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第六十七話後編 訪問者
休養日に眉間に皺のあるエイベルが一人で帰ってきました。
相談がありますし、溜まった仕事の処理は中断しましょう。
「おかえりなさいませ。座ってお茶にしませんか?」
エイベルに椅子を勧めるとノックの音が聞こえ、許可を出すと執事が入室しました。
「坊ちゃん、お嬢様、マール様が面会を」
マール公爵は明日から国を離れるのでリオは伝言でも頼まれたんでしょうか。
先触れもないなら火急の案件?
エイベルを見ると頷くので私の判断に任せてくれるようです。
面会はお断りする理由はないので執事に客室に通すように伝え、移動します。
案内されたリオに礼をします。
「ごきげんよう。マール様、どうされましたか?」
「レティシア、何をしようとしてる?」
リオから突然疑惑の視線を受けています。
海の皇国に行きたいとは思ってましたがこの状況で行きませんよ。
エイベルにも睨まれてますし、念のため防音の結界で囲みましょう。
「何が言いたいかわからないんですが」
「父上から話は聞いた。留守にするから力になってやれって」
「レティシア、何を企んでる? 旅の支度を整えてたって聞いたけど」
それは国外逃亡する時のためです。
誰にも見られてなかったのに、エイベルはどうして知ってるんでしょうか…。ストーム様ですわね。
二人の顔が怖いです。
問い詰める時のリオの顔も眉間に皺を寄せたエイベルも…。
単体ならともかく二人一緒に相手にするのは荷が重いですが、仕方ありませんわ。令嬢モードの笑みを浮かべます。
「皇子様が信用できるか迷っているだけです」
二人に強い瞳で睨まれ、突き刺さる痛い視線は変わりません。
沈黙が続き、これは私が折れるまでずっとこのままですか?
どれだけ時間が過ぎたかわかりませんが、諦めるしかなさそうですわ。
「エイベルは知らないけど、皇子様は妹の皇女様に深く慕われていたんです。それでもローナのために国を捨てて逃げてきました。国も妹にも思い入れがありません。ローナのためなら手段を選ばないことが怖かったんです。ロキを取引材料として差し出されるんじゃないかと。皇子様の祖母はローナ達を探しています。ロキを差し出せば捜索の手はなくなるでしょう。皇女様は追いかけてくるかもしれませんが…。お父様達が帰ってきたら海の皇国に行っていいか相談するつもりでした。皇族や皇子様のことを調べて、信用できるならロキやナギのことを話します。今はロキ達のことは箝口令を敷いていますがいつまで隠しておけるかわかりません。またロキの瞳は特別な色です。それを知られていいかも判断しかねております。お父様達が帰るまでは動く気はありません」
一番怖いのはロキの意思を無視して巻き込まれていくことです。今は情報がないからなにも動けません。
リオの顔が穏やかな顔に変わりましたが、エイベルの眉間の皺は消えません。
「うちで保護するよ。定期的にローナとの面会の場を設ける。ロキ達と会わせなければいい。マール領で保護するよ」
確かに別の場所で保護するなら隠し通せる可能性はあがります。
「ローナの傍にいるために亡命されたのに納得するでしょうか」
「説得するよ。うちで雇って監視してロキに近づけないようにするよ。皇女様が訪問されたら会わせればいいんじゃないか?」
「皇女様は亡命を許してませんのよ」
「そこは兄妹で話し合えばいい。皇女様のことは訪問予定があれば考えればいい」
「レティシア、皇子にさせる仕事がうちにあるか?」
うちは今は騎士と農園関係の求人しかしていません。
「ありませんね…。確かにマール領のほうが生きやすそう?でもそんな厄介払いを……」
「時々様子を見にきてくれればいいよ」
「巻き込むわけにはいきません。殿下に報告は避けたい。笑顔で取引して送り返しそうですわ。いえ、私はお父様の判断にお任せします」
