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第百二十六話 出来ること
ルーン公爵夫人は妊娠中です。なぜかエイベル達との訓練の予定が組まれています。エイベルの訓練について話をするためにリオに頼んでルーン公爵夫人に面会依頼を出しました。
ルーン公爵邸に訪問するとルーン公爵もいらっしゃいました。多忙なルーン公爵にお会いするのは王宮で記憶晒しをされた日以来です。治療のお礼は手紙のやりとりのみ。治療費の請求もないのでエイベルに作らせた純度の高い魔石とビアードの名産品を贈りました。お会いできたら言わなければいけないことがあります。
案内された部屋で椅子に座る前に頭を下げます。
「お時間をいただき感謝します。ビアードの度重なる不敬の数々お詫びの言葉もありません。恩情をいただき感謝申しあげます」
ビアード公爵夫人はお父様、いえルーン公爵に無礼を働いています。うちが報復されないのが不思議でたまりません。
「顔をあげなさい。謝罪はいらない。昔からだから気にしないでいい」
顔を上げると怒っている様子はありません。昔はお父様の表情が読み取れず怖かったです。咎められていると思っていた声も今は違うと気付いています。今の私にとっては懐かしい優しく諫める姿に心がじんわりします。お父様は優しく愛情深い方ですもの。
「おとう、失礼しました。ありがとうございます。ルーン公爵夫人が身重と伺っております。私は治癒魔法を学んでおります。学生の身ゆえ身軽です。何かあればいつでも呼んでくださいませ。出産の取り上げ経験もありますのでご安心を」
お忙しいルーン公爵の代わりを申し出ると真顔のリオに肩を掴まれました。
「どういうこと?出産?」
困惑しているリオは知らなかったんですね。ビアードの医療水準はルーンと比べものにならないほど低いです。ビアードの治癒魔導士見習いには私の調合した回復薬を配っていますが高度な治癒魔法は使えません。いざという時はビアードの伝令を飛ばすように命じてあります。以前はルーンに治癒魔導士の要請をしていましたが、今は私が要請を受けて動いています。おかげで生前よりも経験は豊富ですよ。赤子は一度しか取り上げたことはありませんができますわ。そこまで難しくありません。
「ビアードに治癒魔道士は少なく非常時は呼ばれます。出産に服毒、切り傷、治癒魔法の効果のないものも含めて一通りの経験は積んでます。信用がないならお見せしましょう」
「いい。腕を斬って瞬時に治すとか見たくない」
「後日記録をお持ちしますわ。また派閥の社交は私が引き受けます」
自分の腕を斬るつもりはありません。厨房から魚を借りて治癒魔法をかければいいと思ってました。わざわざ説明する必要も感じません。不審者をみるような目をしているルーン公爵に笑いかけます。
「同派閥として後輩のエドワード様と新たな命のために精一杯頑張ります。信用していただけるまでは様子を見てくださいませ」
「本当にビアード公爵令嬢か?」
「まだまだ未熟でありますゆえ、ご満足いただけるように努力します」
ルーン公爵は私のふがいない姿を知っています。王宮で意識を失った時はきちんと魔導士達を捕縛しなかったのは失態ですわ。混乱して取り乱した恥ずかしい姿も。
「リオ、彼女は?」
「ビアードの至宝。ビアードで唯一マトモな価値観を持っています。ビアードの社交は全てレティシアが。これを」
私のふがいなさを心配そうな顔をしているルーン公爵がリオを見ました。リオが小さな声でルーン公爵と話しているので聞き取れません。リオが渡した書類を見てルーン公爵は眉を一瞬あげて驚いた顔をしました。無表情のお父様の表情変化も読み取れますわよ。
「叔父上が取り込もうとしていた家でしょう?ルーンの傘下に入ることへの前向きな返事をいただいてます」
信用されないなら勝手に動きましょう。宰相一族のルーン公爵家の信頼はたやすく得られないのは良く知っています。
「本日はルーン公爵夫人に今後の訓練について確認したく参りました。産後落ち着きましたらまた兄の訓練をお願いしたく」
「シア、その件は俺が叔母上と話すよ」
「かしこまりました。ルーン公爵夫人、いつでもお声をおかけください。お顔の色が優れません。こちらはお見舞いですわ。ターナー伯爵夫妻からです」
「これは?よく手に入りましたね。懐かしい」
