追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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元夫の苦難25

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朝の訓練をしていると木の上にいるレティシアを見つけた。
訓練が終わったら声を掛けに行くか。手を繋いで登校することを想像したら口元が緩んだ。下から放たれる攻撃をかわして魔法で攻撃する。最近は魔法の発動が早くなった。レティシアに贈ったリボンのおかげだろう。研究者の無茶に応えたおかげで魔法の操作の腕が上がり魔石の純度も上がった。
訓練も終わり着替えてレティシアのもとに向かうと、魔法の気配がした。空中に投げ出されたレティシアの体を魔法で包み駆けよると立ち去るセント嬢を見つけた。

「大丈夫?」

きょとんとしたレティシアが頭を下げた。

「はい。ありがとうございました」

レティシアの反応がおかしい。いつもなら大げさと笑う所だ。

「俺の贈った魔石は?」

「なくなりました」

失念していた。もう使い終わったのか。今度から定期的に贈ろう。

「贈るから教えてよ。危ないよ」

「リオ様、もう一度だけ落ちてもいいですか?体がうまく動かなかったんです」

うまく動かなかった?先生に診てもらったほうがいいよな。レティシアが木に登らないように無理矢理抱き上げた。

「保健室に」

「怪我してません。今は動くんです。あの高さならいつもなら着地できるんですが」

顔色が悪く、目元にクマがある。

「レティシア、休もうか」
「大丈夫です。そろそろ行かないと授業に遅れます。降ろしてください」

暴れるレティシアは俺の部屋で寝かせることにした。放したら授業に出て、休み時間にもう一度、木から落ちに行きそうだった。
俺の腕の中で不服そうな顔をしているので、無理矢理膝の上に頭を乗せて手を置いて目を閉じさせた。頭を撫でているとすぐに寝息が聞こえ、寝つきの早さに笑ってしまった。
言いたいことのありそうな侍従の視線は無視して紙とペンを用意させた。
レオ様にレティシアが落ちた木を調べてほしいと手紙を書き侍従に使いを頼んだ。
起きそうになるレティシアの頭を撫でると口元が緩んでまた眠りにつく。
仕事をしていると戻ってきた侍従の報告書を受け取り読んだ。


イナリ・セント侯爵令嬢はレティシアの熱狂的なファン。
レティシアを付け回しているのか。
曾祖父がシオン伯爵家の出身だから薄いけど血が入っている。
怪しい薬と思考を持っているかもしれないな。シオン伯爵令嬢もおかしいから。シオン伯爵家は天才と変人の家。レオ様のようなマトモな人間は稀である。
レオ様からの手紙にはレティシアが落ちた木からはセント嬢の魔力の残り香と激しい振動を起こし、一時的に体の自由を奪える魔法もあると返答があった。レオ様は調査に関しては誰よりも有能だ。
セント嬢は魔法の不正利用で生徒会から追い出すか。
レティシアの言葉に返答しない様子も殿下は不機嫌そうに見てたから、除名だろう。平等の学園でも先輩で家格の高い存在への無視は許されない。貴族にとっては平等の学園と言う名の社交の場だから。
彼女はレティシアに気付かれないように処理するか。
後輩と言う理由で庇って気に掛けそうだから。

気付くと辺りは暗くなっていた。
起きたレティシアがぼんやりしている。頭を撫でるとゆっくりと起き上がった。
目のクマは薄れ顔色も良くなったな。申し訳なさそうな顔をしている。

「すみません」

「いいよ。ゆっくり眠れた?」

笑いかけると照れた様子で目を逸らした。

「お世話になりました」

「明日も寝かしつけてあげるよ」

目元をそっと撫でると、ゆっくりと首を振った。

「お気持ちだけで。失礼します」

立ち去ろうとするレティシアの手に風の魔石を置いた。

「本当は飛び降りるのやめてほしいんだけど。せめてこれを持っていてくれないか」

俺と魔石を交互に見て、嬉しそうに笑う。

「ありがとうございます。」

風魔法好きだよな。いくらでも贈るのに。俺の魔石を嬉しそうに抱えて部屋を出て行くのを見送った。送りたいけどいくつかやらないといけないことがあった。

***

レティシアが風邪で寝込んだのは丁度よかった。セント嬢の件をクロード殿下と話し合い、証拠もそろったので、処分の手続きを進めた。魔法を使った危険行為のため生徒会役員からの除名で次があれば処分することを警告した。木の上で過ごすレティシアへの反応は様々だったがビアード公爵家だからという理由で片付けられた。生徒会ではビアード兄妹の不思議な行動はこの答えで大体が片付けられる。

