274 / 286
兄の苦労日記37
しおりを挟む
長期休みになりビアード公爵邸に帰ってきた。
今年は近衛騎士試験があるので、訓練に力を入れている。
いつの間にかマールは母上に気に入られてうちに住んでいた。マールを認めていない家臣達が妹に近づけないように動くから心配はしていない。
母上に挨拶に行くか。末の妹の話は着替えるために私室に戻った時にレティシアから聞いている。
「おかえりなさい。イナリアよ」
「ただいま帰りました。母上の体調に変わりなく」
「遊んで!!」
「レティシアに遊んでもらえ。じゃあな」
母上の膝の上に座っている小さいのにきちんと話す初めて見る妹はビアードの天才なんだろうか?
時々成長の速い子供が生まれると聞く。来週に試験があるので遊ぶ時間はない。
制服から着替えたレティシアが来たから任せるか。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい」
「明後日に出立します。ビアードの社交はリオにお願いしてあります。お茶会がありますのでこれで」
部屋を出ようとすると魔力の気配がした。
イナリアが手に持っていた玩具が宙に浮いている。レティシアが受け止める前に玩具が風に包まれた。
「壊れますよ。シア、お帰り。令嬢達がすでに集まっているよ」
「早いですわね。ありがとうございます」
魔法の気配はマールの風か。
礼をして去っていくレティシアを見守るマールは珍しい。いつもなら付いていくのに。
「ビアード、これ、渡しとくよ。俺はシアを呼びにきただけなので失礼します」
渡されたのはイナリアが遊んでいたボール。ずっしりと重みがある。
「エイベル、遊んであげなさい」
母上の膝から降りたイナリアが足に抱きついた。
もう飛び跳ねるのか。母上の評価は親バカじゃないのかもしれない。
イナリアにボールを渡し風で包んで母上の膝に返す。昔は俺達もよく風で飛ばして父上に遊んでもらったな。楽しそうに笑うイナリアを母上に預けて捕まる前に退室する。
着替えて外に向かうと客室の扉の前にはナギが立っていた。
「おかえりなさい。エイベル様」
「何してるんだ」
「リオ様からの命令です。兄さんもすぐに来ますのでお構いなく」
扉が開くと客室から出てきたのは脳天気に笑うレティシア。
「ナギでしたの。ナギ、暇ならいらっしゃい。無礼講なので一緒にお菓子を食べましょう。ロキも呼んであります。ロキのお祝いの準備はローナとナギに任せます。お行儀よくお願いしますね」
「はい。お嬢様」
レティシアに手を引かれてナギが中に入っていく。今日は恒例のレティシア主催のお茶会か。
「任せるよ。ロキ」
「かしこまりました。眠らせます」
ロキと話していたマールが俺の前で足を止めた。
「イナリアの面倒は見ないのか?」
「母上と一緒だ」
「レティシアは忙しいからお前が面倒みろよ」
マールもロキを連れて客室の中に入っていく。
レティシアは子供が好きだから喜んでイナリアの面倒を見るだろう。
マールがおかしいのはいつものことか。ロキがいるならレティシアには手を出さないだろう。訓練するか。
***
「行ってきます。お土産楽しみにしていてください。運よく大道芸がありますのよ」
楽しそうなレティシアが旅立った。
昔は国外に行くことに不安を覚えたがディーネもいるし、強くなったので心配はしていない。
レティシアを送って邸に帰ると書庫が荒らされていた。
執事長は慣れた手つきで片付けている。
「これは?」
「お嬢様です。部屋に入り欲しい物が見つかるまで離れません。怪我はありません」
イナリアが邸の中を歩いているのはよくある光景なのか。
乳母もいるし大丈夫だろう。遊んでとねだられると風で飛ばして乳母の腕の中に返して立ち去る。両親はイナリアを溺愛している。昔のレティシアを思い出すとあいつも手がかかって大変だった。
近衛騎士選抜試験の一次は難なく通過した。
レティシアがいないので視察に歩きながら魔物を退治する。
そろそろ罠を仕掛け直したほうがいいか。フィルがラマンと契約してから純度の高い火の魔石が手に入るのはありがたい。準備をするために邸に帰るとマールに声を掛けられた。
「イナリアの行動制限しなくていいのか?人の部屋に勝手に入って荒らすって」
「そのうちわかるだろう。怪我さえしなければいい」
「俺にはビアードの天才には見えない。何度もレティシアに怪我をさせている。蹴とばされて頭から血を流し、玩具を投げられ痣をつくり」
「大袈裟だ。レティシアも昔からかすり傷だらけだった」
