【全33話/10万文字】絶対完璧ヒロインと巻き込まれヒーロー

春待ち木陰

文字の大きさ
26 / 33

26/33

しおりを挟む
   
「真田君」

 ベンチの端に座って項垂れている大輔に知世は声を掛ける。

 返事は無い。

「真田君」と知世はもう一度、声を掛ける。

「……お? どうした?」

 その返事はベンチの中央辺りから聞こえてきた。大輔の声ではなかった。

「試合中にごめんなさい。真田君に急用があって」

 知世は瞬時に言い繕う。

「おう。真田。モテモテだな。美少女からのお呼び出しだぞ」

「そりゃ、初球ホームラン2連続は俺でも惚れるわ」

「長崎さんの急用だろ? マジな話なんじゃねえの?」

 ベンチに座っていた大輔のチームメイトたちは口々に囃し立てたが当の真田大輔はいまだに無反応だった。

「真田?」とチームメイトたちも大輔の異変に気が付き出す。

「……燃え尽きたか? 真っ白に」

「2連続ホームランはマンガだったけどな。ボクシングじゃねえから。野球だから」

「前髪もそこまで長くねえしな」

 はっはっはと最初は冗談交じりだったチームメイトたちも、

「真田……? おい。寝てんのか?」

「この状況で寝落ち? 大物かよ」

「てか気絶? ……マジか。これ、放っておいていいやつか? 保健室とか」

 いくら騒いでも大輔が全く動かない事実に気が付くとおろおろと慌て始めた。

「保健室で大丈夫か? 救急車か?」

「さすがに救急車は大袈裟だろ」

「馬鹿。見ろよ。真田。まぶたは開いてるのに動かねえとか異常だろ。ヤバイって」

 知世は、

「真田君……」

 動かない大輔も大輔の為に慌てる彼らの姿も見ていられなくなって――リセットをした。

 教室の中。休み時間。

「真田君――」と知世は大輔の席を見た。

 大輔は机に突っ伏して、まるで眠っていた。

 暇を持て余して寝る、もしくは暇である事を隠す為に寝た振りをしている――その格好の生徒自体は時々見掛ける事もあったが、大輔がそんな事をしている姿は非常に珍しかった。

 その証拠でもないがクラスメートの何人かがちらちらと大輔の事を見ながら、

「……お疲れなのかな」

「え、真田君て疲れるの?」

 などとささやき合っていた。

 真田大輔の「奇行」は多くのクラスメートたちに認知されていたが、その内の誰も大輔に直接、声を掛けようとはしなかった。

「……『さっき』は大騒ぎしてた男子も」

 ぽつりと知世は呟いた。それは溜め息のようだった。

 知世の言った「さっき」とはリセットをする前の事だ。大騒ぎとはベンチで慌てるチームメイトたちの事だ。帰宅部ばかりを寄せ集めたあのチームは多クラス合同ではあったものの中にはこのクラスの生徒が何人も居た。

「真田君との繋がりが無くなってる……」

 知世がリセットをしたせいだ。そのリセットを乱用して得た繋がりではあったが、結局は水泡に帰してしまった。……同じ「水」なら「覆水盆に返らず」の方が合っているだろうか……。この期に及んで知世は変な事を考えてしまっていた。

