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第百二十四話 新しい関係
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休暇が終わり明日から4年生になります。3度目の人生で初めて4年生になれたことに感動しています。
休暇の卒業旅行では魔物の討伐に失敗して倒れてしまいました。ビアード公爵令嬢としてふがいない姿に反省しました。体に毒が回っていたとは気づきませんでしたわ。今度は知らない魔物の血で体が汚れたら解毒の魔法も使いましょう。最近は見覚えのない魔物が多いので世界中の魔物の資料を取り寄せるためマール公爵に取り引きを持ちかけるとリオを治療したお礼として無償でいただきました。私は治療してないんですがカナト様からも義兄としても頼ってほしいと言われたのでありがたく甘えました。おかげでビアードに貴重な資料が増えましたわ。
卒業旅行では役目を果たせなかったので生徒会役員の方々には手紙と贈り物をしました。ユーナ様からレオ様とサラ様が参加する晩餐に招待してほしいと言われたのでご招待しました。三人で研究の話に盛り上がり楽しそうな様子を眺めていました。内容は理解できません。
そしてクロード殿下と一緒に外交に行き有名なサーカスを特等席で見物しました。クロード殿下はあまり楽しそうではありませんでしたが私には有意義な時間が過ごせたのでお礼に執務を手伝いました。
リオがビアード公爵邸に引っ越してきたのでビアードの歓迎のおもてなしをしました。リオに向ける家臣達の視線が冷たいので無礼がないようにきちんと命じました。賓客であるマール公爵家子息に失礼がないようにと。リオはうちに住まないほうがいいと思いますが両当主が決めたことなので私は口を出せません。何があっても治療できるように魔石や回復薬等を贈り、温和な護衛騎士をリオの専属護衛に指名しました。そして何かあればすぐに私に伝令を飛ばすように命じました。リオが安全に過ごすためにできることはしましたわ。
今年の休暇もすぐに終わってしまいました。フィルとステラと遊びに行けなかったのが残念ですわ。
リオが卒業をしてから変わったことは一つだけ。
卒業したリオに毎日顔が見たいと言われましたのでセリアに通信の魔導具を用意してもらいました。リオはロベルト先生のお手伝いをする研究員なので学園に自由に入れる許可証を持っています。毎日会いに来ると笑うお顔が冗談には聞こえませんでした。毎朝リオと話す時間を作ることで用もなく通うのはやめてもらいました。成人したので子供の時間は終わりです。きちんと国のために働いていただかないといけません。
「シア?」
呼ばれる声に驚くと寮の机に置いてあるセリア特製のリオ用の魔導鏡に寝起きのリオが映っていました。魔導鏡は魔石を置くと対の鏡と通信が繋がります。魔石を外すのを忘れてたので通信したままでしたわ。
「おはようございます。まだ夜明けですよ。ゆっくり眠られてください」
「時間があるのか?」
「ええ。朝の散歩にでも行こうかと」
「話せないか!?シアが足りない」
寝ぼけたお顔のリオの目が輝きました。リオが早起きとは知りませんでした。明日から生徒達が登校し新入生も入学します。賑やかになるので今日は静かな早朝の散歩を楽しもうと思ってましたが予定を変えましょう。一昨日に学園まで送ってもらったんですが、リオは寂しがりやで変わってますから。
「楽しい話はありませんよ」
「シアの顔を見て声が聞ける。触れられれば最高」
「おかしい人。お母様のお体は?」
「元気だよ。顔色もいい」
嬉しそうな顔のリオの話に安堵の笑みがこぼれます。
喜ばしいことにビアード公爵夫人とルーン公爵夫人のお腹に新たな命が宿っています。
クロノ様は約束を守ってくださりました。無事に産まれるためにできるだけお母様達の分まで社交を頑張ります。もちろんルーン公爵家の社交も引き受けますよ。
