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クラスメイトの呟き クラム視点
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カーチス侯爵家次男に生まれた俺には兄と弟と妹がいる。
幼馴染はスワン伯爵家三男のニコル。うちと同じく成り上がりでフラン王国の中立派閥に属している。
うちのクラスはわかりやすく社交界の縮図が広がっている。
ルーン公爵家筆頭派閥の中心であるエドワード・ルーンにレティシア・ビアードとパドマ公爵家筆頭派閥のアリッサ・マートンが対立している。パドマ公爵家筆頭派閥の令嬢達はステラ・グレイを除けば全てマートンの味方。ルーン公爵家筆頭派閥の令嬢達は全てビアードの味方である。ビアードは派閥争いに関与しない武門貴族のはずなのにルーン公爵家筆頭派閥の令嬢をまとめている。そして武門貴族は全てがビアードの味方についておりルーン公爵家筆頭派閥が今後も力を増すことが予想される。激しい派閥争いに関与しない俺達中立貴族は日和見だったが最近はルーンの派閥に入る家が増えている。ビアードがマートンに常に圧勝する姿や爽やかに微笑みながら切れ味のいい言葉で邪魔者を排除するエドワード・ルーンを見ているといつかはルーン公爵家の派閥が全てを支配するんじゃないかと思う。
アリッサ・マートンは矜持が高く負けず嫌いだがわかりやすい侯爵令嬢。神経質で細かいことさえ苛立ちを覚える姿は感心している。
反対にレティシア・ビアードはスルースキルが物凄い令嬢である。一年の時からクラスで一番人気があり多くの男に口説かれてもスルーして、貴族の頂点にいるマール様さえもスルーを続ける。それなのに突然のクロード殿下の改革したいと言う発言に誰よりも早く頷いた。エイベル様も躊躇うことなく頷いたが…。俺は戸惑いながらも空気を読んで礼をして頷いた。王族の言葉も身分の高い者の言葉も絶対は常識だ。
誰よりも頭を下げられ、道を開けられて堂々と歩いてきた者には中途半端な立ち位置の俺達の戸惑いなんて関係ないのかもしれない。望みのままに進める権力を持つ歴史を持つ高貴といわれる生まれのものは。
「平等精神を思い出し互いに高め合い学んでほしい」
教室では朝礼でのクロード殿下の決意表明に戸惑っている生徒ばかり。一部だけ楽しそうに話す空気が違う集団の中心にいるのはやはりビアード。
「バカなんだから考えるなら聞いてみれば?」
友人のニコルも戸惑っていない少数派。
「王族の言葉に従うのが臣下の務め。私は両殿下の目指す道を信じております。ですが価値観はそれぞれです。表面上は取り繕えば心は自由です。そしてもしも間違っていると思い譲れないなら直接お話してください。ここは平等の学園ですから」
俺が聞かなくても同じ疑問を持っているクラスメイトがいた。ビアードは迷いのない瞳でサラリと言い、微笑んでフィル達のもとに戻っていく。
殿下によく怒られていたビアードのスルースキルはさらに上がり、不機嫌な殿下の冷たい空気さえも笑顔で眺めるようになっている。平等の学園でも王族に反論なんてできない。生徒会でも殿下に堂々と意見できるのは在学生ではビアードとエドワード・ルーン様だけだろう。空気が凍りついている中で繰り広げられる両殿下の喧嘩を笑顔で止めるのも。
殿下の命令で生徒会役員は補佐官の任命が義務付けられた。マートンに立候補されたが同級生なので断り二年生のニコルの従弟を選んだ。ビアードは同級生のロキを選んだことに驚いたが人の予想を裏切るのがビアードの十八番だから今更か。
天才と呼ばれるシオン嬢から面会依頼を受けたので応じると血を提供してほしいと言われた。シオン伯爵家の研究に協力できるのは名誉なことなので了承すると美しく笑う顔に目を奪われた。お礼にと侍女ではなくシオン伯爵令嬢自ら淹れたお茶は美味しくなぜか体の力が抜けた。この美しい人はどう思うんだろうか。
「身分もない平等な学園作りが始まる」
