不運な王子と勘違い令嬢

夕鈴

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 夢を持つ少女と両親は少年の訪問を歓迎した。
 少女の両親は少年の話を聞いて喜んだ。
 少女は首を横に振った。
 でも誰も少女の言葉は聞かない。
 少年は少女の能力を認めて、豪華な贈り物を用意した。
 少女の描いた夢物語は母国でしか叶わないもの。
 少年は豪華な馬車に乗った少女に最上級の片道切符を渡して見送った。



****



「辛いなら帰ってきなさい。吹きとばしてあげるから」
「無理はしないように。これを、新たな門出に」
「姉上、来年なら僕も」
「ありがとうございます。留年するわけにはいきませんわ。リオ兄様もいますし大丈夫です。行ってきます。お父様、お母様、エドワード」

 復学を過剰に心配する母親と弟に微笑み、父親に礼をしてレティシアは馬車に乗り込んだ。
 1週間かけて大量に届いていた手紙の返事や贈り物への返礼は終えた。お茶会や夜会の招待状がさらに大量に送られてきたが丁重にお断りしていた。

 レティシアはルーン公爵から贈られた箱を開けた。中には澄んだ青と銀の魔石が飾られた美しい髪飾りがあり、レティシアに家族のことを思い浮かばせた。シエルに頼んで髪飾りを付けてもらい嬉しそうに笑う。
 学園が近づくにつれて、レティシアは目を伏せた。震えそうになる手をギュっと握り、取り返した大事なものを思い出す。

「シエル、大好きですよ。お父様もお母様もエドワードも。ルーンの全てが」
「お嬢様は私達の自慢のお姫様です。立ち止まりたくなれば休みましょう。シエルはどこまでも付いて行きます」
「ありがとうございます。全てが変わるでしょう。でも、私はルーンのために負けません」

 レティシアは沈む心を奮い立たせ、優雅に微笑んだ。シエルは主の強がりに気付かないフリをして微笑む。前を向くと決めたレティシアの強さを信じて。

「お嬢様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「はい。行ってきます」

 レティシアは御者に微笑み、馬車から降りた。
 ステイ学園の閉じられている門の前に立った。
 入学した時はクロードに迎えられた。無茶をするエイベルを見つけては令嬢達に見つからないように隠れて何度も叱った。そんな日はもうこないが、惜しいとは思わない。

 レティシアの足がすくみそうになり、唇をキュッと結び、目を閉じて贈られたばかりの魔石で作られた髪飾りに手で触れる。両親の魔力を感じながら、心を落ち着け、母親の魔力と似ている頼もしい存在を思い出して口元を緩ませた。

「シア、俺はお前の味方だ。何があっても。立場が変わっても覚えておけよ」

 学園に入学した時に距離を置くと決めたリオは隠れていつも助けてくれた。もうすぐ入学するエドワードにふがいない姿は見せられない。
 レティシアは思いっきり息を吐いて、ゆっくりと目を開けて門を見つめた。いつの間に握りしめた拳をほどき、強張っている体の力を抜いた。しばらくして姿勢を正して自信に満ちた笑みを浮かべた。

「シエルとリオ兄様という最強の味方がいます。私はルーン公爵令嬢。ウンディーネ様の加護を持つ誇り高いルーン一族。シエル、行きますよ」

 シエルは令嬢モードに切り替えたレティシアの荷物を持ちながら、門を開けた。堂々とした姿で門をくぐる主を誇らしげに見つめる。
 悪夢に魘されても、進むことを決めた主を今度こそは守りきると心に決めてレティシアの戦いに付き従う。



 門の中ではレティシアの復学を知る生徒達が集まっていた。
 背筋を伸ばし、病み上がりとは思えないほど堂々とした美しい所作で登校したレティシアの前に5人の令嬢達が立つ。レティシアは進路を阻む令嬢達を避けずに足を止めた。

「ルーン様、お帰りなさいませ」
「お待ちしてましたわ」
「このたびのことはお気の毒に、残念ですわ」
「ゆっくり養生されればよろしいのに」
「美しい花が咲き誇ってますわ」

