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元夫の苦難36
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1年生の令嬢達がしつこい。
追い払っても付きまとい、俺の部屋の前で待ち伏せするのもやめてほしい。
愛人になりたいと迫られても迷惑だ。
クロード殿下の言うように今年の新入生は質が悪い。
試しでいいから恋人にしてほしい。
レティシアよりも満足させるってどういう意味だよ。
レティシアより魅力を感じるものをなにも持たないのに、すごい自信だよな。
力の持たない家の令嬢達は良家の男に取り入るために手段を選ばず強かだが、取り締まりにあうような真似はあまりしない。
令嬢が男に付きまとわれ、要請があれば生徒会が動くがその逆はほとんどない。
俺にとっての迷惑行為を当主に訴えても、相手を喜ばせるだけ。謝罪の場に招待されそのあとは考えたくもない。
相手をするのも面倒で逃げているとレティシアの部屋の近くだった。
魔力を辿ると部屋にいるので扉をノックしても声はない。
扉を開けると笑顔でアップルパイを食べている。周りに人の気配はなく、一人なのか。
近づいてもアップルパイから顔をあげないレティシアを背中からゆっくりと抱きしめる。
「リオ様、気配もなく近づくのは」
「ごめん。少しだけ充電させて」
無防備な時のレティシアは俺の気配に気付かない。
不満そうに言うレティシアの肩に顔を埋める。
欲しいのはレティシアだけなのに。
婚約したのにレティシアと二人の時間が全然ない。
レティシアが一人でいるのは珍しい。
誰とも予定がないなら俺と過ごしてほしいのに。
口元にはフォークで刺したアップルパイ。
食べさせてもらえることに気分が上り、照れるのを隠して口に含むと食べたことのない変な味がする。
レティシアが作ったのか聞いたら恐ろしい言葉を聞いて血の気が引いた。
シオン嬢の手作りは恐ろしすぎる。
部屋の前にお菓子が置いてあったがレティシアの名前でカードが付いていたが字と香りが違った。
シオン嬢からの怪しい差し入れだろうと疑い捨てた。彼女の訪問日に怪しい物を贈られてくることはよくあること。
「食べたのか!?」
「これは大丈夫です。何も仕込まれてません」
「その自信はどこから」
「勘です」
机の上のアップルパイは半分近く無くなっている。
シオン嬢と一緒に食べたとしても、結構な量を食べたんだろうか。
自信満々な顔をするが心配でたまらなかった。
俺のことは気にせずアップルパイを口に含み、寂しそうに笑ったレティシアを抱き上げてソファに移動した。
ぼんやりしている頭をゆっくりと撫でると焦がれる瞳を向けられた。思い出しているんだろう。
シオン嬢も生前の記憶の関係者だったんだろうか。
胸に顔を埋めたレティシアの手が背中に回ってギュっと抱きつかれた。
寂しそうな彼女が消えそうで、強引に顔を持ち上げて唇を重ねる。
頬に手を添えられ、うっとりと見つめられ、甘い笑みに自分の熱が上がるのがわかる。
もう一度口づけを落とそうとすると、とろけるような甘い笑みを浮かべ目を閉じる。
口づけを深くしていくと背中に回る手に力がこもったのは初めて。
頬を染めて、気持ちよさそうに口元を緩ませ、潤んだ瞳で見つめるレティシアに理性が負けそうだった。
俺の下で潤んだ瞳でうっとりしているレティシアにもう一度口づけようとすると体が飛んだ。
頭が痛い。
目を開けると不機嫌な顔のビアードとクッキーを食べているレティシアがいた。ビアードに邪魔されたのか。
「何するんだよ」
ゆっくりと立ち上がるとビアードに睨まれるがノックもなく勝手に入り、人を突き飛ばすとは無礼すぎないか。
親しくても最低限の礼儀は必要だ。
寝息が聞こえ視線を向けるとレティシアはいつの間にか眠っている。
「手を出すなとあれほど」
「合意」
このシスコンはどうにかならないだろうか。
「ふざけるなよ。婚姻前だろうが」
最後まで手を出すつもりはなかった。
ビアードには好きな女を前に触れたくなる気持ちはわからないんだろうな。
「いずれわかるよ。あの可愛さを前にして抗えない」
「どこですか?」
不思議そうな声を出したレティシアが起き上がっていた。
「レティシア?」
「どなたですか?」
ビアードの伸ばした手に震え、きょろきょろとしたレティシアが立ち上がって勢いよく抱きついてきた。
「レイ兄様、ここはどこですか?お母様に怒られてしまいます。帰らないと、どうしよう。まだお勉強が、抜け出してませんのに」
レイ兄様ってレイヤ兄上?
