追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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元夫の苦難28

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サーカスのチケットが手に入ったのでレティシアを誘うために教室を訪ねた。
チケットを見せると首を傾げていた。喜ぶと思ったんだけど・・。

「リオ様、エイミー様が好きそうな講演の情報ありませんか?今月末の休養日なんですが」

なんでリール嬢?俺が誘った言葉は聞こえなかったのか?

「悲劇ではなく情操教育になりそうですか?」

リール嬢は芸術に関しては雑食だ。全く意図がわからない。

「誰と誰が行くの?」
「エイミー様とレオ様のお忍びデートです」
「レティシアも?」
「私はお目付け役兼護衛として潜んで見守ります」

レティシアはうまく潜めないだろう。確実に男に捕まりそうだ。ビアード公爵は変な男が近づかないように領外の外出を制限している。彼女の教育に悪いものは見せたくないらしい。ビアード領なら安全という絶対の自信もあるらしい。確かにビアード領民でレティシアに邪な視線を向ける者はいない。
リール嬢よりもレティシアのほうが心配なんだけど・・。

「俺も同行するよ」
「いえ、いりません」

即答で拒否された。確実に俺がサーカスに誘ったの忘れてるな。

「レティシアの外出許可取ったのか?」

目を丸くして立ち上がったので腕を掴んだ。レティシアのビアード領外の外出には俺かビアードが必要だった。
出かける口実があるならビアードに譲るのは惜しい。せっかくだからレティシアの喜ぶところに連れて行こう。あの二人はどこでも楽しむだろう。
二人のお忍びの手配を任せてほしいと言うとしばらく悩んだレティシアがにっこり笑ったので彼女のために手配を整えるか。
レオ様と相談して作った計画表をもとにビアードの護衛の手配も整えた。レティシアに尊敬した視線を向けられたのは嬉しかった

「マール様。一つお願いが」

俺の同行を知ったリール嬢に服飾店に寄ってレティシアの絵を描かせてほしいと頼まれた。

「嫌がったらやめていいか?」
「もちろんです。完成したらマール様にも差し上げます」
「2部ほしい」
「ご用意しますわ」

リール公爵夫人はレティシアを気に入っているから、何かあるんだろう。夫人達の機嫌は取っておいた方がいいから頷いた。
レオ様よりもリール嬢のほうが積極的。愛らしくて可愛い外見に騙されがちだけど、計算高い令嬢だ。公爵令嬢が平凡なわけがない。俺は周りの男達のように騙されるつもりはない。彼女の笑みに頬を染める男達はバカだと思う。

ローブで出かけると目立つので防御魔法と追跡魔法を仕込んだ紺のワンピースを贈った。レオ様達には制服姿でお願いした。制服姿なら王都の商人達は近づいてこない。良家の子女に声を掛けるほど馬鹿じゃない。俺は商人に声を掛けられても躱せるから私服でも問題なく、俺好みにレティシアを着飾れる機会を逃すのも惜しい。

俺の髪と同じ色に身を包むレティシアを見ると口元が緩み、手で覆う。
馬車を降りて気配を消しているレティシアの手を繋いだ。
人通りの多い場所で気配を消すのは逆に危険だ。気配を消すのはやめさせて、手を離さないでというとギュっと握る仕草は堪らなく可愛かった。

