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第6章 肝試し大会編
第百十七話 「不意な知らせ」
しおりを挟むクロリア、本当に大丈夫かな?
そんなことを考えながら僕は、テイマーズストリートの通りを歩いていた。
本人は気楽に振舞っていたけど、死霊種のモンスターに対して抱いている恐怖心は絶対のものだ。
それに表情を見た限りだけど、どうやら過去にオバケを怖がるようになった”何か”があるみたいだし。
あんまり無理はさせたくないなぁ。
そう思いにふけながらも目的は忘れない。
「料理用のコレットって、お菓子屋さんでいいんだっけ?」
「キュルキュルゥ?」
何となしに頭上のライムに聞いてはみたが、当然知っているはずもない。
首を傾げる相棒を確認して、僕はとりあえずお菓子屋さんに行くことに決めた。
こんなに早く戻ってくる予定ではなかったので、できればペルシャさんのお手伝いくらいはしたい。
そう考えてのおつかいだったが、この街に来てそう長くない僕にとっては少々難しい問題だった。
やがてお菓子屋さんの前にたどり着くと、店頭に並ぶショーケースに目を通していく。
色とりどりのお菓子と甘い香りに目と鼻を誘惑されながらも、僕は目的の品を探した。
コレット……コレット……コレット……
「あぁ~、もう! なんなのよあの人!」
「……?」
後方から突然上がった怒声に、思わず僕とライムは首を傾げながら一瞥する。
そこには落ち着いた雰囲気のカフェがあり、そのテラス席に二人の女性が座っていた。
茶色のロングヘアの美人さんと、白髪ショートの活発そうな女の子。
声を上げたのは後者かな?
二人とも自身の従魔(小熊とウサギ)を膝上に乗せて、丸い卓を挟んでいる。
「怒る気持ちもわかるけど、今さら何を言っても遅いじゃない」
「そんなの知ってるけどさぁ、思い出すだけでもムカムカしてくるんだよ! ホーンテッドホームの肝試し大会、せっかく楽しんでたのに」
何やら彼女たちは、僕たちと同じように肝試し大会に参加していたみたいだ。
それを誰かに邪魔されたりでもしたのかな?
なんて考えながらお菓子屋さんのショーケースに視線を戻し、変わらずコレットを探す。
しかしこの通りは、魔車が一台通れるほどの間隔しかなく、加えて人気もあまりないので話し声は自然と聞こえてきてしまった。
やがて白髪の少女が憎たらしげに吐いた人物名を聞いて、僕は目を丸くする。
「正当なる覇王のオーラン・ガルドぉ……」
「――ッ!?」
フェアリー……ロード。
ふと苦い記憶が脳裏をよぎった。
茶色の髪を鬣のように逆立てた目つきの悪い青年。
そして黒一色の衣装に身を包んだリーダーの男。
英雄と呼ばれていながらも従魔を不当に扱った彼らを、僕は見過ごすことができなかった。
それで、その時に止めに入ってくれたのが、幼馴染のファナだ。
僕は忘れていない。この街に来た初めに、あれほど衝撃的な出来事があったのだから。
そしてオーランというのはおそらく、茶髪の青年のことだ。
「あいつ、私たちが頑張って集めたアイテムを根こそぎ奪っていったんだよ。そりゃ、アイテムを持ち帰ってくるだけのルールだから何も問題はないんだろうけど、そういうことをしないのが暗黙の了解じゃないの? 何より他の人から奪うことを大前提に考えてるのが一番ムカつく!」
「確かに私もそう思うわよ。たぶんあの人、自力で獲得したアイテムはゼロなんじゃないの? 他の人も、金級の冒険者に勝負を挑まれたら降参するしかないものね。でもそれは、私たちの方が弱いからっていう理由で全部片付けられてしまうのよ」
「そ、それは、そうかもしれないけど…………ていうか今さらだけど、なんで金級の冒険者があの大会に参加してるのよ!」
カフェのテラス席で愚痴を零し合う二人。
その話を傍らで耳に入れている僕は、あの青年の相変わらずの横暴さに眉を寄せながらも、不本意ながら少しだけ感心もしていた。
なるほど。そういうやり方もあるのか。
大会のルールでは、とにかくアイテムを持ち帰ってくるだけ。
手段までは限定されていない。
ゆえに他者からアイテムを奪う行為も黙認されているということだ。
それなら確かに、いちいちエリアを駆け回らずともアイテムの獲得ができる。
もしかしたら幽霊嫌いなクロリアでも、アイテムの調達が可能かもしれないのだ。
…………って、クロリアがそんな横暴を許すはずもないけれど。
たとえ自力でのアイテム採取が困難であろうと、彼女は他の人を苦しめるような手段に及ぶはずもない。
しかしそれを実行している者がいるのだという。
オーラン・ガルド。
あの獣のような男には、極力注意しておこう。
明日もまた肝試し大会に参加するだろうし、なるべく会わないようにしないと。
密かにそう誓っていると、再び女性二人の声が聞こえてきた。
「にしても、最近のフェアリーロードってなんかおかしくない?」
「んっ、まあ、確かにね」
視線は変わらずお菓子屋さんのショーケースに向いているが、やはりすぐ後ろの話し声は自然と耳に入ってしまう。
「テイマーズストリートに帰ってきたかと思ったら、すぐにどっか行っちゃうし」
「かと思えばオーランだけ肝試し大会に参加してるし」
「噂だと変な組織と戦ってる最中らしいし」
別に盗み聞きをしようという気はまったくないのだ。
けれど、フェアリーロードの奴らが早くもこの街から立ち去ったという情報には、反射的に耳が傾いてしまう。
遠征から帰ってきたばかりだと聞いていたけど。
金級の冒険者は僕が想像もできないほど忙しいのかもしれない、なんて考えながら、ようやくお目当てのコレットを見つける。
そろそろ立ち聞きも心苦しくなってきたところなので、僕は女性たちに背を向けたままお菓子屋さんの店内に引っ込もうとした。
しかし……
「それにさぁ……」
ウサギ型モンスターを膝上に乗せた女の子が、何気ない様子で続きの言葉を口にした。
それを聞き、思わず僕は足を止めてしまった。
「最近入ったドラゴンテイマーのファナ・リズベルも、突然パーティー抜けちゃうし」
「…………えっ?」
間の抜けた声が口許から零れた。
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