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兄の呟き1 カナト視点
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帰国してうちの夜会に参加すると招待客と談笑しているレティシアを見つけた。
いつもレティシアに付き纏っている末弟がいない。レティシアの腰を抱きながらダンスに誘う男の邪魔をするリオがいないので次々と話しかける男達に微笑みかけダンスの誘いを受けている。
古い慣習の多いフラン王国では婚約者を持つものは身内以外のダンスはマナー違反だがうちの夜会は国外からの招待客も多いためダンスに関しては無礼講である。
レティシアにも教えてあるので誘われれば笑顔で受け軽やかにステップを踏んでいる。
婚約者の有無に関係なく可憐で美しい少女とお近づきになりたい男は多くダンスに誘おうと狙っている男は多い。
武門公爵家出身のため運動神経抜群でリオよりもダンスが上手く、聞き上手なレティシアはマールの貴重な戦力。
華奢な体でも輝かしい銀髪と人形のように整った顔立ち、少女から大人へ成長していく可憐な少女は会場に置いておくだけで華やかになる。単体でも、兄弟で一番容姿端麗なリオと並べておいても絵になる。
母上にリオのことを聞くと一切帰らず、任せた仕事も放棄し、最後の学園生活を満喫しているらしい。
レティシアにリオの様子を聞くと学園生活を満喫しているので自分に送ってほしいと笑顔で頼まれた。
リオはレティシアと過ごすのに必死だから、二人の時間を作るのに協力するか。
帰りにレティシアにリオに任せる書類を渡すと笑みを浮かべて受け取り礼をして馬車に乗り込んだ。
夜会ではレティシアがリオの代役としてマール公爵家のおもてなしをしていたので不満の声は一切なく、むしろ評判が良かった。
翌朝にレティシアに預けた書類が全て届けられた。
一晩でできる量ではない。リオは届け忘れてただけだろうか。
それとも慌てて二人で終わらせたのか?
レティシアが学園に着いたのは日付が変わる頃の時間帯だろうが、まさか深夜に会っているのか?
「これをリオが?」
エレンが受け取った書類をじっくりと見ている。
覗くと凝視している理由がわかった。
書類にはリオの紋章がなく、リオのサインがある。
うちは個々で紋章が用意され、サイン代わりに使っている。直筆のサインをいれることはほとんどない。
浮かれすぎてボケたか?
子供の頃から教えているからサインをすることはないだろう。サイン以外は完璧に仕上げている。
「まさか…」
「疑念の放置はいけませんよね」
ありえない考えだが同じ疑念を持ち、微笑んだエレンが二人に同じ書類を送った。
翌朝にはサインの入ったレティシアに託した書類だけ返ってきた。
リオの文字を真似たレティシアが全て終わらせたのか。
偽造を諌めるよりも責められるのはリオだろう。
母上が冷たい笑みを浮かべていたから羽目を外し過ぎなリオには両親から説教があるだろう。
「文字だけならそっくり。筆跡を真似るのも得意なのかしら。難易度上げてみましょう」
エレンだけは指導もなく完璧に終わらせる優秀なレティシアに喜び、さらに難易度の高いものを送っている。
リオは相変わらず帰宅命令を無視している。
レティシアの教育に夢中なエレンはリオの教育に励んでほしい。
そしてマールの良心のレイヤがいないから、母上達からどんな指導を受けても誰もリオを庇わないだろう。
困惑した顔の執事に呼ばれて急遽面会したのは眠ったリオを抱えた制服姿のサイラスとリール公爵令嬢がいた。
リール公爵夫人は母上と親しく頻繁に訪問するがご令嬢は顔を出さないので面識は少ない。
愛らしい顔立ちに物腰柔らかなリール嬢は楽器を持たせると美女に変貌を遂げ、ギャップに弱い男達の心を射止め婚約の申し出が殺到している。
今はレオ殿下に夢中と囁かれているが、それでも人気は変わらない。
リール嬢を手に入れた男は嫉妬ややっかみを受けるからそれなりに大変だろう。
それはうちの愚弟も同じか。武門貴族の憧れで、一部には至宝と囁かれるレティシアは家格の低い子息達からの人気が凄い。
「ようこそ。歓迎するよ」
「先触れもなく申し訳ありません。レティシアの代わりにマール様をお届けに。言葉が届かないので、武力行使をさせていただきました。優雅ではありませんがこの程度ですんだことを感謝してくださいませ」
リール嬢は愛らしい声で話すが纏う空気は冷たい。
リオへの視線も冷たく、愛らしく微笑んで見えるのに寒気がする。
「リオが何か?」
「私の口からは申しません。レティシアからマール様に帰宅するよう説得を頼まれました。この件でレティシアを責めるなら本気でお相手しますのでお覚悟を」
リール公爵家は政治に干渉しない。
だが芸術一家はファンが多く、世論操作も得意であり敵に回してはいけない家である。
「リオは部屋に運べばいいですか?」
「リール嬢、お礼にお茶でも」
「お断りします。失礼します」
「残念だ。サイラスはうちが送るから先に帰って構わないよ」
「かしこまりました」
「え?」
驚くサイラスを気にせず上品に礼をしてリール嬢は出て行く。
友人が春の妖精と呼んでいたが冬の妖精の間違いじゃないか?
