英雄の弾丸

葉泉 大和

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「ハァァアッ!」

 リッカ・ヴェントとベルディ・パイロンの戦いは、まずリッカが先手として鞭を振り下ろすことから始まった。

 ベルディは躱す素振りも見せず、懐から木片を取り出すと、リッカの鞭の軌道に沿う形に弾き飛ばした。
 先ほどベルディが披露した魔技は、木を圧縮させ、爆発させるというものだった。察するに、ベルディの魔技は、無機物か、はたまた木のみに、爆発する力を与える能力だろう。リッカに向けて飛ばしたこの木片も、魔技によって爆発すると見て十中八九間違いない。

 しかし――、

「そんなもので今の私は止められないわ!」

 魔技の影響で爆弾と化した木片を気にも留めず、リッカは鞭を振り下ろす手を止めなかった。パルマから譲り受けた鞭ならば、悪魔の能力を退ける力を有している。

 鞭によって地面に叩きつけられた木片は、その場で爆発し、土煙を昇らせた。

「まだまだよ!」

 そして、地の反動を利用して、ベルディの足元から鞭による攻撃を仕掛ける。しかも、土煙が立ち込めていることで、リッカの鞭は見えにくくなっていた。

 リッカの鞭がベルディの体を打ち付ける感覚が、手元に伝わって来た。そのまま鞭を引き、自身の手元へと戻す。

「――やった」

 確かな手応えを感じ、リッカは思わず声を漏らす。

 悪魔人に対抗出来る力を有した鞭ならば、ベルディに対してもダメージを与えているはずだ。

 しかし、土煙が治まり始め、ベルディの姿が見え始めると、

「どんなもんかと思えば、なるほど……。お前の攻撃は俺様には軽過ぎる! そんなんじゃ俺様を楽しませることは出来ないぞ!」

 平然と立つベルディが、そこにはいた。

 確かに鞭で攻撃を浴びせたというのに、ベルディには通じていないことに、リッカは束の間動揺した。

 ただし、ベルディの口調に反して、ベルディは鞭を受けた場所を無意識に手で押さえていた。パルマから譲り受けた鞭は、まるきり通じていない訳ではないようだ。

 パルマもこの鞭を譲る時に言っていた。この鞭はあくまでも悪魔人と対等に渡り合えるようにするだけだ、と。

 だから、たった一振りで終わらせようとするのは、ただのリッカの高望みだ。動揺すること自体が間違っている。

 リッカは改めて鞭を握り直してから、微笑を浮かべると、

「私も一発で終わると思っていないから、安心していいわよ。それに今ので鞭の感覚も掴めて来たから」

 虚勢を――否、本心を言い切った。

 悪魔の手からベルディを解放するために、リッカは何度でも鞭を振るう。

「はッ、なら俺様も本気を出させてもらうぞ! 魔技・シューティングバーハ!」

 ベルディはズボンの中から木片を取り出し、リッカに向けて指で弾き飛ばした。リッカの初手を封じようとした魔技も、このシューティングバーハと名付けられたものだろう。
 けれど、今のリッカには恐れるに足りない。

「私には通じないわ!」

 リッカは鞭を巧みに操り、爆弾と化している木片を打ち上げた。シューティングバーハは上空で爆ぜる。

「俺様の魔技は、一発じゃ終わらねェぞ!」

 怒号と共に、何発ものシューティングバーハがベルディの指から弾かれ、リッカに対して襲い掛かる。

 その全てを、リッカは鞭を振り抜いて防ぐ。シューティングバーハは、リッカに届くこともなく全て鞭によって弾かれて、四方八方何もない空中で爆発した。

「――」

 ベルディから放たれる魔技を見つめながら、リッカは戦況を冷静に分析していた。

 まず気が付くことは一つ。
 ベルディのシューティングバーハは連続で放たれているものの、その全てが一直線しか描かれていないということだ。平たく言えば、ベルディの攻撃は単調だった。

 攻撃が一辺倒になることは、ある意味当然のことだ。魔技・シューティングバーハは、ベルディの指から弾かれて繰り出されているのだから、よほどベルディが複雑な指の動きをしない限り真っ直ぐにしか軌道を描けないのだ。

