行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第37話 油断

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いつもの森の広場へと続く獣道を進み、3分の2程を進んだ頃、突然、先頭を歩くコータの焦った声が届いた。

「オークだ! 2体いるっす!」

「なっ! オーク!?」「ええっ!」

「近いよ! 向かって来てる!」

続いてミーコが叫ぶ。
一瞬、頭の中が真っ白になった。これまで広場に向かう道中で出くわしたことはなかったため、俺は完全に油断していた。チラとケインさんを見ると、慌てる俺たちを見て眉間に深い皺を寄せ、大きな溜め息を吐くのが目に入った。
あー、クソッ! さっきケインさんから忠告されていたのに! その上でまだ俺たちがあまりに気を抜いていたから、ケインさんは接近に気付いていたはずなのに何も言わなかったんだろう。

「すぐ行く! 持ちこたえてくれ!」

俺とコータの距離は7~8m。とにかく盾役の俺が最前線に出なければ、と急いで向かうが、足場の悪い森の獣道では思うように進めない。対してオークは、コータが気付いた時点ですでに5m程の距離にいたらしい。
木々がさえぎってくれたおかげで、一番警戒の必要な突進を受けることはなかったが、先頭のコータは初撃で腕にダメージを負ってしまった。狭い獣道での戦闘のため、うまく剣を使えなかったようだ。

その後、追いついた俺が前衛を交代し、盾で防ぎつつ他のメンバーが攻撃を仕掛けるいつものスタイルになって、なんとか倒すことができた。狭さのせいで動きづらさはあったものの、それはオークも同じことで、2体同時に相手をしなくて済んだのも幸いだった。

「コータ、大丈夫か!?」「コータくん!!」

「ううぅ…、骨折みたいっす、ね。すいません、油断してたっす」

「すぐに治療します!『キュアー!』……どうですか?」

サーヤが技名を唱えると、数秒してからコータの腕が白い光に包まれ、赤く腫れていた皮膚の赤みが引いていった。しかし、依然としてコータの顔は痛みに引きつっている。

「うぅ、すいません。もう1回頼むっす」

「はい! 骨折……。えーっと、骨をつなぐイメージ……。繋ぐ? ううん、元に戻す? 修復?」

しばらく考えたあと、サーヤは目を閉じて集中し始めた。これまで皆それぞれ小さな傷や多少の打撲はあったものの、いずれも初歩の『キュアー』で治っていた。しかし、骨折を治すには『キュアー』では不十分らしい。

「ミーコ、回復はサーヤに任すしかない。俺たちは周辺警戒だ」「うん!」

「いきます! 『リペアー!』」

初めて聞く魔法だ。今度は唱えてからたっぷり20秒近くかかったが、再びコータの腕が光に包まれ、おかしな方向に曲がっていた腕も正常に戻って腫れも引いていった。

「「おおお!」」「すげーっす! ちゃんと骨くっついてるっす! サーヤちゃんありがとう!」

コータが腕を振ったり、手の平を握ったり開いたりしながら言う。

「上手くいって良かったです! ホントは『ヒール』もかけておいた方がいいと思うんですが、もうMPに余裕がなくて……」

「いやいや、充分っすよ! ほんとありがとう! 助かったっすよ!」

「コータ、間に合わなくてすまん。俺も油断してた。サーヤもよくやってくれたな。ありがとう!」

「いえ、私も、ケインさんに言われてたのに警戒してなくて、焦って何も指示も出せなくて……ごめんなさい」

「あたしも! ごめんなさい! なんでだろう、広場までは安全みたいに思っちゃって。そんなのわかんないのに」

「そうっすよね。それに、ケインさんがいるから大丈夫、みたいに心のどこかで思ってたのかも」

「そうだな。俺もなんとなくそう思ってた。……ケインさんがいてくれるのは修行の間だけだし、旅の道中なら突然出会うのが普通だろうに、そういう状況であんな焦ってグダグダになってたら、旅になんか出られない」

皆それぞれに深く反省しているようで、俯いて神妙な顔になっている。

「まったくだ。旅に出るつもりなら、そのつもりで修行しろ。単にレベル上げるだけが目的じゃねぇだろう」

「「「はい!」」」「うっす!」

「コータ! 狭い場所では狭い場所なりの戦い方がある。防御ももっと精進しょうじんしろ」

「うっ、うっす!」

コータは苦手な防御を指摘されて苦い顔をする。前に「攻撃は最大の防御」とか言っていたが、今回は防御や回避の大事さが身に沁みたようだ。

「ミーコ、情報はもう少し詳しく伝えろ。さっきのなら、方向や距離も伝えられたろう。正確な状況把握ができねぇと、的確な対策ができんぞ」

「は、はいっ!」

これもミーコの苦手分野だな。咄嗟とっさにそういったことを考えるのは苦手なヤツだし、昔から、焦ってると左右を間違えることもちょくちょくあるからな。

「ユースケ、お前は盾役だろう。皆から離れすぎててどうやってその役割を果たすんだ。ずっと気を張ってる必要はねぇが、気を抜きすぎるな」

「はい。すみません」

「サヤカ、ちゃんと状況を見て指示を出せ。あの場合は前の2人を下げて先に合流させるべきだった」 
「はい。焦って何もできませんでした」

落ち着いた今なら、そうすべきだったとサーヤもわかっていたんだろう。頷きながら答えた。

「あれくらい問題なく倒せる力はある。心構えが出来てりゃ、それほど焦ることはないはずだ。
それから、骨折の治療は上出来だ」

「はいっ!」

悔しそうに拳を握り、暗く俯いていた顔が、途端にパァっと明るくなった。うん、サーヤの魔法は本当に凄かった。『キュアー』ではだめだと判断して咄嗟とっさに新しい魔法を施すなんて、なかなかできることではない。『魔法はイメージ』とは聞いていたけど、本当なんだと実感した。

「それからな、お前らは討伐依頼受けた冒険者じゃねぇんだ。戦闘は回避したっていいし、退却したっていい。一度下がって態勢整えるのもいい。いや、冒険者だって同じだ。身の安全を第一に考えろ」

ケインさんは最後に一際厳しい顔でそう告げた。俺たちに向かって言っているのに、後半はその向こうにある何かに対して言っているように感じた。

「「「はい!」」」「うっす!」

その後、コータの腕も問題ないようだったため、予定通りにいつもの広場で修行した。
休憩の間にも、コータはケインさんに指摘された事について質問したり、ミーコやサーヤもこういう場合はどうしたらいいか、と相談したり、俺もケインさんに道中で出くわしそうなモンスターについて質問したりと、皆いつも以上に積極的になって、貪欲に知識を吸収して時間を過ごした。

この日は最初のオーク2体の他に、ゴブリン6体とオーク4体を特に問題なく倒した。昼ご飯にはケインさんの提案で、さばいたばかりのオーク肉を焼いて食べた。ケインさんは最初からそのつもりだったようで、フライパンと塩やコショウを持って来てくれていた。味はまぁ普通なんだが、頑張って薄く切ったけどやっぱり硬かったな。

ーーーーーーーーーー

コータが骨折した日の翌日は、先延ばしにしていたブーツを買った。前にケインさんが言っていた、つま先に金属版の入ったものだ。ずっといていたスニーカーの方が慣れもあるし履き心地もいいのだが、やはり旅先で目立つのは避けたいのもあり、全員買うことにしたのだ。旅に出る直前でもよかったけれど、少しでも履き慣らしておいた方がいいということで、さっさと買うことにした。
コータが腕を骨折した後だっただけに、腕に付ける防具もあった方がいいかとも思ったが、実際に付けてみると動きを制限される感じもあり、今回は購入を見送った。

修行はより激しさを増し、最終日には戦闘中に他のモンスターが乱入してもケインさんの手助けなしで対処できるまでになった。合間に魔法の訓練もみっちり行っていった。特に、ケインさんが風魔法を扱えるため、ミーコは色々と見せてもらって『エアカッター』のほかに『ブリーズ』と『エアバッグ』を習得した。
『ブリーズ』は風を送る魔法で、ケインさんがニオイを送るのに使っていたものだ。使いどころはあまりなさそうだが、威力を上げれば突風のような感じで相手の体勢を崩すとかできるだろうか? 飛行型のモンスターなんかには有効かもしれないな。
『エアバッグ』は空気の塊を出すもので、ケインさんは『エアボール』と呼んでいた。主に衝撃を緩和するための魔法で、試しにコータが突進するのをケインさんが『エアボール』で受け止めたのを見て、ミーコが『エアバッグ』と名付けた。ケインさんの頭にはハテナマークが飛んでいたけど、本人ミーコがその方がイメージしやすいなら、それでいいんだろう。実際できてたし。

コータも自力で『ファイヤーアロー』を習得した。少し発動には時間がかかるものの、『ファイヤーボール』よりも一点集中な分、同じ消費MPでも威力があり、スピードも早いようだ。俺が盾で止めているオークに向かって撃ってみてもらったが、足を貫通させるほどの威力が出せていた。ただ、貫通するときに傷口を焼いていくからか、出血は少なくダメージもイマイチだった。頭や臓器なんかがある胸や腹あたりを狙えば、それなりに使える攻撃になりそうだ。
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