「淑女は泣いてはいけません。シエル、どこですか?」
シエルって叔母上の侍女だよな?
まさか記憶が退行しているのか?
震えながら涙を堪え離れようとするレティシアの頭をゆっくり撫でた。
「シア、大丈夫だよ。怒られない。俺が守ってあげるよ」
「リオ兄様?でもこんなに大きくありません」
やはり退行している。
ビアードには言えないしごまかすか。
「そうだよ。シアは夢を見てるんだ。ここは夢」
「夢だからリオ兄様が大きいんですか?」
震えは止まり、不思議そうな顔で見つめられている。
「そうだよ。シアも大きくなってるよ」
「本当です!!さすがリオ兄様。私はリオ兄様よりは小さいんですね。殿下もですか?」
目を輝かせて満面の笑みを浮かべるのは可愛い。殿下には会わせられないけど。
疑わずに信じるのか。
「シアよりは大きくありたいよ。殿下は今はいらっしゃらない」
「どうして殿下のお傍に二人がいないんですか?エイベルは殿下の騎士見習いでしょう?探しにいかないと」
怒った顔をしているレティシアの頬に手を当てて、瞳を見つめてゆっくりと言葉をかける。
「ここは夢の世界だよ。好きなことをしていいんだよ」
「好きなこと?」
「俺がなんでも叶えてあげる」
「悪いことしてません。お説教されるのは殿下のお傍を離れたエイベルですわ。本当にお母様に怒られませんか?」
「絶対に怒られないよ」
ふんわりした笑みを浮かべ抱きつかれた。
「私、お昼寝がしたいです。木の上で眠るの。はしたないって怒られますがずっと羨ましかったんです」
「雨が降ってるから木の上は今度な」
抱き上げて、ソファに座り膝を枕に寝かせることにした。
余計なことを言ったらまずい。
ビアード以外にやばい人間が潜んでいる。
「リオ兄様、眠るまで傍にいてくれますか?」
「もちろん」
甘えた声を出すレティシアの頭を撫でると、ふんわり笑ってしばらくすると寝息が聞こえた。
全幅の信頼を寄せる視線と甘える態度がたまらない。
彼女はリオの言葉はどんな言葉も信じるのか。
「マール、どういうことだ?」
不機嫌なビアードに確認するか。
食べていたクッキーに見覚えがあり、食べてすぐに眠ったことが怪しすぎる。
「レティシアに変なもの食べさせてないよな?部屋の前に置いてあったクッキーとか?」
「食べてたな」
「バカだろう。怪しい物を食わせるな」
「怪しいなんて心外ね。まさかレティシアが食べるなんて・・」
「シオン嬢!?」
シオン嬢にビアードが驚いている。
結構前からシオン嬢はいたけど。
騎士なのに気づかないのはまずいだろう。
気づかないほど動揺してたのだろうか。
「強いものではないわ」
「うるさいです」
レティシアの不機嫌な声が聞こえ、ゆっくりと起き上がった。
「どなたですか?」
「人に名前を聞く前に自分から名乗るのよ」
「私はだれでしょうか?」
シオン嬢が笑っているけど今度はなんだ。
「この二人はわかる?」
レティシアが首を横に振っている。
「記憶喪失の症例は初めてだわ」
妖艶に微笑んでいる様子に寒気がした。
なんの薬を仕込んだんだよ。
「お姉さん、お願いがあるの。このお兄さんたちにお願いきいてって頼んでくれる?」
「お兄さん?お願いきいて」
首をかしげて、つたない言葉で話す姿は可愛い。退行の次は記憶喪失か…。
言葉を素直に受け止めるのか。警戒されないように笑顔を浮かべて抱きしめる。
「俺はリオ。君の婚約者だ」
「リオ?婚約者?」
「ずっと離れないで傍にいる約束をしたんだ」
「覚えてない。ごめんなさい」
悲しそうな顔をするので頭をゆっくりと撫でた。
「俺が覚えてるからいいよ。この人の言うことは聞いてはいけないよ。俺がなんでも教えてあげるから任せて」
「うん」
可愛い。
こんなに素直に頷く彼女は知らない。
「俺の傍を離れてはいけないって覚えてくれればいいよ」
「マール様、洗脳するなんて最低」
「君に言われたくない。俺のは洗脳ではなく事実で必要なことだ」
がさがさと音が聞こえて視線をむけるとビアードが引き出しを開けて箱を取り出した。
ためらいもなく人の机を漁るなよ。
中には魔石が詰まっていた。
「これは?」
「説明する理由はない」
ビアードがレティシアに魔法の付加してある魔石を吸収させている。3つ目の魔石を吸収させるとレティシアは意識を失った。
