***
放課後にレオ様とステラとお茶をしているとエイベルとフィルとリオが来ました。
フィルだけが楽しそうな顔をしてます。
「フィル、大丈夫か?」
「レオ様、巻き込んですみません。俺は大丈夫です。この件が落ち着いたらまた訓練しましょう」
陽気な笑顔のフィルの言葉に不安そうな顔をしていたレオ様が笑いました。誰もレオ様を疑ってないので安心してください。
「レティシア、遊びをはじめようぜ」
ニヤリと笑うフィルの話に目が丸くなりました。
フィルは明日刺された傷が開いて倒れ、私が治療しますが全く効かずに、重症のため生死の境を彷徨う設定だそうです。私は失意にくれて悲しんで、無事を祈りながら犯人を許さないと嘆き悲しみ過ごすそうです。フィルの事件の真相をつきとめてくれるなら何でも差し出す、婚約でもなんでも受け入れると、嘆き悲しみながら他の生徒達が集める情報にお礼を言う役だそうです。回りくどくありません?
「フィル、こんなことで情報が集まりますか?情報が欲しいなら私が集めますよ」
「報復するために必要なんだよ。生死を彷徨う演出をしたほうが、相手を油断させられるしな。カーソンらしく報復は徹底的に。俺の報復に力を貸して」
悪戯を誘う時の顔ですわ。いささか面倒ですがフィルのため。徹底的に報復するのは大歓迎ですしお付き合いしましょう。
「ステラ、後輩達へのフォローは任せますわ。私は嘆き悲しみ役に立たない令嬢になりましょう。エイベル、放課後はここで泣き崩れていることにして仕事をするので、手配をお願いします。ビアード公爵令嬢として評価は下がりますが、すぐに取り戻します」
ステラが愛らしい笑顔で頷きました。
「記録の魔道具だ。常に身に付けて会話を記録しろ。マナは傍に潜ませておけ。絶対に一人になるなよ。何かあれば魔法で拘束していい。できるか?」
私が一人でいるほうが情報は集めやすいでしょう。マナは潜んで同行させましょう。
不満そうな顔のエイベルもフィルの話を信用できないみたいです。ただやれと言うならやりますよ。私はフィルに譲りましたが怒ってますもの。笑みを浮かべてエイベルを見つめます。
「はい。お任せください。情報を集めて、犯人と殿下には謝罪していただきます。レオ様への不敬とフィルへの」
「やめろ。報復はフィルがする。殿下へは不敬罪になるだろうが」
エイベルに頭を叩かれましたが、その癖はそろそろ直したほうがいいと思います。謝罪は片付いてからですわ。不敬でも譲れませんわ。
***
アロマから台本を受け取り、セリフもしっかり覚えました。
アロマが台本を用意していることには驚きました。アロマはとても優秀なのにどうして3組にいるか不思議でなりません。
計画通り昼休みにフィルは倒れシャツから調合した血が溢れ出ます。
「フィル!!」
慌てて駆け寄り治癒魔法をかけるフリをします。クラスメイトが集まってきました。
「効かない。どうして、フィル、しっかりしてください!!」
ステラが教室から飛び出しました。走るのはいけませんが非常事態ですから。
「レティシア、だいじょうぶ、だから」
よわよわしい声を出し頬に伸ばされる手を握ります。フィルも演技は得意なんです。
「眠ったらいけません。どうして、効かないの。フィル、血が、刺された傷が、」
ステラに呼ばれたリオが来ました。
「マール様、フィルが、魔法が、どうすれば」
私を見て固まっているリオを一瞬睨みます。ここで動いてもらわないと困ります。ようやく動いたリオにほっとするのを慌てて抑えて、動揺した表情を作ります。
真剣な顔をしたリオがフィルを抱え上げ保健室に駆けていくので付いていきます。
エイベルは演技ができないので、この役から外されました。
保健室は人払いされており、先生はエイベルとアロマが連れ出しています
フィルは先生のおかげで一命は取り止めましたが、目覚めない設定です。フィルは特別室を手配しているのでしばらくそこで生活します。フィルのために瞳と髪の色を変える魔動具と眼鏡も用意しました。
フィルの制服の汚れは洗浄魔法で落としたので、変装を終えたフィルが窓から特別室に移動するため出て行きました。
私は倒れたフリをしてベッドに眠ります。
保健室の周りの生徒達や先生への対応はリオに任せてあります。私の嘆き悲しむ生活が始まりました。うるんだ瞳はできますが、涙は自由に流せないので雰囲気作りを頑張りましょう。
***
翌日はいつもより遅く授業にギリギリ間に合うように登校しました。教室で視線を集めてるのは気にしません。アロマが台本を書いてくれたのはありがたいです。内容に思う所はあるんですが我儘はいけません。
フィルのいない席を見て悲しい顔をして、ステラの挨拶も弱弱しい顔で小さく頷きます。授業中もぼんやりします。2年生の授業も3回目なので問題はありません。授業態度が悪くても試験で高得点をとれば問題ありません。
フィルは刺されて倒れた噂は学園中に広まっていました。
昼休みに心配そうな顔をしたリオが訪ねてきました。
「レティシア、大丈夫か?」
リオの声に小さく頷きます。
「君の所為じゃない」
肩に置かれる手に首を横に振り、よわよわしい顔を作ります。
「私の魔法が効けば、フィルは・・・。私は治癒魔法が使えるのに、なんにも、フィルが死んじゃったら。どうしてフィルが。」
ステラに抱きしめられました。抱きしめられるのは予想外ですが、このまま続けましょう。
「フィル様は大丈夫ですわ」
「フィル、ごめんなさい。私、フィル・・。フィルを刺した方は絶対に捕まえます。だからちゃんと、しないといけないのに。こんなのいけないのに。」
視線が集まって囁き声が聞こえます。教室で騒ぐのは申しわけないですが、今回は許していただきましょう。
「レティシア、俺が犯人見つけたら婚約してくれる?」
「フィルが報われるなら、私にできるお願いはなんでも叶えますわ」
「レティシア様、落ち着いてください。マール様、不謹慎です」
「つれないレティシアが頷いてくれるなんてそうそうないだろ?俺が願いを叶えるから楽しみにしていてよ。」
リオの楽しそうな声が聞こえるけど、大丈夫なんでしょうか。ステラの胸に顔を埋めているので困惑した表情を浮かべても問題ありません。アロマ、この台本は本当に平気なんですか?私はこの件が解決したらリオのファンの機嫌をとらないといけませんね・・・。なんでリオに婚約を誘う言葉を言わせたんでしょう・・。私の婚約を餌に情報が集まるとは思わないんですが・・。
***
私がフィルの事件の真相を掴んでくれた方と婚約するという噂は一気に広がりました。マートン様に責められても悲しい顔で静かに見つめると、立ち去られました。
情報は集まるんですが決定的なものはありません。
演技なのにたくさんの方々に心配されて心苦しいのですがレオ様とフィルのためです。
コクーン様から大事な話があると声を掛けられたので私の部屋にお招きしました。エイベルが隠れているのは内緒です。もちろんマナは同席させています。
「レティシア様、大事なことゆえ二人で」
婚約者でもないのに二人っきりは許されません。
「申し訳ありませんがそれはできません。マナに聞こえないように防音の結界をはります」
「それなら」
マナを水魔法の薄い膜で囲みました。見せかけなので出入りも自由です。コクーン様には結界に見えるはずです。真剣な顔をしたコクーン様に手を握られました。
「レティシア様、カーソンの件の真実を明らかにすれば、婚約を了承していただけますか?」
私が了承しても、ビアード公爵が納得するかはわかりません。よわよわしい笑顔を作って頷きます。
「なにもできない私などでよろしければ。」
「罪は個人のものとしていただけませんか・・・。」
「お約束はできませんが個人の罪ならそのように取り計らうように努めます」
コクーン様が悲痛な顔をして、鞄から紙袋を取り出しました。
中から短剣が出てきました。学園内の刃物の持ち込みは申請が必要で許可されたものには印が刻まれます。ただこの短剣は印がありません。
「申し訳ありません。姉の部屋から出てきました。カーソンを魔法で眠らせ刺したのは姉です。」
「そんな・・・」
「姉は彼を恨んでいました。恥かしながら自分の思い通りにならないと、我慢できない嘘つきな人間なんです。彼に侮辱されたのが許せず。申し訳ありません。黙っていようとも迷いました。ただ嘆き悲しむ貴方を見ていられませんでした。どうか」
「顔をあげてください。辛い告白をしてくださり感謝します。」
コクーン様の悲痛な顔に頭を下げます。これから裁かれることがわかってもフィルのために告白してくれたことに笑みを浮かべます。止められなかったと嘆きながらも正しい道を選んだコクーン様に敬意を示して、爵位を剥奪されたらビアードでお世話しましょう。私の婚約者になれるかはお父様次第ですが・・・。震えている手に手を重ねると顔をあげたコクーン様に優しい笑みを浮かべます。