 しかし、攻撃が単調になるのはそれだけが原因ではない、とリッカは推測していた。

 ノスチェスによってベルディが悪魔の力に覚醒したのは、たったの三日前だ。悪魔の力を使えるとはいえ、まだ完全に魔技を自分のものにしている訳ではないことは明白だった。もしも、魔技の力が更に目覚めれば、ベルディは複雑な攻撃を仕掛けて来るはずだ。

 ならば、勝負は短期戦。
 ベルディが魔技を使いこなす前に――、止める。

「くらえ! 魔技・シューティングバーハ!」

 リッカはシューティングバーハを弾くでもなく、身を屈ませながらベルディに突き進むことで躱していく。リッカの背後で、爆弾と化した木片が音を上げて爆発する。
 そして、魔技を放ったことで無防備になったベルディを前にして、リッカは足を止めると同時に思い切り鞭を振るった。

「たぁッ!」

 リッカの狙いは、ベルディの足元だった。

 隙を見せていたベルディの足元へと狙い通りに鞭を絡ませると、足を地から離し、ベルディの重心を崩した。このままベルディは背中から倒れる。そうすれば、ベルディにも痛手を負わせることが出来るだろう。

 そうリッカが僅かばかり油断した時だった。

「ハッ、甘ェ!」

 吐き捨てるような笑い声が、ベルディの口から漏れ出た。

「足元がお留守だぜ! 魔技・エイムバーハ!」

 突如、リッカの足元にあった木片が熱を帯び、収縮を始めた。リッカはこの場にとどまることが危険だと察し、ベルディの足から鞭を解くと、後ろに跳んで回避を図った。

「――ぅッ」

 直撃は避けることが出来たものの、爆風に巻き込まれ、体の所どころに痛みが走るようになる。先ほどいた場所では、爆発の影響で火柱が立ち上がっている。

「……まさか」

 しかし落ち着いて考えれば、最初にベルディが己の力を見せつけた時、遠く離れた大木を爆発させていた。その後、細かい木片を投げつけていたから、狙いすました物も爆発出来ることが頭の片隅へと消えていた。

 あの時初めに使った魔技が、ベルディがエイムバーハと名付けたものだったのだ。

「……くッ」

 リッカの失念だった。単調な魔技のみを繰り返すことで、ベルディは油断させていたのだ。ベルディの策を真に受けて、ベルディの魔技が一つだけだと勝手に判断したリッカ自身の過ちだ。

 痛手を負ってしまったが、ここで負ける訳にはいかない。リッカはそう思い、顔を上げるも、視線の先にベルディはいなかった。火柱も爆煙もない状況で、見落とすはずがない。

 リッカが爆発を避ける際に、鞭から解放されたベルディは、その隙を見逃さなかった。

「どこに……っ!?」
「リッカちゃん! 彼は森の中だよ!」

 ベルディを見失ったリッカに、居場所を伝えてくれたのはパルマだった。

 パルマの声に一瞬だけ視線を向けると、口元に両手を添えているパルマと、警戒するように横目を向けるシンク、そしてシンクの訝しむ視線の先には、悠然とリッカとベルディの戦いを見物しているノスチェスがいた。恐らく、戦いの邪魔にならない場所へと逃げたのだろう。

 ノスチェスのことは一旦考えから離し、リッカは森に目を向け直すも、どの方角にベルディが潜んでいるかは分からなかった。パルマの研究所が建っている方角だけは唯一除外できるものの、ここは森に囲まれた場所だった。

