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元夫の苦難23
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レティシアに恋人ができたと噂になっていた。
最近は放課後もすぐに姿を消してしまう。会議のために迎えに行ったら、男と手を握って見つめ合っていた。邪魔するなと言われてからは怖くて事情は聞けずにいる。
親しそうに過ごす場面を目にして声をかける勇気はなかった。
「付き纏うのやめたのか?」
「いないんだよ。教室にも部屋にも。最近は忙しくて全然ビアードにも行けない」
「報復してたからだろう?」
「婚約者が襲われたら報復するだろう?傷だらけで魔力切れで5日も眠りについた。理由はレティシアを傷つければ、ビアードの騎士達が動揺して弱るから?くだらなすぎる。二度と同じことが起こらないように手は打った。ビアードが甘いからバカ達の本人と家に責任をとらせた。そのうち爵位を維持できなくなり平民落ちだ。金貸しにも手を回したから一生余計なことを考える時間もないだろうな」
レティシアを襲った生徒は退学になった。武術大会での不正という理由で。生徒が知るのはここまでである。
実際は主犯は一人ではなかった。ビアード公爵家の力を落としたい家とレティシアに恨みを持っている生徒達が関わっていた。水鏡を壊せば、待機している役員の中で一番自衛能力が高いレティシアが予備の設置にくると読まれていた。生徒会の中で俊敏で荒事の対処にあたるのはビアード兄妹なのは有名である。二人の勘と魔法センスで調査をさせると、成果が必ずでる。レティシアが攫われた時は調査に訪れた王宮魔導士は何もわからなかった。ただビアードが調べたら侵入経路が判明したらしい。ビアードの勘は王宮魔導の知識を超えた。後日、ロダに確認して調べさせたらビアードの答えが当たっていた。
レティシアは過去に取り締まった生徒の一部から恨まれていた。
貴族にとって学園で生徒会に取り締まられ罰を受けるのは醜態になる。レティシアは検挙率は常にトップ。貴族として相応しくない行為、特に身分の低い生徒に愚かな行為をした生徒をレティシアは絶対に見逃さない。取り締まりにはさじ加減がある。俺は暴力行為が出たら動くけど、レティシアは言葉だけでも動く。レティシアは小柄で華奢でお淑やかな外見のため軽く見られて、警告では止まらないので、罰を受けることになる。
報告書を見て罰を決めるのは会長と顧問の教師。報告書に希望の罰を書く欄もあるが、記載義務はない。ただレティシアは殿下から罰の欄もしっかり埋めるように言われている。クロード殿下はレティシアを評価しているが、時々驚くほど甘くなる部分を心配している。報告書を通して貴族として正しい判断ができているか見極められている。
罰の決定権が会長の権限と知るのは生徒会役員だけだ。そのため、取り締まった生徒会役員が恨みを買うのはよくあること。だから生徒会役員は自衛のできる者が選ばれ、令嬢と下級生の単独の見回りや取締りは控えるように言われている。レティシアは見回りをしていなくても遭遇することが多いらしい。
俺が個人で調べたことなので、一応クロード殿下には報告した。関わった家には、なぜかエドワードが協力を申し出たので共に手を回した。珍しく楽しそうだったな。報復が趣味ってどうなんだろうか。
「レティシアも忙しそうだよな。たぶんさ何か夢中なことがあるよ」
「は?」
「昔から凝り性なんだよ。レティシアは邪魔されたくないとき無意識に気配消すんだよ。こうなったレティシアを捕まえられるのはエイベルとマオとフィルとビアード公爵だけだよ」
その厄介な体質なに?
こいつに聞けばわかるだろうか。
「なぁ、レティシアに恋人ができたって噂は…」
「ありえないだろう。婚約者のいる立場で恋人を作るほど馬鹿な女じゃないよ。婚約破棄されてないなら、この噂は嫌がらせだろう?どっちへかはわからないけどな」
エイベルの幼馴染でありレティシアと親しいからよくわかってるのか。確かにレティシアはビアード公爵令嬢の務めが一番だ。俺が婚約破棄できないように手を回せばいいか。友人に余裕がないと笑われ肩を叩かれた。
母上に呼び出されてマール公爵邸に帰宅するとエレン義姉上もいた。
「リオに贈り物があるのよ」
義姉上から渡された箱には濃紺のレースが入っていた。
「レティシアのドレスの素材に使って。お祝いよ」
俺がレティシアの素材用にいくつか取り寄せていたことに気付いていたのか。
「ありがとうございます」
「ビアード公爵夫人からは婚約披露は小規模でいいと言われたわ。準備は婿入りなのでビアードが全部引き受けるそうよ。レティシアも嫡男ではないのでささやかなものをと」
「公爵家同士なら盛大にしましょう。令嬢の憧れの豪華絢爛に興味がないのかしら」
「レティシアは夜会に溶け込んで、談笑するほうが好みよ。人気な青年と踊るよりも高齢な当主と話しているほうが楽しそう・・」
「でも義母様、牽制としては盛大に披露したほうが。レティシアへの婚約の申し込みが落ち着くんではありませんか?未だにあるんでしょう?」
「ええ。でもリオだって小規模にすませたいでしょ?」
「俺は牽制になるなら盛大で構いません。できれば婚約破棄できないように外堀を埋めたいので」
「婚約しても余裕ないわね。義母様、私も当日は帰国しますので盛大にしましょう。せっかくリオの初恋が叶いました」
「ビアード公爵に勝てなけば婚約破棄されるかもしれないものね。リオはどこまでなら覚えられるの?」
「いくらでも構いません。レティシアに情けないところは見せられませんから」
「招待客リストは私が作ります。マールの招待状の手配はうちでしましょう。楽しみですね」
義姉上が楽しそうなのはなにか思惑があるんだろうか。俺は任された役回りをするだけか。ビアードから招待客リストを受け取っていたが、うちのリストを送った翌週に新たに招待客リストが追加で送られてきた。予想以上に盛大なものになりそうだ。この準備をビアード公爵家に全部任せていいんだろう……。ビアードは内輪のものが多く、うちと違って盛大な夜会を開かない。
***
放課後にレオ様に会った。
「レティシアならいつもの木の上にいたよ」
「どの木ですか?」
「最近は第二寮の大樹が気に入っている」
「ありがとうございます」
平民や下位貴族の住む第二寮の方は校舎から離れているから探していなかった。行動範囲広すぎないか!?丁度渡したい物もあったし、会いに行くか。
第二寮の周りの大樹はどれをさすかわからなかったので飛んで探すことにした。魔法の使用は校則違反だけど、見つからなければいい。
銀髪を見つけて近づくと膝に猫をのせて、書類を読んでいた。隣に座っても全く気付かない。猫と目が合ったが、すぐに顔を背けられレティシアの膝で丸くなった。
しばらくするとレティシアが空を見上げ、ようやく俺に視線を向け目を丸くした。
「リオ様、いつから?声を掛けてください」
「集中してたから。少しいいか?」
「かしこまりました。雨が降りそうなので、移動しますか?」
「ああ。俺の部屋でいいか?」
「はい」
レティシアが木から飛び降りたので慌てて魔法で包む。何度見ても高い木から飛び降りる姿は慣れない。風魔法に包まれニコニコしているレティシアに手を差し出すと重ねてくれることに安堵した。いつの間にか猫はいなくなっていた。レティシアの荷物を強引に取り上げると分厚い書類はうちから送った招待客リストと貴族名鑑。真剣な顔で読んでいたのは覚えていたのか。
「マールの招待客は俺が覚えたから覚えなくていいよ」
「え?いえ、そんなわけにはいきません」
「婚約披露の時はずっと傍にいるから必要ない。隣で笑っててくれればいいよ」
「無理ですよ」
「大丈夫だよ。俺が対応する。武門貴族だけは時々フォローしてよ」
「武門貴族はお任せください。すみません。お母様が対抗して招待客を増やしたばかりに」
突然追加されたのはそんな事情があったのか。苦笑するレティシアに笑いかける。
「俺としては顔を覚えてもらうにはありがたい」
「非常に心苦しいのですが、当日はエイベルが心配なのでご迷惑をおかけしたら申し訳ありません」
「任せてよ。俺は義兄上と違って得意分野だから。この招待客リストはいらないな」
「いります。まだ返礼品や料理の手配を整えてません」
「手伝うよ。手が足りないだろう」
「まだ時間もありますし、大丈夫です」
部屋に入りレティシアを椅子に座らせてお茶を淹れようとすると不思議そうな顔で見られている。
「俺も覚えたから座っててよ」
レオ様にレティシア好みのお茶の淹れ方を教わった。いつもレオ様のお茶を美味しそうに飲む様子は羨ましかった。
お茶とお菓子を出すとゆっくりと手をつけたレティシアがふんわり笑う。
「美味しい」
久しぶりの笑顔に目を奪われた。二人で過ごすのはいつ以来だろう。
「いつでも淹れるよ」
「使用人のお仕事を奪うと悲しまれますよ。リオ様、ドレスをありがとうございました」
仕事が早いな。もうできたのか。
「気に入った?」
「さすがマール公爵家です。初めて見る素材でしたわ。返礼は何か希望はありますか?時間以外でお願いします」
よくお礼を聞かれるから時間って答えてたよな。
「なんでもいい?」
「私のお小遣いで返せるものでしたら」
不安そうな顔に笑ってしまった。
「俺以外の恋人を作らないでほしい」
「はい?恋人……?リオは夫だからいいのかな。あれ?」
混乱している様子に恋人と言われて浮かぶのが彼女のリオということにほっとした。
「君のリオはいいよ。それ以外」
「婚約者がいるのに恋人を持つことは許されません。私は恋人を作るつもりもありません。リオ様とは立場が違います」
「俺は君だけだから誤解しないで。君に恋人ができたって噂がたってたんだよ」
「え?リオ様、申し訳ありません。私、やることがありますので失礼します」
頭を下げて、立ち上がるレティシアの腕を引いて逃げないように抱きしめる。
「リオ様、離してください」
「ラウルとは何もないんだよな?」
「ラウル?嘘でしょ!?ラウルに迷惑が……」
真っ青になったレティシアに不安になってきた。
「リオ様、返礼の件は後日に。離してください。時間がありません!!」
「噂の終息なら俺の傍にいればいずれ消えるよ」
「ラウルが危害を加えられるかもしれません。ただでさえ平民で学年主席というだけで。卒業までビアードに入れようかしら。でもラウルは嫌が―」
レティシアが百面相を始めながらブツブツと呟いている。
「なんで近づいたの?」
「殿下が来年の生徒会役員に迎え入れたいって。断られましたが」
生徒会の平民の勧誘をレティシアが引き受けてたのか。それで情が湧いて保護したくて傍にいたのか。全く心配する必要なかった。抱き寄せて頭をゆっくり撫でるとレティシアの体の緊張が抜けていく。
「俺が引き受けるよ。生徒会の領分だ。レティシアが動くよりも俺が動くほうが穏便におさまる。ラウルと過ごす時は俺に声を掛けてよ」
「リオ様と一緒に畑仕事などできません。でもラウルよりもレオ様と一緒なのにどうして」
王子と公爵令嬢が畑を耕してるってどんな状況だよ。いないと思ったけどまさか畑にいるとは……。
「知識がないから教えてよ。レオ様が許されるなら俺もいいだろうが」
「レオ様は第二王子殿下と気付かれてません。平民は王子殿下の名前を知らないのです」
そういう意味ではないんだけど。その理屈だとレオ様とレティシアの正体が知られてないなら俺のこともわからない。まぁいいか。
