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幕間(3)
しおりを挟む時は戻って、大山翔吾や和泉光助ら二年生の修学旅行中、その夜の風呂場での出来事だった。この度はクラス毎の入浴となっており、現在も二十人弱の男子生徒達がその場には居た。
どのようなルートで話が回ったのか、野球部ではない同級生から「知ってるか?」と最近、流行り始めているらしいというなぞなぞが出された。
「花屋の子供は花子で、本屋の子供は本子です」
野球部でも一年生達と一部の二年生は聞き覚えのある問題であろうが、件の場には翔吾も光助も居なかった。また、あの時に居た数人の二年生も、このクラスの生徒ではなかった。
「それでは饅頭屋の子供の名前はなんでしょう?」
答えを言わずか、言えずか、どちらにせよ、二十人弱も居た男子生徒達は皆、無言のまま、にやにやとしてしまっていた。その中から一人だけ、
「饅子か」
堂々と口にしてみせる男が現れた。大山翔吾だった。
「おお」と同級生達から感嘆の声が上げる。翔吾はフッと誇らしげに口許を歪めた。
翔吾は、一ノ瀬夏純とは違って「饅子」の同音異義語を知っていた。その上で、照れた様子も無く、胸を張りながらに「饅子か」と言ってのけたのだ。
「凄いな」
「俺には真似できねえ」
「大山翔吾は我らが英雄じゃな」
同じような事をして周囲を赤面させた夏純と褒め称えられる翔吾の何が違うのか。
「大山翔吾!」とその名が呼び上げられる。更には手拍子が、パン・パパン・パンッと鳴らされた。
「大山翔吾ッ!」と輪を掛けて、別の誰かが続けた。パン! パパン! パンッ!
そして、三度目にはもう、
「大! 山! 翔! 吾!」
パンッ! パパンッ! パンッ!
大合唱の大手拍子だった。
「ふふんッ」と鼻を高くした大山翔吾を頂きに据えて、今まさにクラスが一つになったかと思われたその時、
「いや。『饅頭郎』だろ」
冷水をぶっ掛けるが如く、和泉光助が口を挟んだ。途端、
「え?」
「マンジュウロウ?」
「さっきの翔吾の『アレ』が答えじゃないのか?」
大合唱と大手拍子がざわめきに変わる。
「おい。どうなんだ?」と皆からの視線を一身に受けた出題者は、
「和泉が正解」
苦々しいといった表情と声で、ぼそりと認めた。
「そんな馬鹿な」
「じゃあ、さっきの翔吾は」
「我らが英雄は無駄死にじゃったとでも言うのか」
ざわめきが嘆きへと変わり、続いて、
「いや。オカシイぞ」
「もしかして、和泉は正解を知っていたんじゃないのか」
「そうか。そうだよ。そうじゃないと出てこない答えだ。『饅頭郎』だなんて」
疑惑が巻き起こる。更には、
「何で知ったんだ? どこで覚えてくるんだよ」
「エッロッ。エロなぞなぞを事前にチェックしてる和泉、エッロッ」
「エッロッ、エッロッ。和泉はエッロッ!」のシュプレヒコールが広い風呂場に響き渡る。
「百歩譲って、知ってたのは良いさ。たまたま知っちゃったパターンだったのかもしれない。けどな、こんな面白エロなぞなぞを知っていたのにも関わらず、今まで俺らに出してなかったところがよ、ムッツリポイントは高いよな」
「ムッツリ、ムッツリ。和泉はムッツリッ!」とシュプレヒコールの台詞が変わった。
「待て、待て、待て、待て。何で俺が責められてんだ。何だ、この流れは」
大きく肩をすくめた和泉光助は「はんッ」と相手を小馬鹿にしたように息を吐いた。
「俺の答えが正解だったんだろうが。正しいのは、オ・レ・だ。黙れ、平伏せ、愚民共」
「な、な、な、なんだとう、このエロ・ムッツリーニがッ」
風呂場劇場は大盛り上がりの様相を呈し、ほどなくして「お前らッ! 騒ぎ過ぎだッ!」と見回りをしていた教師に全員が超どやされる事になるのだが、それはまた別のお話だ。
「数しか取り柄の無い愚か者共が。ふんッ。とは言え、多勢に無勢か。ここはお前に任せよう、翔吾。『自分の答えは間違いで和泉光助の答えが正解でした』と敗北宣言を高らかに出して、さっさと奴らを黙らせろ」
「面倒臭えな。とりあえず、お前が黙れ。あいつらを騒がせてるのはお前だろ」
翔吾はさらりとあしらった。
野球部では優秀な主将の和泉光助もクラスでは至って普通の同級生だ。
「おのれ、翔吾ぉ。お前もかあッ」
後輩達や先輩方にも見せてはこなかった顔で光助は笑っていた。
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