「幼い頃から矯正すべきだよ。ティアラ・ルーンの教育はすでに始まっている。まだ歩けないが部屋の中で過ごすことを覚えているよ」
「坊ちゃん、準備ができました」
「ビアードの森に行く」
「俺がやるよ。レティシアから教わった。これからビアード公爵夫人が出かけるから妹の面倒みろよ。俺は嫌だ」
「エイベル、リオ遊んで!!」
「俺は忙しい。ビアードが遊んでくれるって」
部屋に入ってきた足に抱きつくイナリアを引きはがして風魔法で飛ばす。笑っているから楽しいんだろう。
「降ろして!!」
床に降ろすと楽しそうに笑う。家臣達もイナリアをゆるい顔で見ている。また溺愛が始まるのか。
昔はレティシアを追いかけるのが大変だった。今度はレティシアが追いかける番だろう。
イナリアは乳母に任せて騎士達を連れて罠の設置に行く。
まさかレティシアが罠の設置をマールに教えているとは思わなかった。領主一族の役割なのでマールに任せることはできない。
罠の設置が終わって討伐した食材を振舞う宴会が開かれている。
イナリアは母上の膝の上で食事をしている。母上は上機嫌に食べさせている。イナリアが母上の機嫌を取って相手をしてくれるのは助かる。
「好みのご令嬢は見つかりました?」
「母上の判断に任せます」
「まだ半分残ってますから。学園が一番恋が生まれる場所よ」
話を聞き流す。恋に興味はない。
友人達が令嬢に騒ぐ理由もわからない。
俺はマールの様な頭のおかしい人間になりたくない。レティシアを捨てたことを忘れたように付き纏えるような男に。お人好しな妹が許しても俺は許していない。この男を妹に近づけないためにも強くならないといけない。
今年は武術大会に優勝する。時間があればターナー伯爵家にも行きたい。
マールを排除する時間は惜しいが仕方がない。それでもやりたいことがたくさんあり色恋にさく時間はない。
母上達が気に入る令嬢を選べばいい。俺はビアード公爵夫人として相応しく母上達とうまくやれる令嬢なら誰でもいい。
今年は近衛騎士試験があるので、訓練に力を入れている。
いつの間にかマールは母上に気に入られてうちに住んでいた。マールを認めていない家臣達が妹に近づけないように動くから心配はしていない。
母上に挨拶に行くか。末の妹の話は着替えるために私室に戻った時にレティシアから聞いている。
「おかえりなさい。イナリアよ」
「ただいま帰りました。母上の体調に変わりなく」
「遊んで!!」
「レティシアに遊んでもらえ。じゃあな」
母上の膝の上に座っている小さいのにきちんと話す初めて見る妹はビアードの天才なんだろうか?
時々成長の速い子供が生まれると聞く。来週に試験があるので遊ぶ時間はない。
制服から着替えたレティシアが来たから任せるか。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい」
「明後日に出立します。ビアードの社交はリオにお願いしてあります。お茶会がありますのでこれで」
部屋を出ようとすると魔力の気配がした。
イナリアが手に持っていた玩具が宙に浮いている。レティシアが受け止める前に玩具が風に包まれた。
「壊れますよ。シア、お帰り。令嬢達がすでに集まっているよ」
「早いですわね。ありがとうございます」
魔法の気配はマールの風か。
礼をして去っていくレティシアを見守るマールは珍しい。いつもなら付いていくのに。
「ビアード、これ、渡しとくよ。俺はシアを呼びにきただけなので失礼します」
渡されたのはイナリアが遊んでいたボール。ずっしりと重みがある。
「エイベル、遊んであげなさい」
母上の膝から降りたイナリアが足に抱きついた。
もう飛び跳ねるのか。母上の評価は親バカじゃないのかもしれない。
イナリアにボールを渡し風で包んで母上の膝に返す。昔は俺達もよく風で飛ばして父上に遊んでもらったな。楽しそうに笑うイナリアを母上に預けて捕まる前に退室する。
着替えて外に向かうと客室の扉の前にはナギが立っていた。
「おかえりなさい。エイベル様」
「何してるんだ」
「リオ様からの命令です。兄さんもすぐに来ますのでお構いなく」
扉が開くと客室から出てきたのは脳天気に笑うレティシア。
「ナギでしたの。ナギ、暇ならいらっしゃい。無礼講なので一緒にお菓子を食べましょう。ロキも呼んであります。ロキのお祝いの準備はローナとナギに任せます。お行儀よくお願いしますね」
「はい。お嬢様」
レティシアに手を引かれてナギが中に入っていく。今日は恒例のレティシア主催のお茶会か。
「任せるよ。ロキ」
「かしこまりました。眠らせます」
ロキと話していたマールが俺の前で足を止めた。
「イナリアの面倒は見ないのか?」
「母上と一緒だ」
「レティシアは忙しいからお前が面倒みろよ」
マールもロキを連れて客室の中に入っていく。
レティシアは子供が好きだから喜んでイナリアの面倒を見るだろう。
マールがおかしいのはいつものことか。ロキがいるならレティシアには手を出さないだろう。訓練するか。
***
「行ってきます。お土産楽しみにしていてください。運よく大道芸がありますのよ」
楽しそうなレティシアが旅立った。
昔は国外に行くことに不安を覚えたがディーネもいるし、強くなったので心配はしていない。
レティシアを送って邸に帰ると書庫が荒らされていた。
執事長は慣れた手つきで片付けている。
「これは?」
「お嬢様です。部屋に入り欲しい物が見つかるまで離れません。怪我はありません」
イナリアが邸の中を歩いているのはよくある光景なのか。
乳母もいるし大丈夫だろう。遊んでとねだられると風で飛ばして乳母の腕の中に返して立ち去る。両親はイナリアを溺愛している。昔のレティシアを思い出すとあいつも手がかかって大変だった。
近衛騎士選抜試験の一次は難なく通過した。
レティシアがいないので視察に歩きながら魔物を退治する。
そろそろ罠を仕掛け直したほうがいいか。フィルがラマンと契約してから純度の高い火の魔石が手に入るのはありがたい。準備をするために邸に帰るとマールに声を掛けられた。
「イナリアの行動制限しなくていいのか?人の部屋に勝手に入って荒らすって」
「そのうちわかるだろう。怪我さえしなければいい」
「俺にはビアードの天才には見えない。何度もレティシアに怪我をさせている。蹴とばされて頭から血を流し、玩具を投げられ痣をつくり」
「大袈裟だ。レティシアも昔からかすり傷だらけだった」
「幼い頃から矯正すべきだよ。ティアラ・ルーンの教育はすでに始まっている。まだ歩けないが部屋の中で過ごすことを覚えているよ」
「坊ちゃん、準備ができました」
「ビアードの森に行く」
「俺がやるよ。レティシアから教わった。これからビアード公爵夫人が出かけるから妹の面倒みろよ。俺は嫌だ」
「エイベル、リオ遊んで!!」
「俺は忙しい。ビアードが遊んでくれるって」
部屋に入ってきた足に抱きつくイナリアを引きはがして風魔法で飛ばす。笑っているから楽しいんだろう。
「降ろして!!」
床に降ろすと楽しそうに笑う。家臣達もイナリアをゆるい顔で見ている。また溺愛が始まるのか。
昔はレティシアを追いかけるのが大変だった。今度はレティシアが追いかける番だろう。
イナリアは乳母に任せて騎士達を連れて罠の設置に行く。
まさかレティシアが罠の設置をマールに教えているとは思わなかった。領主一族の役割なのでマールに任せることはできない。
罠の設置が終わって討伐した食材を振舞う宴会が開かれている。
イナリアは母上の膝の上で食事をしている。母上は上機嫌に食べさせている。イナリアが母上の機嫌を取って相手をしてくれるのは助かる。
「好みのご令嬢は見つかりました?」
「母上の判断に任せます」
「まだ半分残ってますから。学園が一番恋が生まれる場所よ」
話を聞き流す。恋に興味はない。
友人達が令嬢に騒ぐ理由もわからない。
俺はマールの様な頭のおかしい人間になりたくない。レティシアを捨てたことを忘れたように付き纏えるような男に。お人好しな妹が許しても俺は許していない。この男を妹に近づけないためにも強くならないといけない。
今年は武術大会に優勝する。時間があればターナー伯爵家にも行きたい。
マールを排除する時間は惜しいが仕方がない。それでもやりたいことがたくさんあり色恋にさく時間はない。
母上達が気に入る令嬢を選べばいい。俺はビアード公爵夫人として相応しく母上達とうまくやれる令嬢なら誰でもいい。
1
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない
千堂みくま
恋愛
細々と仕事をして生きてきた薬師のノアは、経済的に追い詰められて仕方なく危険な仕事に手を出してしまう。それは因縁の幼なじみ、若き公爵ジオルドに惚れ薬を盛る仕事だった。
失敗して捕らえられたノアに、公爵は「俺の人生を狂わせた女」などと言い、変身魔術がかけられたチョーカーを付けて妙に可愛がる。
ジオルドの指示で王子の友人になったノアは、薬師として成長しようと決意。
公爵から逃げたいノアと、自覚のない思いに悩む公爵の話。
※毎午前中に数話更新します。
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる