8 / 12
アレクセイとエドワード
しおりを挟むお兄様がヤンデレだった。あの、優しくて、ちょっと過保護で、妹思いなお兄様が、ヤンデレな[エドワード]だった。
どうしよう。君婚のヒロインのように、手足を切り取られるかも知れないと思うと震えが止まらない。目の前にいるお兄様が、私の知るお兄様とは全くの別人のようで恐怖で体が動かない。
そんな私を、アレク様が後ろに隠してくれた。
「久しぶりだな、エドワード」
「ええ。お久しぶりです殿下。…ところで、私の妹を返していただいても?」
「断る。まだまだ積もる話もあるのでな」
「積もる話、ですか。まさかとは思いますが、また不埒な真似を働くつもりでは?」
二人の間に火花が散るが見えて、私はついアレク様の上着をつかんでしまう。そしてそれを目に止めたお兄様の機嫌が更に急降下して、アレク様に向けている目が一切の温度を失った。
「…ほう?それは、貴様のことではないのか?」
「可愛い妹であるアリアンヌに私がその様な真似をするはずがございません。…そうでしょう?僕の可愛いアリア」
「ひゃ、ひゃい…!」
アレク様には全く感情の見えない目を向けているのに、その目が私に向けられた途端甘い色を帯びていて、その違いが怖くて怖くて、もうどうしようもない位に私は恐怖に震えていた。
「…ふふっ、なーんてね!」
「…え?」
「…は?」
けれどお兄様がそういった瞬間、それまで凍っていた空気が一気に元に戻った、様な気がした。
「あはは、びっくりしちゃったかな?そりゃあアリアがこんなに早い段階で知ってしまったのは計算外だったけどっ!まだこの世界に慣れてないアリアにこんなこと知らせた殿下には怒ってるけどっ!僕だって[君]に嫌われる様な真似は避けたいし…」
「おにいさま…」
「エドって呼んでよ、アリア。昔みたいに!じゃないと、僕拗ねちゃうよ?」
その様子はまさに[君婚]の(ノーマルな)エドワードで、今のがただのお遊び(?)だったと知って安心する。少なくとも、私の手足は守られたらしい。
「ささっ、もう帰ろ?あっ、でも僕は殿下とお話があるから、先に馬車で待っててくれるかな?」
「あ…はい。ではおまちしてますね、おに…エドにいさま。アレクさま、しつれいいたします」
「…ああ」
「なるべく早くいくからね~!」
そういって手をふるエド兄様が、ヤンデレた[エドワード]でなくて本当に良かったと思いながら、私は二人が残る中庭に背を向け、馬車がある方向に向かって歩いて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
アリアンヌが去った後の中庭で、アレクセイとエドワードは先程の穏やかさの欠片もない様子で対峙していた。
「…なんのつもりだ、エドワード」
「ふふっ。やだなぁ、わかってる癖に。殿下も人が悪い」
「ふん、言っておくがアリアンヌから手を引くつもりはないぞ。…やっと見つけたのだからな」
そう言ってエドワードを睨み付けるアレクセイに、そんなことは分かっているとでも言うようにエドワードは笑ってみせる。
「知ってますよ?だって、じゃなきゃ殿下はまだこの世界に馴染みきってないアリアに、[繰り返し]のことを言ったりはしないでしょう?」
「当然だな。…俺があいつにそれを伝えたのは、あいつが[アリアンヌ]だったからだ。人一倍あいつに執着していたお前の、妹だからだ」
「ハァ…、出来るなら、アリアがレオンハルト殿下に見つかる前に僕のものにしたかったんだけどなぁ…。殿下がいたら、それも難しい、か」
わざとらしくため息を吐いたエドワードに、アレクセイは牽制の意味を込めて視線を送る。しかしエドワードはそれを軽くいなすと、再びアレクセイに向き合った。
「とりあえず、今のところは安心して貰って大丈夫ですよ?アリアに好きになってもらうまでは大人しくしてますから」
「ならば尚更、アリアンヌを貴様に渡す訳にはいかんな。まぁ、元からあいつは誰にも渡すつもりはないが」
「ふふっ、どうぞ?出来るものなら」
そう言い残し、エドワードはアレクセイに背を向け、アリアンヌの待つ馬車へと足を進める。
そして暫くの間その後ろ姿を睨み付けていたアレクセイもまた、中庭を後にした。
(それにしても…アリアに完全に怯えられる前に気付けて良かった。多少不自然だったけど、アリアは気付いてなかったみたいだし)
それがアリアンヌが本能的に行った、現実逃避だったとしても。
(僕にとっては好都合だ)
0
あなたにおすすめの小説
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
婚約破棄された悪役令嬢は、親の再婚でできた竜人族の義理の兄にいつの間にか求婚されていたみたいです⁉
あきのみどり
恋愛
【竜人族溺愛系義兄×勇ましき病弱系三白眼令嬢】の、すれ違いドタバタラブコメ
『私たちはその女に騙された!』
──そう主張する婚約者と親友に、学園の悪役令嬢にしたてあげられた男爵令嬢エミリア・レヴィンは、思い切り、やさぐれた。
人族なんて大嫌い、悪役令嬢? 上等だ! ──と、負けん気を発揮しているところに、大好きな父が再婚するとの報せ。
慌てて帰った領地で、エミリアは、ある竜人族の青年と出会い、不思議なウロコを贈られるが……。
後日再会するも、しかしエミリアは気がつかなかった。そのウロコをくれた彼と、父に紹介されたドラゴン顔の『義兄』が、同一人物であることに……。
父に憧れ奮闘する脳筋病弱お嬢様と、彼女に一目惚れし、うっかり求婚してしまった竜人族義兄の、苦悩と萌え多きラブコメです。
突っ込みどころ満載。コメディ要素強め。設定ゆるめ。基本的にまぬけで平和なお話です。
※なろうさんにも投稿中
※書き手の許可のない転載は固く禁止いたします。翻訳転載は翻訳後の表現に責任が持てないため許可しません。
気持ちよく作品を生み出せなくなります。ご理解ください。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる