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第6章 肝試し大会編
第百五話 「手土産」
しおりを挟むテイマーズストリートの大通りを歩く僕たちは、まず最初にどこに行くかという話をした。
拠点確保のための宿探し、収入源となるギルドの様子、観光しきれていない街の各所。
目的地とする場所は多岐にわたるけれど、僕はまるっきり迷いなく……
「もちろん、魔石鑑定所でしょ」
猫耳を揺らしたお茶目なお姉さんを思い出しながら、声高く断言した。
ペルシャ・アイボリーさんが営む魔石鑑定所。
魔石鑑定士である彼女とは、以前依頼でお世話になったとき、再会する約束をした。
となればテイマーズストリートに帰ってきてまず最初に目指すべきは、ペルシア・スタジオだ。
グロッソの街で起きた色々も話したいし、単純に顔も合わせておきたい。
クロリアからの異論はなかった。
目的地を決めた僕たちは、さっそくペルシア・スタジオに向けて大通りを進み始めた。
すると道の端々に、料理屋や雑貨屋が出ているのを見て、クロリアが提案する。
「行く前に何か買っておきますか?」
「そうだね。いつもお茶とお菓子をご馳走してもらってるから、そのお返しに甘い物でも買っていこうよ」
「はい」
そう言い合い、一度進路を変更した。
きょろきょろと視線を彷徨わせ、人通りの多い道の真ん中でお菓子屋さんの類いを探す。
ペルシア・スタジオまでの行き方は知っているが、街の様子はまるでわからない。
どこに甘い物を出してくれるお店があるのかも、そこが美味しいのかも見当がつかないのだ。
前回この街を訪れたのは依頼のためだったし、観光不足の僕たちは途方に暮れる。
「ん~、何がいいかなぁ?」
数々のお店を一つ一つ覗き、困り果てる。
主人の僕が不安そうにしているのを見て、頭上のライムも戸惑った声を上げた。
一方クロリアは、そんな僕に追い打ちを掛けるように言う。
「ペルシャさんだったら、私たちよりテイマーズストリートについて詳しいはずですよね。いただいたお菓子も美味しかったですし。下手な物を買っていったら、逆に失礼にあたるんじゃ……」
「不安になるようなこと言わないでよ。でもまあ確かに、あの人ならこの街のお菓子屋さんを完全把握しててもおかしくない」
これはどこどこのお店のやつだね。材料にはこれとこれが使われているんだよ。
聞こえるはずのない幻聴が頭の中に響いてくる。
お菓子はやっぱりダメだ。
「ここは素直に、ペルシャさんの好きそうな物を買っていくのが無難かな」
「ですね」
打開案としてそう提案すると、クロリアはこくこくと頷いてくれた。
まあ、お菓子を買っていっても、またお茶会とかで一緒に出されちゃいそうだし。
できればお土産は、ペルシャさんの元にだけ届いてほしいのだ。
となると、ますますわからないことが出てくる。
「ん~、ペルシャさんって何が好きなんだろう? よく考えたら、あの人のこと何も知らないなぁ」
腕を組んでむむむと真剣に悩む。
思い返せば前のお茶会で、ペルシャさんに『好きなものは何か』と聞かれた気がする。
そのとき僕たちは自分のことを話したが、ペルシャさんの好きなものは聞いていない。
結局僕たちは彼女のことを何も知らないのだ。
などと心底頭を悩ませていると、なぜかクロリアが唇を尖らせて、不服そうに言った。
「ペルシャさんが好きなものは”ルゥ君”じゃないんですか?」
「あのさ、真面目に聞いてるんだけど。それに僕は”もの”じゃないよ」
雑貨屋さんの前で立ち止まり、目を細めてクロリアを振り返る。
それでもいまだ唇を尖らせる彼女に、僕はため息まじりに告げた。
「ていうかそれを言うなら、間違いなくクロリアのことも好きでしょ」
「えっ?」
「たぶんあの人だったら、僕たちが遊びに行っただけで、『別にお土産なんていいのに。遊びに来てくれるだけでも嬉しいよ』なんて言うに決まってるよ」
「は、はぁ……」
「お土産を持っていたら、それこそ逆に申し訳なさそうにするかもしれない。でも、それじゃダメでしょ」
「そう……ですね」
「だから、何か好きそうなものを買っていこうって言ったんだよ。クロリアも真面目に考えてよね」
「……は、はい」
雑貨屋さんの店内を覗きながら捲し立てる。
するとクロリアは不思議と弱い反応を見せた。
ちゃんと聞いてるのかな? と怪訝に思っていると、不意に彼女の囁き声が聞こえた気がした。
「何も知らないとか言って、よく知ってるじゃないですか」
「えっ? 何か言った?」
「いえ別に」
僕から目を逸らしてツンとするクロリア。
仕方なく僕は視線を前に戻し、お店の観察を続行する。
少し引っかかりを覚えた雑貨屋さんだけど、ピンと来るような品は置いていないみたいだ。
小さく息を吐いてあちこちに視線を泳がすと、僕は愚痴を零すようにぼやいた。
「にしても、色んなお店があるなぁ。グロッソの街も大概だったけど、ここはそれ以上に多いよ」
おかげで手土産を選ぶのにも迷ってしまう。
そう言うと、ようやく機嫌を直してくれたクロリアが同意の声を上げた。
「ですね。前回は依頼目的で来たので、観光はほとんどできませんでしたし、初めて見るところが多いです。こうなるのでしたらグロッソの名産品などを買っておけばよかったですね」
「うん、確かに」
それならペルシャさんにも驚いてもらえるし。
何より彼女は、昔グロッソの街に住んでいたらしいので、懐かしいものの一つでも買っていけばベストだったかもしれない。
と、時すでに遅いことを考えて歩いていると、いつの間にか僕たちは大広間に入っていた。
大通りとはまた違った活気を生み、見るからに従魔連れのテイマーたちが多い。
「ありゃ? ここってテイマー向けの施設が集まってる場所かな?」
「そう……みたいですね」
僕たちは人ごみの中であちこちに視線を泳がす。
従魔と一緒にくつろげるカフェ。従魔と一緒に遊べる公園。従魔が主役を務めるショーの会場。
すぐ近くには闘技場まで見える。
ここら辺には目的の品はなさそうだけど、僕たちの目は自然と引き寄せられてしまった。
やがてその誘惑を振り払い、クロリアに告げる。
「楽しそうだけど、今は立ち寄ってる暇はないね」
「はい、残念ですが」
彼女は苦笑しながらそう答える。
すると僕の頭の上のライムと、クロリアの腕の中のミュウが、「キュルキュル」「ミュウ」と不服そうな鳴き声を漏らしていた。
人間からだけでなく、モンスターから見てもこの広間は楽しそうに映ったのかもしれない。
「拠点の確保とかが済んで落ち着いたら、また来ようね」
「キュルキュル!」
ライムの頭を撫でながら言うと、相棒はすごく機嫌の良さそうな声で返事をした。
やっぱりテイマーズストリートについて、僕たちはまだ何も知らないようだ。
お菓子屋さんしかり、テイマー向けの施設しかり。
ライムに言ったように、拠点確保が済んで落ち着いたら、ゆっくりと見て回ろう。
今度はロメも一緒に。
人ごみをかき分けて広間から出ると、僕らは再び手土産探しを始めた。
結局最後は、ペルシア・スタジオの部屋が暗かったことを思い出し、魔石製の明るいランプを購入した。
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