生徒会という関係がなければセント嬢と関わる気はないと思った俺の読みは甘かった。
昼休みにレティシアの魔力を探ると1年1組にいた。セント嬢達と食事をしているとは思わなかった。セント嬢の獲物を見るような視線に思わず抱き寄せた。離してくださいと騒ぐ口の中に好物のクッキーを入れると大人しくなったので顔を見せないように胸に押し当てた。
蜂蜜にぼんやりしているレティシアを連れて移動することにした。

「セント嬢は危険だから一人で近づかないで。どうしてもなら俺が一緒に行くから」
「嫌われてる理由はわかるんですが、生徒会のことで投げ出しましたので最後まで」

嫌われて?勘違いしてるけどそのままでいいか。関わらないように話したけど伝わっているか怪しい。教室に着いたので、レティシアの額に口づけを落とすときょとんとされた。文句を言われる前に頭を撫でて立ち去る。婚約者になっても牽制はやめない。彼女は多くの男を魅了しているから。

***

放課後、教師に捕まった。
レティシアを探すと魔力がわからなかった。部屋に帰り追跡魔法で調べると裏庭園のサロンにいた。嫌な予感がして急いで向かうとサロンは高濃度の魔力で覆われている。
手を入れると不快感が体を襲う。
何もせずに中に入れば、体が魔力に汚染されて動けなくなる。
魔力は風では飛ばせない。
駆けてきたビアードが中に入るのを止めるために声を掛けた。状況判断せずに突っ込むなよ。

「ビアード、中に入りたいけど、濃い魔力が漂っている」

止まったビアードが鳥に魔石を持たせて中に飛ばせた。鳥って学園に連れてきてるのか・・。
しばらくすると涼しい魔力が溢れて、膜を打ち消した。レティシアの魔石を使ったのか。
中に入ると倒れているレティシアと水魔法で拘束されたセント嬢。

「レティシア!!」

顔色が悪く、魘されて眠るレティシアを抱き上げる。

「エイベル、これは兄上の案件だ。俺は動けない。リオ、できればレティシアからセント嬢の魔力を抜いてやれ。高濃度の魔力を注ぎ込まれて不快で堪らないだろうから。」

魔力汚染か。レオ様が言うなら間違いないか。
レティシアに口づけて魔力を探り抜くために、吸った魔力をすぐに放出する。冷たい魔力と不愉快な魔力が混ざっているので、集中して分離させる。どれだけ注ぎこまれたんだよ。レティシアの体に知らない魔力が侵食されているのが不愉快でたまらない。

肩を叩かれて顔をあげた。

「リオ、そこまででいい。エイベル、魔力を送ってくれ。馴染んだ魔力のほうがいい。俺やリオだと負担になる」

腕の中のレティシアがビアードに奪われた。

「魔力なら俺が」
「今は駄目だ」
「マール様、この変態は二人の手におえません。できますか?彼女もレティシアに口づけたそうですよ」
「は?」

カーソンの言葉にセント嬢を見ると憎悪の視線を向けられている。

「私のレティシアに。彼女の全ては私の物なのに。でも辱められても私は許してあげる。お仕置きはするけど、ふふふ」

怪しく笑う目の前の相手に理由がわかった。これはビアード兄妹には手に余る。特にレティシアの目には触れさせたくない。

「クロード殿下を呼んできますか?」
「これを見せるのか?」
「違法の調合の毒薬だ。王宮への護送が必要な案件だ。俺は動けない」
「違法?」
「口にするのはちょっと。中身を知ればレティシアは発狂する。媚薬と麻薬。セリアの得意分野だよ」