令嬢に寒気を感じたのはエレン以外で初めてだ。
逃げないようにサイラスの肩を掴んだ。
令嬢がわかりやすく怒りを表現するのはキレている時か思惑がある時。リール嬢を怒らせた愚弟は何をしたのか知っていそうなサイラスを逃がすわけにはいかない。
「久しぶりだな。事情を説明してくれないか。リオはそこに転がしていいから。教えてくれるよな?」
リオとサイラスは子供の頃から躾けているから俺には逆らわない。
笑いかけると視線を反らしたが、そのまま待つと無理矢理な笑顔を浮かべてゆっくりと口を開いた。
すぐに口を開かないのがリオとサイラスの違いだ。
「レティシア嬢に酷い態度だったので代役を任されました」
「酷い態度とは?不敬を責めないから、正直に話してくれ」
「マール公爵からの伝言を伝えにきたレティシアが嬢に、殺気を浴びせ、ビアード公爵令嬢としてふさわしくない等責め、紳士としてあるまじき態度にリール嬢をはじめ、レティシア嬢を慕う生徒が怒りに震えてます。ビアード兄妹が手出し不要と言うので、堪えて、誰も動きませんが、これ以上刺激したら斬られても庇えません」
「喧嘩でもしたのか?」
「わかりません。リオは1年生の伯爵令嬢に夢中で、幸せそうに令嬢と最後の学園生活を満喫してます。リオには俺の言葉は届きません。俺はこれで失礼します」
温厚なサイラスが怒っているのは初めて見た。武門貴族は冗談を言わず謀もほとんどしない。
長椅子にリオを寝かせたサイラスが礼をして出ていく。
怒っても床に捨てないところが優しいよな。
執事にサイラス学園まで送らせ、情報収集を命じる。
リオの友人でずっと初恋を応援してくれていたサイラス。
友人を失っても手に入れる価値のある令嬢だろうか。
「喧嘩?」
「母上、お帰りなさい。いえ、リール嬢とサイラスが親切に送り届けてくれました」
椅子の上で眠っているリオを見つめる母上に事情を説明すると困惑した顔をした。
「リオとレティシアの不仲の噂は社交界では聴かないけど」
「レティシアが手を回してます。学園で広まっていることを社交界では隠す手腕、リオはいらないからレティシアだけは欲しい」
「冗談言ってないで情報を集めないと」
「まずは当事者から事情を聞きますか。起きろ」
ぐっすり眠っているリオにかけてある眠りの魔法を解くと勢いよく起き上がった。
「おかえり」
「は?ここは!?彼女は!?」
真顔で立ち上がり出て行こうとする腕を掴む。
振り返ったリオが目をつり上げて睨む。リオに睨まれるなんて初めてだな。怖くないけど。
「邪魔するな。俺がいないと」
「帰省命令に逆らった理由は?」
「そんなものより俺が守らないと。俺がいないと」
そんなもの?
腕を振り払おうと暴れるリオを母上が魔法で眠らせた。
「ゆっくり話さないといけないわね」
リオは冷たい笑みを浮かべる母上に任せるか。
学園から呼び戻したリオの侍従が戻ってきたので報告させるか。
「リオ様はリンダ・ブローダ伯爵令嬢と親しくされています。いずれ第二夫人に迎え入れると仰せになるほど気に入り、常に一緒に過ごされていました」
「レティシアと何かあったのか?」
「特には。ブローダ様を丁重に扱うように命を受けていますが、それ以外はなにも」
学園生活を満喫ってこういうことだったのか…。
卒業前にハメを外して遊んでいるのか。そして仕事は全部レティシアに押し付けているのか。よく一言も不満を言わずにマールの社交に出てきたな。エレンだったら恐ろしい行動を起こすだろう。
「放せ!!行かないと!!」
爆発音が聞こえた部屋に行くとリオが結界から出ようと暴れているのを母上が魔法で抑えている。
母上に加勢して魔法で拘束する。
伯爵令嬢に会いたいと暴れるリオは母上に任せるか。
リオは俺の拘束魔法を解けないから、母上に怒られ頭を冷やすだろう。
ブローダ伯爵令嬢を調べて叔父上を呼ぶ手配をするか。
俺に逆らうなんて頭がおかしいかもしれない。
応急処置以外の医療は専門外だ。
いつも忠実だった弟の遅い反抗期なら厳しく躾け直さないといけない。
俺の命令に逆らいマールの仕事を疎かにし、勝手に第二夫人を迎えると豪語する立場のわかっていない末の弟を。
****
学園に送った諜報からの報告は想像を超えるものだった。
サイラスが怒っていた理由も納得した。
リオの恋人は1年3組のリンダ・ブローダ伯爵令嬢。
もとは上位貴族だったが年々勢力を失い下位貴族まで転がり落ちた伯爵家。
リオの熱狂的なファンの一人で成績も悪く、我儘な性格で評判が悪い。
容姿も平凡で何一つ魅力的には見えないがクラスメイトには熱狂的なファンがいて、彼女の課題や雑用を引き受けている。レティシアとは正反対である。
「どこに惹かれたのかしら?」
エレンの呟きに同意する。
素っ気ないレティシアを追いかけるのに疲れて、自分を慕う令嬢にはまったのか?
義務を果たして隠れて付き合うなら何も言わないが、義務を果たさずに婚約者をないがしろにするのは貴族として許されない。
立場をわかっていないのはリオが夢中な恋人も同じ。
ブローダ伯爵令嬢はレティシアが自分達を別れさせるために嫌がらせをしていると騒いでいた。
婚約者なら当然の権利だ。伯爵家が公爵令嬢の婚約者に手を出すなら家が取り潰されても文句は言えない案件。
「嫌がらせ?そんなことしなくてもレティシアならすぐに潰せるわよ。リオの庇護下であっても学園生活が穏便に送れている理由がわからないのかしら。似た者同士でお似合いかしら」
リオは恋人の言葉を信じてレティシアに公爵令嬢の資質がないと排除に動こうとしていた。
エレンが失笑しながら呟く通り、資質を疑われるのはリオのほうだろう。
そして二人がバカをしているのを穏便に収めていたのはレティシア。
学園で人気のレティシアを貶め、令嬢に人気のリオの恋人として堂々と振舞うのは多くの令嬢を敵に回す。
家柄も資質も問題ないレティシアでさえリオのファンに色々言われていた。相手が自分より身分も器量も容姿も劣るなら令嬢達は容赦なく潰しにかかるだろう。
男より怖いのは女のほうが。
レティシアは無礼なブローダ伯爵令嬢へ不敬を咎める令嬢に、リオが対処する前に回収していた。
レティシアへの不敬に武門貴族のリオ達への嫌悪も凄い。
いつ斬られてもおかしくない状況を抑えているのはビアード兄妹。
この状況でもまだエレンの送った難易度の高い仕事を翌日に完璧に仕上げて送り返しているレティシアに言葉が出ない。
しかも殿下の執務を手伝い、王国に訪問した王族の接待も見事にこなしている。
婚約者のバカの後始末、王家のために役目をこなし、私利私欲で羽目を外している愚弟とは正反対だ。
甘やかしすぎたか…。
いつもレティシアに付き纏っている末弟がいない。レティシアの腰を抱きながらダンスに誘う男の邪魔をするリオがいないので次々と話しかける男達に微笑みかけダンスの誘いを受けている。
古い慣習の多いフラン王国では婚約者を持つものは身内以外のダンスはマナー違反だがうちの夜会は国外からの招待客も多いためダンスに関しては無礼講である。
レティシアにも教えてあるので誘われれば笑顔で受け軽やかにステップを踏んでいる。
