僕のスライムは世界最強~捕食チートで超成長しちゃいます~

空 水城

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2巻

2-1

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 ■テイマーズストリート


 1


 かすかな風が森の木々をらし、ざわめきが穏やかに広がる。
 木漏こもれ日が降りそそぐ中、僕は背中に温かい光を浴びながら身をかがめていた。
 地面に落ちた茶色の結晶に手を伸ばし、一つつまむ。
 僕はルゥ・シオン。生まれ育ったパルナ村を出て冒険者になった僕は、依頼を受けてスライムの従魔じゅうま――ライムと一緒に森に来ている。
 地面に転がっていた数個の茶色結晶をすべて小袋こぶくろの中に収めたところで、後ろから一人の少女が手元をのぞいてきた。
 僕のパーティーメンバー、クロリアだ。
 両肩で揺れる黒髪くろかみのおさげ。胸に抱えたピンク色のスライムは、彼女の相棒あいぼう、ミュウ。

「結構集まりましたね」

 つぶらなひとみで袋を見つめながら微笑ほほえむ彼女と目を合わせ、僕はほおゆるめた。

「うん、そうだね」

 僕はガラッと音を立てて小袋をかかげる。
 パンパンにふくらんだそれをながめて、頭上のライムがうれしそうにしているのが分かる。
 初心者におすすめと言われて僕らが受けた依頼は、ある周期ごとに森に出没する植物種のモンスターを討伐とうばつするというものだ。
 そのモンスターの名前は『ウィザートレント』。自立歩行する樹木型のモンスターで、人よりも若干背が高く、れ木のような肉体と側面から伸びる数本のつる特徴とくちょうだ。
 倒すと奴らが落とす茶色の魔石が、討伐の証明になる。
 回収を終えて立ち上がると、同じくらいの目線になったクロリアが問いかけてくる。

「確か、クエストクリアは十匹分でしたっけ?」
「うん、そうだよ。もう二十個は集まってると思う」

 再び小袋を揺すって、魔石の数を強調する。
 ライムとミュウが健闘してくれたおかげで、討伐はかなりはかどった。おそらく、どちらか一方でも欠けていたら達成できなかったと思う。そんな、見事な連携れんけいだった。
 魔石を確認したクロリアは、みを深めてコクリとうなずいた。

「では、そろそろ戻りましょうか」
「うん」

 僕たちは森の出口に向けて歩きはじめる。
 ここはグロッソの街の東にある森……冒険者試験にも使われた場所だ。
 だから、僕たちの試験のときに討伐対象だったマッドウルフも度々たびたびおそってくる。
 無事にウィザートレントの討伐を済ましたけれど、気を抜かないように警戒しながら歩かなければならない。
 しかし、あまり気を張りすぎるのも良くないと思い、なんとなしにクロリアに話を振った。

「それにしても、初心者用クエストっていう割には、ちょっと手こずっちゃったね。確かウィザートレントのランクはEで、レベル10じゃなかったっけ?」
「はい、そうですよ。でも、私はその情報よりも少し強く感じました」

 あっ、やっぱりクロリアも同じだったんだ。
 ウィザートレントには強い生命力に敏感びんかんに反応する性質があって、森を通る人たちがよく襲われると聞く。
 触れた相手の生命力を吸い取るスキルを持っていて、むちのように伸びる蔓は確かに厄介やっかいだ。
 レベルは10ながらランクは下から二番目のEと低く、攻撃パターンも単純なので、僕たちみたいな新人が討伐する対象としては打ってつけのモンスターとされている。
 だから僕は、思いのほか苦戦したことに違和感を覚えた。
 最初はライムの【限界突破リミットブレイク】だけで倒せると思っていたが、体当たりを数回当ててもまだ倒れず、結局最後は【分裂】と【自爆遊戯デッドリーボム】を併用して片をつけた。
 クロリアと回復魔法が使えるミュウがいたからいいものの、【分裂】の多用はライムの負担が大きくなる。そこまでしなくては倒せないウィザートレントが初心者向けというのは、どうもに落ちないのだ。
 それとも、僕たちの戦い方がまだなっていないのかな?
 ちなみに、冒険者の間ではレベル10は『ビギナーズライン』と呼ばれていて、すべてのモンスターに共通するレベルアップの境界線になっている。
 そこから上はレベルが上がりづらくなったり、何か特別な経験をしたりしなければ強くなれないらしい。
 だから、一般的な野生モンスターのほとんどがレベル10(ビギナーズライン)を越えることはないのだと、冒険者になったときにギルドの受付を務める――シャルム・グリューエンさんが教えてくれた。
 もっとも、特別な環境にいるモンスターはこの限りじゃないし、同じレベル10でもランクによって強さはまちまちだ。
 ちなみに、レベル20が『ミドルライン』、レベル30が『マスターライン』と呼ばれていることも最近知ったばかりだ。学ばなければならないことは戦闘だけではないと改めて思い知らされる。