 醜聞持ちになり領地に引き込もっていたレティシアに令嬢達は微笑みながら棘や毒を混ぜた言葉を投げ掛ける。令嬢達の落とし合いは日常茶飯事である。
 レティシアはずっと社交界から消えていろ、恥さらしと遠回しに言われても、令嬢モードの感情のない人形と囁かれる美しい笑みを浮かべる。
 平等の学園に免じて家格の高いレティシアに一方的に話しかける令嬢達も、不躾に凝視しながら様子を伺う生徒達も、全ての不敬を流し、民と貴族の模範であるルーン公爵家の令嬢として優雅に、療養明けとはいえ無様な姿は決して見せないように振舞う。

「お気遣いいただきありがとうございます。失礼しますわ」
「ルーンもここまでですね。王家に逆らい、縁談も、ねぇ」

 背の高い令嬢の見下す視線も蔑む笑顔も動じず流し去ろうとしたレティシアは聞き逃せない一言にアリア直伝の優雅な美しい微笑みを浮かべた。

 婚約破棄され大きな醜聞持ちになったので学園での立ち位置が変わるのは当然である。昔のように淑女の鑑と羨望の眼差しを受け、もてはやされることはない。
 それでも建国から常に序列三位以内を維持してきた名門ルーン公爵家の令嬢である。
  レティシアはルーンへの侮辱は許さない。歩みを止め、無礼なクロードの婚約者候補達を迎撃しようとするとゾクリと寒気に襲われた。

「礼はいらない。不敬罪。きちんと調査をした結果レティは妃に迎える条件を満たしているよ。今までは許していたけど、改めるよ。レティシアを貶める臣下は不要だ。もう私達の前に現れないで」
「殿下……」

 穏やかな顔に反して、社交界から追放と厳しい命令したのはクロードだった。クロードは命令に絶句して固まっている令嬢達の横を通り過ぎ、顔色の悪いレティシアの横で立ち止まる。
 初めて聞くクロードの冷たい声に驚きと恐怖で固まっているレティシアの青い瞳を見つめ、優しく微笑み、先ほどとは正反対の優しい声で話しかけた。

「私が甘くてレティを傷つけた。厳しさも示すべきと反省したよ。行こうか。顔色が悪いけど保健室のほうがいいかな」

 学園で初めて耳にしたクロードの命令に笑顔で固まっているレティシアは強引にエスコートされ足を進める。クロードのエスコートに慣れているレティシアの体は本人の意思に反して従っていた。

 微笑み合い流れるようにエスコートするクロードと寄り添うレティシア。生徒達は二人のために道を開けて、久しぶりの見慣れた光景に礼を忘れて眺めていた。




 クロードは混乱しているレティシアに優しい声でゆっくりと話す。

「おかえり。迎えに行けなくてごめん。ルーン公爵に断られて」
「お、お気遣いなく。私達の婚約は破棄されてます。お、おそれながらこのような行動は」

 クロードは足を止めて震えるレティシアの指を両手で優しく包み、腰を屈めて目線を合わせた。クロードは逸らそうとする青い瞳と無理矢理視線を絡めた。
 美しい金の瞳から目を逸らしたくてもレティシアはできなかった。

「私はレティ以外を妃に迎えない。婚約破棄しても道はある。レティ、私の手を取ってくれないか?そろそろ授業が始まるね。お昼はレティの分も用意してあるから一緒に食べよう。迎えにいくよ。無理はしないで。具合が悪くなれば私の所においで」

 しばらく見つめ合いレティシアの手の震えが止まるとクロードは手をほどき、礼をして控えている生徒達に向き直る。

「おはよう。頭をあげて。どうか私のレティをよろしく頼むよ。レティ、また」


 クロードは生徒達に穏やかな笑顔で警告し、最後にレティシアの感情のない青い瞳に優しく笑いかけた。
 レティシアは自身だけが認識しているクロードの冷たい声音の命令に恐怖し、言葉は耳を通り抜けていた。リアナ・ルメラ男爵令嬢を伴っていないクロードに不思議に思いながら、いくつか認識した言葉を繋ぎ合わせて思考した。―――――――「妃にするから、ルメラ男爵令嬢を迎え入れるために協力してほしい。ルメラ男爵令嬢に手を出さないように見張っている」というレティシアにとって恋に狂った警告をしたクロードが出て行く背中を茫然と見ていた。
 礼をしていないことさえ気付かずに、クラスメイトに話しかけられ我に返って令嬢モードで武装する。一部の女子生徒はクロードの求婚にうっとりとしていた。