「ラウルのことは俺が引き受けるよ。昼休みはいつまで別なの?」
「レオ様がクラスに馴染めるまでです」
レティシアに任せるなら俺が動く。俺より他の男と過ごす時間が長いのが気に入らない。
「俺も協力する。後輩を紹介するよ」
「お気持ちだけで。リオ様、お忙しいのに」
「レティシアと過ごしたい。俺は優秀だから何も問題ない」
「変わってますわ」
了承なくても勝手に動けばいいか。机の上に置いた木箱を手に取った。
「返礼いらないから、これ受け取ってほしい」
レティシアの手の上に木箱を置くと不思議そうな顔に笑いかけて蓋を開ける。
「もらったんだけど、使い道がなくて。うちでリボンを使うような人間いないし」
「リオ様なら贈る相手はたくさんいるのに」
「いないから。どの色もレティシアに似合うと思うんだ。マール公爵家から新たな家族に贈り物だ」
リボンを取り出して、じっと眺めている。
「高級そうで無くしたら申し訳」
「いくらでも贈るから使ってよ」
返そうとするレティシアの手に重ねて止めると俺の顔をじっと見つめてしばらくしてレティシアが頷いた。
「ありがとうございます」
名残惜しいけど、そろそろ送らないとか。憂いは晴れた。
マールの贈り物と言えば他の令嬢に譲らないだろう。リボンには追跡魔法と箱には魔封じが仕掛けてあるから気付かないだろう。箱も見える場所に魔封じは刻んでいない。リボンも俺の魔力で染めた魔物の作った糸を使っている。また追跡魔法も刺繍に紛れて刻んだ。何度か試したけど、近場なら自分の魔力を探って見つけられる。離れると辿れないので追跡魔法が必要だった。
フラン王国ではまだ公表されてない方法だからレティシアも知らないだろう。リボンさえ身に付けてくればいつでも探せる。魔封じの箱に入ったリボンの場所は探れないけど。
用意するのは大変だった。ルーン公爵領の懇意にしている研究者に世話になったので所属する高等研究所に寄付金を送った。予想以上のものができたのは満足だ。これがあればレティシアが逃亡しても捕まえられる。問題は身に付けてくれるかだけだ。身に付けてくれないなら会った時に予備のリボンで結べばいいか。
最近は放課後もすぐに姿を消してしまう。会議のために迎えに行ったら、男と手を握って見つめ合っていた。邪魔するなと言われてからは怖くて事情は聞けずにいる。
親しそうに過ごす場面を目にして声をかける勇気はなかった。
「付き纏うのやめたのか?」
「いないんだよ。教室にも部屋にも。最近は忙しくて全然ビアードにも行けない」
「報復してたからだろう?」
「婚約者が襲われたら報復するだろう?傷だらけで魔力切れで5日も眠りについた。理由はレティシアを傷つければ、ビアードの騎士達が動揺して弱るから?くだらなすぎる。二度と同じことが起こらないように手は打った。ビアードが甘いからバカ達の本人と家に責任をとらせた。そのうち爵位を維持できなくなり平民落ちだ。金貸しにも手を回したから一生余計なことを考える時間もないだろうな」
レティシアを襲った生徒は退学になった。武術大会での不正という理由で。生徒が知るのはここまでである。
実際は主犯は一人ではなかった。ビアード公爵家の力を落としたい家とレティシアに恨みを持っている生徒達が関わっていた。水鏡を壊せば、待機している役員の中で一番自衛能力が高いレティシアが予備の設置にくると読まれていた。生徒会の中で俊敏で荒事の対処にあたるのはビアード兄妹なのは有名である。二人の勘と魔法センスで調査をさせると、成果が必ずでる。レティシアが攫われた時は調査に訪れた王宮魔導士は何もわからなかった。ただビアードが調べたら侵入経路が判明したらしい。ビアードの勘は王宮魔導の知識を超えた。後日、ロダに確認して調べさせたらビアードの答えが当たっていた。
レティシアは過去に取り締まった生徒の一部から恨まれていた。