「まぁ、案の一つとして頭に入れといて。俺は君のためならいくらでも力を貸すよ。俺はこれで」
「お心遣いありがとうございます」
出て行くリオの背中を見送ります。
「レティシア、俺はマールの案も悪くないと思う。あいつが提案するならマール公爵の許可もあるんだろう」
「うちの問題に巻き込むわけには…。海の皇国に行ってきてもいいですか?情報を集めてきます」
「バカ。そこまで欲しいなら他の者に探らせろ。父上が帰って来るまでうちにいるのか?」
「はい。何がおこるかわかりませんからすぐに指示が出せるように。エイベルはロキをお願いします」
私は苦笑するエイベルを送り出しました。
忙しいのに帰ってきてくれたんでしょう。学園に帰れば生徒会の仕事に追われているかもしれませんわね。
***
皇子様は穏やかに過ごされています。
ローナと過ごせるだけで幸せなようです。ローナにはロキやナギのことは話さないでほしいときちんと頼んであります。
私はクロード殿下から参内命令の恐ろしいお手紙が届きました。
クロード殿下は国王陛下が留守なため王宮で過ごされています。
「レティシア、報告を忘れていないか」
挨拶を終えて、最初の一言に動揺を隠して頭を下げます。
どこまで事情を知ってるんでしょうか。
「申しわけありません。亡命を希望された海の皇子様を保護してます。父の意向を聞き報告するつもりでした」
「なぜビアードに?」
「存じません」
じっと探るように見られ怖いです。最近はこんなことばかりですわね。
「お連れしますか?」
「私が伺う」
クロード殿下から転移陣を渡されました。
極秘で訪問されるんでしょう。
転移魔法は転移陣を仕掛けた場所にしか飛べませんから。
「夕方に行くよ。もてなしはいらない」
「かしこまりました。お待ちしてます」
礼をして退室してビアード領に帰りました。
皇子様に極秘でクロード殿下が訪問されることを伝え、客室に転移陣を仕掛けて待っているとクロード殿下が現れました。
「殿下、ご用があればベルを鳴らしてお呼びください。私は外で控えております」
毒味を終えたお茶を出し、礼をして退室をしました。
二人の話し合いに同席せずにすみほっとしました。
しばらくするとベルの音が聞こえました。
「海の皇国から捜索の要請があれば生存を伝える。要請がない限りわが国としては受け入れよう。処遇は父上が帰られ公爵達と話し合い決める。護衛の手配は任せても?」
「おまかせください。ビアードの名にかけて御身をお守りします」
「期待している」
転移魔法で消えていくクロード殿下を礼をして見送りました。
クロード殿下の許しがあるなら出歩いても大丈夫です。暗くなるまでまだ時間がありますわね。
「皇子様、散歩に行きましょうか」
皇子様にローブを着せて、ビアード領を案内することにしました。
「不自由をさせてすみません」
「こちらこそ、すまない。中々大事のようだ」
「高貴な方の亡命は初めてですから。恋しくなりませんか?」
「子供の頃は母上と二人だけの世界だったから。母上が姿を消されてから世界が変わり、攫われた母上を見つけることしか考えられなかった。優しい母上の腕に抱かれて幸せだった頃の記憶だけが生きる支えだった。父上にとって数多いる妻でも私の母上は一人だけだ」
私は皇子様を誤解していたんでしょうか。
寂しそうなお顔で話す様子は切なくなります。
心の拠り所の母が行方不明。
必死で探すのは当然ですよね。母のこと以外は頭に入らず、皇族の役目や妹に心を傾ける余裕がなかったのかもしれません。
「ローナが一番大切ですか?」
「今度こそ守りたい」
「皇子様の守りたいものにはローナの大事なものは含まれますか?」
目を見張った皇子様が足を止めました。
「生きているのか」
ローナの事情は知っているようです。
ロキの妊娠をきっかけに後継者争いに巻き込まれたことを。
「まさか………。もしかしてあの子が?確かに面影が」
この心当たりのある物言いはなんですか?
ロキはビアード公爵邸に帰していません。
「少女は妹なのか?時々会いにきた」
今のビアード公爵邸に自由に出入りできる少女は私を除けば一人だけ。
ナギ!?何してますの!?
皇子様には客室で過ごしてもらいましたのに台無しです。
「でも年が、弟も生きているのか!?」
どうして弟ってわかるのでしょうか。
ナギのことを知っているなら隠しても無駄ですよね。
子供のナギならロキのことを話しても仕方ありません。
エイベルが知ったら怒りますわ。ナギの監視を怠った者と客室にナギを通した護衛騎士達を…。
でも、罰は当然ですわね。
ナギ達の件は後にしましょう。
皇子様の声が明るいので、たぶん話しても大丈夫でしょう。
「幼い少年は母と妹を守るために食べ物を盗んで生活してました。自分はほとんど食べずに妹や母に食べ物を与えてました。私が保護した時は痩せてて、生きているのが不思議でしたわ。盗みはよくありません。でも家族を守るために必死に戦った少年には幸せになってほしいと思っています。私は貴方がローナの為に彼らを利用しないか危惧してます」
「信用されてないな」
「私は貴方がわかりません。ローナ達には幸せになってほしいと思います。ただ王家や皇族より返還命令が出れば拒否できません。成人した少年達が望むなら帰国できるように取り計らいますが、それ以外では関わらせたくありません」
「私は母上が大事なものや実弟達を利用したりしない。実兄と名乗らない。私の代わりに母上達を保護してくれて感謝するよ」
「兄のように接してもらう分には構いません。ですが今は家族として過ごせるように取り計らえないことは謝罪致します」
「私の弟は瞳を受け継いだのか」
「魔道具で瞳の色を変えさせてます。海の皇国の情報は少ないので」
「兄上やメイ伯爵夫人には知られてはいけない。メイ伯爵は全て知っていたか」
「はい。海の皇国に訪問した時にお話しました」
「お嬢様、お兄ちゃん!!」
駆け寄ってきたナギを抱きとめます。
「ナギ、一人で出歩いては駄目ですよ」
「お部屋つまらない」
ナギを皇子様に会わせないように命じたのが駄目でした。
目を盗んで抜け出したのでしょう。ナギは大人びたロキと違って年相応です。
「ナギ、自己紹介できますか」
「ナギです」
礼をしたナギを皇子様が抱き上げると楽しそうな声ではしゃいでいます。
「ナギ、また遊びにおいで」
ナギが驚いた顔をしているので、抜け出したことがいけないことはわかってるんですね。
「ナギ、好きになさい。でも言うことはよく聞くんですよ」
満面の笑みを見せたナギを皇子様が優しい顔で見ています。
二人の様子を見ていると大丈夫な気がしてきました。邸に帰るとナギの姿を見た使用人達が固まりました。
「お嬢様、申しわけありません」
ローナが駆けつけてきました。
「こちらこそ不自由な思いをさせました。ナギ達のことは話したので自由にしてもらって構いません。ただし屋敷を一人で抜け出したことと客人の部屋を勝手に訪ねたことは言い聞かせてください。お客様もナギを気に入っているので遊んでもらって構いません」
ナギをローナに預けて、皇子様のこれからをちゃんと考えることにしました。
私は自分のことしか考えてませんでした。
この国で生きていくなら学園に通ったほうが有利ですわ。
私は皇子様と客室に行きました。
「皇子様、お勉強しましょう。この国で生きていくならステイ学園に通ったほうが生きやすいです。邸内では自由に過ごしていただいて構いません。鍛錬したければ手配しましょう。外出は護衛をつけますが」
「任せるよ」
「今までの無礼な態度を謝罪します。貴方がナギ達を大事にしてくださるなら、私も貴方のために力を尽くします」
次の休養日はロキを呼び戻しましょう。
お父様の許可が出ればビアード領で受け入れましょう。
私は皇子様の勉強を見ながら執務をして、時々ナギと遊び、つい数日前の緊迫した時間とは正反対の穏やかな時間を過ごせるようになりました。
皇女様のことは訪問された時に考えましょう。
相談がありますし、溜まった仕事の処理は中断しましょう。
「おかえりなさいませ。座ってお茶にしませんか?」
エイベルに椅子を勧めるとノックの音が聞こえ、許可を出すと執事が入室しました。
「坊ちゃん、お嬢様、マール様が面会を」
マール公爵は明日から国を離れるのでリオは伝言でも頼まれたんでしょうか。
先触れもないなら火急の案件?
エイベルを見ると頷くので私の判断に任せてくれるようです。
面会はお断りする理由はないので執事に客室に通すように伝え、移動します。
案内されたリオに礼をします。
「ごきげんよう。マール様、どうされましたか?」
「レティシア、何をしようとしてる?」
リオから突然疑惑の視線を受けています。
海の皇国に行きたいとは思ってましたがこの状況で行きませんよ。
エイベルにも睨まれてますし、念のため防音の結界で囲みましょう。
「何が言いたいかわからないんですが」
「父上から話は聞いた。留守にするから力になってやれって」
「レティシア、何を企んでる? 旅の支度を整えてたって聞いたけど」
それは国外逃亡する時のためです。
誰にも見られてなかったのに、エイベルはどうして知ってるんでしょうか…。ストーム様ですわね。
二人の顔が怖いです。
問い詰める時のリオの顔も眉間に皺を寄せたエイベルも…。
単体ならともかく二人一緒に相手にするのは荷が重いですが、仕方ありませんわ。令嬢モードの笑みを浮かべます。
「皇子様が信用できるか迷っているだけです」
二人に強い瞳で睨まれ、突き刺さる痛い視線は変わりません。
沈黙が続き、これは私が折れるまでずっとこのままですか?
どれだけ時間が過ぎたかわかりませんが、諦めるしかなさそうですわ。
「エイベルは知らないけど、皇子様は妹の皇女様に深く慕われていたんです。それでもローナのために国を捨てて逃げてきました。国も妹にも思い入れがありません。ローナのためなら手段を選ばないことが怖かったんです。ロキを取引材料として差し出されるんじゃないかと。皇子様の祖母はローナ達を探しています。ロキを差し出せば捜索の手はなくなるでしょう。皇女様は追いかけてくるかもしれませんが…。お父様達が帰ってきたら海の皇国に行っていいか相談するつもりでした。皇族や皇子様のことを調べて、信用できるならロキやナギのことを話します。今はロキ達のことは箝口令を敷いていますがいつまで隠しておけるかわかりません。またロキの瞳は特別な色です。それを知られていいかも判断しかねております。お父様達が帰るまでは動く気はありません」
一番怖いのはロキの意思を無視して巻き込まれていくことです。今は情報がないからなにも動けません。
リオの顔が穏やかな顔に変わりましたが、エイベルの眉間の皺は消えません。
「うちで保護するよ。定期的にローナとの面会の場を設ける。ロキ達と会わせなければいい。マール領で保護するよ」
確かに別の場所で保護するなら隠し通せる可能性はあがります。
「ローナの傍にいるために亡命されたのに納得するでしょうか」
「説得するよ。うちで雇って監視してロキに近づけないようにするよ。皇女様が訪問されたら会わせればいいんじゃないか?」
「皇女様は亡命を許してませんのよ」
「そこは兄妹で話し合えばいい。皇女様のことは訪問予定があれば考えればいい」
「レティシア、皇子にさせる仕事がうちにあるか?」
うちは今は騎士と農園関係の求人しかしていません。
「ありませんね…。確かにマール領のほうが生きやすそう?でもそんな厄介払いを……」
「時々様子を見にきてくれればいいよ」
「巻き込むわけにはいきません。殿下に報告は避けたい。笑顔で取引して送り返しそうですわ。いえ、私はお父様の判断にお任せします」
「まぁ、案の一つとして頭に入れといて。俺は君のためならいくらでも力を貸すよ。俺はこれで」
「お心遣いありがとうございます」
出て行くリオの背中を見送ります。
「レティシア、俺はマールの案も悪くないと思う。あいつが提案するならマール公爵の許可もあるんだろう」