「能力のあるものが生き残れるなんてわざわざ公言してくださるなんてお優しい」
「は?」
「王族よ。命令一つで貴族社会を壊すのは造作もないこと。無駄なことをわざわざ選ぶ物好きよね。そろそろいいかしら。協力に感謝します。それでは」
血の提供が終わり出て行く美しい姿を見送ると眠気に襲わて目を閉じた。
目を開けると保健室のベッドの中にいた。
怖い笑顔のニコルといつもの顔のビアードがいた。
「侍従からクラムが真っ青な顔で倒れていると聞いて呼び出されたけど」
「スワン様、病み上がりなので落ち着いてください。これをどうぞ。セリアの被験者は危険なので控えてくださいませ。失礼しますわ」
机の上に小瓶を1本置き礼をしてビアードが退室した。先生が留守のため貧血で倒れた俺に魔力を送ってくれたらしい。置かれた瓶の中身に口をつけると魔力がみなぎり体に力が入った。うちのクラスで唯一、難関の治癒魔導士試験を受けて一度で合格したビアードの回復薬は効果が抜群ってことか。
シオン嬢に会うと美しい笑みを向けられお茶に誘われる。シオン嬢は家の事情で学園を一年で卒業したため生徒から話を聞くのが楽しいらしい。整った美しい顔立ち、何より誰よりも美しい瞳はずっと見つめていたい。
「失礼しますわ」
ニコルと話しているとビアードが俺の瞳を覗き込み頬に手を当てぐっと顔を近づけた。体が冷たくなり吐息がかかるほどの近さで真正面にある大きく開いた銀の瞳。あまりの近さに照れて視線を逸らす。
「駄目ですわ。カーチス様、セリアの薬は治癒魔法の効果がありません。無味無臭の薬も多くお茶に含まれています。絶対に手を出すのはおやめください」
頬から手を放し、礼をしたビアードは颯爽と消えた。どういうことだ?ニコルの視線が痛いのはなんでだろうか。
それからシオン嬢に会ってもお茶に誘われることはなくなった。
「セリア、これは素晴らしいですわ。もう少し容量が増えたら」
「魔力の消費が増えるわよ」
「属性に作り分けすればいかがでしょうか?全属性にせず、もちろん素材は私が集めますわ」
「それなら」
親しそうに話しているシオン嬢とビアードは俺には気付かずに通り過ぎていく。
シオン嬢は美しく変わった世界観を持っている。彼女がいてくれたら俺には理解できない世界がわかるだろうか。調べるとビアードほどではないがシオン嬢は男に人気があった。
人気があるといえば卒業しても頻繁にビアードに会いにくるマール様も同じ。
マール様が会いに来てもビアードは他の用事を優先させているらしい。そして放置されたマール様に突然訪問されビアードの様子を聞かれる。よく聞かれるのは好きな男や恋人ができていないか。
「ビアードには特別がいるようには思えませんが。最近はシオン嬢とばかりいますし」
「は?」
美しい人を独り占めしているビアード。
「羨ましい。シオン嬢と」
「一応忠告してやるよ。あれはやめておけ。王国一危険な令嬢だ」
「ビアードのほうがやばいと思いますが」
「レティシアの」
扉が開き駆けこんで来たのはビアードだった。マール様が嬉しそうに笑うのに視線を向けず俺の頬に手を伸ばして吐息がかかるほどの距離まで顔をぐっと近づけた。目を逸らそうとすると瞼を指で持ち上げられ無理矢理目を合わせられる。
「やはり色がおかしいですわ。クラム様、セリアから飴を食べさせられました?」
「は?そんな羨ましい」
「これは駄目ですわ。今日は誰にも会わずにお部屋に戻り休んでください。信頼できる方以外は絶対にお話してはいけません。自白剤を」
「シオン嬢なら歓迎だけど、平らな」
ビアードの人差し指に唇を塞がれ言葉を止める。
「口を閉じてください。お話してはいけません。やはり効果がすでに出てきましたわ。きっとどこかに映像魔石が仕掛けてあるんでしょう。セリアの訪問した部屋には全てありますもの。セリア、いい加減にしてください!!いいですか。命令ですよ。クラム様はすぐに自室に戻ってください。醜聞を作りたくないなら急いでください」
手を離して、部屋を飛び出していくビアード。寒気を感じるとマール様から冷気が出ている。