婚約者の有無に関係なく可憐で美しい少女とお近づきになりたい男は多くダンスに誘おうと狙っている男は多い。
武門公爵家出身のため運動神経抜群でリオよりもダンスが上手く、聞き上手なレティシアはマールの貴重な戦力。
華奢な体でも輝かしい銀髪と人形のように整った顔立ち、少女から大人へ成長していく可憐な少女は会場に置いておくだけで華やかになる。単体でも、兄弟で一番容姿端麗なリオと並べておいても絵になる。
母上にリオのことを聞くと一切帰らず、任せた仕事も放棄し、最後の学園生活を満喫しているらしい。
レティシアにリオの様子を聞くと学園生活を満喫しているので自分に送ってほしいと笑顔で頼まれた。
リオはレティシアと過ごすのに必死だから、二人の時間を作るのに協力するか。
帰りにレティシアにリオに任せる書類を渡すと笑みを浮かべて受け取り礼をして馬車に乗り込んだ。
夜会ではレティシアがリオの代役としてマール公爵家のおもてなしをしていたので不満の声は一切なく、むしろ評判が良かった。
翌朝にレティシアに預けた書類が全て届けられた。
一晩でできる量ではない。リオは届け忘れてただけだろうか。
それとも慌てて二人で終わらせたのか?
レティシアが学園に着いたのは日付が変わる頃の時間帯だろうが、まさか深夜に会っているのか?
「これをリオが?」
エレンが受け取った書類をじっくりと見ている。
覗くと凝視している理由がわかった。
書類にはリオの紋章がなく、リオのサインがある。
うちは個々で紋章が用意され、サイン代わりに使っている。直筆のサインをいれることはほとんどない。
浮かれすぎてボケたか?
子供の頃から教えているからサインをすることはないだろう。サイン以外は完璧に仕上げている。
「まさか…」
「疑念の放置はいけませんよね」
ありえない考えだが同じ疑念を持ち、微笑んだエレンが二人に同じ書類を送った。
翌朝にはサインの入ったレティシアに託した書類だけ返ってきた。
リオの文字を真似たレティシアが全て終わらせたのか。
偽造を諌めるよりも責められるのはリオだろう。
母上が冷たい笑みを浮かべていたから羽目を外し過ぎなリオには両親から説教があるだろう。
「文字だけならそっくり。筆跡を真似るのも得意なのかしら。難易度上げてみましょう」
エレンだけは指導もなく完璧に終わらせる優秀なレティシアに喜び、さらに難易度の高いものを送っている。
リオは相変わらず帰宅命令を無視している。
レティシアの教育に夢中なエレンはリオの教育に励んでほしい。
そしてマールの良心のレイヤがいないから、母上達からどんな指導を受けても誰もリオを庇わないだろう。
困惑した顔の執事に呼ばれて急遽面会したのは眠ったリオを抱えた制服姿のサイラスとリール公爵令嬢がいた。
リール公爵夫人は母上と親しく頻繁に訪問するがご令嬢は顔を出さないので面識は少ない。
愛らしい顔立ちに物腰柔らかなリール嬢は楽器を持たせると美女に変貌を遂げ、ギャップに弱い男達の心を射止め婚約の申し出が殺到している。
今はレオ殿下に夢中と囁かれているが、それでも人気は変わらない。
リール嬢を手に入れた男は嫉妬ややっかみを受けるからそれなりに大変だろう。
それはうちの愚弟も同じか。武門貴族の憧れで、一部には至宝と囁かれるレティシアは家格の低い子息達からの人気が凄い。
「ようこそ。歓迎するよ」
「先触れもなく申し訳ありません。レティシアの代わりにマール様をお届けに。言葉が届かないので、武力行使をさせていただきました。優雅ではありませんがこの程度ですんだことを感謝してくださいませ」
リール嬢は愛らしい声で話すが纏う空気は冷たい。
リオへの視線も冷たく、愛らしく微笑んで見えるのに寒気がする。
「リオが何か?」
「私の口からは申しません。レティシアからマール様に帰宅するよう説得を頼まれました。この件でレティシアを責めるなら本気でお相手しますのでお覚悟を」
リール公爵家は政治に干渉しない。
だが芸術一家はファンが多く、世論操作も得意であり敵に回してはいけない家である。
「リオは部屋に運べばいいですか?」
「リール嬢、お礼にお茶でも」
「お断りします。失礼します」
「残念だ。サイラスはうちが送るから先に帰って構わないよ」
「かしこまりました」
「え?」
驚くサイラスを気にせず上品に礼をしてリール嬢は出て行く。
友人が春の妖精と呼んでいたが冬の妖精の間違いじゃないか?
令嬢に寒気を感じたのはエレン以外で初めてだ。
逃げないようにサイラスの肩を掴んだ。
令嬢がわかりやすく怒りを表現するのはキレている時か思惑がある時。リール嬢を怒らせた愚弟は何をしたのか知っていそうなサイラスを逃がすわけにはいかない。
「久しぶりだな。事情を説明してくれないか。リオはそこに転がしていいから。教えてくれるよな?」
リオとサイラスは子供の頃から躾けているから俺には逆らわない。
笑いかけると視線を反らしたが、そのまま待つと無理矢理な笑顔を浮かべてゆっくりと口を開いた。
すぐに口を開かないのがリオとサイラスの違いだ。
「レティシア嬢に酷い態度だったので代役を任されました」
「酷い態度とは?不敬を責めないから、正直に話してくれ」
「マール公爵からの伝言を伝えにきたレティシアが嬢に、殺気を浴びせ、ビアード公爵令嬢としてふさわしくない等責め、紳士としてあるまじき態度にリール嬢をはじめ、レティシア嬢を慕う生徒が怒りに震えてます。ビアード兄妹が手出し不要と言うので、堪えて、誰も動きませんが、これ以上刺激したら斬られても庇えません」
「喧嘩でもしたのか?」
「わかりません。リオは1年生の伯爵令嬢に夢中で、幸せそうに令嬢と最後の学園生活を満喫してます。リオには俺の言葉は届きません。俺はこれで失礼します」
温厚なサイラスが怒っているのは初めて見た。武門貴族は冗談を言わず謀もほとんどしない。
長椅子にリオを寝かせたサイラスが礼をして出ていく。
怒っても床に捨てないところが優しいよな。
執事にサイラス学園まで送らせ、情報収集を命じる。
リオの友人でずっと初恋を応援してくれていたサイラス。
友人を失っても手に入れる価値のある令嬢だろうか。
「喧嘩?」
「母上、お帰りなさい。いえ、リール嬢とサイラスが親切に送り届けてくれました」
椅子の上で眠っているリオを見つめる母上に事情を説明すると困惑した顔をした。
「リオとレティシアの不仲の噂は社交界では聴かないけど」
「レティシアが手を回してます。学園で広まっていることを社交界では隠す手腕、リオはいらないからレティシアだけは欲しい」
「冗談言ってないで情報を集めないと」
「まずは当事者から事情を聞きますか。起きろ」
ぐっすり眠っているリオにかけてある眠りの魔法を解くと勢いよく起き上がった。
「おかえり」
「は?ここは!?彼女は!?」
真顔で立ち上がり出て行こうとする腕を掴む。
振り返ったリオが目をつり上げて睨む。リオに睨まれるなんて初めてだな。怖くないけど。
「邪魔するな。俺がいないと」
「帰省命令に逆らった理由は?」
「そんなものより俺が守らないと。俺がいないと」
そんなもの?