「お体はいかがですか」
「ご心配おかけしましたわ。お手紙をありがとうございました」

 クラスメイトに迎えられ、休んだ分の大量のノートを受け取り笑みを浮かべて感謝を告げ席に座った。
 久しぶりに授業を受け休憩時間に訪ねてくる令嬢を微笑みながら迎え入れる。
 レティシアの復学とクロードが出迎えたことは噂になり、クロードに恋い焦がれる令嬢やレティシアを貶めたい令嬢が意気揚々と乗り込んできた。婚約破棄という令嬢にとって最大の醜聞を持った元学園一の権力を持つ女子生徒を潰すために。

「男爵令嬢ごときに負け、愛想を尽かされ婚約破棄されましたのに……。殿下の優しさに」
「上位貴族が」

 レティシアは令嬢達の話を笑顔で聞き流していると突然寒気に襲われた。

「不敬罪。私の行動に口を出す権利はないよ。私達の前に姿を見せないで。礼はいらないよ。レティ、顔色が悪いけど保健室に」
「殿下!?」

 レティシアは取り巻きが消えたことよりもルメラ男爵令嬢のことで言いがかりをつけられると必ずクロードが現れ、手を繋がれることに戸惑っていた。

鑑賞配置されますか?」
「見逃さないように精鋭をつけているよ。レティ?」

 影の存在は隠されている。
 周囲に伝わるように堂々と肯定したクロードに言葉を失うも名前を呼ばれて我に返り再び令嬢モードで武装した。

「殿下、王家のためのものであり」
「私のものは自由に使っているよ。さて君達は私の妃を貶めるなら私の国にはいらないよ。姿を見せないで」

 レティシアはルメラ男爵令嬢が近くにいないため、機嫌の悪い笑みを浮かべているクロードの言葉に動揺を隠して思考した。
レティシア以外はクロードの機嫌の悪さに気付いていない。
常に穏やかな笑みを浮かべているクロードの機嫌を読み取れる生徒はレティシアとリオしかいないため、ゆっくりと口を開いた。

「恐れながら殿下、お考え直しを。(ルメラ様を王家に迎え入れるまでは)誤解を招く言葉はお控えてください。(ルメラ様が)殿下のものになってもそのような発言をされるなら正式に裁きをくだすべきですわ。今は生まれたままの身分ゆえ王族への不敬罪は適応されません。皆様も品位のある言葉をお願いします。平等の学園とはいえ耳心地の悪い言葉は聞きたくありません。温厚な殿下さえも気分を害する言葉を二度と口にしないように心に刻んでくださいませ」

 クロードは目を見張り、目元を緩ませた。はにかんだ笑みを溢し、火照った頬を慌てて冷まし穏やかな笑みを取り繕う。レティシアは穏やかな顔で令嬢達を嗜めているのでクロードの変化を見ていない。

「父上達は絶対に説得するよ。未来のか。私のもの、まだ妃ではないか、すぐにでも婚姻したいのに」
「お戯れを」
「ごめん。順番が違うか。今夜にでももう一度話してくるよ。移動教室だろう?行こうか。遅れるよ」

 レティシアは上機嫌なクロードにエスコートされ立ち上がった。
流れるような所作にしばらくしてエスコートされていることに気付き、首を横に振った。

「一人で歩けますわ。殿下、(アリア様が許されないと思いますが)どうかお幸せに。私は(陛下がお認めなら)殿下がどなたを選ぼうとも口を出すつもりはありません」
「え?私は側妃も妾も迎えいれないよ」
「(魔力のないルメラ様では)王家の継承問題が起こりますわ。ふさわしい方を選んでくださると信じております」

 レティシアは恋に狂っているクロードのありえない考えにドン引きしていた。
聡明な王太子の影もないクロードに心の中で涙を流した。
 クロードはレティシアとの未来を想像して、顔が緩みそうになるのを堪えた。
レティシアの冷たくなった手と顔色が真っ青になっているのに気付き、腰を屈めて目線を合わせた。

「継承……。まだ先の話だけど、そうか。楽しみだ。顔色が悪いけど王宮に転移しようか」
「殿下、どうか(ルメラ様に危害を加えませんので)信じてくださいませ。学生として学業に専念する所存です」

 レティシアは警戒しているクロードに探られるように見つめられ、静かに見返した。クロードの最愛の人を厳しく嗜めた過去は疑われても仕方がないかと諦めながら。

「レティは真面目だから仕方ないか。無理はしないで」

 しばらくしてクロードが視線を逸らして優しく笑いかけ、教室を出て行く背中をレティシアは礼をして見送った。
 授業以外は言葉が通じなくなった上機嫌なクロードに付き纏われ、レティシアは初日から心が折れそうだった。お昼休みにクロードと食事をしたときもルメラ男爵令嬢は姿を見せなかった。
ルメラ男爵令嬢といるはずのクロード自ら監視するという奇行が理解できずシエルに調査を命じた。

 レティシアは寮に帰りシエルからの報告を聞き、ふらふらと崩れ落ちた。

「ルメラ様が転校ですか!?殿下はフラれ、新しい婚約者探しが億劫でこんなことに。妃ってルメラ様ではありませんの!?私のことですの!?ありえませんわ。どうしてルメラ様がいらっしゃらないのに私が監視されてますのよ。ルーンに帰りたい……」
「お嬢様!?こちらを」

 シエルは傷心している主のためにルーン公爵から預かった蜂蜜ケーキとお茶を並べた。

「シエル、同席してください。ルーンの蜂蜜は絶品です。一人で味わうのはいけませんわ。お願いですから……。私は」

 レティシアはシエルに命令して共にお茶の時間を過ごした。シエルと蜂蜜のおかげで心を浮上させ課題を始めた。
 レティシアの言葉を誤解してクロードが浮かれているのは気付かない。クロードに繋がれる手を拒んでいないことにも。
  
 ****

 効率重視のクロードに妃候補に勧誘されても、王家と関わりたくないレティシアに残された手段は一つしかなかった。
 掲示板に貼られている卒業試験要項を眺め頷く。
 卒業試験を月末に控えていた。
 学園を卒業し、ルーン領に帰ればクロードと会うのは公式行事だけである。

「これしかありませんわ」

 レティシアは職員室に行き、教師から卒業試験の資料を受け取った。教室に戻ろうとするとクロードと目が合い、礼をして道を開けた。

「頭をあげて。卒業したら婚儀をあげようか」

 レティシアは通り過ぎずに、そっと手を握るクロードに穏やかな笑みを浮かべながら心の中で泣いた。
頼もしい弟が恋しく、復学して二日でルーンに帰りたくて堪らなくなっていた。令嬢モードで再度武装して顔を上げた。

「お戯れを。私達の婚約は破棄されてます。穏便な解消ではなく、二度と縁を結ばないという破棄ですわ」
「私は了承していない。父上は必ず説得するよ」

 クロードは昨日とは正反対のレティシアの言葉に驚きを隠して青い瞳を見つめた。

「どうか祝福されるお相手をお選びください。マートン様もパドマ様もレート様も婚約者はいませんよ。リール様も」
「私はレティ以外を迎えないよ」
「ルメラ様が転校されたからってやけにならないでくださいませ」
「彼女には望み通りのものを用意したよ。今後も君を」
「望みのもの?殿下、お休みくださいませ。様子がおかしいですわ。お許しいただけるなら治癒魔法を、いえ、心には効果がありませんわ。失礼しますわ」

 レティシアはクロードの手を解き、足早に学園で一番頼りになる従兄のもとを目指そうとしたが授業が始まるのに気付き方向転換した。
 シエルにリオとの面会依頼を頼み、教室に行き授業の支度を始める。
 レティシアは授業が終わると教室を飛び出し、リオの部屋に突撃した。
 用意された料理に見向きもせずにレティシアはリオの胸元を両手で掴んだ。

「殿下がおかしいです。なんとかしてくださいませ」
「俺を避けるのはいいのか?」
「はい。もう婚約者はいません。そんなことよりも助けてくださいませ。リオ兄様!!」

 入学と同時に醜聞を恐れてリオと距離を取っていたレティシア。
クロードと婚約破棄されたので従兄と多少噂が立っても気にしない。令嬢に大人気のリオと噂になったところで従兄妹なのでいくらでも対処できた。

 リオは自分勝手に人を振り回すレティシアに苦笑し椅子に座るように視線を向けると首を横に振る。リオはため息をこぼして目隠しの結界で覆った。
 青い瞳に求められるまま腰を引いて抱き寄せると胸に顔を埋めるレティシアの頭を撫でる。気持ちよさそうな顔は子供の時から変わらない。
 互いに体が成長し、触れ合うのは咎められる年齢である。マール公爵家でしか甘えられないレティシアを突き放せず、甘やかすのは本能に近いと思っているリオは頭を撫でながら落ち着くのを待つ。

