冒険者試験に落ちた少年、思い切って闇ギルドの門を叩いてみる

空 水城

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第一話 「冒険者試験に落ちた少年」

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「不合格!」
 
「えっ?」

 女性からの強い声。
 唐突に告げられた無慈悲な言葉に、僕はしばし呆然としてしまう。
 頭の中が真っ白になっていると、眼前の女性はさらに語気を強めて続けた。

「君は不合格よアサト君! 今すぐに荷物をまとめてギルドから立ち去りなさい!」

「な、なんで、僕が不合格……」

 今一度叩きつけられた言葉に、僕は震える声を漏らしてしまう。
 どうして僕が不合格なんだ? まだ一次審査の”書類選考”の段階なのに。
 話によると、この段階で落とされる人はほとんどいないらしく、僕も当然のように次の試験に進むつもりでいた。
 それなのにどういうわけか、僕はこの『冒険者試験』で不合格を突き付けられている。
 すると受付窓口の前で不合格を言い渡してきた受付嬢さんが、腕を組んで冷たい目を向けてきた。

「どうやら自分が不合格になった理由がわからないようね」

「そ、それはそうですよ。だってまだギルドに来たばかりで、たった一枚の書類しか提出してないんですから。あっ、もしかして字が汚いからダメとか?」

「いや違うよアサト君。それは全然関係ない」

 彼女は呆れたようにかぶりを振り、それに合わせてセミロングの白髪がふわりと揺れる。
 そしてクールな碧眼を細めると、不合格の理由をわからせるように、槍のような視線を送ってきた。

「なら今一度、君に問います」

「……?」

「君の天職は何?」

「えっ? 天職……ですか?」

 なんてことはない質問だと思い、僕はけろりと答える。

「『暗殺者』ですけど?」

「それだよそれ!」

「……えっ?」

「いや、しれっと答えてくれたところ悪いけど、君が不合格になったのはその『暗殺者』の天職が最大の原因だよ!」

「えぇ!?」

 予想外のところに不合格の原因があり、思わず驚愕の声を上げてしまう。
 僕の『暗殺者』の天職がダメだったのか。
 ていうか、『暗殺者』の天職の何がダメなのだろう?
 という疑問に答えてくれるように、受付嬢さんはさらに説明を重ねた。

「人は生まれながらにして、女神アルテーナから『天職』を授けてもらえる。それによってスキルや魔法が使えるようになって、日々の生活や魔物討伐などに役立っているとされているんだけど、ここまではいいかな?」

「は、はい。それくらいは知っていますけど」

「じゃあ、女神アルテーナは数多くの天職の中から、その人間に”見合った”天職を選び授けてくださるので、天職はその人間の才能として捉えられることが多い。というのもわかってる?」

「は、はぁ。なんとなく」

「で、君の天職は何?」

「えっ? いやだから、さっきから言ってるように『暗殺者』ですってば」

「『ですってば』、じゃないわよ! それがわかっててなんで君は冒険者試験なんか受けに来たの!? 暗殺者が冒険者になんかなれるわけがないじゃない!」

「……」

 そ、そんな……
 驚愕の事実に、つい僕は膝をついてしまいそうになる。
 しかしなんとか堪えて、頭の中の整理を始めた。
 彼女の言うとおり、『天職』とは女神アルテーナ様が授けてくださる力のことだ。
 それによって特別な力――主にスキルや魔法が使えるようになり、日々の生活や魔物討伐に大いに役立っているとされている。
 それはもちろん、僕だってよく知っている。
 そしてその天職が、その人間に見合った才能として捉えられていることも。
 
 でもまさか、たったそれだけの理由で冒険者試験を落とされるだなんて予想だにしていなかった。
 一次審査の書類に『暗殺者』と書いただけで不合格。
 まだ実戦での”力”をこれっぽっちも見せていないというのに無慈悲だ。
 ちょっとくらいチャンスをくれてもいいじゃないか。
 涙目になって項垂れていると、そんな僕を見た受付嬢さんが、呆れた声を掛けてきた。
 
「天職が暗殺者で、冒険者試験を突破できると思ってたの? 冒険者ギルドに限らず、危ない天職の人を雇ってくれるところなんてあるわけないじゃない。普通そういう人たちは天職を隠して生きていくものなのよ」

「……」

「大体そんなの、普段の周りからの視線や態度で普通は気が付くものじゃないの? 誰も君のことを止めようとはしなかったのかしら?」

「う、うぅ……。だ、だって……」
 
 僕、友達なんていないし。
 そんなこと教えてくれる人なんて誰もいなかったんだよ。
 暗殺者の天職のせいなのか、昔から影が薄くて周りと馴染めなかったし。
 それに辺境の田舎村に住んでいて、常識とかよくわかってなかったから。
 暗殺者ってそんなに嫌われている天職だったのか。

 ていうか今さらだけど、なんで僕はそんな天職を授かってしまったのだろう?
 その人に見合った才能って、別に僕、誰かを殺したいとか思ったことないし、殺したいと思えるほど人と深く関わったこともないし。
 あぁ女神アルテーナ様、なんで僕に暗殺者の天職を授けてくださったのですか?
 聞こえるはずもない問いかけを天に向かって放ち、僕はいまだに納得できない思いを滲ませた。

「ぼ、ぼく、まだ何も悪いことしてないのに、なんで暗殺者ってだけで不合格に……」

 気落ちした声を漏らすと、それに対して受付さんが、遠慮する素振りもなく言った。

「いやだって、天職はその人の才能そのものだから、君はいつか絶対に人をころ……」

「いや殺さないですよ!」

 人聞きの悪いことを言われて鋭いツッコミをかます。
 殺すわけないじゃないですか!? 虫一匹殺すのだって抵抗あるのに!
 それなのにもうすでに人殺し扱いですか!? と咎める視線を受付さんに送ると、彼女はそれでも考えを改めないという姿勢でズバッと告げてきた。
 
「とにかく! 『暗殺者』なんて天職を持っている人間を、冒険者にするわけにはいかないわ! 一応、そういった危なそうな人物を発見したら監視するのが決まりになっているけど、今回だけは特別に見逃してあげる。だから今すぐにギルドから立ち去りなさい!」

「ぐ、ぬぬっ……」

 そう言われてしまえば、僕に言い返せることは何もなかった。
 気が付けば、すでに他の試験参加者たちは一次審査を難なく通過し、次の試験のために外に向かい始めている。
 受付前で長々と話しているのは僕と彼女だけだ。
 皆、試験に集中しているせいか、僕たちの言い争いにはまるで気付いていない。
 もちろん、助け舟を出してくれる人も誰一人としていなかった。
 僕は冒険者ギルドからも拒絶され、世界からも見放される存在なのだ。
 
 冒険者試験に落ちて改めてそれがわかった僕は、涙を滲ませながらその場から走り出した。
 他の参加者たちの間を抜けて、ギルドを飛び出す。
 そして本試験に向かう彼らとは反対の方へ逃げ去ると、心からの叫びを町に轟かせた。
 
「こんちくしょうめ!!!」

 こうして僕は冒険者試験に落ちました。
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