「魔石に付加できるのって治癒魔法だけではないのね・・・。弱い薬とはいえ、まさか魔石に解毒されるなんて・・。これはもう少し強くしてもいいかしら」
「ビアード、人の部屋を荒らすなよ」
「レティシアのほうが酷い。俺の部屋を完全に私物化している。必要ならいつでも使っていいって言われてる」
「私ももらっていい?」
「やるかよ。妹に近づくな」
言い合っている二人は放っておいて、腕の中で眠るレティシアを堪能するか。
危険なので、シオン嬢とは近づけないようにしたい。
「レティシアの魔石の管理しっかりしなさいよ。市井に出回れば魔石の価格が暴落する。時々ならいいけど、売られてるわよ」
「は?」
「良質な魔石は高値よ。大量にレティシアレベルの純度の魔石が出回ればどうなるかわかるでしょう?しかも作成者の名を出す者がいれば」
可愛いレティシアを堪能している場合ではなかった。
「ビアード、レティシアは魔石を」
「生徒に頻繁に渡している。護身用と練習用と…」
ビアードがレティシアの魔石をシオン嬢に投げた。
「情報料だ。今後も何かあれば取引を」
「高価な魔石を」
「有益な情報には対価を払う」
「気前の良さは兄妹ね。私はこれで」
シオン嬢は上機嫌で立ち去った。
ビアードとレティシアの魔石に譲渡について話し合った。
渡したものは記録させる。
生徒に配布するのは売らない誓約をつけるか渡さないかは本人と相談するらしい。
レティシアの魔法指導を受ける生徒は多い。欲に目が眩む生徒が出るのも仕方ない。
金目当てで貴族に近づく生徒も珍しくない。
利用されるほうが悪いけどレティシアが相手なら話は変わる。
彼女の好意を利用するなら地獄をみせよう。貴重なレティシアの時間を…。
レティシアの平穏のためにビアードと手を組むことにした。
ビアードは頼りにならないので指示通りに動いてもらうか。
レティシアの魔法指導には後輩を送り込んで監視させる準備をするか。
グレイ嬢に頼めば協力してくれるだろうし、声を掛けておくか。
追い払っても付きまとい、俺の部屋の前で待ち伏せするのもやめてほしい。
愛人になりたいと迫られても迷惑だ。
クロード殿下の言うように今年の新入生は質が悪い。
試しでいいから恋人にしてほしい。
レティシアよりも満足させるってどういう意味だよ。
レティシアより魅力を感じるものをなにも持たないのに、すごい自信だよな。
力の持たない家の令嬢達は良家の男に取り入るために手段を選ばず強かだが、取り締まりにあうような真似はあまりしない。
令嬢が男に付きまとわれ、要請があれば生徒会が動くがその逆はほとんどない。
俺にとっての迷惑行為を当主に訴えても、相手を喜ばせるだけ。謝罪の場に招待されそのあとは考えたくもない。
相手をするのも面倒で逃げているとレティシアの部屋の近くだった。
魔力を辿ると部屋にいるので扉をノックしても声はない。
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近づいてもアップルパイから顔をあげないレティシアを背中からゆっくりと抱きしめる。
「リオ様、気配もなく近づくのは」
「ごめん。少しだけ充電させて」
無防備な時のレティシアは俺の気配に気付かない。
不満そうに言うレティシアの肩に顔を埋める。
欲しいのはレティシアだけなのに。
婚約したのにレティシアと二人の時間が全然ない。
レティシアが一人でいるのは珍しい。
誰とも予定がないなら俺と過ごしてほしいのに。
口元にはフォークで刺したアップルパイ。
食べさせてもらえることに気分が上り、照れるのを隠して口に含むと食べたことのない変な味がする。
レティシアが作ったのか聞いたら恐ろしい言葉を聞いて血の気が引いた。
シオン嬢の手作りは恐ろしすぎる。
部屋の前にお菓子が置いてあったがレティシアの名前でカードが付いていたが字と香りが違った。
シオン嬢からの怪しい差し入れだろうと疑い捨てた。彼女の訪問日に怪しい物を贈られてくることはよくあること。
「食べたのか!?」
「これは大丈夫です。何も仕込まれてません」
「その自信はどこから」
「勘です」
机の上のアップルパイは半分近く無くなっている。