 思い出すのはカナトが笑いながら語った記憶晒しでのレティシアの豹変。

「人形のような顔しかしないレティの仮面を外して自分だけのものにできるのは欲をそそられる。綺麗になったよな。長い髪が床に落ちて濡れた瞳で、切ない声でリオやエドワードの名を呼ぶ姿に顔を赤らめる男も多かったよ」
「義姉上に怒られますよ」
「エレンはレティを気に入っているよ。ルーン公爵令嬢を愛人にはできないからリオに期待しているよ。いつの間にか色気を醸し出すとは。もう少し体が成長し肉付きが良くなれば将来有望だ」
「想像できませんが、シアの道は決まっていると思いますよ」
「後悔しないようにな。顔を赤くしている男も多かった。よく殿下も手を出さなかったよな。きっちり制服を着ているレティが肌を曝したら違ったか。もう少し若ければ」
「シアに近づかないでください。変態、ブラコンに拒否反応起こして泉に飛び込みますから」
「リオは俺達の中で一番運がいいんだよ。マールとしてもリオとしても。よく考えろよ。昔のままではいられないんだよ」

 リオは意味深に笑う兄の言葉について思考を放棄した。
兄の期待に答えてもリオもレティシアも幸せになれない。
それにどんなにレティシアが人気であっても、どの男も見劣りするだろう。初恋を擦らせていること以外は全てが完璧なクロードに敵う男をリオは知らない。対抗できそうなのは成長途中のエドワードだけ。
 記憶晒しでマール公爵家とエイベル、エドワードの前でしか見せない顔を披露したレティシアに向ける視線が変わった生徒も多かったがクロードが常に傍にいるので誰も近づけていない。

「シアは変わらないな」
「リオ兄様は少し大きくなりましたわ。カナ兄様とレイ兄様はお元気ですか?」
「元気だよ。そのうち帰ってくるだろう。落ち着いたら食事をしながら聞いてやるよ」

 しばらくしてレティシアはニッコリと笑いリオから放れて大人しく椅子に座った。レティシアは用意された料理を食べながらクロードの奇行を話す。
 
「付き纏われているって。諦めろよ。殿下はしつこく紹介される令嬢には縁談をまとめてるよ」
「嫌ですわ。ルーンのために生きると決めました。卒業を早めるのをやめて水の国に留学に行こうかな。一度切れた糸は戻りません。器に穴が開けばそこから水は零れ落ちますのよ。利もありません」
「お前が眠ってる間、殿下は不眠で食事も取らなかった。叔母上達が拒否するから隠れて転移魔法でシアの顔を見に行って、大変だったんだよ。シア、殿下が一度でもお前をいらないと言ったことがあるか?」

 レティシアはリオの勘違いにため息をついた。

「ありえませんわ。殿下は私に興味などありませんもの。本当なら理由は見当違いですわ。ルメラ様にフラれたからでしょう?私に声を掛けるのは新しい婚約者を探すのが面倒なだけですわ。お子様なリオにはわかりませんわ」
「今の殿下の食事、接待以外は回復薬なんだよ。俺が言っても聞かない」
「リオの言葉を聞かないなら私の言葉はうさんくさい笑顔で流されるだけですわ。殿下の側近として頑張ってくださいませ。あら?美味しい。リオ兄様、この茶葉は新しいものですか?」

 咎めるリオにレティシアは素っ気なく返しカップに口をつける。
 もともとレティシアは王太子妃に相応しくないと囁かれ、家柄以外で他の公爵令嬢達より優れるのは治癒魔法の腕だけと思っていた。
 リオの小言を聞き流し、好みのお茶の味にふわりと微笑む。
 クロードの話題での素っ気なさが嘘のように目を輝かせて茶葉を欲しがるレティシアにリオは苦笑し茶葉を分ける手配をすると満面の笑みを見せたレティシアに笑う。
  今だけは病み上がりで弱っている従妹に小言はやめた。
レティシアさえいればクロードの不摂生は改善され、世話係から解放されるとリオが思っていたとは従兄に甘えて鬱憤を解消したレティシアは気付かなかった。
  
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