「コクーン様、私は」
ノックの音が聞こえドアが開きました。
「レティシア、殿下が、それは・・・・」
リオの目は短剣を見ています。コクーン様の手を離して短剣に手を伸ばします。
「こちらは私が預かります。コクーン様、申し訳ありません。」
「いえ、殿下のお呼びなら仕方ありません。失礼します」
退室して行くコクーン様を見送りました。
「マール様、ありがとうございます。殿下の所に」
「嘘だから」
「はい?」
エイベルが出てきました。
「俺が預かるよ。」
「これでレオ様の無実は晴れるんでしょうか・・・」
「もう一仕事ある。仮病で3日寝込んでろ」
「はい?」
「レオ様のためだ」
私は大人しく従うことにしました。大事なのはレオ様のことです。
3日後に登校すると解決していました。学園での殺人未遂は重罪なのでコクーン様のお姉様は記憶さらしを受けたそうです。
重罪人には記憶を覗かれる罰があります。ただ記憶を覗かれた後は精神異常をおこすので、軽い罪には使われません。お姉様の記憶から去年の武術大会の毒物混入にコクーン様が関与していたことがわかり、コクーン様も記憶さらしを受けました。コクーン伯爵家は取りつぶしになりました。フィルを傷つけて、神聖な武術大会に不正を働こうとしたなら当然ですね。コクーン様に姉の罪を告発した正義の心は認めましたが武術大会での毒物混入の件を知りビアードで面倒見る気はなくなりました。嫡男のエイベルに危害を加えようとした者をビアードは認めません。不正を働く者も。
レオ様の無実が証明されて一安心です。私はクロード殿下に謝罪を要求したかったんですが学園を休んでいたためタイミングを逃してしまいました。エイベルが解決したことで私の婚約の話はなくなりました。
「マール様に許可はもらったから調べたい。気付かなかったけど、魔法が使われた気がする」
「確かに気配に敏感なフィルが気付かず遅れをとるなんておかしいですわ」
フィルは騎士として優秀です。エイベルにも時々勝ちます。魔力が少ない分、コントロールが上手く魔法の気配に敏感。気配を読むことに関しては私やエイベルよりも優れています。フィルとの隠れんぼはいつも負けてしまいます。
魔力をぶつけてリオの作った結界を壊します。
集中して魔力を広げていくと、木の根元に違和感があります。
フィルに声を掛けて掘り進めると魔法陣の書かれた紙が出てきました。魔石が消えているなら効力はありません。狩りの時に大活躍の眠りを誘う魔法陣です。
純度の高い魔石と共に埋めれば、上に立っただけで意識を奪えます。そのあとに、さらに魔法を重ね掛けすれば中々起きません。刺されても起きなかった理由は魔法の所為でしょう。ただ人目のある場所に誘い込んだのはどうしてでしょうか?
手元の魔法陣がフィルに取り上げられました。
「ありがとな。愉快な時間の始まりだ。授業に遅れないようにそろそろ行くか」
「え?」
「報復するから。また手が欲しければ頼むよ」
ニヤリと企む顔をしているフィルに苦笑します。報復する気満々です。フィルが動くなら私が手を回すと邪魔になるので傍観しましょう。
「ご武運を」
「ああ」
学園に噂は広がっていませんでした。刺されたフィルが元気だからでしょうか。
フィルが頑丈で良かったです。
***
放課後にレオ様とステラとお茶をしているとエイベルとフィルとリオが来ました。
フィルだけが楽しそうな顔をしてます。
「フィル、大丈夫か?」
「レオ様、巻き込んですみません。俺は大丈夫です。この件が落ち着いたらまた訓練しましょう」
陽気な笑顔のフィルの言葉に不安そうな顔をしていたレオ様が笑いました。誰もレオ様を疑ってないので安心してください。
「レティシア、遊びをはじめようぜ」
ニヤリと笑うフィルの話に目が丸くなりました。
フィルは明日刺された傷が開いて倒れ、私が治療しますが全く効かずに、重症のため生死の境を彷徨う設定だそうです。私は失意にくれて悲しんで、無事を祈りながら犯人を許さないと嘆き悲しみ過ごすそうです。フィルの事件の真相をつきとめてくれるなら何でも差し出す、婚約でもなんでも受け入れると、嘆き悲しみながら他の生徒達が集める情報にお礼を言う役だそうです。回りくどくありません?