「兄ちゃん、かわいい彼女にどうだ?」
「急いでいるんだ。悪いな」

無言のレティシアが寂しそうに笑った。また混同しているのか。
果物を売っていたので、一口サイズの果物の串刺しを買い、唇にあてると口を開いてゆっくりと食べはじめた。

「!?」

目を大きく開けて飲み込んだ後に睨まれた。もう一つ食べさせるとにっこり笑った。あんまり食べさせると食事ができなくなる。残りは自分で食べるか。一口かじるとレティシアの好きそうな甘みに食べかけを口に運ぶと躊躇いもなく食べた。ふんわり笑ったので気に入ったみたいだ。無防備なレティシアが可愛くてたまらない。
時間が過ぎるのはあっという間で劇場に着いた。ここは王都で一番大きい劇場で同時に幾つかの演目をやっている。
大衆向けするものもあればマニアックなものも。
何が見たいか聞くとレオ様と同じがいいと言われた。
演題は見るつもりがないらいし。レオ様達はマニアックなものを選んでいた。
二人に事前にこれが見たいのか確認したら間違いではなかった。ただレティシアは確実に嫌がる内容だ。
あまりに酷いなら途中退場するために後ろの隅の席に座る。
レティシアはレオ様達を見つけてニコニコと笑っている。あの二人は無意識に甘い雰囲気をつくるところが羨ましい。リール嬢は確信犯でレオ様は無自覚だけど。

幕が開くと白い大蛇が現れ、繋いでいる手から震えが伝わる。
だからこの演目は避けたかった。

大蛇の覚醒。大蛇が成長して龍になる話だ。蛇が大量に出てくるため蛇好きの間では大人気の演目。美しい蛇に魅入られるやつも多いが俺にはよくわからない。
抱き寄せて、視界にはいらないようにした。
最初の1匹でこれならこれ以上は無理だろう。

「見なくていいよ。大丈夫だから」

舞台を見ようとするレティシアの頭を強引に肩に押し付けて頭を撫でると次第に寝息が聞こえた。
レティシアの寝つきの良さは時々心配になる。やはり過労だろうか?
気持ちよさそうに眠っているけど演目が終わったので起こすしかないか。尾行しないといけないし・・。

「レティシア、起きて」

目がゆっくりと開きぼんやりと見つめられた。ふんわり笑いゆっくりと目を閉じたので触れるだけの口づけを。この暗さなら見えないだろう。楽しそうに笑う様子が可愛くてもう一度触れるだけの口づけを落とした。
明るくなったので慌てて離れた。ビアードの騎士の前では手を出すのはまずい。

「リオもいたのか」
「はい。俺達は勝手に楽しみますのでごゆっくり」
「潜んでないで一緒に」

レオ様は二人っきりに拘っていないのは知っている。最初は4人で出かけることを提案された。

「俺はレティシアと二人っきりがいいので。お困りの際は声を掛けてください」
「レオ様、お邪魔してはいけません。行きましょう。またね」

リール嬢がレオ様を誘導して離れた。途中で合流するけど、今は別行動。お互いの幸せのために。
レオ様はいずれリール嬢と婚約するだろう。彼女から逃げられるとは思えない。
レティシアは気付いてないけど、レオ様の正体を知ってたし・・・・。
レティシアが固まった視線の先には看板があった。
大蛇の覚醒と大きく描かれている。
青い顔で見つめられた。

「リオ様、これを二人は楽しそうに見たんですか・・?」
「リール嬢は芸術関係は全て好きだから。レオ様は生き物好きだし」
「初デートなのに」
「楽しそうだからいいだろう。二人の好みは把握しているから心配ない」
「エイミー様にフラれたんですか?」

ありえない勘違いを訂正する。レティシアの情報と交換にリール嬢には色々献上したから・・。

「俺が告白したのはレティシアだけだ。リール嬢はクラスメイトだから」
「女性の好みの把握を自然にするのは流石ですわ」
「俺はレティシアしか興味はないけど、情報は大事だから」

不思議そうな顔をするレティシアの手を取り移動し、予約していたレストランを目指した。
あらかじめメニューも頼んでおいたのですぐに料理が出てきた。
デザートに特別に用意させた蜂蜜のアイスに満面の笑みを見せて食べはじめた。うっとりとスプーンを口に運ぶ姿にあらぬ妄想をしてしまった。俺の分を渡すといらないと言うので食べさせると幸せそうに笑うレティシアの餌付けは楽しい。