貴族にとって学園で生徒会に取り締まられ罰を受けるのは醜態になる。レティシアは検挙率は常にトップ。貴族として相応しくない行為、特に身分の低い生徒に愚かな行為をした生徒をレティシアは絶対に見逃さない。取り締まりにはさじ加減がある。俺は暴力行為が出たら動くけど、レティシアは言葉だけでも動く。レティシアは小柄で華奢でお淑やかな外見のため軽く見られて、警告では止まらないので、罰を受けることになる。
報告書を見て罰を決めるのは会長と顧問の教師。報告書に希望の罰を書く欄もあるが、記載義務はない。ただレティシアは殿下から罰の欄もしっかり埋めるように言われている。クロード殿下はレティシアを評価しているが、時々驚くほど甘くなる部分を心配している。報告書を通して貴族として正しい判断ができているか見極められている。
罰の決定権が会長の権限と知るのは生徒会役員だけだ。そのため、取り締まった生徒会役員が恨みを買うのはよくあること。だから生徒会役員は自衛のできる者が選ばれ、令嬢と下級生の単独の見回りや取締りは控えるように言われている。レティシアは見回りをしていなくても遭遇することが多いらしい。
俺が個人で調べたことなので、一応クロード殿下には報告した。関わった家には、なぜかエドワードが協力を申し出たので共に手を回した。珍しく楽しそうだったな。報復が趣味ってどうなんだろうか。
「レティシアも忙しそうだよな。たぶんさ何か夢中なことがあるよ」
「は?」
「昔から凝り性なんだよ。レティシアは邪魔されたくないとき無意識に気配消すんだよ。こうなったレティシアを捕まえられるのはエイベルとマオとフィルとビアード公爵だけだよ」
その厄介な体質なに?
こいつに聞けばわかるだろうか。
「なぁ、レティシアに恋人ができたって噂は…」
「ありえないだろう。婚約者のいる立場で恋人を作るほど馬鹿な女じゃないよ。婚約破棄されてないなら、この噂は嫌がらせだろう?どっちへかはわからないけどな」
エイベルの幼馴染でありレティシアと親しいからよくわかってるのか。確かにレティシアはビアード公爵令嬢の務めが一番だ。俺が婚約破棄できないように手を回せばいいか。友人に余裕がないと笑われ肩を叩かれた。
母上に呼び出されてマール公爵邸に帰宅するとエレン義姉上もいた。
「リオに贈り物があるのよ」
義姉上から渡された箱には濃紺のレースが入っていた。
「レティシアのドレスの素材に使って。お祝いよ」
俺がレティシアの素材用にいくつか取り寄せていたことに気付いていたのか。
「ありがとうございます」
「ビアード公爵夫人からは婚約披露は小規模でいいと言われたわ。準備は婿入りなのでビアードが全部引き受けるそうよ。レティシアも嫡男ではないのでささやかなものをと」
「公爵家同士なら盛大にしましょう。令嬢の憧れの豪華絢爛に興味がないのかしら」
「レティシアは夜会に溶け込んで、談笑するほうが好みよ。人気な青年と踊るよりも高齢な当主と話しているほうが楽しそう・・」
「でも義母様、牽制としては盛大に披露したほうが。レティシアへの婚約の申し込みが落ち着くんではありませんか?未だにあるんでしょう?」
「ええ。でもリオだって小規模にすませたいでしょ?」
「俺は牽制になるなら盛大で構いません。できれば婚約破棄できないように外堀を埋めたいので」
「婚約しても余裕ないわね。義母様、私も当日は帰国しますので盛大にしましょう。せっかくリオの初恋が叶いました」
「ビアード公爵に勝てなけば婚約破棄されるかもしれないものね。リオはどこまでなら覚えられるの?」
「いくらでも構いません。レティシアに情けないところは見せられませんから」
「招待客リストは私が作ります。マールの招待状の手配はうちでしましょう。楽しみですね」