「私たち、まだまだ新人冒険者ってことですかね?」

 まるで僕の心中を覗いたように、クロリアが苦笑した。
 先ほどの会話の続きだと気付いた僕は、同じく苦笑にがわらいして応えた。

「たぶんね。でも、僕たちが協力して欠点をおぎない合えば、充分戦える。それに、まだこれからだよ。少しずつ強くなろう」
「はい!」

 気合充分な僕たちの声に、お互いの相棒も元気な鳴き声を上げた。
 今日もなんとか依頼達成。
 これが今の僕らの日常。
 二人と二匹だけの小さいパーティーながらも、コツコツと依頼をこなし、宿代とご飯代をかせいで、毎日四苦八苦しくはっくしている。
 苦しいのは確かだけど、パルナ村では絶対に味わえなかったこの日常は、僕をきさせることがない。
 これも英雄たちの通った道なんだと思えば、不思議と楽しく感じられるし。
 こうして今日も無事に仕事を終えて、クロリアたちと談笑しながら帰路きろいた。
 冒険者試験に合格し、念願の冒険者の仲間入りを果たしてから、早くも一週間が経った日のことだった。


 ********


 この一週間で僕たちが達成した依頼は、大小合わせて十以上はあるだろう。
 数だけを見れば、新人冒険者らしからぬ好成績だと言える。
 森の中でモンスターと戦ったり、街の中をけずり回って探し物をしたり、時には街から離れた山でどろだらけになりながらアイテムを採取したり。
 しかし、やはりまだ新人冒険者。ランクも最低の銅級ブロンズなので、威張いばれることは何もない。
 冒険者にもモンスターと同じようにランクが存在する。
 A~Fまであるモンスターとは違い、冒険者のランクは銅級ブロンズ銀級シルバー金級ゴルドのたった三つだ。
 それによって受けられる依頼も違ってくるし、銅級ブロンズというランク付けをされている限り、新人らしさはつきまとう。
 では、どうすれば立派な冒険者になれるかというと……依頼五十回クリアにつき一度受けられるという昇格試験に合格するか、何か大きな功績こうせきをあげてギルドに認められて階級を上げてもらうしか方法はない。
 僕はそんな話を聞いて、当分は銅級ブロンズ冒険者として頑張がんばっていくことになりそうだと嘆息たんそくした。
 英雄までの道のりは長い。
 本日もその一歩を着実にみしめて、僕たちは街へと帰還したのだった。
 報告のために冒険者ギルドに戻り、受付にいる赤髪の女性のところに一直線に向かう。

「シャルムさん、ただいま戻りました」
「んっ? あぁ、君たちか」

 声を掛けると、何かのお仕事中だったらしいシャルムさんが振り向いた。
 ここ一週間でそこそこの数の依頼をこなしたけど、決まって僕らはシャルムさんに手続きをお願いしている。
 ウィザートレントの依頼も、今朝彼女からの紹介で受注したものだ。

「ウィザートレントの討伐依頼、完了しました」
「うん、ご苦労様。さっそく討伐証明の魔石を見せてもらおうか」

 後ろにいるクロリアに目配めくばせすると、彼女はこしに下げた袋のひもき、受付カウンターの上に置いた。
 たいていの討伐依頼は数が指定されていて、今回は十匹以上倒せばクエストクリア。そこからは五匹倒すごとに報酬ほうしゅうが上乗せされていくという形式だ。
 シャルムさんは袋から一つずつ魔石を取り出して数えていく。

「……二十匹分か。ずいぶん頑張ったみたいだな」

 魔石をすべて卓上に並べた彼女は、称賛しょうさんの言葉を送ってくれた。

「い、いえ」
「これだけ討伐したなら、報酬もその分高くなる。よくやってくれた」

 赤髪のシャルムさんは、うるわしい微笑びしょうを僕たちに向ける。
 反射的に僕はさっと顔をせた。僕のこの反応も毎度のことだ。
 心地好ここちよいんだか悪いんだか……クールで美人なシャルムさんと話していると、いつもよく分からない気持ちにさせられる。
 もじもじしながらたたずんでいると――

「では、その報酬についてだが……んっ?」

 突然、シャルムさんがいぶかしげな反応を見せた。
 目を細めて、カウンター一面に並べられた魔石をじいっと見つめている。
 ただでさえ迫力のある赤い瞳が、ますます怖い印象に変わっていて、僕は恐る恐る声を掛けた。

「ど、どうかしましたか?」
「……いや」

 小さくつぶやくシャルムさんだが、確実に何かある様子だ。
 彼女はそのまましばらく魔石を見つめながら、あごに手を当てて思案する。
 時折カウンターから魔石を摘んでは光に透かして、まるで鑑定でもするかのように眺めている。
 我慢がまんできなくなった僕は、再びシャルムさんに声を掛けた。

「あ、あのぉ……シャルムさん?」
「すまない。この討伐依頼の報酬、少し保留にさせてもらっていいかな?」
「えっ?」

 なんで突然そんなことを?
 思わず疑問を口にしそうになるが、冒険者ギルドの職員である彼女の決定に無闇むやみに反対するのはかしこい態度とは言えない。
 しかし理由がさっぱり分からない。
 彼女の言うとおり保留するにしても、僕の独断では決められないので、振り返ってクロリアの反応を確認する。
 彼女は一瞬きょとんとしたが、すぐにこくこくと頷いてくれた。
 同意が得られたところで、僕は遠慮えんりょがちに疑問を投げかけた。

「か、構いませんが、いったいどうして……?」
「いや、私の取り越し苦労ならそれでいいのだが、少々気になることがあってね……」

 その言葉を聞いて、僕は思わず苦笑する。

「もしかして、僕たちが持ち帰ってきた魔石、全然違う物でしたか?」
「えっ……あっ、いや、そういうわけではないよ。これは間違いなくウィザートレントの魔石だ。というか、そんなことは討伐した君たち自身が一番分かってるだろう?」
「は、はぁ……」

 僕たちを安心させるように、優しく微笑むシャルムさんに、僕はただ曖昧あいまいな返事をすることしかできなかった。
 なんだかよく分からないけど、とりあえず彼女に任せておくのが良さそうだ。
 ここ一週間でシャルムさんの仕事ぶりは存分に見てきた。
 無駄むだのない動きとつかれを見せない姿。明らかに他の人よりも数段優れているであろうことは、疑う余地もない。
 僕は疑問を振り払って、笑みを浮かべる。

「それじゃあ、僕たちはもう帰ります。後がつかえて受付を混雑させてしまうのは忍びないので」
「あぁ。報酬を後回しにしてしまって申し訳ない。また明日、受付に来てくれ」
「はい」

 しっかり頷いた僕は、終始頭の上で静かにしていたライムと、後ろにひかえているクロリアたちを連れて、混雑しはじめたギルドを後にした。
 人混みから抜け出た僕たちは、思わずぷはっと息をく。