次は本屋に向かった。
レティシアはレオ様達を見つけて笑っている。しばらくすると本に視線が移る。俺の手を解いて中を歩き迷うことなく本を手に取っている。いつの間にか護衛騎士が現れ、荷物を持っている。
無意識なんだろうか?本を購入して袋に入れると満足そうに笑った。
きょろきょろしているレティシアの手を取ると安堵の顔を向けられた。逸れたと思ったんだろうか・・。
俺も本の購入をすませてレオ様達を追いかけるか。
装飾店ではレオ様が贈り物をしているところだった。何か贈るようにレオ様には指示を出した。二人の様子を見たレティシアが目を輝かせて、満面の笑みを浮かべた。レティシアを見て赤面するやつがいたので牽制するために抱き寄せて頬に口づけると睨まれた。睨んでも可愛いだけで無駄だって気付かないんだろうか。やっぱり二人っきりが一番いいよな。

「レティシア、一緒に行きましょう」
「え?」

腕の中のレティシアが奪われた。隣の店に入っていく二人をゆっくりと追いかけた。

「レオ様、行きましょうか。サラ様への贈り物は見つかりました?」
「ああ。エイミーが選んでくれた。喜ぶだろうか」
「きっと喜びますよ」

レオ様は放って置くとサラ様のための物しか買わない。デートは女性に贈り物をすると教えたから今後もちゃんと贈ってくれるだろう。
レティシアが着替えるために奥に連れて行かれた。

「マール様も着替えてください」
「俺も?」
「はい。二人でモデルになってください」

雰囲気が怖いので従うことにした。騎士の制服のような服を着せられた。レティシアは色鮮やかなワンピースを着ていた。落ち着いた色を好む彼女が選ばないデザインだった。

「マール様、抱き寄せてください。視線は甘くして」

指示通りに動くと頬を染めて、不思議そうに見られた。

「マール様、見つめ合ってください。レティシアもしっかり見つめ返して」

レティシアを見つめると瞳を潤ませ困惑している様子につい笑ってしまった。

「私で遊ばないでください」

「お母様に頼まれてる。もう少し頑張って」

「マール様、手を取って口づけを」

幾つか指示に従うとレティシアの目が光を失った。

「かえりたい」

これ以上は危険だった。せっかく警戒心が解けたのにまた振り出しにもどるのは御免だった。

「リール嬢、これ以上はちょっと。機嫌損ねそうなのでいいですか?」
「わかりました」

物足りなそうなリール譲に気付かないフリをした。
幾つか店を回ってもレティシアに冷たい視線を向けられた。

「レティシア、機嫌直せよ」
「酷いです。私はレオ様達のために頑張ったのに」
「楽しかったよ。これあげるよ」
「サラ様の分はありますか?」
「もちろん。」
「きっと喜びますわ。ありがとうございます。レオ様の初めてのお忍び記念に大事にします」

「マール様、しっかりしてください」
「もともとは君の願いの。何でもない。」

レオ様と楽しそうに話すレティシアの腰を抱き寄せて強引に引き離すことにした。
不満そうに睨むレティシアは頭を撫でても駄目だった。

「なんでも好きな物を買ってあげるから機嫌直してよ」
「私の代りに殿下のお手伝いをお願いします」
「残念ながらレティシアの任される分野は俺にはわからないよ。俺に代りは務まらない。蜂蜜買ってあげるよ」
「私は買収されたりしません」
「次はサーカスに行こうよ」
「マール様とは出かけません」
「呼び方。そんなに怒るなよ」

止めるのが遅かったみたいだ。どうやって機嫌を取るか・・・。
レオ様がレティシアにまで贈り物をするとは思わなかった。俺からの贈り物は断るのにどうしてレオ様のは嬉しそうに受け取るんだよ。
デートはやはり二人がいい。クロード殿下にレオ様のお忍びの許可は俺が取ろう。俺達が巻き込まれないように。
貴重なレティシアの時間がレオ様達に奪われるのは嫌だから。
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