「フィル、こんなことで情報が集まりますか?情報が欲しいなら私が集めますよ」
「報復するために必要なんだよ。生死を彷徨う演出をしたほうが、相手を油断させられるしな。カーソンらしく報復は徹底的に。俺の報復に力を貸して」
悪戯を誘う時の顔ですわ。いささか面倒ですがフィルのため。徹底的に報復するのは大歓迎ですしお付き合いしましょう。
「ステラ、後輩達へのフォローは任せますわ。私は嘆き悲しみ役に立たない令嬢になりましょう。エイベル、放課後はここで泣き崩れていることにして仕事をするので、手配をお願いします。ビアード公爵令嬢として評価は下がりますが、すぐに取り戻します」
ステラが愛らしい笑顔で頷きました。
「記録の魔道具だ。常に身に付けて会話を記録しろ。マナは傍に潜ませておけ。絶対に一人になるなよ。何かあれば魔法で拘束していい。できるか?」
私が一人でいるほうが情報は集めやすいでしょう。マナは潜んで同行させましょう。
不満そうな顔のエイベルもフィルの話を信用できないみたいです。ただやれと言うならやりますよ。私はフィルに譲りましたが怒ってますもの。笑みを浮かべてエイベルを見つめます。
「はい。お任せください。情報を集めて、犯人と殿下には謝罪していただきます。レオ様への不敬とフィルへの」
「やめろ。報復はフィルがする。殿下へは不敬罪になるだろうが」
エイベルに頭を叩かれましたが、その癖はそろそろ直したほうがいいと思います。謝罪は片付いてからですわ。不敬でも譲れませんわ。
***
アロマから台本を受け取り、セリフもしっかり覚えました。
アロマが台本を用意していることには驚きました。アロマはとても優秀なのにどうして3組にいるか不思議でなりません。
計画通り昼休みにフィルは倒れシャツから調合した血が溢れ出ます。
「フィル!!」
慌てて駆け寄り治癒魔法をかけるフリをします。クラスメイトが集まってきました。
「効かない。どうして、フィル、しっかりしてください!!」
ステラが教室から飛び出しました。走るのはいけませんが非常事態ですから。
「レティシア、だいじょうぶ、だから」
よわよわしい声を出し頬に伸ばされる手を握ります。フィルも演技は得意なんです。
「眠ったらいけません。どうして、効かないの。フィル、血が、刺された傷が、」
ステラに呼ばれたリオが来ました。
「マール様、フィルが、魔法が、どうすれば」
私を見て固まっているリオを一瞬睨みます。ここで動いてもらわないと困ります。ようやく動いたリオにほっとするのを慌てて抑えて、動揺した表情を作ります。
真剣な顔をしたリオがフィルを抱え上げ保健室に駆けていくので付いていきます。
エイベルは演技ができないので、この役から外されました。
保健室は人払いされており、先生はエイベルとアロマが連れ出しています
フィルは先生のおかげで一命は取り止めましたが、目覚めない設定です。フィルは特別室を手配しているのでしばらくそこで生活します。フィルのために瞳と髪の色を変える魔動具と眼鏡も用意しました。
フィルの制服の汚れは洗浄魔法で落としたので、変装を終えたフィルが窓から特別室に移動するため出て行きました。
私は倒れたフリをしてベッドに眠ります。
保健室の周りの生徒達や先生への対応はリオに任せてあります。私の嘆き悲しむ生活が始まりました。うるんだ瞳はできますが、涙は自由に流せないので雰囲気作りを頑張りましょう。
***
翌日はいつもより遅く授業にギリギリ間に合うように登校しました。教室で視線を集めてるのは気にしません。アロマが台本を書いてくれたのはありがたいです。内容に思う所はあるんですが我儘はいけません。
フィルのいない席を見て悲しい顔をして、ステラの挨拶も弱弱しい顔で小さく頷きます。授業中もぼんやりします。2年生の授業も3回目なので問題はありません。授業態度が悪くても試験で高得点をとれば問題ありません。
フィルは刺されて倒れた噂は学園中に広まっていました。
昼休みに心配そうな顔をしたリオが訪ねてきました。
「レティシア、大丈夫か?」
リオの声に小さく頷きます。
「君の所為じゃない」
肩に置かれる手に首を横に振り、よわよわしい顔を作ります。
「私の魔法が効けば、フィルは・・・。私は治癒魔法が使えるのに、なんにも、フィルが死んじゃったら。どうしてフィルが。」
ステラに抱きしめられました。抱きしめられるのは予想外ですが、このまま続けましょう。
「フィル様は大丈夫ですわ」
「フィル、ごめんなさい。私、フィル・・。フィルを刺した方は絶対に捕まえます。だからちゃんと、しないといけないのに。こんなのいけないのに。」
視線が集まって囁き声が聞こえます。教室で騒ぐのは申しわけないですが、今回は許していただきましょう。
「レティシア、俺が犯人見つけたら婚約してくれる?」