成人したリオはビアードで働き執事長がリオの能力の高さに喜んでいました。ポンコツエイベルにおかしいリオにビアードの未来を心配してましたが、執事長のお墨付きがあるなら安心です。ビアードの騎士の訓練の手配はロキに一任してあります。エイベルと違ってロキは頼もしい。おかげで私は社交とクロード殿下のお手伝いに専念できますわ。リオが卒業したのでエイベルとの喧嘩が減ったのも喜ばしいことでしたわ。そろそろマナが朝食に呼びに来るでしょう。
「ではお母様をお願いします。行ってきますわ」
「気をつけて。男からの手紙は」
魔石を外すと映像が消えます。殿方からの手紙はリオが対応したいと言いますがお断りしています。自分のことは自分でできますわ。
「おはようございます」
「おはようございます。マナ、学園はまだ始まりません。朝食を共にしませんか?」
マナと朝食を食べながら明日の打ち合わせをします。私は生徒会があるので入学するロキを迎えられません。ロキは貴族ではないので従者はつきません。私は設備の整った第一寮に入寮させるつもりでしたがロキの希望で第二寮に。ロキもしっかりしてますしハリーやビアードに訓練に通う学生達とも顔見知りなので心配はしてません。学園には許可をもらいロキの髪色と瞳は変えたままです。魔導具を外す時期はお兄様のロダ様に一任してあります。ロダ様とロキは仲良く訓練をしています。エイベルの訓練好きが移ったようです。ロキには学園では執事は休み勉強に専念するようにと伝えてあるので充実した学生生活を送れるように祈りましょう。
生徒会室に行くと両殿下が話している姿に頬が緩んでしまいます。エイベルの咎める視線を受けて笑みを浮かべて挨拶します。
明日から新学期が始まります。新入生を迎える準備も終わり生徒会も解散になりました。部屋に戻ろうとするとクロード殿下にお茶に誘われました。生徒会長室ではなくクロード殿下の特別室に招かれました。殿下の特別室の雰囲気はいつの世も変わりません。品の良い家具、暖かい日差しが入る天窓。部屋に飾られる植物。ふかふかのソファはお気に入りでしたわ。視線を受けてごまかすように笑みを浮かべて座ります。
朝から気になってましたが正面に座っているクロード殿下は目の下に隈があり顔色が悪いです。最近はお仕事は忙しくないはずですが・・・。私とお茶をするより休んだほうがいいのではありませんか?
侍従に出されたお茶を飲んで待ちますが殿下は無表情で考え込まれています。やはり殿下の侍従のお茶は美味しい。用意されるお菓子も絶品で幸せですわ。
悩んでいるクロード殿下の無表情が昔は怖かったですがもう平気です。王族が弱音を見せるのは許されないと教わっているクロード殿下に優しく笑いかけます。さすがに三度目なので今の私は王族が特別でないことをよく知っています。いえ気付いたのは数か月前なので偉そうなことは言えませんわ。
「殿下、何かお困りならお話下さい。私の胸にとどめますわ。私は兄はポンコツですし、婚約者はおかしいので何を聞いても大丈夫ですわ」
生前のレオ殿下は変態でクロード殿下も狂ってしまったことは言いません。
しばらくすると無表情のクロード殿下がゆっくりと口を開きました。
「夢を見るんだ。やけに現実のようで。時々わからなくなる」
嫌な予感がします。クロノ様がおかしいことを言ってましたわ…。クロノ様の悪戯の副作用でしょうか。精霊の話は難しくてよくわかりません。御身に危険がなければいいかと詳しく聞かなかったのを今更後悔しました。会う手段がありませんよね…。
「私にもよくありますわ」
「レティシアの瞳が青く共にいて心が満たされる夢をみる」
陛下の仕打ちに狂ったクロード様の笑みが思い浮かびました。無表情の殿下にからかうような笑みを浮かべます。リアナとの修行の成果です。
「夢でもクロード殿下のお役に立てるなんて光栄ですわ」
「時々、夢に飲み込まれそうになる……」
弱った声のクロード殿下の言葉に息を飲みました。
クロノ様!?なにかまたしてませんよね!?
