追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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兄の苦労日記31

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今年度からレオ様が生徒会役員入りした。妹が指導係だが、レオ様のほうがしっかりしている。レオ様と一緒に見回りをしているおかげで、取り締まる件数も少ない。妹が声を掛けて止まらなくても第二王子の前とわかればすぐに態度を改める。クロード殿下も嬉しい誤算に笑っていた。妹が願うように二人が仲の良い兄弟になるかはわからないが、今のところは揉め事も起きていない。

問題と言えばレオ様が挨拶をした日に妹が前に不敬を働いた役員にレオ様に謝れと騒いだくらいだ。俺が頭を叩いてレオ様が宥めていた。クロード殿下に謝れと迫らないだけが救いだった。根に持たない妹にしてはよく覚えているようだ。
レオ様は部屋を与えられたが俺の部屋で妹と一緒に執務をしている。クロード殿下はレオ様が問題を起こさず不満を言わずにこなす様子を不思議そうに見ていた。

新入生を迎えて新たな役員が任命された。ハリーが俺に指導を任されたのは安全への配慮だろう。殿下の傍に控えることの多い俺の近くなら殿下もハリーの様子が見れるから。
まさか指導係の指名をする者が妹以外にいるとは思わなかった。
セント侯爵令嬢が妹を指導係にと条件を出した時、妹は怯えた視線を向けていた。自分も同じことをした自覚はないんだろうか。

セント嬢は妹とだけはほとんど言葉を交わさない。妹の一方的な会話になっている。最初は悩んでいた妹も諦めたらしい。

「エイベル様、セント嬢は空き時間にずっとレティシア様を付けているんですが」
「は?」
「大丈夫なんでしょうか」

ハリーの言葉に嫌な予感がした。
ハリーと見回りをおえて生徒会室に戻るとマールがセント嬢に冷たい視線を向けていた。

「レティシアを魔法で木から落としたよな?」
「木は揺らしましたが危害を加えるつもりはありませんでした。きちんとお助けするつもりでしたわ。邪魔さえ入らなければ」
「助けて恩を売って、親しくなれると?」
「私だけを見ていただきたいんです。あの澄んだ瞳にうっとりと見つめられたらたまりませんわ。想像しただけで・・・・・・・」

セント嬢のうつろな瞳に寒気がした。これは近づけてはいけない。

「私の魔法の使用を責めるならマール様もです。貴方は風魔法で私の邪魔をしました」
「人命救助だ。あのまま落ちたら怪我しただろうが」
「レティシア様は私のお人形になって欲しいのに」

クロード殿下が冷たい視線で二人を見ている。
ノックの後に妹が入ってきて、クロード殿下の顔を見て怯えた顔をした。
マール達は妹を見て口論が止まった。
妹が周りを見渡し、俺をじっと見て、クロード殿下に向き直り頭を下げようとしている。
3日も体調不良で休んだことだろうか。何かやらかしたのか・・。
この状況でこれ以上殿下の機嫌を損ねるのは避けたい。

「レティシア、静かにしてろ」

固まった妹に不思議そうな顔で見られている。

「説明を」

クロード殿下とセント嬢が無言の睨み合いをしている。妹よりも空気が読めないまずい令嬢かもしれない。妹は怯えた顔で二人を見て口を開いた。

「恐れながらクロード殿下、事情がわかりません。セント様には私が話を聞きますわ」

余計な事を言い出した妹の頭を叩いて、連れ出すことにした。

「殿下、俺達は見回りに行ってきます。」
「指導係は私ですよ。この環境に後輩を残していくなど」

怯えながら精一杯平静を装って拒否する妹を無理矢理連れ出す。誰も止める様子がないから平気だろう。

「レティシア、言うことを聞け。邪魔なんだよ。俺達は殿下の判断に従います。失礼します」

あの雰囲気なら妹がいる前なら話さないだろう。
妹の気を逸らしながらゆっくりと見回りをした。生徒会室に戻るとセント嬢はいなくなっていた。まさか新役員は令嬢の方が問題とは思わなかった。今年の新入生の成績優秀者は選民意識が強い生徒が多い。妹の取り巻きの令嬢も1組にいるが成績が悪いので候補にはならない。何より好戦的な者も多く、推薦はできない。セント嬢は社交に悪い噂はなかったので殿下が選ばれた。妹さえ関わらなければ普通の令嬢に見えた。
生徒会で関わることがなければ、妹とのつながりもない。1組はハリーと妹贔屓の令嬢もいるし問題ないだろう。

***

放課後、妹の下に行ったロキが帰ってきた。お茶会に連れていくから貸せと頼まれていたはずだが

「エイベル様、お嬢様はセント侯爵令嬢に呼び出されました」

「ありがとう。後は任されるよ」

嫌な予感がしてストームに頼んで居場所を探させた。ストームに付いてサロンに行くとマールがいた。

「ビアード、中に入りたいけど、濃い魔力が漂っている」

魔力?
妹の本気で作った浄化の魔石を使うか。
場所を清めるためのもので、治癒魔法の付加とは比べ物ならないほど一つ作るのに魔力の消費が激しいらしい。お守りにと俺と父上に贈られた。

「ストーム、これを魔力の中心に置いてきてくれ」

ストームが魔石を持って消えていき、しばらくすると膜が消えた。
中に入ると倒れている妹と水魔法で拘束されたセント嬢がいた。

「レティシア!!」

マールが顔色の悪い妹を抱き上げている。
気配がして振り向くとレオ様とフィルがいた。
レオ様が床に汚れた液を瓶に入れて真剣に見ている。

「セント嬢、これはどこで」

セント嬢は黙ったままだ。第二王子殿下の命に逆らうのは学園でも許されない。セント嬢を睨みつける。

「答えろ。殿下の命だ」

無言で口を開かない。

「エイベル、これは兄上の案件だ。俺は動けない。リオ、できればレティシアからセント嬢の魔力を抜いてやれ。高濃度の魔力を注ぎ込まれて不快で堪らないだろうから」

「なんてことを、私のなのに」

甲高い声をあげるセント嬢の視界の先でマールが妹に口づけていた。引きはがそうと手を伸ばすとレオ様に捕まれた。

「エイベル、リオは魔力を抜いてる。寝ている相手にはあれが一番早い」

妹が襲われているようにしか見えなかった。

「エイベル様、落ち着いて。レティシアは気にしませんよ。心の伴わないものに価値はありません。人命救助ですよ」

「レティシアに口づけていいのは私だけなのに。あの甘さに夢中になるのは」

マールは見ないようにして恐ろしいことを言ったセント嬢を睨む。

「レティシアに何をした!?」
「私の魔力で染めて、私の物にしようとしたの。私だけしか見れなくなるわ。私を求めてとまらない。潤んだ瞳で雪のように白い頬をほんのり染めて・・・」

悪寒が走った。目の前にいるのはなんだ・・。

「エイベル様には刺激が強くて向きませんね。この変態見たらレティシアも無理だな。レオ様、レティシアはもう平気ですか?顔色、良くなったからマール様をもう止めてもいいですか?」

「そうだな。エイベル、レティシアに魔力を送ってくれ。他人の魔力に侵されたあとは馴染んだ魔力が一番だ」
「事後処理は俺達が引き受けます。レティシアを保健室にお願いします」

二人に肩を叩かれてマールの腕から妹を取り返すことにした。青白く不快そうな顔に魔力を送ると口元が緩んでいった。魔力を送るのをやめるとうなっている。マールが任されると言うので俺は妹を休ませるために抱き上げて保健室を目指した。

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