追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第六十七話前編 訪問者 

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マール公爵から手紙が届きました。
海の皇国の皇子様が行方不明と綴られ非常に嫌な予感がします。

「ディーネ、人探しをお願い出来ますか?」
「あの皇子を探せばいいの?」
「お願いします」
「行ってくるわ」

ディーネは人探しが得意なので、フラン王国なら魔封じの結界内以外でしたら自由自在に探してくれます。ディーネが出かけている間に念のため外泊手続きの書類の用意を。

「レティ、見つけた。ビアード領を目指しているわ」

嫌な予感があたりました。

「ビアードに帰ります。あとはお願いします」

頷くマナに書類を渡し、手続きを任せて学園の駿馬を借りて帰宅しました。馬で一気に走り抜け、ビアードの見張りの騎士に馬を預けビアード公爵邸に走りました。

「お嬢様!?」

中に入ると執事長が駆け寄ってきました。
帰宅の連絡はしていないので戸惑う気持ちもわかります。護衛をつけずに帰ってきたことは目を瞑ってくださるように祈りましょう。

「お客様が来てませんか?」

ビアード公爵夫妻は留守のため、お客様の対応は執事長に一任しています。

「怪しい者がお嬢様にお会いしたいと訪ねてきました。身なりがと仕草が綺麗なので見張りをつけて部屋に案内しました」

牢ではなくてよかったです。
執事長に案内された部屋に入ると皇子様がいました。

「ごきげんよう。皇子様。お待たせして申し訳ありません」
「構わない。もう皇族ではないから、畏まらないでほしい」

微笑みながら述べられた言葉に、淑女の仮面が剥がれ落ちそうになりました。

「はい?」
「私は船旅中に海に呑まれて亡くなった。皇族位を返上して、亡命したかったんだ後見のメイ伯爵に義妹を説得できないなら亡命は賛成できないと許してもらえなかった。海に呑まれた皇族は海の女神に魅入られ還らないと言い伝えられ、捜索されない。皇族なら尚更、父上は海に落ちて生還しなかった無能さを失笑し、終わらせるだろう。私を迎えいれてもらえないか」

冗談であってほしい言葉ばかりですが、声にはふざけた様子はありません。今の私にできるのは、

「皇子様は行方不明と報せがきています。部屋をご用意しますので、うちで過ごしていただいて構いません。ですが亡命や今後については父と相談させてください。滞在中はローナとの時間は作ります」

ローナの名前を聞いて嬉しそうな顔をした皇子様に頭が痛くなってきました。
執事長に賓客として部屋の用意と、おもてなしにローナをつけるように頼み、皇子様にロキやナギのことは知られないように厳命しました。
風使いの騎士を呼び、ビアード公爵とマール公爵に手紙を託します。
ビアードは早馬ではなく、風魔法の使い手を飛ばして伝令に使います。馬を疾走させるより空を飛ぶほうが速く、襲われるリスクも少ないので。
まさか出奔してくるなんて…。
海の皇族は行方不明になっても探してもらえないんですか!?
怒った皇女様が乗り込んで来たらどうしましょう。
海の皇国に行ってみますか?
でもビアード公爵夫妻の留守中に私が国外に行くわけにはいけません。
非常時はエイベルが殿下のお側に、私はビアード領を任されてます。
大事なことを失念していました。海の皇国が関わるならロキの瞳の色も絶対に知られてはいけませんわ。

「ディーネ、エイベルにロキの魔道具を絶対に外させないことと当分屋敷に連れて帰ってこないように伝えてくれる?詳細はあとで連絡すると、あと、私も学園には当分戻らないとも」
「行ってくるわ」

エイベルへの伝言はディーネに任せれば大丈夫です。

「お嬢様、マール公爵がいらっしゃいました」
「ありがとう。来賓室にご案内を」

ありがたいことに風魔法で騎士と一緒にマール公爵が飛んできてくれたようです。

「レティシア、挨拶はいらない」
「かしこまりました。このたびは申しわけありません」
「気にしないでいい。頭をあげなさい。どうするかな…」

事情を説明するといつも余裕のあるマール公爵が苦笑されました。
やはり驚きますよね。
皇子様も頭がおかしいんでしょうか?
私には理解できません。

「帰っていただけるように説得するのが一番でしょうか…」
「海の皇国とやりとりすべきか…」

皇子様にもう一度話を聞くと、海の皇国に思い入れはなく、慕われていた妹姫や今まで共に過ごした家族よりもローナと過ごしたいと迷いなく言い切りました。
あまりにも無責任な状況に皇族としての自覚や兄としての役割など言いたいことはありますが、私は部外者なので我慢します。
フラン王国は亡命を希望するなら犯罪者でなければ受け入れます。
ただ皇子様は事情が異なります。一歩間違えればうちが皇族を攫ったと捉えられ戦争の火種に…。
マール公爵が海の皇国とやりとりを申し出てくださり、皇子様はうちでもてなすことに納得してもらいました。
マール公爵に海の皇国から誰かが訪れるときは情報を教えてほしいと頼みましたが、皇女様が訪問されないことを祈るばかりです。
ただあの執着を見ていると、捜しに来ますよね……。
皇子様には精鋭の騎士を護衛につけ、ナギとローナには極秘で護衛にウォントをつけました。ウォントは鍛錬をして片腕でも戦えるようになりましたし、私の魔石と魔方陣も渡してあるので大丈夫でしょう。
ビアード公爵からは当分は帰宅できないため、皇子様のことはマール公爵の指示に従うようにと返事がきました。
国王陛下夫妻の視察に同行されているので、答えはわかってましたが報告は必要ですもの。
ビアード公爵夫人もアリア様の希望で同行してます。どうしてお母様が同行を希望されたかはわかりませんがアリア様の気まぐれはいつものこと。考えても仕方ありません。

***

3日後マール公爵が訪問され、皇子様と一緒に面会しました。

「皇帝は皇子の死亡を発表されたが、一部の皇族は捜索に当たっています」

皇子様が驚いた顔をされていますが当然ですよ。妹君は絶対に探しますよ。嫌な予感しかしません。

「捜索しているのは第一派閥です」
「私は第二派閥だったが頼りにされていない。第一派閥が私を捜索する理由がない。まさか皇女が?理由がない」

理由ありますよ。悩んでいる皇子様を静かに見つめます。

「皇子様が大事だからですよ。私の兄も行方不明になったら亡骸が見つかるまで探してくれると言っていました。ローナが行方不明になって必死に探した貴方なら気持ちがわかりませんか?」
「妹にはたくさんの兄や姉がいる。実兄だって」

家族がたくさんいるから、探さない理由にはなりません。

「皇女様は貴方が一番好きとおっしゃってました。今まで姿を消されないように、無理矢理同行されたんではありませんか?」
「私には母上だけだ。立場の弱い私は妹には逆らえない。それに、いずれ海の皇国から出られなくなる。他言無用にしてくれるか?」

真剣なお顔をされてますが、極秘の情報なんて聞きたくありません。
隣に座るマール公爵が微笑み頷いたので、私も頷くしかありませんのね。席を離れる雰囲気ではありませんもの…。

「魔力の強い皇族は臣下に下るときに誓約をする。誓約には皇帝陛下の命令以外で国外に出ないというものがある。皇宮の防御魔法には大量の魔力が必要だ。いずれ私は防御魔法に魔力を注ぎ、生涯を終えるだろう。その代わり婚姻するまでは自由を与えられていた。私が生かされてたのは魔力の多さと、派閥に所属させることで中立だった祖父である優秀なメイ伯爵を傘下に入れたかったから。とはいえ捨て駒だから、異母兄弟は決して私を探さない」

海の皇国はなんて恐ろしい国。
皇子を魔力の供給源にするためだけに生かしていたんですか?
あら?