でも殿下の気持ちはわかりますわ。
夢と認識を植え付けましょう。生前の記憶なんて知らなくてもいいですわ。殿下が研究者に狙われますもの。悲しい記憶は思い出さないでください。あんな絶望したお顔はもう見たくありません。
「夢の世界を楽しんでもよろしいかと。もし現実がわからなくなるなら、私が声を掛けますわ。夢と違うほうがわかりやすいですよね。殿下、お友達になりましょう?」
「は?」
これは言葉を間違えると機嫌を損ねます。クロード殿下の話をバカにしているわけではありませんよ。
「夢と現実に明らかな違いがあれば見分けられますわ。それに夢の中の私はお淑やかではありませんか?」
「お淑やかではない」
即答されましたわ。
クロード殿下の夢とは生前の記憶ではありませんの!?私はクロード様の前では令嬢モードで常にお淑やかなはずでしたが…。
「レティと共に育った夢を見る。いつも視線の先にはレティがいた」
変なところばかり思い出しますわ。共に育ってはおりませんが…。一緒に教育を受けていたのも短期間ですわ。婚約者だったので共に過ごした時間は他のご令嬢よりは長いと思いますが。断片的に思い出しているんでしょうか。まぁわからないことは考えても無駄ですわ。
「私も常に穏やかな笑みを浮かべる殿下と一緒にいる夢を見ますわ。夢の世界のお話はいくらでもお付き合いします。夢の世界が頭から離れなくなったら討伐に行きましょう。体を動かして他のことに集中するのが一番です。たまにはお忍びに行ってらっしゃいませ。護衛をつけて」
忘れるためには他のことに集中するのが一番です。水の中に入るのもお勧めですが、地属性のクロード殿下には向きませんわ。
「付き合ってくれないか?」
無表情のクロード殿下に手を差し伸べられたので笑みを浮かべて手を取りました。
魔力に包まれ目を閉じると、転移魔法が発動しました。
目を開けるとクロノ様の世界でクロード様が私を連れて逃げた場所ですわ。
「ここで、レティシアと共に暮らす夢を見る」
「!?」
ベッドを見つめているクロード殿下の頬に手を添えて、迷いのある金の瞳をじっと見つめます。
「殿下、夢の話ですわ。現実ではありませんわ。もしも王族であることが辛く耐えられない時は逃してさしあげます」
「レティシア?」
「きっと貴方は誰もが認める素晴らしい王様になります。でもクロード様の人生はクロード様の物です。どうか間違えないでください」
お願いですから狂わないでくださいとは口には出しません。クロード殿下の頬から手を離しました。
ここにいれば気分が滅入る気がしますので外に出ましょう。扉を開けようとすると開きません。
首を傾げていると手を繋がれて、殿下が手をかざすと扉が開きました。外には綺麗な湖が広がってました。
泳ぎたいけど今は我慢です。ニッコリと笑いかけます。
「クロード殿下、夢に負けない幸せな記憶をたくさん作りましょう。旅に出るならお付き合いしますよ。クロード様の願いはなんですか?」
「願い?」
「はい。王太子殿下ではなくクロード様の願いを」
「わからない」
昔の自分を思い出します。忙しい執務と勉強に追われて他には何も関心を向けられなかった最初の頃の私のことを。今のクロード殿下は昔の私かもしれません。物凄い仕事量をこなしてますもの。
「クロード様、楽しい思い出を作りましょう。お仕事はお手伝いするので、お休みを作って出かけましょう。まずは冒険者になりましょうか。御身は私がお守りします。冒険者で稼いだお金で遊びましょう。民のお金ではないので、遊びたい放題です。美味しいもの食べて綺麗な物を見ましょう。ここで二人で過ごすより楽しいですわ」
「レティシアは変わったな」
「夢でクロード様の苦しむお顔を見ました。そのお顔をさせないためなら、どんなことも頑張ります。クロード様、遊びましょう?せっかくなので泉に潜りますか?」
クロード殿下が小さく笑いました。
「レティシアとロダは気楽だな。二人を見ていると悩むのがバカみたいに思えるよ」
クロード殿下の口からバカとは初めて聞きましたわ。良い傾向ですわ。