驚いているルーン公爵夫人。ターナー伯爵家の崖下にしか生えない木に育つ赤い実。お母様が気に入って召し上がっていたもの。レオ様とロキにお願いして採集に行きました。ロキの風魔法がなければ手に入れられませんでしたわ。そしてターナー伯爵夫妻とも面会して来ましたわ。
「伯母様に教えていただきました。おかあ、ルーン公爵夫人の体調が優れないなら帰ってらっしゃいと伯母様より」
「あのお姉様が?」
「はい。心配されてました。ルーンよりもターナーの空気のほうが体に合うと。もしターナー伯爵家でなにかあれば私が駆けつけます。レオ様の転移魔法ですぐですわ。伯父様はビアードの伝令も使えます。こちらもどうぞ。シオン伯爵令嬢の試作品です」
セリアが開発した映像魔石にエドワードの挨拶を録画しました。魔力を流すと堂々と挨拶をする姿が映し出されます。
「生徒会でもレオ様の補佐官として非常に優秀とクロード殿下もおっしゃっていました。無事なお子が生まれるまでどうかお手伝いさせてください。いずれうちの派閥を束ねる筆頭令嬢のために」
エドワードの姿を見てルーン公爵夫妻は優しく笑いました。昔の私は無表情だと思っていたお顔ですが。
「父上、え?」
扉から入ってきたのは書類を持ったエドワード。
「ごきげんよう。私は失礼します。リオは久しぶりにエディとの時間を楽しんでください」
「え?」
「お時間をいただき感謝致します。いつでもお呼びくださいませ。エディ、また学園で」
「レティシア、邪魔じゃない。時間があるなら書庫に案内するよ」
「まぁ!?でもせっかくの家族の時間を」
「構わない。ゆっくりしていきなさい」
「一緒に帰ろうよ。レティシアの席も用意する」
家族の時間の邪魔はいけないと思っていましたが誘惑には勝てませんでした。懐かしいルーンの料理も書庫も。今日はエドワードの気遣いに甘えて書庫で水魔法の勉強をして庭園を散歩しました。ルーンを覆う結界の魔力、親しかった家臣達、大好きな物に囲まれて頬が緩んでしまいました。
それからルーンの書庫に行きたいとエドワードにお願いをして頻繁に訪問し顔色の悪いルーン公爵夫人に魔力を送りに行くようになりました。食欲のもないルーン公爵夫人が無事に出産を迎えられるように全力でお手伝いします。
ルーン公爵邸に訪問するとルーン公爵もいらっしゃいました。多忙なルーン公爵にお会いするのは王宮で記憶晒しをされた日以来です。治療のお礼は手紙のやりとりのみ。治療費の請求もないのでエイベルに作らせた純度の高い魔石とビアードの名産品を贈りました。お会いできたら言わなければいけないことがあります。
案内された部屋で椅子に座る前に頭を下げます。
「お時間をいただき感謝します。ビアードの度重なる不敬の数々お詫びの言葉もありません。恩情をいただき感謝申しあげます」
ビアード公爵夫人はお父様、いえルーン公爵に無礼を働いています。うちが報復されないのが不思議でたまりません。
「顔をあげなさい。謝罪はいらない。昔からだから気にしないでいい」
顔を上げると怒っている様子はありません。昔はお父様の表情が読み取れず怖かったです。咎められていると思っていた声も今は違うと気付いています。今の私にとっては懐かしい優しく諫める姿に心がじんわりします。お父様は優しく愛情深い方ですもの。
「おとう、失礼しました。ありがとうございます。ルーン公爵夫人が身重と伺っております。私は治癒魔法を学んでおります。学生の身ゆえ身軽です。何かあればいつでも呼んでくださいませ。出産の取り上げ経験もありますのでご安心を」
お忙しいルーン公爵の代わりを申し出ると真顔のリオに肩を掴まれました。
「どういうこと?出産?」
困惑しているリオは知らなかったんですね。ビアードの医療水準はルーンと比べものにならないほど低いです。ビアードの治癒魔導士見習いには私の調合した回復薬を配っていますが高度な治癒魔法は使えません。いざという時はビアードの伝令を飛ばすように命じてあります。以前はルーンに治癒魔導士の要請をしていましたが、今は私が要請を受けて動いています。おかげで生前よりも経験は豊富ですよ。赤子は一度しか取り上げたことはありませんができますわ。そこまで難しくありません。
「ビアードに治癒魔道士は少なく非常時は呼ばれます。出産に服毒、切り傷、治癒魔法の効果のないものも含めて一通りの経験は積んでます。信用がないならお見せしましょう」