「第二派閥は優秀な魔導士を探してませんでした?私は落とし子としてスカウトされましたよ」
「優秀な落とし子はどの派閥も欲しがる。魔力の強い落とし子の利用価値は皇族よりも多種多様で使い勝手がいい。レティシアなら兄上の妾にされて、子供を産ませ用済みになったら防御魔法の魔力供給に使われただろう。自分の子供ほど派閥を大きくするのに役に立つ者はいないだろう?君なら臣下に下賜して取引材料か間者にするのもありか。君の容姿で魔力持ちなら、どの派閥も欲しがるよ」

さらりと穏やかなお顔で恐ろしいことを言われました。
海の皇国では私は人として扱ってもらえないようです。
恐ろしい話を聞いて帰って下さいとは言えなくなりました。
亡命の理由としては認められるでしょう。皇女様が押しかけてきたらどうしましょう…。

「恐れながら皇子様と皇女様は魔法で戦えばどちらが強いんですか?」
「系統が違うからなんとも。負けないと思うよ」

勝てるとは言えないんですね…。

「もし皇女様が我が国で魔力を暴走させたらどうしますか?私は皇女様は貴方を取り戻すためなら手段は選ばないと思います。貴方のためなら国も滅ぼしても驚きません」
「ありえない」

きっぱりと断言されています。
生前は皇子様を探しにきた皇女様の魔力の暴走でたくさんの人が傷つきました。今世も皇女様の執着を見れば可能性は否定できません。

「もしも魔力を暴走させ、フラン王国民や王家を害するなら私達は皇女様を斬ります。フラン王国民になるなら、フラン王家のために生きていただきます。その時に邪魔をしないでいただけますか?」
「レティシア、落ち着きなさい。何を言っているんだい」

マール公爵に肩を叩かれました。
生前の記憶があるなんて言えません。
それでもあんなことは二度とごめんですわ。

「もしもの話です。嫌な予感がするんです。皇女様は」
「ビアードの直感か」

すばらしい理由を見つけました。
直感に優れるビアード公爵家の生まれで良かったです。

「はい。それに王家やビアードに害をもたらす者は領民として受け入れられません。領民になるなら守ります。でも…」

真顔の皇子様を見て気付きました。
物凄く残酷な事を言っています。
私はエディが斬られるなら絶対に守ってしまう。国のためにってわかっていても体が動くでしょう。
亡命するなら家族の情を捨てろなんて酷いことを迫ってましたわ。
ただビアード公爵令嬢としては危険は見過ごせません……。膝の上に現れたディーネを見て、拳を握りこんでいるのに気づきました。

「ディーネ、力を貸してくれますか?」
「もちろん」

手を解き、ディーネの頭をそっと撫でると緊張が解れていく。
もし皇女様が襲ってきたら、またディーネの力を借りれば大丈夫ですわ。
そしてまた一緒に逃げればいいだけ。
私の世界にはビアード公爵令嬢はいませんでした。ビアードは私がいなくてもなんとかなります。危険な皇子様を受け入れるからには、責任をとる準備だけはしましょう。

「失礼しました。忘れてください。ただ貴方が王家やビアードに害を成すなら斬ります。また貴方をビアード領民として受け入れるかはビアード公爵に相談させてくださいませ。うちで無理なら他領に亡命手続きをとりましょう」

「レティシア、いいのか?」

マール公爵にリオと同じ瞳で静かに見据えられました。

「だって妹を斬ることを止めるなって言われても無理ですもの。私はとっさに兄を庇ってしまうと思います。ありえませんが兄が国賊になるなら首は私がもらいます。それに皇子様がローナと生きるために全てを捨てたのなら受け入れますわ。海の皇国民ではない私に皇子様を説得する権利はありません。何を捨てても傍にいたい唯一があるなら仕方ありません」

ビアード公爵夫妻が帰ってくるまではうちで賓客として過ごしていただくことにしました。
瞳と髪の色は魔道具で変えてもらわないといけませんが。
私は皇子様を信用していいかわかりません。
ロキのことを知られて大丈夫でしょうか?
ローナのために国を捨てたなら、ローナのためにロキを利用したりしないでしょうか。
あんなに慕われていた皇女様にも情があるかも怪しい。
私は海の皇族は二人しか知りません。
皇子様よりもロキが大事です。
どうすればいいのか答えは出ないので現実逃避にビアード領の溜まった仕事をすることにしました。
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