かくりよの宅配便〜春屋敷の招かれざる客〜

松林ナオ

文字の大きさ
4 / 5

2.春屋敷への道のり

しおりを挟む
後日、正式に依頼を受けると志保は早桃に連絡を入れた。

預かった荷物は、小さな木箱が包まれていた。

春屋敷へ向かう、と言っても行き先がはっきり分かっているわけではない。

志帆と翠は、早桃から聞いた話を頼りに隣町へ向かった。

最後に早桃が春屋敷を訪ねた際、屋敷が姿を現していたのは、隣町の川辺近くの土地だったという。

その道中、何度も志帆のスマートフォンの通知音が鳴った。翠の心配そうな視線を感じ、何ともないように笑顔を見せた。


「また母さん達から。年末年始はこっちに来ないかって」

「そうでしたか…」


志帆の母親は、再婚し新たな家庭を築いている。それ以来、一緒に暮らさないかという誘いも何度かあった。

父親は、十数年前の災害で亡くなっている。志帆には、他の男性を父と呼び慕うのが複雑であるのと、祖母と一緒に居たかったことから誘いを断っている。

母の再婚相手の有馬という人は、よく志帆を気にかけてくれている。異母弟が2人いて、たまに会う仲ではあるし関係性が悪い訳ではない。

志帆は鍵を握りしめたまま、隣を歩く翠を見上げた。


「ねえ。春屋敷が見つかったとしても、招かれてもないのに、春屋敷の主人に会えると思う?」

「さあ?」

「さあ、じゃないよ」


即座に突っ込むと、翠は少し困ったように笑った。


「会えなかったら、その時に考えましょうよ」

「楽観的すぎない?」

「付喪神なのでね」


まったく理由になっていない。

張り詰めた冬の空気の中、志帆は白い息を吐いた。

吐くたびに、息はすぐに消えていく。

住宅地の外れ。川辺の近くに小さな公園が見えた。


「花?」


思わず、声が漏れる。

目を疑ったが、そこには桜が咲いていた。

満開とまではいかないが、確かに淡い花びらが枝を彩っている。


「今、冬だよね」

「ええ。真冬ですね」

「だよね」


周囲の木々はすっかり葉を落とし、冷たい風に身を揺らしているのに、そこだけが春を取り残したようだった。

風が吹くたび、桜の花びらがはらりと舞い落ちる。


「この奥だと思います」


翠が、静かに告げた。

志帆は鍵を取り出した。
手のひらの上で、鍵がわずかに光っている。


「…反応してる」


桜の木の根元を過ぎ、奥へと続く細い道に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

さらに進むと、不自然な場所に屋敷が姿を現す。

勝手扉があり、それが裏口であることは一目で分かった。

戸をたたき、呼びかるが反応はない。

早桃から鍵の使用を許可されているので、おそるおそる鍵を差し込んだ。

一瞬、ためらいが胸をよぎる。

この先にいるはずの早桃の父親ー花嵐という妖。

即座に追い出されるかもしれない。

それでも―早桃の想いは、確かにここまで志帆たちを導いてきた。


「行こう、翠」


鍵を回すと、重い音が響いた。

門の向こうで、景色が揺らぐ。
冷たい空気に混じって、花びらが舞い込んできた。

こうして2人は、季節を越えて春屋敷へと足を踏み入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...