「シアの胸が慎ましいってなに?いつから名前で呼ばれている?」
「体術の授業のときに」
「触れたのか?」
「胸と言うには小さく」
「自室に送ってやるよ。俺でも触れたことがないのに」
手合わせしていてうっかり押し潰しただけだ。手加減はいらないって言うし…。
「気にしてませんよ。ビアード公爵がうるさいから内緒にしてほしいって」
「記憶から消せ。すぐに、物理でいいか」
恐ろしい笑みを浮かべるマール様の顔が見えなくなり意識を失った。
翌日にニコルに恐ろしい説教を受けた。シオン嬢からの贈り物は口にするなと言われても体に支障がない。父上にシオン嬢を婚約者にしたいと言うと歓迎されたので近づく口実もある。神出鬼没なシオン嬢を掴まえるにはビアードが必要だった。ビアードはよくシオン嬢を追いかけている。
「セリア、いい加減になさいませ!!騙して同意をとるなどいけません。被験者が欲しいなら学園以外でお願いします!!」
「ビアード、俺の部屋でお茶を淹れるよ。シオン嬢も是非。シオン嬢のお茶は絶品ですが、」
「飲んではいけません!!クラム様、セリアのお茶は」
シオン嬢の前でのビアードは冷静さのカケラもなく妹のようなお転婆さに初めて親しみを持った。スルースキルの凄さは相変わらずだけど。
友人になってわかった。ビアードはクロード殿下を信仰している。だから躊躇いもなく全ての言葉に頷ける。ビアードのように従うのはできないけど、殿下は改革を始めて取り締まりは厳しくなったが殿下自身の態度は変わらない。
「クロード様もただ人です。お友達と楽しく過ごす時間は大事ですよ。クロード様とお友達になりたいなら歓迎しますわ」
「僕に遠慮はいりません」
冷たい空気で喧嘩をしている両殿下を見ながら和やかにお茶を飲めるスルースキルがない俺にはエドワード様とレティシアのように友人なんて恐れ多い。
「両殿下よりもおそろしいものに夢中なクラム様に感心します」
「面倒な婚約者を持ったレティシアも」
「研究生の資格剥奪の権限は生徒会にはありません。リオはロベルト先生のお気に入りですが過剰な訓練は許せるものではありません。二人が落ち着けば研究生の罰則を考えていただけるでしょうか」
「レティシアが面会謝絶すれば」
「忘れてましたわ。そうしましょう。私は後輩を思いやれない殿方は嫌いですわ。エディのように優しく正しく育ってくれれば」
マール様に酷い評価をしているレティシアとエドワード様。わからない時はただ従うだけでいいことに気付いた。俺よりも優秀な生徒が付いていくなら悪いものではないだろう。レティシアのスルースキルを見習おう。いつも同じことを言うレティシアとニコルの話はスルーする。シオン嬢に近づくためならいくらでも協力する。協力すれば美しい笑みで感謝をされる。騙されてるってニコル達は言うけど人を騙すような令嬢ではない。レティシアの言う通り価値観も心の持ちようも自由だから。
スルースキルのおかげで学園生活は気楽なものに変わった。成績さえ維持すれば父上にも自由にしていいと言われシオン嬢を掴まえろと応援されている。
「ニコル様、なんとかしてください」
「もうどうしていいかわからない」
「侯爵子息が被験者。そして騙されていますわ」
「生死に関わらなければいいかな」
「セリアは騙しやすい生徒を見つけて取り入るのが上手すぎますわ。洗脳なのか薬の所為かわかりませんが」
レティシアの情報を話すとマール様がシオン嬢の情報をくれる。偶然書類を届けにきたレティシアにマール様が嬉しそうに笑い近づいた。
「用もないのに学園に来ないでください。成人しています。きちんと」
「カーチスに用があったんだ」
「失礼しました。それなら構いませんわ。では書類を置いていきますわ。ロキ、行きましょう」
「俺も行くよ。もう終わったから食事を一緒に」
「今からでは晩餐に遅れますわね。かしこまりました。ご一緒されませんか?」
俺とマール様の時間を作りたがるレティシアの誘いは辞退する。マール様が邪魔するなと視線を送るので。マール様は卒業しても素っ気ないレティシアを追いかけている。素っ気ないレティシアの婚約者に収まったマール様を見ると俺のほうが希望がある気がする。
幼馴染はスワン伯爵家三男のニコル。うちと同じく成り上がりでフラン王国の中立派閥に属している。
うちのクラスはわかりやすく社交界の縮図が広がっている。
ルーン公爵家筆頭派閥の中心であるエドワード・ルーンにレティシア・ビアードとパドマ公爵家筆頭派閥のアリッサ・マートンが対立している。パドマ公爵家筆頭派閥の令嬢達はステラ・グレイを除けば全てマートンの味方。ルーン公爵家筆頭派閥の令嬢達は全てビアードの味方である。ビアードは派閥争いに関与しない武門貴族のはずなのにルーン公爵家筆頭派閥の令嬢をまとめている。そして武門貴族は全てがビアードの味方についておりルーン公爵家筆頭派閥が今後も力を増すことが予想される。激しい派閥争いに関与しない俺達中立貴族は日和見だったが最近はルーンの派閥に入る家が増えている。ビアードがマートンに常に圧勝する姿や爽やかに微笑みながら切れ味のいい言葉で邪魔者を排除するエドワード・ルーンを見ているといつかはルーン公爵家の派閥が全てを支配するんじゃないかと思う。
アリッサ・マートンは矜持が高く負けず嫌いだがわかりやすい侯爵令嬢。神経質で細かいことさえ苛立ちを覚える姿は感心している。
反対にレティシア・ビアードはスルースキルが物凄い令嬢である。一年の時からクラスで一番人気があり多くの男に口説かれてもスルーして、貴族の頂点にいるマール様さえもスルーを続ける。それなのに突然のクロード殿下の改革したいと言う発言に誰よりも早く頷いた。エイベル様も躊躇うことなく頷いたが…。俺は戸惑いながらも空気を読んで礼をして頷いた。王族の言葉も身分の高い者の言葉も絶対は常識だ。
誰よりも頭を下げられ、道を開けられて堂々と歩いてきた者には中途半端な立ち位置の俺達の戸惑いなんて関係ないのかもしれない。望みのままに進める権力を持つ歴史を持つ高貴といわれる生まれのものは。
「平等精神を思い出し互いに高め合い学んでほしい」
教室では朝礼でのクロード殿下の決意表明に戸惑っている生徒ばかり。一部だけ楽しそうに話す空気が違う集団の中心にいるのはやはりビアード。
「バカなんだから考えるなら聞いてみれば?」
友人のニコルも戸惑っていない少数派。
「王族の言葉に従うのが臣下の務め。私は両殿下の目指す道を信じております。ですが価値観はそれぞれです。表面上は取り繕えば心は自由です。そしてもしも間違っていると思い譲れないなら直接お話してください。ここは平等の学園ですから」
俺が聞かなくても同じ疑問を持っているクラスメイトがいた。ビアードは迷いのない瞳でサラリと言い、微笑んでフィル達のもとに戻っていく。
殿下によく怒られていたビアードのスルースキルはさらに上がり、不機嫌な殿下の冷たい空気さえも笑顔で眺めるようになっている。平等の学園でも王族に反論なんてできない。生徒会でも殿下に堂々と意見できるのは在学生ではビアードとエドワード・ルーン様だけだろう。空気が凍りついている中で繰り広げられる両殿下の喧嘩を笑顔で止めるのも。
殿下の命令で生徒会役員は補佐官の任命が義務付けられた。マートンに立候補されたが同級生なので断り二年生のニコルの従弟を選んだ。ビアードは同級生のロキを選んだことに驚いたが人の予想を裏切るのがビアードの十八番だから今更か。
天才と呼ばれるシオン嬢から面会依頼を受けたので応じると血を提供してほしいと言われた。シオン伯爵家の研究に協力できるのは名誉なことなので了承すると美しく笑う顔に目を奪われた。お礼にと侍女ではなくシオン伯爵令嬢自ら淹れたお茶は美味しくなぜか体の力が抜けた。この美しい人はどう思うんだろうか。
「身分もない平等な学園作りが始まる」
「能力のあるものが生き残れるなんてわざわざ公言してくださるなんてお優しい」
「は?」
「王族よ。命令一つで貴族社会を壊すのは造作もないこと。無駄なことをわざわざ選ぶ物好きよね。そろそろいいかしら。協力に感謝します。それでは」
血の提供が終わり出て行く美しい姿を見送ると眠気に襲わて目を閉じた。
目を開けると保健室のベッドの中にいた。
怖い笑顔のニコルといつもの顔のビアードがいた。
「侍従からクラムが真っ青な顔で倒れていると聞いて呼び出されたけど」
「スワン様、病み上がりなので落ち着いてください。これをどうぞ。セリアの被験者は危険なので控えてくださいませ。失礼しますわ」
机の上に小瓶を1本置き礼をしてビアードが退室した。先生が留守のため貧血で倒れた俺に魔力を送ってくれたらしい。置かれた瓶の中身に口をつけると魔力がみなぎり体に力が入った。うちのクラスで唯一、難関の治癒魔導士試験を受けて一度で合格したビアードの回復薬は効果が抜群ってことか。
シオン嬢に会うと美しい笑みを向けられお茶に誘われる。シオン嬢は家の事情で学園を一年で卒業したため生徒から話を聞くのが楽しいらしい。整った美しい顔立ち、何より誰よりも美しい瞳はずっと見つめていたい。
「失礼しますわ」
ニコルと話しているとビアードが俺の瞳を覗き込み頬に手を当てぐっと顔を近づけた。体が冷たくなり吐息がかかるほどの近さで真正面にある大きく開いた銀の瞳。あまりの近さに照れて視線を逸らす。
「駄目ですわ。カーチス様、セリアの薬は治癒魔法の効果がありません。無味無臭の薬も多くお茶に含まれています。絶対に手を出すのはおやめください」
頬から手を放し、礼をしたビアードは颯爽と消えた。どういうことだ?ニコルの視線が痛いのはなんでだろうか。
それからシオン嬢に会ってもお茶に誘われることはなくなった。
「セリア、これは素晴らしいですわ。もう少し容量が増えたら」
「魔力の消費が増えるわよ」
「属性に作り分けすればいかがでしょうか?全属性にせず、もちろん素材は私が集めますわ」
「それなら」
親しそうに話しているシオン嬢とビアードは俺には気付かずに通り過ぎていく。
シオン嬢は美しく変わった世界観を持っている。彼女がいてくれたら俺には理解できない世界がわかるだろうか。調べるとビアードほどではないがシオン嬢は男に人気があった。
人気があるといえば卒業しても頻繁にビアードに会いにくるマール様も同じ。
マール様が会いに来てもビアードは他の用事を優先させているらしい。そして放置されたマール様に突然訪問されビアードの様子を聞かれる。よく聞かれるのは好きな男や恋人ができていないか。
「ビアードには特別がいるようには思えませんが。最近はシオン嬢とばかりいますし」
「は?」
美しい人を独り占めしているビアード。
「羨ましい。シオン嬢と」
「一応忠告してやるよ。あれはやめておけ。王国一危険な令嬢だ」
「ビアードのほうがやばいと思いますが」
「レティシアの」
扉が開き駆けこんで来たのはビアードだった。マール様が嬉しそうに笑うのに視線を向けず俺の頬に手を伸ばして吐息がかかるほどの距離まで顔をぐっと近づけた。目を逸らそうとすると瞼を指で持ち上げられ無理矢理目を合わせられる。
「やはり色がおかしいですわ。クラム様、セリアから飴を食べさせられました?」
「は?そんな羨ましい」
「これは駄目ですわ。今日は誰にも会わずにお部屋に戻り休んでください。信頼できる方以外は絶対にお話してはいけません。自白剤を」
「シオン嬢なら歓迎だけど、平らな」
ビアードの人差し指に唇を塞がれ言葉を止める。
「口を閉じてください。お話してはいけません。やはり効果がすでに出てきましたわ。きっとどこかに映像魔石が仕掛けてあるんでしょう。セリアの訪問した部屋には全てありますもの。セリア、いい加減にしてください!!いいですか。命令ですよ。クラム様はすぐに自室に戻ってください。醜聞を作りたくないなら急いでください」
手を離して、部屋を飛び出していくビアード。寒気を感じるとマール様から冷気が出ている。
「シアの胸が慎ましいってなに?いつから名前で呼ばれている?」
「体術の授業のときに」
「触れたのか?」
「胸と言うには小さく」
「自室に送ってやるよ。俺でも触れたことがないのに」