 リッカは視線を忙しなく動かし、森の中に潜むベルディの気配を探る。

「きゃぁッ!」

 しかし、答えはすぐに向こうからやって来た。

 右脇腹に対して一直線の爆撃が、リッカを襲う。リッカは左に体が持っていかれそうになるところを、なんとか踏ん張って、地に倒れ込むことはしなかった。

 リッカは攻撃があった方角へとすぐさま振り向いた。当然のことながら、リッカの視界に映るのは森だけで、ベルディの姿を捉えることは出来なかった。

 ざざざと木の葉が風に揺れ動く音が、滞ることなく聞こえる。その全てが、ベルディが森の中を駆け回っている証拠だ。
 これでは、場所を特定することは更に難しい。

 しかも、懸念すべき点はそれだけではない。

「――っ!」

 森のざわめきが止まった瞬間を耳にし、リッカは音が消えた方角へ視線を向ける。予想通り、視線を向けた方角から魔技・シューティングバーハが襲って来た。

 リッカは鞭で木片を弾き、そのままベルディに反撃をしようとするも、鞭の長さは無情にも届かない。

 それが、もう一つの懸念点だった。
 仮にベルディがいる位置を特定出来たとしても、リッカの鞭ではベルディに届かないのだ。森までの距離は遠いため、駆けて距離を詰める内に、ベルディにまたしても逃げられるだけだ。リッカが一点に気を取られている間に、別角度から魔技を放たれたら、躱しようもない。

 戦場のど真ん中で、リッカは鞭を握り締めた。

「ハハハッ!」

 立ち尽くすリッカを嘲笑うように、森の中からベルディの笑い声が響いた。笑い声を上げている間も移動の足を止めていないのか、四方八方からベルディの声が響き渡る。

「お前に太刀打ち出来る余地はねェ! この場所は、俺様の独壇場だァ!」

 ベルディの雄叫びと共に、魔技・シューティングバーハが不特定多数の角度からリッカを襲う。

 悔しいことながら、ベルディの言葉通り、リッカは反抗することが出来なかった。
 一度でも魔技を受けてしまえば、リッカの行動は僅かながら鈍くなってしまう。その隙をベルディに突かれれば、魔技を喰らい続けることは明白だった。

 その未来を現実にしないために、リッカは必死に魔技を躱していく。

 シューティングバーハの軌道を見極め、爆発に巻き込まれないように距離を取り、別角度から迫る魔技に意識を向ける。

 延々と同じ行程を繰り返すことしか出来なかった。

「……はっ、はぁ」

 しかし、当然ながら、リッカの体力も気力も無限ではない。

 ずっと魔技を躱し続ける内に、リッカの体力は奪われていく。先ほどまで悠々と躱していた魔技も、息を荒げながら服を掠めるか否かギリギリのところで躱していく始末だ。何とか魔技の爆発を受けずに済んでいるのも、リッカの気力が残っているからであって、これから時間が経過していくと避けることは難しくなる。

「さァ、そろそろ興醒めする踊りに終止符を打つ時間だぜェ!」

 リッカが疲労しているところを見逃すはずがないベルディが、更に魔技を放つ速度を上げて、攻撃を仕掛けて来た。

 四方八方から襲う魔技に対して、リッカの逃げ場はなかった。

 ――ここで終わるの?

 圧倒的に不利な立場に陥って、リッカは自分に問いかけた。

 場所も特定できない。躱す余裕もない。ベルディを止める術もない。

 条件だけを鑑みれば、リッカがベルディに勝つ算段は見当たらなかった。だけど、負けたくないとリッカの心が叫んでいる。

 右手がやけに熱く、痛いほどだ。
 リッカは自分の右手に目を向けた。右手にはパルマから譲り受けた鞭がある。まだ私の実力はこんなものじゃない、と鞭が声を上げているようだった。

「――そう、よ」

 刻一刻と迫り来る爆撃から目を逸らすことなく、リッカは唇を動かす。

 窮地に陥ったことで、冷静さを失って、周りに目を向けることを忘れてしまって。考えることを止めて、ただ目の前のことを片付けようと受け身の戦いをしていたら、今までと何も変わらない。

 何のためにパルマから鞭をもらったのか。
 悪魔人と対等に戦うためだ。
 そして、クルムと対等に並ぶと決めたのだ。
 怖じ気づくことはない。逃げる必要なんてどこにもない。