「うちの問題に巻き込むわけには…。海の皇国に行ってきてもいいですか?情報を集めてきます」
「バカ。そこまで欲しいなら他の者に探らせろ。父上が帰って来るまでうちにいるのか?」
「はい。何がおこるかわかりませんからすぐに指示が出せるように。エイベルはロキをお願いします」
私は苦笑するエイベルを送り出しました。
忙しいのに帰ってきてくれたんでしょう。学園に帰れば生徒会の仕事に追われているかもしれませんわね。
***
皇子様は穏やかに過ごされています。
ローナと過ごせるだけで幸せなようです。ローナにはロキやナギのことは話さないでほしいときちんと頼んであります。
私はクロード殿下から参内命令の恐ろしいお手紙が届きました。
クロード殿下は国王陛下が留守なため王宮で過ごされています。
「レティシア、報告を忘れていないか」
挨拶を終えて、最初の一言に動揺を隠して頭を下げます。
どこまで事情を知ってるんでしょうか。
「申しわけありません。亡命を希望された海の皇子様を保護してます。父の意向を聞き報告するつもりでした」
「なぜビアードに?」
「存じません」
じっと探るように見られ怖いです。最近はこんなことばかりですわね。
「お連れしますか?」
「私が伺う」
クロード殿下から転移陣を渡されました。
極秘で訪問されるんでしょう。
転移魔法は転移陣を仕掛けた場所にしか飛べませんから。
「夕方に行くよ。もてなしはいらない」
「かしこまりました。お待ちしてます」
礼をして退室してビアード領に帰りました。
皇子様に極秘でクロード殿下が訪問されることを伝え、客室に転移陣を仕掛けて待っているとクロード殿下が現れました。
「殿下、ご用があればベルを鳴らしてお呼びください。私は外で控えております」
毒味を終えたお茶を出し、礼をして退室をしました。
二人の話し合いに同席せずにすみほっとしました。
しばらくするとベルの音が聞こえました。
「海の皇国から捜索の要請があれば生存を伝える。要請がない限りわが国としては受け入れよう。処遇は父上が帰られ公爵達と話し合い決める。護衛の手配は任せても?」
「おまかせください。ビアードの名にかけて御身をお守りします」
「期待している」
転移魔法で消えていくクロード殿下を礼をして見送りました。
クロード殿下の許しがあるなら出歩いても大丈夫です。暗くなるまでまだ時間がありますわね。
「皇子様、散歩に行きましょうか」
皇子様にローブを着せて、ビアード領を案内することにしました。
「不自由をさせてすみません」
「こちらこそ、すまない。中々大事のようだ」
「高貴な方の亡命は初めてですから。恋しくなりませんか?」
「子供の頃は母上と二人だけの世界だったから。母上が姿を消されてから世界が変わり、攫われた母上を見つけることしか考えられなかった。優しい母上の腕に抱かれて幸せだった頃の記憶だけが生きる支えだった。父上にとって数多いる妻でも私の母上は一人だけだ」
私は皇子様を誤解していたんでしょうか。
寂しそうなお顔で話す様子は切なくなります。
心の拠り所の母が行方不明。
必死で探すのは当然ですよね。母のこと以外は頭に入らず、皇族の役目や妹に心を傾ける余裕がなかったのかもしれません。
「ローナが一番大切ですか?」
「今度こそ守りたい」
「皇子様の守りたいものにはローナの大事なものは含まれますか?」
目を見張った皇子様が足を止めました。
「生きているのか」
ローナの事情は知っているようです。
ロキの妊娠をきっかけに後継者争いに巻き込まれたことを。
「まさか………。もしかしてあの子が?確かに面影が」
この心当たりのある物言いはなんですか?