「光栄ですわ。恐れながらクロード殿下には遊びが足りませんわ。護衛をつけてお忍びに出掛けて柔軟性を身につけましょう。今のように本気で笑える時間も作ってほしいですわ」
「レティシアはいつも楽しそうで羨ましいよ」
「ロダ様とエドワード様を誘ってお出かけしましょう。エドワード様とクロード殿下には遊びが必要ですわ」
「レオにはいいのか?」
「レオ様は自由に遊んでますわ。楽しそうな姿に安心します。ビアードはリオに任せますわ。この一年はたくさん遊びましょう」
無表情で悩むクロード殿下にニッコリ笑いかけます。
「友達か」
「はい。お友達ですわ。お友達の時間はクロード殿下の命令は聞きません」
「殿下?」
「クロード様とお呼びしますわ。クロード様、たくさん遊んで、笑いましょう。クロード様の笑顔は民の宝ですもの。クロード様が転移陣を仕掛けてくれればどこでも行きたい放題です」
「ロダに連れて行ってもらうか。ロダは海の水のある場所なら自由自在だ」
「素敵ですわ。いつにしましょうか。どこに行こうかな。世界の名物を食べつくしも…」
「リオはいいのか?」
「遊ぶのは子供の特権です。リオは大人ですから大丈夫ですよ。うちに婿入りするなら強くなっていただかないと。クロード様の執務のお手伝いに必要なら呼び出しますわ」
「あんなに嫌っていたのに」
「婚約者ですから。それに最近は可愛らしくて気に入っておりますわ。ビアードの役に立つとおっしゃるので頑張っていただいてます。お仕事は大人に任せて子供は遊びましょう」
苦笑するクロード様に手を引かれて学園に戻りました。クロード様のお忍び計画をロダ様と一緒にたてましょう。ビアード公爵夫人の様子はリオが毎日伝えてくれるのでビアードに帰るのは社交と緊急要請時だけでいいですわ。ビアード公爵夫人は妊娠してますが体調は良好です。心配なのはルーン公爵夫人ですが面会に行く理由がありませんわ。とりあえずルーン公爵家の社交を代わりましょう。
寝る前にロダ様と通信しましょう。寮の机の上に魔導鏡は三つあります。リオとセリアとロダ様用です。セリアの魔導鏡だけは魔石を置かなくても勝手に通信を受信します。私がセリアと通信したい時は魔石を置かないといけないんですが仕組みはわかりませんが気にしません。
休暇の卒業旅行では魔物の討伐に失敗して倒れてしまいました。ビアード公爵令嬢としてふがいない姿に反省しました。体に毒が回っていたとは気づきませんでしたわ。今度は知らない魔物の血で体が汚れたら解毒の魔法も使いましょう。最近は見覚えのない魔物が多いので世界中の魔物の資料を取り寄せるためマール公爵に取り引きを持ちかけるとリオを治療したお礼として無償でいただきました。私は治療してないんですがカナト様からも義兄としても頼ってほしいと言われたのでありがたく甘えました。おかげでビアードに貴重な資料が増えましたわ。
卒業旅行では役目を果たせなかったので生徒会役員の方々には手紙と贈り物をしました。ユーナ様からレオ様とサラ様が参加する晩餐に招待してほしいと言われたのでご招待しました。三人で研究の話に盛り上がり楽しそうな様子を眺めていました。内容は理解できません。
そしてクロード殿下と一緒に外交に行き有名なサーカスを特等席で見物しました。クロード殿下はあまり楽しそうではありませんでしたが私には有意義な時間が過ごせたのでお礼に執務を手伝いました。
リオがビアード公爵邸に引っ越してきたのでビアードの歓迎のおもてなしをしました。リオに向ける家臣達の視線が冷たいので無礼がないようにきちんと命じました。賓客であるマール公爵家子息に失礼がないようにと。リオはうちに住まないほうがいいと思いますが両当主が決めたことなので私は口を出せません。何があっても治療できるように魔石や回復薬等を贈り、温和な護衛騎士をリオの専属護衛に指名しました。そして何かあればすぐに私に伝令を飛ばすように命じました。リオが安全に過ごすためにできることはしましたわ。
今年の休暇もすぐに終わってしまいました。フィルとステラと遊びに行けなかったのが残念ですわ。
リオが卒業をしてから変わったことは一つだけ。