「なんだったんでしょうね?」

 ギルドの建物に視線を向けたクロリアが、小さく首をかしげた。

「さぁ? でも明日になれば分かるでしょ。さっ、宿に戻ってご飯にしよう。ギルドの酒場で食べると宿代くらいかかっちゃうし」

 それに、今日は報酬が出なかったから、なおさら節約しなくちゃ。
 どうやらクロリアも僕の言いたいことが分かっている様子で、後ろ髪を引かれつつも、宿を目指して歩きはじめた。
 二人で取っている宿屋の食堂では、ギルドの酒場には及ばないものの、それなりに美味おいしいご飯を出してもらえる。
 値段も半分以下だし、宿の利用者は割引でさらにお安くなる。
 今日は何を食べようかな?
 やっぱり日替りのメニューが量も値段もお得だから、いっそ二人でそれにして……
 パルナ村にいたときとはまるで違う波瀾万丈はらんばんじょうな日々だけど、節約志向だけはまったく変わっていないのは、喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。
 晩ご飯のメニューを考えるかたわら、ポケットの中の財布さいふの軽さを意識して、僕は小さくため息を吐いた。
 当面の目標は、強くなることでも、冒険者ランクを上げることでもなく、お金の確保にするべきかもしれない。


 ********


 宿屋『芽吹めぶきの見届け』。
 木造三階建てで、古めかしさよりも味わいを感じる外観だ。
 二階と三階はすべて宿泊部屋になっており、僕とクロリアもそれぞれ部屋を取っている。
 一階にはそこそこ広い食堂があって、宿を取っていない人も利用できるのが親切なところだ。
 僕たちは今、その食堂で夕飯を食べている。
 僕とライムが丸パンと野菜スープのセット。クロリアとミュウは鳥肉を丸々豪快ごうかいに焼いたもの。
 この一週間行動をともにして、彼女たちのことをかなり理解できた。
 ミュウは最初の印象通り天然で、時折ライムが熱のもった視線を向けても、まるで気にする様子がない。終始笑顔を絶やさず、二重の意味でみんなをやしてくれる。
 クロリアは最初の印象通りずかしがり屋で、人と話すときなんかはもじもじして上手うまく声が出せなくなることが多い。
 しかし何よりも意外なことに、二人とも男性冒険者が目を丸くするほど大食いだ。
 彼女たちと一緒に食事をするときは、毎度その食べっぷりに驚かされている。
 もちろん今日も。
 クロリアとミュウが、名称不明な鳥料理を満面の笑みで頬張っているところを見て、僕は思わず固まってしまう。
 ミュウに気があるライムですら、呆気あっけにとられて目を点にするほどだ。
 確か彼女たちの故郷の村は、戦闘能力の高いモンスターを呼び出し、強いテイマーを輩出はいしゅつすることで有名だったはず。
 クロリアはその恩恵おんけいにあやかれず、可愛かわいらしいミュウを召喚してしまったけど、血の気の多い村人の特性はしっかり受けいでいるのだろうか? なんとも不釣ふつり合いだが。
 手に持った丸パンのことも忘れて、しばし呆然ぼうぜんと彼女たちを眺めていると、きょとんと首を傾げられてしまった。
 僕は〝なんでもない〟と首を横に振って、食事を再開する。
 たぶん栄養は身長やお腹の方ではなく、全部別のところに持っていかれてるんだろうなぁ……なんて不謹慎ふきんしんなことを考えていると、思わず胸元に目が行きそうになるが、慌てて視線を逸らす。
 なんとなしに食堂の壁を見ていると、そこに掛けてある額縁がくぶちに目が留まった。
 中には白い紙が一枚。何か文字が書かれていて、見たところ、誰かのサインだと思われるが、独特のくずした書体で、遠くからだと読み取れない。
 僕は、卓上の水差しを取り替えに来た食堂のおばさんに、興味本位で声を掛けた。

「あの、おばさん」
「はいよ。どうした?」
「あそこにかざってあるサインって、誰のものなんですか?」

 おばさんは首をめぐらせて額縁に目を向ける。
 ここに泊まるようになって以来、何回かこの食堂を利用している。
 そのたびに目につき、ずっと気になっていたのだが、いつも聞くタイミングを逃していた。
 もし読んだことのある冒険譚ぼうけんたんの英雄のものなら、夢に出てくるくらい目に焼き付けておこう。そうじゃなくても、名の知れた凄腕すごうでのテイマーさんのものかもしれないし。
 僕はひそかにわくわくしながらおばさんの返事を待つ。
 このとき僕は、そのサインが最近書かれた真新しいものだと気付いていなかった。