「……いいえ」

 静かに首を横に振った知世は今一度――リセットをする。

 此処は知世の自宅マンション。そのリビングで知世と大輔は白いテーブルを挟んで向かい合っていた。大輔はやはり動かない。

「真田君。ケーキ……食べなさいよ」

 知世が呟く。最早それは独り言のようだった。

「食べてくれると助かるの。言ったじゃない。ウチは三人家族なのにお父さんが5個も6個もケーキを買ってきちゃったのよ」

 大輔からの返事は無い。

「今日」は大輔が初めて知世の自宅マンションに来た日だ。

 この前夜に知世がリセットをしたら「緊急避難」せざるを得ない状況だったのかと心配してくれた大輔が電話をくれた。が知世はその電話を取らなかった。

「……だって怒られると思ったから。心配してくれてたなんて思わなかったから」

 明けて今日の学校で大輔に、

「……何があった?」

 と真剣な面持ちで詰め寄られてしまった時もまだ怒られるものだと思い込んでいた知世は、

「夜、コンビニに行ったのよ。その帰りにね。その……痴漢に襲われそうになって。でも襲われそうになっただけで襲われてはなかったんだけど。それで……」

 と嘘を吐いてしまった。そう――、

「嘘だったのよ」

 と知世は動かない大輔に向かって告解をする。

「お父さんがケーキを買ってきて。美味しそうで。もう夜だったのに。私はふたつも食べちゃって。太っちゃうなあって思って。食べちゃったことを後悔して。じゃあ、無かったことにしようと思って。リセットしたの」

 大輔は、動かないだけで聞こえてはいるのだろうか。知世の話を聞いてどう思っただろうか。もしも体が動くなら、

「ふざけるなよ! どれだけ心配したと思っているんだ!」

 そんなふうに怒鳴るだろうか。それとも、

「…………」

 無言で知世を睨むだろうか。「チッ!」と舌打ちなんかもするだろうか。

 別に真田大輔らしくなくても良いのだ。どんなふうでも構わない。知世は、

「……怒りなさいよ。嘘を吐いたこと、そんな理由でリセットしたこと……」

 大輔に怒ってもらいたかった。……怒られたくなくて吐いた嘘だったのに。

「ごめんなさい」

 許してほしいわけではなかった。

「だから『悪の組織』なんてものはあるわけもなかったの」

 心配し過ぎた大輔が「痴漢なんかではなくて……悪の組織なんじゃないのか?」と言ったのが始まりだった。

 しかし。その前提である「痴漢」が居なかったのだ。それは知世の嘘だったのだ。

 だが「悪の組織」が存在しているかも知れない、知世を狙っているかもしれないと考えた大輔はそんな「嘘」を知る由も無く知世のボディガードを買って出る。

 放課後、知世と大輔は一緒に帰るようになった。

 校内でも二人で居る事が多くなった。

 そうして知世と大輔の二人は「付き合ってるんじゃないの?」と噂が立った。

 そんな中、万が一を念頭に置いた大輔が「悪の組織」をあるものとして知世に注意を促した。「悪の組織」なんて無いと知っていた知世は気を抜いていた。

 真面目に取り合おうとしない知世に強く言い聞かせる為、大輔は「骨を折る」だの「性的暴行」だのといった脅し文句を並べた。

 それを――恐らくは中途半端に単語、単語で耳にした川村久美子が激しい思い込みから「長崎知世を真田大輔から救い出す」為に大輔の事を――殺害してしまった。

「……私が痴漢だとか嘘を吐かなければ、……すぐに嘘でしたって白状していたら、こんなことにはならなかったのよね……」

 その後悔は幾らリセットを繰り返しても無くならなかった。大輔は戻らない。

「悪の組織」も存在しなくて、他の「能力者」の仕業でもないのならどうして大輔は動かないのか。

 何度も生き返った宮下ワタルの時と何が違うのか。

「……真田君にはリセットに抵抗する『チカラ』があった」

 いつだったか話をした限りでは、大輔は自分でリセットが出来ないだけでリセットという現象に対して受ける影響は知世と全く同じだった。

 リセットした直後にはその前の事を覚えているがその時に思い起こさないとすぐに忘れてしまう。だが印象の強過ぎる出来事はその「思い起こさない」が出来ないので忘れられない。端的に言えば精神的外傷はリセットを越えて残り続ける。

 大輔は「骨を折る」だの「性的暴行」だのといった非常に強い言葉で注意を喚起していたが、それらを優に上回る「死」が大輔を襲ったのだ。

「トラウマにならないわけがないわよね……」

 大輔の精神は「死」を忘れられずに、きっと「死」に囚われているのだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

処理中です...