卒業したリオに毎日顔が見たいと言われましたのでセリアに通信の魔導具を用意してもらいました。リオはロベルト先生のお手伝いをする研究員なので学園に自由に入れる許可証を持っています。毎日会いに来ると笑うお顔が冗談には聞こえませんでした。毎朝リオと話す時間を作ることで用もなく通うのはやめてもらいました。成人したので子供の時間は終わりです。きちんと国のために働いていただかないといけません。
「シア?」
呼ばれる声に驚くと寮の机に置いてあるセリア特製のリオ用の魔導鏡に寝起きのリオが映っていました。魔導鏡は魔石を置くと対の鏡と通信が繋がります。魔石を外すのを忘れてたので通信したままでしたわ。
「おはようございます。まだ夜明けですよ。ゆっくり眠られてください」
「時間があるのか?」
「ええ。朝の散歩にでも行こうかと」
「話せないか!?シアが足りない」
寝ぼけたお顔のリオの目が輝きました。リオが早起きとは知りませんでした。明日から生徒達が登校し新入生も入学します。賑やかになるので今日は静かな早朝の散歩を楽しもうと思ってましたが予定を変えましょう。一昨日に学園まで送ってもらったんですが、リオは寂しがりやで変わってますから。
「楽しい話はありませんよ」
「シアの顔を見て声が聞ける。触れられれば最高」
「おかしい人。お母様のお体は?」
「元気だよ。顔色もいい」
嬉しそうな顔のリオの話に安堵の笑みがこぼれます。
喜ばしいことにビアード公爵夫人とルーン公爵夫人のお腹に新たな命が宿っています。
クロノ様は約束を守ってくださりました。無事に産まれるためにできるだけお母様達の分まで社交を頑張ります。もちろんルーン公爵家の社交も引き受けますよ。
成人したリオはビアードで働き執事長がリオの能力の高さに喜んでいました。ポンコツエイベルにおかしいリオにビアードの未来を心配してましたが、執事長のお墨付きがあるなら安心です。ビアードの騎士の訓練の手配はロキに一任してあります。エイベルと違ってロキは頼もしい。おかげで私は社交とクロード殿下のお手伝いに専念できますわ。リオが卒業したのでエイベルとの喧嘩が減ったのも喜ばしいことでしたわ。そろそろマナが朝食に呼びに来るでしょう。
「ではお母様をお願いします。行ってきますわ」
「気をつけて。男からの手紙は」
魔石を外すと映像が消えます。殿方からの手紙はリオが対応したいと言いますがお断りしています。自分のことは自分でできますわ。
「おはようございます」
「おはようございます。マナ、学園はまだ始まりません。朝食を共にしませんか?」
マナと朝食を食べながら明日の打ち合わせをします。私は生徒会があるので入学するロキを迎えられません。ロキは貴族ではないので従者はつきません。私は設備の整った第一寮に入寮させるつもりでしたがロキの希望で第二寮に。ロキもしっかりしてますしハリーやビアードに訓練に通う学生達とも顔見知りなので心配はしてません。学園には許可をもらいロキの髪色と瞳は変えたままです。魔導具を外す時期はお兄様のロダ様に一任してあります。ロダ様とロキは仲良く訓練をしています。エイベルの訓練好きが移ったようです。ロキには学園では執事は休み勉強に専念するようにと伝えてあるので充実した学生生活を送れるように祈りましょう。
生徒会室に行くと両殿下が話している姿に頬が緩んでしまいます。エイベルの咎める視線を受けて笑みを浮かべて挨拶します。
明日から新学期が始まります。新入生を迎える準備も終わり生徒会も解散になりました。部屋に戻ろうとするとクロード殿下にお茶に誘われました。生徒会長室ではなくクロード殿下の特別室に招かれました。殿下の特別室の雰囲気はいつの世も変わりません。品の良い家具、暖かい日差しが入る天窓。部屋に飾られる植物。ふかふかのソファはお気に入りでしたわ。視線を受けてごまかすように笑みを浮かべて座ります。
朝から気になってましたが正面に座っているクロード殿下は目の下に隈があり顔色が悪いです。最近はお仕事は忙しくないはずですが・・・。私とお茶をするより休んだほうがいいのではありませんか?
