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アレクセイとエドワード
しおりを挟むお兄様がヤンデレだった。あの、優しくて、ちょっと過保護で、妹思いなお兄様が、ヤンデレな[エドワード]だった。
どうしよう。君婚のヒロインのように、手足を切り取られるかも知れないと思うと震えが止まらない。目の前にいるお兄様が、私の知るお兄様とは全くの別人のようで恐怖で体が動かない。
そんな私を、アレク様が後ろに隠してくれた。
「久しぶりだな、エドワード」
「ええ。お久しぶりです殿下。…ところで、私の妹を返していただいても?」
「断る。まだまだ積もる話もあるのでな」
「積もる話、ですか。まさかとは思いますが、また不埒な真似を働くつもりでは?」
二人の間に火花が散るが見えて、私はついアレク様の上着をつかんでしまう。そしてそれを目に止めたお兄様の機嫌が更に急降下して、アレク様に向けている目が一切の温度を失った。
「…ほう?それは、貴様のことではないのか?」
「可愛い妹であるアリアンヌに私がその様な真似をするはずがございません。…そうでしょう?僕の可愛いアリア」
「ひゃ、ひゃい…!」
アレク様には全く感情の見えない目を向けているのに、その目が私に向けられた途端甘い色を帯びていて、その違いが怖くて怖くて、もうどうしようもない位に私は恐怖に震えていた。
「…ふふっ、なーんてね!」
「…え?」
「…は?」
けれどお兄様がそういった瞬間、それまで凍っていた空気が一気に元に戻った、様な気がした。
「あはは、びっくりしちゃったかな?そりゃあアリアがこんなに早い段階で知ってしまったのは計算外だったけどっ!まだこの世界に慣れてないアリアにこんなこと知らせた殿下には怒ってるけどっ!僕だって[君]に嫌われる様な真似は避けたいし…」
「おにいさま…」
「エドって呼んでよ、アリア。昔みたいに!じゃないと、僕拗ねちゃうよ?」
その様子はまさに[君婚]の(ノーマルな)エドワードで、今のがただのお遊び(?)だったと知って安心する。少なくとも、私の手足は守られたらしい。
「ささっ、もう帰ろ?あっ、でも僕は殿下とお話があるから、先に馬車で待っててくれるかな?」
「あ…はい。ではおまちしてますね、おに…エドにいさま。アレクさま、しつれいいたします」
「…ああ」
「なるべく早くいくからね~!」
そういって手をふるエド兄様が、ヤンデレた[エドワード]でなくて本当に良かったと思いながら、私は二人が残る中庭に背を向け、馬車がある方向に向かって歩いて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
アリアンヌが去った後の中庭で、アレクセイとエドワードは先程の穏やかさの欠片もない様子で対峙していた。
「…なんのつもりだ、エドワード」
「ふふっ。やだなぁ、わかってる癖に。殿下も人が悪い」
「ふん、言っておくがアリアンヌから手を引くつもりはないぞ。…やっと見つけたのだからな」
そう言ってエドワードを睨み付けるアレクセイに、そんなことは分かっているとでも言うようにエドワードは笑ってみせる。
「知ってますよ?だって、じゃなきゃ殿下はまだこの世界に馴染みきってないアリアに、[繰り返し]のことを言ったりはしないでしょう?」
「当然だな。…俺があいつにそれを伝えたのは、あいつが[アリアンヌ]だったからだ。人一倍あいつに執着していたお前の、妹だからだ」
「ハァ…、出来るなら、アリアがレオンハルト殿下に見つかる前に僕のものにしたかったんだけどなぁ…。殿下がいたら、それも難しい、か」
わざとらしくため息を吐いたエドワードに、アレクセイは牽制の意味を込めて視線を送る。しかしエドワードはそれを軽くいなすと、再びアレクセイに向き合った。
「とりあえず、今のところは安心して貰って大丈夫ですよ?アリアに好きになってもらうまでは大人しくしてますから」
「ならば尚更、アリアンヌを貴様に渡す訳にはいかんな。まぁ、元からあいつは誰にも渡すつもりはないが」
「ふふっ、どうぞ?出来るものなら」
そう言い残し、エドワードはアレクセイに背を向け、アリアンヌの待つ馬車へと足を進める。
そして暫くの間その後ろ姿を睨み付けていたアレクセイもまた、中庭を後にした。
(それにしても…アリアに完全に怯えられる前に気付けて良かった。多少不自然だったけど、アリアは気付いてなかったみたいだし)
それがアリアンヌが本能的に行った、現実逃避だったとしても。
(僕にとっては好都合だ)
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