「ん」「ちゅ」

春待ち木陰

文字の大きさ
1 / 5

01/05

しおりを挟む
 
「ん」と突き出された小さな唇に、

「ちゅ」

 と唇でお応えする。

 キスしてもらえたスズは「えへへ」と満足げにはにかんだ。

 キスしてあげた優花は「はいはい」と追加でスズの頭を撫でてあげる。

 可愛らしい女の子同士の微笑ましいワンシーンだったが、

「二人とも。TPOって知ってる? TIMEも、PLACEも、OCCASIONも合ってないから。三戦全滅で間違ってるから。0点だから」

 京子はご立腹。今は三日後に迫っていた期末試験の為の放課後勉強会中だった。

 会の参加人数は三名。クラスメイトでもあるスズと優花と京子だ。

 場所は校内の図書室。彼女達が教科書とノートを広げている六人掛けの大きな机にはスズ、優花、京子の三人しか座っていなかったが別の机には他の生徒も居たし、席を取らずに図書室を利用している生徒の姿もちらほらとあった。

「まったく。キスなんて他人の目があるところでするものじゃないでしょう」

「えー。別に隠れてしなくちゃいけないようなことじゃないよう」

 溜め息の京子にスズがちっちゃな声で反論をする。優花はふふふと微笑んでいた。

 スズと優花は恋人関係ではなかった。放課後に勉強会を開くくらいには仲良しだが肩書きとしてはただの友達同士だ。

 スズは優花が好きだし、優花もスズの事は好きだったがそれは恋愛感情とは確実に別のものだった。

 スズは優花以外にも好きだと思った女の子にはちょいちょいとキスをねだるし、優花も優花でスズが他の女の子とキスをしてる場面を目撃しても怒ったり悲しんだり、嫉妬したりもしない。不機嫌にはならない。むしろ優花はそんなスズのキスシーンを微笑ましいと好意的に捉えてしまうのだった。

「公序良俗に反する。漢字で書ける? 『公序良俗』よ。これはダメってハッキリと言われてるものじゃなくても社会的にダメって思われているものは駄目なのよ」

「チュウってしたらダメなの?」

「人前でするものじゃないの」

「外国だったら挨拶なのに」

「ここは日本よ。スズも日本人でしょう。加えて此処は学校で今は勉強中なのよ」

「お勉強を頑張ってるご褒美ってことで」

「テストの点数が上がる事、もっと言えば知識が身に付く事が御褒美でしょうよ」

「もー。京子ちゃんてば、あー言えばこー言うんだから」

「こっちの台詞よ」

 喧嘩にまでは至らない京子とスズの掛け合いを優花はにこにこと眺めていた。

 この一分後、段々と声の大きくなっていっていた二人を見兼ねた図書委員から「お静かにお願いします。おしゃべりでしたら廊下でどうぞ」と注意を受けて、京子とスズの即興漫才は一応の幕を閉じるのであった。

 ちなみに。結果として京子とスズと優花の三人が揃って図書室を追い出される事となる第二幕の始まりはその五分後であった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

筋肉女子の弱点

椎名 富比路
青春
シックスパック女子唯一の弱点とは? pixivお題「腹筋」より

名称不明なこの感情を表すために必要な2万文字。

春待ち木陰
青春
 高校一年生の女の子である『私』はアルバイト先が同じだった事から同じ高校に通う別のクラスの男の子、杉本と話をするようになった。杉本は『私』の親友である加奈子に惚れているらしい。「協力してくれ」と杉本に言われた『私』は「応援ならしても良い」と答える。加奈子にはもうすでに別の恋人がいたのだ。『私』はそれを知っていながら杉本にはその事を伝えなかった。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...