「あぁ、あのサインね。あれはファナ・リズベルちゃんのものだよ」
「ごほっ……!」

 スープの野菜がのどにつっかえた。

「ど、どうしたんですか、ルゥ君!?」
「ゴホッゲホッ! な、なんでもない……」

 いや、なんでもなくはないんだけど。
 巨大な肉料理を頬張りながら心配してくれるクロリアに、僕は右手を上げて〝大丈夫〟と合図する。
 おさななじみのファナのサインが、なんでここにあるんだ?
 冒険者ギルドに勧誘かんゆうされて街に出た彼女が、どうしてサインなんか書いてるんだろう?
 見ると、となりで食事をしていたはずのライムは、瞳をキラキラさせてサインを見つめていた。
 むせ込んでいた僕が落ち着いたタイミングを見計みはからって、おばさんは話を始めた。

「ファナちゃんはこのグロッソの街で冒険者になって、少しの間ここのギルドで活動をしていたんだよ。そのときに利用していた宿が、うちさ」

 そんなおばさんの情報に、僕ではなくクロリアが反応を示す。

「へぇ~、そうなんですかぁ」
「えっ? クロリアは、ファナの……ファナ・リズベルのこと知ってるの?」
「はい。もちろんですよ」

 こいつはびっくり……と、僕は目を丸くする。
 ファナってそんなに有名になっちゃったんだ。
 この一週間、街で暮らしてきたのに、全然うわさは耳にしなかったけど、クロリアが知っているってことは、僕が思っている以上の知名度なんだろうな。
 これをパルナ村のみんなが聞いたらなんて言うか……
 そんな考えを巡らせていると、クロリアがファナについての情報を、なぜか得意げに話しはじめた。

「わずか十五歳にして、冒険者ギルドの本部から直々じきじきに勧誘を受けたドラゴンテイマー。冒険者になったその日に、色んなパーティーから引く手数多あまたで、この街の近辺ではかなり有名な方ですよ。私たちと同い年だというのに、すでに冒険者ランクは銀級シルバーだとか」
「へ、へぇ~」

 なんだか事実だという実感がかず、聞けば聞くほど〝誰のことやら?〟と思えてくる。

「あれ? じゃあ、今、ファナはどこに……?」
「さあ、分かりません。ですが、噂だとどこかの有力パーティーに加入して、すでにこの街は離れたとか」
「……そ、そう」

 僕は密かにがっかりする。
 このところ、冒険者試験や自分自身のことに必死だったけど、そもそも僕がこの街まで急いでやってきたのは、ファナに会うためだ。
 結局会うことはできなかったけど。
 でもまさか、ファナがサインを求められるほどの有名人になっているなんて思わなかった。それに、同じ宿屋を利用していたとは……。色々びっくりしすぎて疲れた。
 気持ちと頭の整理のために、ふぅーっと一息吐く。
 すると正面のクロリアが、頬張ったお肉をもぐもぐしながら問いかけてきた。

「ルゥ君はファナさんのこと知らなかったんですか?」
「えっ……? あっ、うん、まあ……そうだね」
「知らない方が逆に驚きですよ。少しは情報収集のためにギルドの掲示板をご覧になってはどうですか? そうでなくてもファナさんは同業者ですし、噂は自然と耳に入ってくると思います」
「ま、まあそうだよね。でも僕、ああいう掲示板っていうか、細かい文字を読むのが苦手で……。物語だったら大歓迎なんだけど」

 苦笑しながらそう言うと、クロリアは〝典型的な男の子って感じですね〟と愉快ゆかいそうに笑った。
 再び巨大なお肉に食いつきはじめた彼女を見て、思わず〝そっちは例外的な女の子だね〟と返しそうになったけど、それは喉の奥に引っ込める。

「……噂ねぇ」

 そういえば、野生のモンスターにちょっとした異変が……なんて噂もあった気がするな。
 僕はテーブルに頬杖ほおづえを突いて先ほどまでの会話を思い出す。
 どこかの有力パーティーに入ったらしいファナ。会えるのはまだ先かな。
 まあ、有名人になってしまったのなら、街中で見かければ周囲の人の反応で自然と目につくだろう。
 僕は彼女に会える時を楽しみにしつつ、残りの野菜スープを一気に飲み干した。

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