侍従に出されたお茶を飲んで待ちますが殿下は無表情で考え込まれています。やはり殿下の侍従のお茶は美味しい。用意されるお菓子も絶品で幸せですわ。
悩んでいるクロード殿下の無表情が昔は怖かったですがもう平気です。王族が弱音を見せるのは許されないと教わっているクロード殿下に優しく笑いかけます。さすがに三度目なので今の私は王族が特別でないことをよく知っています。いえ気付いたのは数か月前なので偉そうなことは言えませんわ。
「殿下、何かお困りならお話下さい。私の胸にとどめますわ。私は兄はポンコツですし、婚約者はおかしいので何を聞いても大丈夫ですわ」
生前のレオ殿下は変態でクロード殿下も狂ってしまったことは言いません。
しばらくすると無表情のクロード殿下がゆっくりと口を開きました。
「夢を見るんだ。やけに現実のようで。時々わからなくなる」
嫌な予感がします。クロノ様がおかしいことを言ってましたわ…。クロノ様の悪戯の副作用でしょうか。精霊の話は難しくてよくわかりません。御身に危険がなければいいかと詳しく聞かなかったのを今更後悔しました。会う手段がありませんよね…。
「私にもよくありますわ」
「レティシアの瞳が青く共にいて心が満たされる夢をみる」
陛下の仕打ちに狂ったクロード様の笑みが思い浮かびました。無表情の殿下にからかうような笑みを浮かべます。リアナとの修行の成果です。
「夢でもクロード殿下のお役に立てるなんて光栄ですわ」
「時々、夢に飲み込まれそうになる……」
弱った声のクロード殿下の言葉に息を飲みました。
クロノ様!?なにかまたしてませんよね!?
でも殿下の気持ちはわかりますわ。
夢と認識を植え付けましょう。生前の記憶なんて知らなくてもいいですわ。殿下が研究者に狙われますもの。悲しい記憶は思い出さないでください。あんな絶望したお顔はもう見たくありません。
「夢の世界を楽しんでもよろしいかと。もし現実がわからなくなるなら、私が声を掛けますわ。夢と違うほうがわかりやすいですよね。殿下、お友達になりましょう?」
「は?」
これは言葉を間違えると機嫌を損ねます。クロード殿下の話をバカにしているわけではありませんよ。
「夢と現実に明らかな違いがあれば見分けられますわ。それに夢の中の私はお淑やかではありませんか?」
「お淑やかではない」
即答されましたわ。
クロード殿下の夢とは生前の記憶ではありませんの!?私はクロード様の前では令嬢モードで常にお淑やかなはずでしたが…。
「レティと共に育った夢を見る。いつも視線の先にはレティがいた」
変なところばかり思い出しますわ。共に育ってはおりませんが…。一緒に教育を受けていたのも短期間ですわ。婚約者だったので共に過ごした時間は他のご令嬢よりは長いと思いますが。断片的に思い出しているんでしょうか。まぁわからないことは考えても無駄ですわ。
「私も常に穏やかな笑みを浮かべる殿下と一緒にいる夢を見ますわ。夢の世界のお話はいくらでもお付き合いします。夢の世界が頭から離れなくなったら討伐に行きましょう。体を動かして他のことに集中するのが一番です。たまにはお忍びに行ってらっしゃいませ。護衛をつけて」
忘れるためには他のことに集中するのが一番です。水の中に入るのもお勧めですが、地属性のクロード殿下には向きませんわ。
「付き合ってくれないか?」
無表情のクロード殿下に手を差し伸べられたので笑みを浮かべて手を取りました。
魔力に包まれ目を閉じると、転移魔法が発動しました。
目を開けるとクロノ様の世界でクロード様が私を連れて逃げた場所ですわ。
「ここで、レティシアと共に暮らす夢を見る」
「!?」
ベッドを見つめているクロード殿下の頬に手を添えて、迷いのある金の瞳をじっと見つめます。
「殿下、夢の話ですわ。現実ではありませんわ。もしも王族であることが辛く耐えられない時は逃してさしあげます」
「レティシア?」
「きっと貴方は誰もが認める素晴らしい王様になります。でもクロード様の人生はクロード様の物です。どうか間違えないでください」
お願いですから狂わないでくださいとは口には出しません。クロード殿下の頬から手を離しました。
ここにいれば気分が滅入る気がしますので外に出ましょう。扉を開けようとすると開きません。
首を傾げていると手を繋がれて、殿下が手をかざすと扉が開きました。外には綺麗な湖が広がってました。
泳ぎたいけど今は我慢です。ニッコリと笑いかけます。
「クロード殿下、夢に負けない幸せな記憶をたくさん作りましょう。旅に出るならお付き合いしますよ。クロード様の願いはなんですか?」
「願い?」
「はい。王太子殿下ではなくクロード様の願いを」
「わからない」
昔の自分を思い出します。忙しい執務と勉強に追われて他には何も関心を向けられなかった最初の頃の私のことを。今のクロード殿下は昔の私かもしれません。物凄い仕事量をこなしてますもの。
「クロード様、楽しい思い出を作りましょう。お仕事はお手伝いするので、お休みを作って出かけましょう。まずは冒険者になりましょうか。御身は私がお守りします。冒険者で稼いだお金で遊びましょう。民のお金ではないので、遊びたい放題です。美味しいもの食べて綺麗な物を見ましょう。ここで二人で過ごすより楽しいですわ」
「レティシアは変わったな」
「夢でクロード様の苦しむお顔を見ました。そのお顔をさせないためなら、どんなことも頑張ります。クロード様、遊びましょう?せっかくなので泉に潜りますか?」
クロード殿下が小さく笑いました。
「レティシアとロダは気楽だな。二人を見ていると悩むのがバカみたいに思えるよ」
クロード殿下の口からバカとは初めて聞きましたわ。良い傾向ですわ。
「光栄ですわ。恐れながらクロード殿下には遊びが足りませんわ。護衛をつけてお忍びに出掛けて柔軟性を身につけましょう。今のように本気で笑える時間も作ってほしいですわ」
「レティシアはいつも楽しそうで羨ましいよ」
「ロダ様とエドワード様を誘ってお出かけしましょう。エドワード様とクロード殿下には遊びが必要ですわ」
「レオにはいいのか?」
「レオ様は自由に遊んでますわ。楽しそうな姿に安心します。ビアードはリオに任せますわ。この一年はたくさん遊びましょう」
無表情で悩むクロード殿下にニッコリ笑いかけます。
「友達か」
「はい。お友達ですわ。お友達の時間はクロード殿下の命令は聞きません」
「殿下?」
「クロード様とお呼びしますわ。クロード様、たくさん遊んで、笑いましょう。クロード様の笑顔は民の宝ですもの。クロード様が転移陣を仕掛けてくれればどこでも行きたい放題です」
「ロダに連れて行ってもらうか。ロダは海の水のある場所なら自由自在だ」
「素敵ですわ。いつにしましょうか。どこに行こうかな。世界の名物を食べつくしも…」
「リオはいいのか?」
「遊ぶのは子供の特権です。リオは大人ですから大丈夫ですよ。うちに婿入りするなら強くなっていただかないと。クロード様の執務のお手伝いに必要なら呼び出しますわ」
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苦笑するクロード様に手を引かれて学園に戻りました。クロード様のお忍び計画をロダ様と一緒にたてましょう。ビアード公爵夫人の様子はリオが毎日伝えてくれるのでビアードに帰るのは社交と緊急要請時だけでいいですわ。ビアード公爵夫人は妊娠してますが体調は良好です。心配なのはルーン公爵夫人ですが面会に行く理由がありませんわ。とりあえずルーン公爵家の社交を代わりましょう。
寝る前にロダ様と通信しましょう。寮の机の上に魔導鏡は三つあります。リオとセリアとロダ様用です。セリアの魔導鏡だけは魔石を置かなくても勝手に通信を受信します。私がセリアと通信したい時は魔石を置かないといけないんですが仕組みはわかりませんが気にしません。
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