「いい。腕を斬って瞬時に治すとか見たくない」
「後日記録をお持ちしますわ。また派閥の社交は私が引き受けます」
自分の腕を斬るつもりはありません。厨房から魚を借りて治癒魔法をかければいいと思ってました。わざわざ説明する必要も感じません。不審者をみるような目をしているルーン公爵に笑いかけます。
「同派閥として後輩のエドワード様と新たな命のために精一杯頑張ります。信用していただけるまでは様子を見てくださいませ」
「本当にビアード公爵令嬢か?」
「まだまだ未熟でありますゆえ、ご満足いただけるように努力します」
ルーン公爵は私のふがいない姿を知っています。王宮で意識を失った時はきちんと魔導士達を捕縛しなかったのは失態ですわ。混乱して取り乱した恥ずかしい姿も。
「リオ、彼女は?」
「ビアードの至宝。ビアードで唯一マトモな価値観を持っています。ビアードの社交は全てレティシアが。これを」
私のふがいなさを心配そうな顔をしているルーン公爵がリオを見ました。リオが小さな声でルーン公爵と話しているので聞き取れません。リオが渡した書類を見てルーン公爵は眉を一瞬あげて驚いた顔をしました。無表情のお父様の表情変化も読み取れますわよ。
「叔父上が取り込もうとしていた家でしょう?ルーンの傘下に入ることへの前向きな返事をいただいてます」
信用されないなら勝手に動きましょう。宰相一族のルーン公爵家の信頼はたやすく得られないのは良く知っています。
「本日はルーン公爵夫人に今後の訓練について確認したく参りました。産後落ち着きましたらまた兄の訓練をお願いしたく」
「シア、その件は俺が叔母上と話すよ」
「かしこまりました。ルーン公爵夫人、いつでもお声をおかけください。お顔の色が優れません。こちらはお見舞いですわ。ターナー伯爵夫妻からです」
「これは?よく手に入りましたね。懐かしい」
驚いているルーン公爵夫人。ターナー伯爵家の崖下にしか生えない木に育つ赤い実。お母様が気に入って召し上がっていたもの。レオ様とロキにお願いして採集に行きました。ロキの風魔法がなければ手に入れられませんでしたわ。そしてターナー伯爵夫妻とも面会して来ましたわ。
「伯母様に教えていただきました。おかあ、ルーン公爵夫人の体調が優れないなら帰ってらっしゃいと伯母様より」
「あのお姉様が?」
「はい。心配されてました。ルーンよりもターナーの空気のほうが体に合うと。もしターナー伯爵家でなにかあれば私が駆けつけます。レオ様の転移魔法ですぐですわ。伯父様はビアードの伝令も使えます。こちらもどうぞ。シオン伯爵令嬢の試作品です」
セリアが開発した映像魔石にエドワードの挨拶を録画しました。魔力を流すと堂々と挨拶をする姿が映し出されます。
「生徒会でもレオ様の補佐官として非常に優秀とクロード殿下もおっしゃっていました。無事なお子が生まれるまでどうかお手伝いさせてください。いずれうちの派閥を束ねる筆頭令嬢のために」
エドワードの姿を見てルーン公爵夫妻は優しく笑いました。昔の私は無表情だと思っていたお顔ですが。
「父上、え?」
扉から入ってきたのは書類を持ったエドワード。
「ごきげんよう。私は失礼します。リオは久しぶりにエディとの時間を楽しんでください」
「え?」
「お時間をいただき感謝致します。いつでもお呼びくださいませ。エディ、また学園で」
「レティシア、邪魔じゃない。時間があるなら書庫に案内するよ」
「まぁ!?でもせっかくの家族の時間を」
「構わない。ゆっくりしていきなさい」
「一緒に帰ろうよ。レティシアの席も用意する」
家族の時間の邪魔はいけないと思っていましたが誘惑には勝てませんでした。懐かしいルーンの料理も書庫も。今日はエドワードの気遣いに甘えて書庫で水魔法の勉強をして庭園を散歩しました。ルーンを覆う結界の魔力、親しかった家臣達、大好きな物に囲まれて頬が緩んでしまいました。
それからルーンの書庫に行きたいとエドワードにお願いをして頻繁に訪問し顔色の悪いルーン公爵夫人に魔力を送りに行くようになりました。食欲のもないルーン公爵夫人が無事に出産を迎えられるように全力でお手伝いします。
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