腕を振り払おうと暴れるリオを母上が魔法で眠らせた。
「ゆっくり話さないといけないわね」
リオは冷たい笑みを浮かべる母上に任せるか。
学園から呼び戻したリオの侍従が戻ってきたので報告させるか。
「リオ様はリンダ・ブローダ伯爵令嬢と親しくされています。いずれ第二夫人に迎え入れると仰せになるほど気に入り、常に一緒に過ごされていました」
「レティシアと何かあったのか?」
「特には。ブローダ様を丁重に扱うように命を受けていますが、それ以外はなにも」
学園生活を満喫ってこういうことだったのか…。
卒業前にハメを外して遊んでいるのか。そして仕事は全部レティシアに押し付けているのか。よく一言も不満を言わずにマールの社交に出てきたな。エレンだったら恐ろしい行動を起こすだろう。
「放せ!!行かないと!!」
爆発音が聞こえた部屋に行くとリオが結界から出ようと暴れているのを母上が魔法で抑えている。
母上に加勢して魔法で拘束する。
伯爵令嬢に会いたいと暴れるリオは母上に任せるか。
リオは俺の拘束魔法を解けないから、母上に怒られ頭を冷やすだろう。
ブローダ伯爵令嬢を調べて叔父上を呼ぶ手配をするか。
俺に逆らうなんて頭がおかしいかもしれない。
応急処置以外の医療は専門外だ。
いつも忠実だった弟の遅い反抗期なら厳しく躾け直さないといけない。
俺の命令に逆らいマールの仕事を疎かにし、勝手に第二夫人を迎えると豪語する立場のわかっていない末の弟を。
****
学園に送った諜報からの報告は想像を超えるものだった。
サイラスが怒っていた理由も納得した。
リオの恋人は1年3組のリンダ・ブローダ伯爵令嬢。
もとは上位貴族だったが年々勢力を失い下位貴族まで転がり落ちた伯爵家。
リオの熱狂的なファンの一人で成績も悪く、我儘な性格で評判が悪い。
容姿も平凡で何一つ魅力的には見えないがクラスメイトには熱狂的なファンがいて、彼女の課題や雑用を引き受けている。レティシアとは正反対である。
「どこに惹かれたのかしら?」
エレンの呟きに同意する。
素っ気ないレティシアを追いかけるのに疲れて、自分を慕う令嬢にはまったのか?
義務を果たして隠れて付き合うなら何も言わないが、義務を果たさずに婚約者をないがしろにするのは貴族として許されない。
立場をわかっていないのはリオが夢中な恋人も同じ。
ブローダ伯爵令嬢はレティシアが自分達を別れさせるために嫌がらせをしていると騒いでいた。
婚約者なら当然の権利だ。伯爵家が公爵令嬢の婚約者に手を出すなら家が取り潰されても文句は言えない案件。
「嫌がらせ?そんなことしなくてもレティシアならすぐに潰せるわよ。リオの庇護下であっても学園生活が穏便に送れている理由がわからないのかしら。似た者同士でお似合いかしら」
リオは恋人の言葉を信じてレティシアに公爵令嬢の資質がないと排除に動こうとしていた。
エレンが失笑しながら呟く通り、資質を疑われるのはリオのほうだろう。
そして二人がバカをしているのを穏便に収めていたのはレティシア。
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家柄も資質も問題ないレティシアでさえリオのファンに色々言われていた。相手が自分より身分も器量も容姿も劣るなら令嬢達は容赦なく潰しにかかるだろう。
男より怖いのは女のほうが。
レティシアは無礼なブローダ伯爵令嬢へ不敬を咎める令嬢に、リオが対処する前に回収していた。
レティシアへの不敬に武門貴族のリオ達への嫌悪も凄い。
いつ斬られてもおかしくない状況を抑えているのはビアード兄妹。
この状況でもまだエレンの送った難易度の高い仕事を翌日に完璧に仕上げて送り返しているレティシアに言葉が出ない。
しかも殿下の執務を手伝い、王国に訪問した王族の接待も見事にこなしている。
婚約者のバカの後始末、王家のために役目をこなし、私利私欲で羽目を外している愚弟とは正反対だ。
甘やかしすぎたか…。
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