「フィルが報われるなら、私にできるお願いはなんでも叶えますわ」
「レティシア様、落ち着いてください。マール様、不謹慎です」
「つれないレティシアが頷いてくれるなんてそうそうないだろ?俺が願いを叶えるから楽しみにしていてよ。」
リオの楽しそうな声が聞こえるけど、大丈夫なんでしょうか。ステラの胸に顔を埋めているので困惑した表情を浮かべても問題ありません。アロマ、この台本は本当に平気なんですか?私はこの件が解決したらリオのファンの機嫌をとらないといけませんね・・・。なんでリオに婚約を誘う言葉を言わせたんでしょう・・。私の婚約を餌に情報が集まるとは思わないんですが・・。
***
私がフィルの事件の真相を掴んでくれた方と婚約するという噂は一気に広がりました。マートン様に責められても悲しい顔で静かに見つめると、立ち去られました。
情報は集まるんですが決定的なものはありません。
演技なのにたくさんの方々に心配されて心苦しいのですがレオ様とフィルのためです。
コクーン様から大事な話があると声を掛けられたので私の部屋にお招きしました。エイベルが隠れているのは内緒です。もちろんマナは同席させています。
「レティシア様、大事なことゆえ二人で」
婚約者でもないのに二人っきりは許されません。
「申し訳ありませんがそれはできません。マナに聞こえないように防音の結界をはります」
「それなら」
マナを水魔法の薄い膜で囲みました。見せかけなので出入りも自由です。コクーン様には結界に見えるはずです。真剣な顔をしたコクーン様に手を握られました。
「レティシア様、カーソンの件の真実を明らかにすれば、婚約を了承していただけますか?」
私が了承しても、ビアード公爵が納得するかはわかりません。よわよわしい笑顔を作って頷きます。
「なにもできない私などでよろしければ。」
「罪は個人のものとしていただけませんか・・・。」
「お約束はできませんが個人の罪ならそのように取り計らうように努めます」
コクーン様が悲痛な顔をして、鞄から紙袋を取り出しました。
中から短剣が出てきました。学園内の刃物の持ち込みは申請が必要で許可されたものには印が刻まれます。ただこの短剣は印がありません。
「申し訳ありません。姉の部屋から出てきました。カーソンを魔法で眠らせ刺したのは姉です。」
「そんな・・・」
「姉は彼を恨んでいました。恥かしながら自分の思い通りにならないと、我慢できない嘘つきな人間なんです。彼に侮辱されたのが許せず。申し訳ありません。黙っていようとも迷いました。ただ嘆き悲しむ貴方を見ていられませんでした。どうか」
「顔をあげてください。辛い告白をしてくださり感謝します。」
コクーン様の悲痛な顔に頭を下げます。これから裁かれることがわかってもフィルのために告白してくれたことに笑みを浮かべます。止められなかったと嘆きながらも正しい道を選んだコクーン様に敬意を示して、爵位を剥奪されたらビアードでお世話しましょう。私の婚約者になれるかはお父様次第ですが・・・。震えている手に手を重ねると顔をあげたコクーン様に優しい笑みを浮かべます。
「コクーン様、私は」
ノックの音が聞こえドアが開きました。
「レティシア、殿下が、それは・・・・」
リオの目は短剣を見ています。コクーン様の手を離して短剣に手を伸ばします。
「こちらは私が預かります。コクーン様、申し訳ありません。」
「いえ、殿下のお呼びなら仕方ありません。失礼します」
退室して行くコクーン様を見送りました。
「マール様、ありがとうございます。殿下の所に」
「嘘だから」
「はい?」
エイベルが出てきました。
「俺が預かるよ。」
「これでレオ様の無実は晴れるんでしょうか・・・」
「もう一仕事ある。仮病で3日寝込んでろ」
「はい?」
「レオ様のためだ」
私は大人しく従うことにしました。大事なのはレオ様のことです。
3日後に登校すると解決していました。学園での殺人未遂は重罪なのでコクーン様のお姉様は記憶さらしを受けたそうです。
重罪人には記憶を覗かれる罰があります。ただ記憶を覗かれた後は精神異常をおこすので、軽い罪には使われません。お姉様の記憶から去年の武術大会の毒物混入にコクーン様が関与していたことがわかり、コクーン様も記憶さらしを受けました。コクーン伯爵家は取りつぶしになりました。フィルを傷つけて、神聖な武術大会に不正を働こうとしたなら当然ですね。コクーン様に姉の罪を告発した正義の心は認めましたが武術大会での毒物混入の件を知りビアードで面倒見る気はなくなりました。嫡男のエイベルに危害を加えようとした者をビアードは認めません。不正を働く者も。
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