手合わせしていてうっかり押し潰しただけだ。手加減はいらないって言うし…。
「気にしてませんよ。ビアード公爵がうるさいから内緒にしてほしいって」
「記憶から消せ。すぐに、物理でいいか」
恐ろしい笑みを浮かべるマール様の顔が見えなくなり意識を失った。
翌日にニコルに恐ろしい説教を受けた。シオン嬢からの贈り物は口にするなと言われても体に支障がない。父上にシオン嬢を婚約者にしたいと言うと歓迎されたので近づく口実もある。神出鬼没なシオン嬢を掴まえるにはビアードが必要だった。ビアードはよくシオン嬢を追いかけている。
「セリア、いい加減になさいませ!!騙して同意をとるなどいけません。被験者が欲しいなら学園以外でお願いします!!」
「ビアード、俺の部屋でお茶を淹れるよ。シオン嬢も是非。シオン嬢のお茶は絶品ですが、」
「飲んではいけません!!クラム様、セリアのお茶は」
シオン嬢の前でのビアードは冷静さのカケラもなく妹のようなお転婆さに初めて親しみを持った。スルースキルの凄さは相変わらずだけど。
友人になってわかった。ビアードはクロード殿下を信仰している。だから躊躇いもなく全ての言葉に頷ける。ビアードのように従うのはできないけど、殿下は改革を始めて取り締まりは厳しくなったが殿下自身の態度は変わらない。
「クロード様もただ人です。お友達と楽しく過ごす時間は大事ですよ。クロード様とお友達になりたいなら歓迎しますわ」
「僕に遠慮はいりません」
冷たい空気で喧嘩をしている両殿下を見ながら和やかにお茶を飲めるスルースキルがない俺にはエドワード様とレティシアのように友人なんて恐れ多い。
「両殿下よりもおそろしいものに夢中なクラム様に感心します」
「面倒な婚約者を持ったレティシアも」
「研究生の資格剥奪の権限は生徒会にはありません。リオはロベルト先生のお気に入りですが過剰な訓練は許せるものではありません。二人が落ち着けば研究生の罰則を考えていただけるでしょうか」
「レティシアが面会謝絶すれば」
「忘れてましたわ。そうしましょう。私は後輩を思いやれない殿方は嫌いですわ。エディのように優しく正しく育ってくれれば」
マール様に酷い評価をしているレティシアとエドワード様。わからない時はただ従うだけでいいことに気付いた。俺よりも優秀な生徒が付いていくなら悪いものではないだろう。レティシアのスルースキルを見習おう。いつも同じことを言うレティシアとニコルの話はスルーする。シオン嬢に近づくためならいくらでも協力する。協力すれば美しい笑みで感謝をされる。騙されてるってニコル達は言うけど人を騙すような令嬢ではない。レティシアの言う通り価値観も心の持ちようも自由だから。
スルースキルのおかげで学園生活は気楽なものに変わった。成績さえ維持すれば父上にも自由にしていいと言われシオン嬢を掴まえろと応援されている。
「ニコル様、なんとかしてください」
「もうどうしていいかわからない」
「侯爵子息が被験者。そして騙されていますわ」
「生死に関わらなければいいかな」
「セリアは騙しやすい生徒を見つけて取り入るのが上手すぎますわ。洗脳なのか薬の所為かわかりませんが」
レティシアの情報を話すとマール様がシオン嬢の情報をくれる。偶然書類を届けにきたレティシアにマール様が嬉しそうに笑い近づいた。
「用もないのに学園に来ないでください。成人しています。きちんと」
「カーチスに用があったんだ」
「失礼しました。それなら構いませんわ。では書類を置いていきますわ。ロキ、行きましょう」
「俺も行くよ。もう終わったから食事を一緒に」
「今からでは晩餐に遅れますわね。かしこまりました。ご一緒されませんか?」
俺とマール様の時間を作りたがるレティシアの誘いは辞退する。マール様が邪魔するなと視線を送るので。マール様は卒業しても素っ気ないレティシアを追いかけている。素っ気ないレティシアの婚約者に収まったマール様を見ると俺のほうが希望がある気がする。
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