ロキはビアード公爵邸に帰していません。
「少女は妹なのか?時々会いにきた」
今のビアード公爵邸に自由に出入りできる少女は私を除けば一人だけ。
ナギ!?何してますの!?
皇子様には客室で過ごしてもらいましたのに台無しです。
「でも年が、弟も生きているのか!?」
どうして弟ってわかるのでしょうか。
ナギのことを知っているなら隠しても無駄ですよね。
子供のナギならロキのことを話しても仕方ありません。
エイベルが知ったら怒りますわ。ナギの監視を怠った者と客室にナギを通した護衛騎士達を…。
でも、罰は当然ですわね。
ナギ達の件は後にしましょう。
皇子様の声が明るいので、たぶん話しても大丈夫でしょう。
「幼い少年は母と妹を守るために食べ物を盗んで生活してました。自分はほとんど食べずに妹や母に食べ物を与えてました。私が保護した時は痩せてて、生きているのが不思議でしたわ。盗みはよくありません。でも家族を守るために必死に戦った少年には幸せになってほしいと思っています。私は貴方がローナの為に彼らを利用しないか危惧してます」
「信用されてないな」
「私は貴方がわかりません。ローナ達には幸せになってほしいと思います。ただ王家や皇族より返還命令が出れば拒否できません。成人した少年達が望むなら帰国できるように取り計らいますが、それ以外では関わらせたくありません」
「私は母上が大事なものや実弟達を利用したりしない。実兄と名乗らない。私の代わりに母上達を保護してくれて感謝するよ」
「兄のように接してもらう分には構いません。ですが今は家族として過ごせるように取り計らえないことは謝罪致します」
「私の弟は瞳を受け継いだのか」
「魔道具で瞳の色を変えさせてます。海の皇国の情報は少ないので」
「兄上やメイ伯爵夫人には知られてはいけない。メイ伯爵は全て知っていたか」
「はい。海の皇国に訪問した時にお話しました」
「お嬢様、お兄ちゃん!!」
駆け寄ってきたナギを抱きとめます。
「ナギ、一人で出歩いては駄目ですよ」
「お部屋つまらない」
ナギを皇子様に会わせないように命じたのが駄目でした。
目を盗んで抜け出したのでしょう。ナギは大人びたロキと違って年相応です。
「ナギ、自己紹介できますか」
「ナギです」
礼をしたナギを皇子様が抱き上げると楽しそうな声ではしゃいでいます。
「ナギ、また遊びにおいで」
ナギが驚いた顔をしているので、抜け出したことがいけないことはわかってるんですね。
「ナギ、好きになさい。でも言うことはよく聞くんですよ」
満面の笑みを見せたナギを皇子様が優しい顔で見ています。
二人の様子を見ていると大丈夫な気がしてきました。邸に帰るとナギの姿を見た使用人達が固まりました。
「お嬢様、申しわけありません」
ローナが駆けつけてきました。
「こちらこそ不自由な思いをさせました。ナギ達のことは話したので自由にしてもらって構いません。ただし屋敷を一人で抜け出したことと客人の部屋を勝手に訪ねたことは言い聞かせてください。お客様もナギを気に入っているので遊んでもらって構いません」
ナギをローナに預けて、皇子様のこれからをちゃんと考えることにしました。
私は自分のことしか考えてませんでした。
この国で生きていくなら学園に通ったほうが有利ですわ。
私は皇子様と客室に行きました。
「皇子様、お勉強しましょう。この国で生きていくならステイ学園に通ったほうが生きやすいです。邸内では自由に過ごしていただいて構いません。鍛錬したければ手配しましょう。外出は護衛をつけますが」
「任せるよ」
「今までの無礼な態度を謝罪します。貴方がナギ達を大事にしてくださるなら、私も貴方のために力を尽くします」
次の休養日はロキを呼び戻しましょう。
お父様の許可が出ればビアード領で受け入れましょう。
私は皇子様の勉強を見ながら執務をして、時々ナギと遊び、つい数日前の緊迫した時間とは正反対の穏やかな時間を過ごせるようになりました。
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