義姉上が楽しそうなのはなにか思惑があるんだろうか。俺は任された役回りをするだけか。ビアードから招待客リストを受け取っていたが、うちのリストを送った翌週に新たに招待客リストが追加で送られてきた。予想以上に盛大なものになりそうだ。この準備をビアード公爵家に全部任せていいんだろう……。ビアードは内輪のものが多く、うちと違って盛大な夜会を開かない。
***
放課後にレオ様に会った。
「レティシアならいつもの木の上にいたよ」
「どの木ですか?」
「最近は第二寮の大樹が気に入っている」
「ありがとうございます」
平民や下位貴族の住む第二寮の方は校舎から離れているから探していなかった。行動範囲広すぎないか!?丁度渡したい物もあったし、会いに行くか。
第二寮の周りの大樹はどれをさすかわからなかったので飛んで探すことにした。魔法の使用は校則違反だけど、見つからなければいい。
銀髪を見つけて近づくと膝に猫をのせて、書類を読んでいた。隣に座っても全く気付かない。猫と目が合ったが、すぐに顔を背けられレティシアの膝で丸くなった。
しばらくするとレティシアが空を見上げ、ようやく俺に視線を向け目を丸くした。
「リオ様、いつから?声を掛けてください」
「集中してたから。少しいいか?」
「かしこまりました。雨が降りそうなので、移動しますか?」
「ああ。俺の部屋でいいか?」
「はい」
レティシアが木から飛び降りたので慌てて魔法で包む。何度見ても高い木から飛び降りる姿は慣れない。風魔法に包まれニコニコしているレティシアに手を差し出すと重ねてくれることに安堵した。いつの間にか猫はいなくなっていた。レティシアの荷物を強引に取り上げると分厚い書類はうちから送った招待客リストと貴族名鑑。真剣な顔で読んでいたのは覚えていたのか。
「マールの招待客は俺が覚えたから覚えなくていいよ」
「え?いえ、そんなわけにはいきません」
「婚約披露の時はずっと傍にいるから必要ない。隣で笑っててくれればいいよ」
「無理ですよ」
「大丈夫だよ。俺が対応する。武門貴族だけは時々フォローしてよ」
「武門貴族はお任せください。すみません。お母様が対抗して招待客を増やしたばかりに」
突然追加されたのはそんな事情があったのか。苦笑するレティシアに笑いかける。
「俺としては顔を覚えてもらうにはありがたい」
「非常に心苦しいのですが、当日はエイベルが心配なのでご迷惑をおかけしたら申し訳ありません」
「任せてよ。俺は義兄上と違って得意分野だから。この招待客リストはいらないな」
「いります。まだ返礼品や料理の手配を整えてません」
「手伝うよ。手が足りないだろう」
「まだ時間もありますし、大丈夫です」
部屋に入りレティシアを椅子に座らせてお茶を淹れようとすると不思議そうな顔で見られている。
「俺も覚えたから座っててよ」
レオ様にレティシア好みのお茶の淹れ方を教わった。いつもレオ様のお茶を美味しそうに飲む様子は羨ましかった。
お茶とお菓子を出すとゆっくりと手をつけたレティシアがふんわり笑う。
「美味しい」
久しぶりの笑顔に目を奪われた。二人で過ごすのはいつ以来だろう。
「いつでも淹れるよ」
「使用人のお仕事を奪うと悲しまれますよ。リオ様、ドレスをありがとうございました」
仕事が早いな。もうできたのか。
「気に入った?」
「さすがマール公爵家です。初めて見る素材でしたわ。返礼は何か希望はありますか?時間以外でお願いします」
よくお礼を聞かれるから時間って答えてたよな。
「なんでもいい?」
「私のお小遣いで返せるものでしたら」
不安そうな顔に笑ってしまった。
「俺以外の恋人を作らないでほしい」
「はい?恋人……?リオは夫だからいいのかな。あれ?」
混乱している様子に恋人と言われて浮かぶのが彼女のリオということにほっとした。
「君のリオはいいよ。それ以外」
「婚約者がいるのに恋人を持つことは許されません。私は恋人を作るつもりもありません。リオ様とは立場が違います」
「俺は君だけだから誤解しないで。君に恋人ができたって噂がたってたんだよ」
「え?リオ様、申し訳ありません。私、やることがありますので失礼します」
頭を下げて、立ち上がるレティシアの腕を引いて逃げないように抱きしめる。
「リオ様、離してください」
「ラウルとは何もないんだよな?」
「ラウル?嘘でしょ!?ラウルに迷惑が……」
真っ青になったレティシアに不安になってきた。
「リオ様、返礼の件は後日に。離してください。時間がありません!!」
「噂の終息なら俺の傍にいればいずれ消えるよ」
「ラウルが危害を加えられるかもしれません。ただでさえ平民で学年主席というだけで。卒業までビアードに入れようかしら。でもラウルは嫌が―」
レティシアが百面相を始めながらブツブツと呟いている。
「なんで近づいたの?」
「殿下が来年の生徒会役員に迎え入れたいって。断られましたが」
生徒会の平民の勧誘をレティシアが引き受けてたのか。それで情が湧いて保護したくて傍にいたのか。全く心配する必要なかった。抱き寄せて頭をゆっくり撫でるとレティシアの体の緊張が抜けていく。
「俺が引き受けるよ。生徒会の領分だ。レティシアが動くよりも俺が動くほうが穏便におさまる。ラウルと過ごす時は俺に声を掛けてよ」
「リオ様と一緒に畑仕事などできません。でもラウルよりもレオ様と一緒なのにどうして」
王子と公爵令嬢が畑を耕してるってどんな状況だよ。いないと思ったけどまさか畑にいるとは……。
「知識がないから教えてよ。レオ様が許されるなら俺もいいだろうが」
「レオ様は第二王子殿下と気付かれてません。平民は王子殿下の名前を知らないのです」
そういう意味ではないんだけど。その理屈だとレオ様とレティシアの正体が知られてないなら俺のこともわからない。まぁいいか。
「ラウルのことは俺が引き受けるよ。昼休みはいつまで別なの?」
「レオ様がクラスに馴染めるまでです」
レティシアに任せるなら俺が動く。俺より他の男と過ごす時間が長いのが気に入らない。
「俺も協力する。後輩を紹介するよ」
「お気持ちだけで。リオ様、お忙しいのに」
「レティシアと過ごしたい。俺は優秀だから何も問題ない」
「変わってますわ」
了承なくても勝手に動けばいいか。机の上に置いた木箱を手に取った。
「返礼いらないから、これ受け取ってほしい」
レティシアの手の上に木箱を置くと不思議そうな顔に笑いかけて蓋を開ける。
「もらったんだけど、使い道がなくて。うちでリボンを使うような人間いないし」
「リオ様なら贈る相手はたくさんいるのに」
「いないから。どの色もレティシアに似合うと思うんだ。マール公爵家から新たな家族に贈り物だ」
リボンを取り出して、じっと眺めている。
「高級そうで無くしたら申し訳」
「いくらでも贈るから使ってよ」
返そうとするレティシアの手に重ねて止めると俺の顔をじっと見つめてしばらくしてレティシアが頷いた。
「ありがとうございます」
名残惜しいけど、そろそろ送らないとか。憂いは晴れた。
マールの贈り物と言えば他の令嬢に譲らないだろう。リボンには追跡魔法と箱には魔封じが仕掛けてあるから気付かないだろう。箱も見える場所に魔封じは刻んでいない。リボンも俺の魔力で染めた魔物の作った糸を使っている。また追跡魔法も刺繍に紛れて刻んだ。何度か試したけど、近場なら自分の魔力を探って見つけられる。離れると辿れないので追跡魔法が必要だった。
フラン王国ではまだ公表されてない方法だからレティシアも知らないだろう。リボンさえ身に付けてくればいつでも探せる。魔封じの箱に入ったリボンの場所は探れないけど。
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婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
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