シオン嬢と一緒に食べたとしても、結構な量を食べたんだろうか。
自信満々な顔をするが心配でたまらなかった。
俺のことは気にせずアップルパイを口に含み、寂しそうに笑ったレティシアを抱き上げてソファに移動した。
ぼんやりしている頭をゆっくりと撫でると焦がれる瞳を向けられた。思い出しているんだろう。
シオン嬢も生前の記憶の関係者だったんだろうか。
胸に顔を埋めたレティシアの手が背中に回ってギュっと抱きつかれた。
寂しそうな彼女が消えそうで、強引に顔を持ち上げて唇を重ねる。
頬に手を添えられ、うっとりと見つめられ、甘い笑みに自分の熱が上がるのがわかる。
もう一度口づけを落とそうとすると、とろけるような甘い笑みを浮かべ目を閉じる。
口づけを深くしていくと背中に回る手に力がこもったのは初めて。
頬を染めて、気持ちよさそうに口元を緩ませ、潤んだ瞳で見つめるレティシアに理性が負けそうだった。
俺の下で潤んだ瞳でうっとりしているレティシアにもう一度口づけようとすると体が飛んだ。
頭が痛い。
目を開けると不機嫌な顔のビアードとクッキーを食べているレティシアがいた。ビアードに邪魔されたのか。
「何するんだよ」
ゆっくりと立ち上がるとビアードに睨まれるがノックもなく勝手に入り、人を突き飛ばすとは無礼すぎないか。
親しくても最低限の礼儀は必要だ。
寝息が聞こえ視線を向けるとレティシアはいつの間にか眠っている。
「手を出すなとあれほど」
「合意」
このシスコンはどうにかならないだろうか。
「ふざけるなよ。婚姻前だろうが」
最後まで手を出すつもりはなかった。
ビアードには好きな女を前に触れたくなる気持ちはわからないんだろうな。
「いずれわかるよ。あの可愛さを前にして抗えない」
「どこですか?」
不思議そうな声を出したレティシアが起き上がっていた。
「レティシア?」
「どなたですか?」
ビアードの伸ばした手に震え、きょろきょろとしたレティシアが立ち上がって勢いよく抱きついてきた。
「レイ兄様、ここはどこですか?お母様に怒られてしまいます。帰らないと、どうしよう。まだお勉強が、抜け出してませんのに」
レイ兄様ってレイヤ兄上?
「淑女は泣いてはいけません。シエル、どこですか?」
シエルって叔母上の侍女だよな?
まさか記憶が退行しているのか?
震えながら涙を堪え離れようとするレティシアの頭をゆっくり撫でた。
「シア、大丈夫だよ。怒られない。俺が守ってあげるよ」
「リオ兄様?でもこんなに大きくありません」
やはり退行している。
ビアードには言えないしごまかすか。
「そうだよ。シアは夢を見てるんだ。ここは夢」
「夢だからリオ兄様が大きいんですか?」
震えは止まり、不思議そうな顔で見つめられている。
「そうだよ。シアも大きくなってるよ」
「本当です!!さすがリオ兄様。私はリオ兄様よりは小さいんですね。殿下もですか?」
目を輝かせて満面の笑みを浮かべるのは可愛い。殿下には会わせられないけど。
疑わずに信じるのか。
「シアよりは大きくありたいよ。殿下は今はいらっしゃらない」
「どうして殿下のお傍に二人がいないんですか?エイベルは殿下の騎士見習いでしょう?探しにいかないと」
怒った顔をしているレティシアの頬に手を当てて、瞳を見つめてゆっくりと言葉をかける。
「ここは夢の世界だよ。好きなことをしていいんだよ」
「好きなこと?」
「俺がなんでも叶えてあげる」
「悪いことしてません。お説教されるのは殿下のお傍を離れたエイベルですわ。本当にお母様に怒られませんか?」
「絶対に怒られないよ」
ふんわりした笑みを浮かべ抱きつかれた。
「私、お昼寝がしたいです。木の上で眠るの。はしたないって怒られますがずっと羨ましかったんです」
「雨が降ってるから木の上は今度な」
抱き上げて、ソファに座り膝を枕に寝かせることにした。
余計なことを言ったらまずい。
ビアード以外にやばい人間が潜んでいる。
「リオ兄様、眠るまで傍にいてくれますか?」
「もちろん」
甘えた声を出すレティシアの頭を撫でると、ふんわり笑ってしばらくすると寝息が聞こえた。
全幅の信頼を寄せる視線と甘える態度がたまらない。
彼女はリオの言葉はどんな言葉も信じるのか。
「マール、どういうことだ?」
不機嫌なビアードに確認するか。
食べていたクッキーに見覚えがあり、食べてすぐに眠ったことが怪しすぎる。
「レティシアに変なもの食べさせてないよな?部屋の前に置いてあったクッキーとか?」
「食べてたな」
「バカだろう。怪しい物を食わせるな」
「怪しいなんて心外ね。まさかレティシアが食べるなんて・・」
「シオン嬢!?」
シオン嬢にビアードが驚いている。
結構前からシオン嬢はいたけど。
騎士なのに気づかないのはまずいだろう。
気づかないほど動揺してたのだろうか。
「強いものではないわ」
「うるさいです」
レティシアの不機嫌な声が聞こえ、ゆっくりと起き上がった。
「どなたですか?」
「人に名前を聞く前に自分から名乗るのよ」
「私はだれでしょうか?」
シオン嬢が笑っているけど今度はなんだ。
「この二人はわかる?」
レティシアが首を横に振っている。
「記憶喪失の症例は初めてだわ」
妖艶に微笑んでいる様子に寒気がした。
なんの薬を仕込んだんだよ。
「お姉さん、お願いがあるの。このお兄さんたちにお願いきいてって頼んでくれる?」
「お兄さん?お願いきいて」
首をかしげて、つたない言葉で話す姿は可愛い。退行の次は記憶喪失か…。
言葉を素直に受け止めるのか。警戒されないように笑顔を浮かべて抱きしめる。
「俺はリオ。君の婚約者だ」
「リオ?婚約者?」
「ずっと離れないで傍にいる約束をしたんだ」
「覚えてない。ごめんなさい」
悲しそうな顔をするので頭をゆっくりと撫でた。
「俺が覚えてるからいいよ。この人の言うことは聞いてはいけないよ。俺がなんでも教えてあげるから任せて」
「うん」
可愛い。
こんなに素直に頷く彼女は知らない。
「俺の傍を離れてはいけないって覚えてくれればいいよ」
「マール様、洗脳するなんて最低」
「君に言われたくない。俺のは洗脳ではなく事実で必要なことだ」
がさがさと音が聞こえて視線をむけるとビアードが引き出しを開けて箱を取り出した。
ためらいもなく人の机を漁るなよ。
中には魔石が詰まっていた。
「これは?」
「説明する理由はない」
ビアードがレティシアに魔法の付加してある魔石を吸収させている。3つ目の魔石を吸収させるとレティシアは意識を失った。
「魔石に付加できるのって治癒魔法だけではないのね・・・。弱い薬とはいえ、まさか魔石に解毒されるなんて・・。これはもう少し強くしてもいいかしら」
「ビアード、人の部屋を荒らすなよ」
「レティシアのほうが酷い。俺の部屋を完全に私物化している。必要ならいつでも使っていいって言われてる」
「私ももらっていい?」
「やるかよ。妹に近づくな」
言い合っている二人は放っておいて、腕の中で眠るレティシアを堪能するか。
危険なので、シオン嬢とは近づけないようにしたい。
「レティシアの魔石の管理しっかりしなさいよ。市井に出回れば魔石の価格が暴落する。時々ならいいけど、売られてるわよ」
「は?」
「良質な魔石は高値よ。大量にレティシアレベルの純度の魔石が出回ればどうなるかわかるでしょう?しかも作成者の名を出す者がいれば」
可愛いレティシアを堪能している場合ではなかった。
「ビアード、レティシアは魔石を」
「生徒に頻繁に渡している。護身用と練習用と…」
ビアードがレティシアの魔石をシオン嬢に投げた。
「情報料だ。今後も何かあれば取引を」
「高価な魔石を」
「有益な情報には対価を払う」
「気前の良さは兄妹ね。私はこれで」
シオン嬢は上機嫌で立ち去った。
ビアードとレティシアの魔石に譲渡について話し合った。
渡したものは記録させる。
生徒に配布するのは売らない誓約をつけるか渡さないかは本人と相談するらしい。
レティシアの魔法指導を受ける生徒は多い。欲に目が眩む生徒が出るのも仕方ない。
金目当てで貴族に近づく生徒も珍しくない。
利用されるほうが悪いけどレティシアが相手なら話は変わる。
彼女の好意を利用するなら地獄をみせよう。貴重なレティシアの時間を…。
レティシアの平穏のためにビアードと手を組むことにした。
ビアードは頼りにならないので指示通りに動いてもらうか。
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