義弟の愛が重い

松林ナオ

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事件の数日後、グラックルージュ公爵家に一通の書状が届いた。

差出人はバレンティア王家。

内容は簡潔だった。


ソフィア・グラックルージュを王都から追放すること。

もしくは、公爵家の領地の一部を王家へ献上すること。

いずれかを選べば、王太子が池に沈んだ一件は不問とする。


という内容だった。


「…ソフィア」

「すみません」

「…お姉様」

「ほんとすみません」


公爵と公爵家夫人である両親は呆れたような視線をソフィアに向ける。

4つ年の離れた義弟のセシルのみが、心配そうにしている。


「王太子がクズなのは分かるが、池に沈めるのは…ね」

「しばらく浮き上がってこれないように、押さえつけてたのでしょう?」

「ええ、まあ。でも死んではいませんから大丈夫じゃないですかね」

「「大丈夫じゃない」」


両親の声が揃う。

非があるのはレックスの方だ。しかし、ソフィアも中々にやりすぎている。

こうして、グラックルージュ公爵家は家族会議を開くことになった。

重苦しい空気の中、公爵が口を開く。


「我々に残された道は2つだ」

 
選択肢1の追放案。

ソフィア・グラックルージュが公爵家を出て、平民として生きること。


選択肢2の領地を差し出す案。

公爵家が領地の一部を王家へ差し出し、事件を収める。そして嫁ぎ先の無くなったソフィアは義弟セシルと結婚、公爵夫人となること。

後者が提示された理由は、あまりにも現実的だった。

王太子の元婚約者。しかも、その王太子を池に投げ飛ばした“獰猛な令嬢”。

そして、王家に喧嘩を売ったようなものの立場。いくら、王太子が悪評のある人物だからといってもやり過ぎたので同情の声は少ない。

即ち、両者もろとも悪評揃いとなってしまった。

その相手に、あえて手を挙げる貴族などまずいない。

必然的に、選択肢は一つに絞られる。


「もうこれは追放一択だな」

「そうね。セシルが慕っている義姉とはいえ、結婚相手にソフィアを押し付けるなんて可哀想よ」


躊躇なく、実の娘を切り捨てる。それがグラックルージュ公爵家だった。


「ですよね。私は平民として逞しく生きて行くので気にしないでください」

「待ってくださいよ!お姉様が追放だなんて酷いです。選択肢2にしましょう。お姉様の追放が免れるなら領地の1つや2つ、結婚だろうと構いませんから」


呑気に答えるソフィアに対し、セシルが止めに入る。


「なんていい子なの…でも、自分を犠牲にしてはダメよ」

「そうだ、セシル。同年代の心優しい穏やかな子と一緒になり幸せになりなさい」


両親が口々に言う。

セシルは、眉目秀麗でありどこに出しても恥ずかしくない15歳の少年だ。王家から目をつけられた19歳のソフィアの相手には勿体無い。


「私の義弟がいい子すぎる…15歳の未来ある美少年なのに」


セシルは、公爵家がソフィアを切り捨てることへの躊躇のなさと話の通じなさに戦慄しながら、古くから仕える執事のシリウスに視線を向ける。

シリウスは首を振り、視線を落とす。

家族会議はそれから4時間続いた。

セシルの押し切り勝ちで、最終的にソフィアとセシルの婚約が決まったのだった。
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