4 / 4
下
しおりを挟む
正直に言えば、セシルはずっとこうなることを願っていた。
―どうにかして、この婚約を破断にできないだろうか。
義姉であるソフィア・グラックルージュが王太子と婚約した日から、ずっと機会を探していた。
セシルがグラックルージュ公爵家に養子として迎えられたのは、10歳の頃だった。
遠縁とはいえ、他人の家。
跡取りとして期待や軽視、様々な視線の中で生活する日々が始まるのかと気が重かった。
そんな彼を救ったのが、ソフィアという存在だった。
初めてソフィアを見たのは、庭園の木に括り付けられている姿だった。
衝撃だった。貴族令嬢が、木に縛れるという酷い仕打ちを受けても平然としている。
「貴方がセシルね。心配しなくていいわ、この家は実子だろうと容赦なく罰を与える家だから。貴方が養子だからといって蔑ろにされないわ」
「お姉様…?の方が心配なのですが」
おそらく、義姉になるだろう相手に恐る恐る声をかけた。
「大丈夫よ。敷地内にミントを植えて繁殖力を試そうとしただけだから、そこまでこの罰は長引かないはずよ」
よく分からない返答だった。敷地内の生態系を脅かすのでやめた方がいいとしか伝えられなかった。
見た目は儚げで可憐な少女だが、内面は中々に自由人らしい。
社交界には、いつも笑みを絶やさず、内心が読めない“正統派令嬢”が溢れている。
こんな自分の欲求に素直な令嬢もいるのだな、というのが素直な感想だった。
「我が家の家族という定義は、利害の一致した協力者なの。だから、セシルも正真正銘の私の家族よ」
「それはそれで複雑なのですが…」
定義はどうあれ、やはり家族と面と向かって言われるのは嬉しかった。
それから月日が流れ、セシル親衛隊という謎の組織がいつの間にか結成されたり、屋敷が半壊したりと不可思議なことが次々と起こるこの家は、意外にも居心地が良かった。
それから義姉に淡い感情を抱くようになった時にソフィアと王太子との婚約が決まってしまった。
ソフィアが王座を望むのなら、国家転覆に加わるのも厭わない。
ソフィアが王太子妃となり未来の王妃となるのが幸せなら、それで良いとも思っていた。
とはいえ、どんな相手でも良かったわけではない。
ソフィアを心から大切にしてくれる、まともな相手だったなら百歩譲って、渋々ながらも納得するつもりではいたのだ。
だがしかし。
王太子のことを調べると、婚約どころか王太子の座から引きずり落とせるまでの悪事が次々と出て来たのだった。
違法な奴隷売買に、薬物の密入まで。女癖の悪さだけでは無かったのかと引いたのをよく覚えている。
そんな中、まさかの形で事態は動いた。
ソフィア自ら手を下すとは思わなかったが、セシルにとって都合のいい結果となった。
正式に婚約したら、王太子の悪事を晒して廃嫡させよう。
邪魔者は自業自得で消えていく。
そして、最愛の人の隣に立てる。
なんて都合の良い展開なのだろう。
「セシル、大丈夫?今なら間に合うから、私との婚約は無かったことにしてもいいのよ」
家族会議の場から離れ、いつぞやの木の下で考え込むセシルを覗き込むソフィアはあの日から随分と大人びた。
けれど、あの日から変わらないところもある。
セシルはその手を取り、跪いた。
「僕の全ては貴方のもの。どうか、無かったことにするなんて言わないで」
「…はい」
ソフィアは、恥ずかしそうに頷いたのだった。
―どうにかして、この婚約を破断にできないだろうか。
義姉であるソフィア・グラックルージュが王太子と婚約した日から、ずっと機会を探していた。
セシルがグラックルージュ公爵家に養子として迎えられたのは、10歳の頃だった。
遠縁とはいえ、他人の家。
跡取りとして期待や軽視、様々な視線の中で生活する日々が始まるのかと気が重かった。
そんな彼を救ったのが、ソフィアという存在だった。
初めてソフィアを見たのは、庭園の木に括り付けられている姿だった。
衝撃だった。貴族令嬢が、木に縛れるという酷い仕打ちを受けても平然としている。
「貴方がセシルね。心配しなくていいわ、この家は実子だろうと容赦なく罰を与える家だから。貴方が養子だからといって蔑ろにされないわ」
「お姉様…?の方が心配なのですが」
おそらく、義姉になるだろう相手に恐る恐る声をかけた。
「大丈夫よ。敷地内にミントを植えて繁殖力を試そうとしただけだから、そこまでこの罰は長引かないはずよ」
よく分からない返答だった。敷地内の生態系を脅かすのでやめた方がいいとしか伝えられなかった。
見た目は儚げで可憐な少女だが、内面は中々に自由人らしい。
社交界には、いつも笑みを絶やさず、内心が読めない“正統派令嬢”が溢れている。
こんな自分の欲求に素直な令嬢もいるのだな、というのが素直な感想だった。
「我が家の家族という定義は、利害の一致した協力者なの。だから、セシルも正真正銘の私の家族よ」
「それはそれで複雑なのですが…」
定義はどうあれ、やはり家族と面と向かって言われるのは嬉しかった。
それから月日が流れ、セシル親衛隊という謎の組織がいつの間にか結成されたり、屋敷が半壊したりと不可思議なことが次々と起こるこの家は、意外にも居心地が良かった。
それから義姉に淡い感情を抱くようになった時にソフィアと王太子との婚約が決まってしまった。
ソフィアが王座を望むのなら、国家転覆に加わるのも厭わない。
ソフィアが王太子妃となり未来の王妃となるのが幸せなら、それで良いとも思っていた。
とはいえ、どんな相手でも良かったわけではない。
ソフィアを心から大切にしてくれる、まともな相手だったなら百歩譲って、渋々ながらも納得するつもりではいたのだ。
だがしかし。
王太子のことを調べると、婚約どころか王太子の座から引きずり落とせるまでの悪事が次々と出て来たのだった。
違法な奴隷売買に、薬物の密入まで。女癖の悪さだけでは無かったのかと引いたのをよく覚えている。
そんな中、まさかの形で事態は動いた。
ソフィア自ら手を下すとは思わなかったが、セシルにとって都合のいい結果となった。
正式に婚約したら、王太子の悪事を晒して廃嫡させよう。
邪魔者は自業自得で消えていく。
そして、最愛の人の隣に立てる。
なんて都合の良い展開なのだろう。
「セシル、大丈夫?今なら間に合うから、私との婚約は無かったことにしてもいいのよ」
家族会議の場から離れ、いつぞやの木の下で考え込むセシルを覗き込むソフィアはあの日から随分と大人びた。
けれど、あの日から変わらないところもある。
セシルはその手を取り、跪いた。
「僕の全ては貴方のもの。どうか、無かったことにするなんて言わないで」
「…はい」
ソフィアは、恥ずかしそうに頷いたのだった。
97
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
恋の終わりに
オオトリ
恋愛
「我々の婚約は、破棄された」
私達が生まれる前から決まっていた婚約者である、王太子殿下から告げられた言葉。
その時、私は
私に、できたことはーーー
※小説家になろうさんでも投稿。
※一時間ごとに公開し、全3話で完結です。
タイトル及び、タグにご注意!不安のある方はお気をつけてください。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね
うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。
伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。
お互い好きにならない。三年間の契約。
それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。
でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる