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2.春屋敷への道のり
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後日、正式に依頼を受けると志保は早桃に連絡を入れた。
預かった荷物は、小さな木箱が包まれていた。
春屋敷へ向かう、と言っても行き先がはっきり分かっているわけではない。
志帆と翠は、早桃から聞いた話を頼りに隣町へ向かった。
最後に早桃が春屋敷を訪ねた際、屋敷が姿を現していたのは、隣町の川辺近くの土地だったという。
その道中、何度も志帆のスマートフォンの通知音が鳴った。翠の心配そうな視線を感じ、何ともないように笑顔を見せた。
「また母さん達から。年末年始はこっちに来ないかって」
「そうでしたか…」
志帆の母親は、再婚し新たな家庭を築いている。それ以来、一緒に暮らさないかという誘いも何度かあった。
父親は、十数年前の災害で亡くなっている。志帆には、他の男性を父と呼び慕うのが複雑であるのと、祖母と一緒に居たかったことから誘いを断っている。
母の再婚相手の有馬という人は、よく志帆を気にかけてくれている。異母弟が2人いて、たまに会う仲ではあるし関係性が悪い訳ではない。
志帆は鍵を握りしめたまま、隣を歩く翠を見上げた。
「ねえ。春屋敷が見つかったとしても、招かれてもないのに、春屋敷の主人に会えると思う?」
「さあ?」
「さあ、じゃないよ」
即座に突っ込むと、翠は少し困ったように笑った。
「会えなかったら、その時に考えましょうよ」
「楽観的すぎない?」
「付喪神なのでね」
まったく理由になっていない。
張り詰めた冬の空気の中、志帆は白い息を吐いた。
吐くたびに、息はすぐに消えていく。
住宅地の外れ。川辺の近くに小さな公園が見えた。
「花?」
思わず、声が漏れる。
目を疑ったが、そこには桜が咲いていた。
満開とまではいかないが、確かに淡い花びらが枝を彩っている。
「今、冬だよね」
「ええ。真冬ですね」
「だよね」
周囲の木々はすっかり葉を落とし、冷たい風に身を揺らしているのに、そこだけが春を取り残したようだった。
風が吹くたび、桜の花びらがはらりと舞い落ちる。
「この奥だと思います」
翠が、静かに告げた。
志帆は鍵を取り出した。
手のひらの上で、鍵がわずかに光っている。
「…反応してる」
桜の木の根元を過ぎ、奥へと続く細い道に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
さらに進むと、不自然な場所に屋敷が姿を現す。
勝手扉があり、それが裏口であることは一目で分かった。
戸をたたき、呼びかるが反応はない。
早桃から鍵の使用を許可されているので、おそるおそる鍵を差し込んだ。
一瞬、ためらいが胸をよぎる。
この先にいるはずの早桃の父親ー花嵐という妖。
即座に追い出されるかもしれない。
それでも―早桃の想いは、確かにここまで志帆たちを導いてきた。
「行こう、翠」
鍵を回すと、重い音が響いた。
門の向こうで、景色が揺らぐ。
冷たい空気に混じって、花びらが舞い込んできた。
こうして2人は、季節を越えて春屋敷へと足を踏み入れた。
預かった荷物は、小さな木箱が包まれていた。
春屋敷へ向かう、と言っても行き先がはっきり分かっているわけではない。
志帆と翠は、早桃から聞いた話を頼りに隣町へ向かった。
最後に早桃が春屋敷を訪ねた際、屋敷が姿を現していたのは、隣町の川辺近くの土地だったという。
その道中、何度も志帆のスマートフォンの通知音が鳴った。翠の心配そうな視線を感じ、何ともないように笑顔を見せた。
「また母さん達から。年末年始はこっちに来ないかって」
「そうでしたか…」
志帆の母親は、再婚し新たな家庭を築いている。それ以来、一緒に暮らさないかという誘いも何度かあった。
父親は、十数年前の災害で亡くなっている。志帆には、他の男性を父と呼び慕うのが複雑であるのと、祖母と一緒に居たかったことから誘いを断っている。
母の再婚相手の有馬という人は、よく志帆を気にかけてくれている。異母弟が2人いて、たまに会う仲ではあるし関係性が悪い訳ではない。
志帆は鍵を握りしめたまま、隣を歩く翠を見上げた。
「ねえ。春屋敷が見つかったとしても、招かれてもないのに、春屋敷の主人に会えると思う?」
「さあ?」
「さあ、じゃないよ」
即座に突っ込むと、翠は少し困ったように笑った。
「会えなかったら、その時に考えましょうよ」
「楽観的すぎない?」
「付喪神なのでね」
まったく理由になっていない。
張り詰めた冬の空気の中、志帆は白い息を吐いた。
吐くたびに、息はすぐに消えていく。
住宅地の外れ。川辺の近くに小さな公園が見えた。
「花?」
思わず、声が漏れる。
目を疑ったが、そこには桜が咲いていた。
満開とまではいかないが、確かに淡い花びらが枝を彩っている。
「今、冬だよね」
「ええ。真冬ですね」
「だよね」
周囲の木々はすっかり葉を落とし、冷たい風に身を揺らしているのに、そこだけが春を取り残したようだった。
風が吹くたび、桜の花びらがはらりと舞い落ちる。
「この奥だと思います」
翠が、静かに告げた。
志帆は鍵を取り出した。
手のひらの上で、鍵がわずかに光っている。
「…反応してる」
桜の木の根元を過ぎ、奥へと続く細い道に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
さらに進むと、不自然な場所に屋敷が姿を現す。
勝手扉があり、それが裏口であることは一目で分かった。
戸をたたき、呼びかるが反応はない。
早桃から鍵の使用を許可されているので、おそるおそる鍵を差し込んだ。
一瞬、ためらいが胸をよぎる。
この先にいるはずの早桃の父親ー花嵐という妖。
即座に追い出されるかもしれない。
それでも―早桃の想いは、確かにここまで志帆たちを導いてきた。
「行こう、翠」
鍵を回すと、重い音が響いた。
門の向こうで、景色が揺らぐ。
冷たい空気に混じって、花びらが舞い込んできた。
こうして2人は、季節を越えて春屋敷へと足を踏み入れた。
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