レオ様に見せられた瓶には赤黒いねっとりとした液体が。
これを飲まされたのか・・。ここにあるなら吐き出したのか?
口移しで無理矢理飲まされた!?
謹慎、退学なんかじゃすませない。なんてものを彼女に・・・。

「ビアード、俺が引き受ける。レティシアを連れて行け。命令だ」
「わかった。」

ビアードがレティシアを連れていくのを見送り、カーソンに頼んでクロード殿下を呼んでもらった。
入ってきたクロード殿下が目を見張り、説明すると冷たい空気が流れた。当然だよな。

「ビアード公爵令嬢への殺人未遂と違法薬剤の使用」
「私はレティシアを助けようと。殺そうとしてないわ。違法のものも使っていない」
「魔力に汚染され、薬漬けで精神崩壊させ廃人にするのは殺人と変わらない。心を操るものは違法だから王宮でゆっくり申し開きを聞こうか」

クロード殿下が護衛を連れてセント嬢と転移して消えた。

「レオ様、ありがとうございました」
「俺はこれで」

保健室に行くと眠ったレティシアにエイベルが魔力を送っていた。
試しに空いている手を取って魔力を送ると嫌そうな顔をした。俺が手を離すと眉間の皺が消えた。

「手を出すな」

ビアードに睨まれているのはどうでもいいがこの状況は俺としては面白くない。

「エイベル、なんで?」

レティシアが目を開けて不思議そうな顔で見上げていた。

「他人の馴染まない魔力を送られ過ぎた。俺の魔力が一番だろう?」

ビアードの得意気な顔が不愉快だ。ふんわり笑ったレティシアは可愛いけど複雑。

セント嬢のことを説明すると視線を向けたレティシアが悲しそうな顔をした。
自分の所為かと泣きそうなレティシアの頭を撫でる。
咎めるようなビアードの視線は気にしない。本当のことは教えない。優しい彼女は気にして傷つくから。

「レティシアが捕まらなかったら違う相手だったよ。無事で良かった。殿下の御身に危険はない」

小さく頷く様子にほっとした。
レティシアの問いにゆっくりと答える。ビアードが余計なことを言う前に。泣きそうな顔のレティシアをもう一度寝かせることにした。レティシアが目を閉じるとビアードに睨まれた。

「おい!!」
「知らなくていいこともある。内輪で処理するよ。」
「騙すのか?」
「ああ。変態に狙われたなんて恐怖だろう?また更生させようとするかもしれない。余計なものは背負わなくていい。これからは向いていないことは俺がやる。公爵になるつもりはない。俺はレティシアと共にいられれば何もいらないから。レティシアのことは俺に任せてくれればいい」
「できるか!!」

ビアードのレティシアへの期待と厳しさはなんとかならないだろうか。
全てを知らなくていい。ビアード領を兄妹で支えるとしてもレティシアは当主ではない。責任も重圧もビアードほど重いものを背負う必要はない。むしろ俺達に丸投げしても許される立場だ。
華奢で、あどけない寝顔に何も思わないのだろうか。

「レティシアだって普通の女の子なんだよ。優しい世界で愛されて幸せになる権利はある。彼女には俺がそんな世界を作るよ」
「レティシアは望んでない」

わかってない。言っても無駄か。俺が勝手にやるか。

「ビアード公爵令嬢はな。この件は俺に任せてよ。義兄様?」
「気持ち悪い」
「同感だ。訴状は俺がビアード公爵夫人と相談してまとめる。余計なことは教えるなよ。ただでさえ不眠だったんだ。」

ビアードには納得させた。不服だろうが俺の方が口達者だ。大事な婚約者の安眠を妨げるようなことは許さない。
ビアード公爵夫人に詳細と訴状を送った。あとは処理してくれるだろう。
きっと満足した笑みを浮かべてくれるに違いない。
怪しい研究をしていたセント侯爵家は爵位を返上し、牢獄代わりの研究所に送られた。
一生被験者となり過ごせばいい。俺は死刑にしてやるほど優しくない。
レティシアに手を出し、恐ろしいものを飲ませようとした罪は死んだくらいじゃ許されない。
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