 ここから一歩も動かずとも、対処出来る。否、対処出来なければ、ここから先リッカは悪魔人と戦うことなんて、夢のまた夢だ。

「――こんなところで」

 四方八方から襲う魔技を直前にして、リッカは右手に力を籠めると――、

「負けられないっ!」

 舞を演じるようにリッカは鞭を振るい、迫る木片を全て弾き返した。リッカの周りで、綺麗な爆煙が巻き起こる。

 全方位から無作為に爆撃が襲い掛かるなら、回転するように鞭を振るえばいい。

 窮地に陥っていたはずの状況を、見事傷なく乗り越えたリッカは、息を荒げながら空をいだ。そこで大きく息を吸うと、

「何度攻撃を仕掛けようと、私は何度でも防ぐ! もうあなたの攻撃は通じないわ! 大人しく姿を見せなさい!」

 森の中全体に響くように、大声を張り上げてそう言い切った。

 瞬間、辺り一帯が静寂に包まれた。リッカは森の中に潜むベルディの一挙手一投足を逃さないように、全神経を森に注ぐ。

 もう油断も慢心もするつもりはなかった。

「――ハハハハハッ!」

 高笑いと共に、一方向から木々が揺れる音を、リッカは耳にした。もう惑わすように森を駆け回る音は聞こえない。

 リッカは睨み付けるように、音の方角に目を向けた。その先に、倒すべき相手がいると確信して。

「俺様の魔技を全部防ぐとはなァ! 思ったよりもやるじゃねェか!」

 そこには我が物顔で森から姿を見せるベルディがいた。ベルディが放った魔技を全て防いだというのに、切羽詰まった様子は一切ない。むしろ、ベルディの表情には余裕すら感じられた。

「だがよォ、隠れたままお前をぶっ飛ばすだなんてつまらねェ真似、こちとら最初から考えてねェんだ!」

 叫ぶベルディの手には、溢れんばかりの木片が握られていた。

 森の中に身を潜めた理由は、死角からの攻撃を狙っただけではなかった。こうして、弾数を増やすことが、真の狙いだったのだ。

 普通の飛び道具は一般的に弾を補充しなければならず、また弾切れを起こして、戦う術を失うことがある。しかし、木片を利用して攻撃を仕掛けるベルディには、それがない。周りに自然があれば、いくらでも弾を補充し、攻撃をすることが可能だ。

 ベルディは狂笑を浮かべながら、掴んでいる木片を見つめる。

「俺様はなァ、建物を爆破して悦に浸ったことはあるが、人間を爆破させるのはまだないんだ」

 ベルディがハルバックで建物を爆発させた時は、少なからず理由があった。ベルディの態度に問題があったのだが、仕事を失った腹いせに、自身の職場を壊したのだ。

 しかし、今のベルディにはもう理由も何もなかった。物であれ人であれ、ただ壊すことに喜悦を感じてしまっている。
 欲望を満たす、その一点だけを盲目的に考えて行動しているのだ。

「お前はどんな風に壊れていくのかなァ」

 生気の伴っていない目をリッカに向けると、手元で握っていた木片を、いくつか落とした。いくつあるのか、一目見ただけでは確認出来なかったが、あの全てが爆弾と化すことを考えると、リッカの背筋に怖気が走った。

 だが、怯んだのも一瞬だけで、リッカはすぐさま鞭を握り直して、警戒心を最大限に相対する。

 ベルディが姿を見せた今、ここが正念場だとリッカは感じていた。

「さァ、苦痛に歪む表情を俺様に見せてみろ! 魔技・シューティングバーハ!」

 ベルディは大きく振りかぶると、手の中に収まっている木片を、思い切りリッカに向けて投げつけた。

 目では数えきれないくらいの量の木片が、正面から一気にリッカに襲い掛かる。

「ハハハハハ――ッ! まだまだ弾は残されてるぞォ!」

 笑い声を一切抑えることなく、ベルディは地面に落とした木片を掴むと、更に追撃を加えた。その動作を、何度も繰り返す。

 どうやら時間差で攻撃を仕掛けることで、ベルディは戦いに終止符を打つようだ。

 雨のように逃げ場なく襲い掛かる魔技に、リッカは正面から相対する。

 そして、一度息を深く吸い込み、ゆっくりと吐くと、

「――っ」

 リッカは力強く鞭を振るった。

 迫る魔技を、リッカは的確に左右へと横薙ぎに弾いていく。リッカの鞭によって弾かれた木片は、リッカの横で音を上げて爆発する。

 何度も何度も、リッカは手首を返し、鞭で防御した。腕が鉛のように重くなって来るが、この手を止めた先の未来を目に見えて分かるから、止めることは出来ない。

 第一陣を全て防いでも、また第二、第三と、魔技・シューティングバーハが容赦なく襲い掛かって来る。

「これで――ッ、終わりだァ!」

 いまだ止まることなく怒涛のように魔技が押し寄せているにも関わらず、大きく左右の手を振り下ろし、木片を放り投げて来た。ベルディの表情は、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
 鞭で魔技を防ぎながら、リッカはベルディの挙動を見逃さなかった。

「……勝手に、終わりだなんて決めつけないで欲しいわ」

 リッカは木片を全て弾きながら、反撃の機をうかがっていた。

 ベルディ・パイロンは、二つの魔技を有している。一つは弾丸のように木片を飛ばし爆発させるシューティングバーハ。そして、もう一つは、遠距離からでも狙った木片を爆発させるエイムバーハだ。
 そして、森の中から姿を見せてから、ベルディはシューティングバーハしか使っていなかった。

 リッカは鞭を振る手を止めず、足元に意識を向けた。そこには、先ほど回転して魔技を弾いた時に、爆発しなかった木片があった。窮地に立たされながらも――否、窮地に陥っていたからこそ、リッカはベルディの攻撃一つ一つを見逃さなかった。

 ここから導き出される答えは、一つ。

「ハッ、口では強がっても、攻撃を弾いてるだけじゃ俺様には勝てねェんだよ! さっきの二の舞だァ!」

 ――来た。

 ベルディが叫ぶと同時、リッカは鞭の返し手を止め、足元の木片を掴んだ。鞭で巻き付いた木片は、熱を伴い収縮していた。ベルディが、この木片に魔技を仕掛けた証拠だった。

 リッカの予想していた通りの展開だった。
 もっとも嫌なタイミングで魔技・エイムバーハを使うことは、ベルディの性格から読み取っていた。

 予めエイムバーハが来ることを予想していたリッカの初動に迷いはない。

「――ッ! ハッ、馬鹿が! 俺様のシューティングバーハとエイムバーハを同時に喰らうがいい!」

 一瞬、息を呑んだベルディだったが、すぐに悠然とした態度に戻る。

 上方のシューティングバーハ、下方のエイムバーハ。確かに、一見すると、逃げ場はないように思える。
 どちらかに対処している内に、残されたもう一方の魔技による攻撃を受け、リッカは傷を負う。

 しかし、リッカは今もなお、収縮する木片を掴みながら、

「そうならないことは、あなたが一番知っているんじゃない?」

 確信するように告げたリッカの声に、今度は隠すことなくベルディが狼狽した。

 もしもベルディの宣言通り、同時に魔技を発動出来るなら、機会を待つことなく、最初から二つ同時に魔技を使って攻撃していたはずだ。

 そのように攻めることがなかったのは、つい先日悪魔の力に目覚めたベルディに、そこまでの力量がなかったからだ。

 ベルディによって投げられた木片がリッカの体にぶつかるが、かすり傷が付くだけだ。魔技・シューティングバーハが発動することはない。リッカの予想は、まさに正しかった。

 リッカは迷うことなく、エイムバーハの対処だけに意識を集中できる。

「どうやら図星のようね。それに、この魔技も爆発するまでに、僅かな時間が生じている。その隙に――」

 リッカは自身の体ごと回転させることで、遠心力を加えて、時限爆弾と化している木片をベルディに向かって放り投げた。

 魔技・エイムバーハは、目にも止まらぬ速さで、真っ直ぐ飛んでいく。その行く先は、もちろん。

「あなたに返してあげる!」
「ぐぁぁぁ――ッ!」

 躱す猶予すら与えられることなく、魔技・エイムバーハは持ち主の胸元で爆ぜ散った。
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