麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴

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廊下を歩いていると生徒たちが遠巻きにこちらを見たり、挨拶してくる。

「アイツら完璧に騙されてるよな」

「仕方ないですよ。まさに姫、って美貌ですもん」

書記と弟子が話しているのは、僕を “眠り姫” と呼ぶ生徒たちのことだ。

眠くてよくふらふらしてるからか、生徒の大半は僕を病弱だと思い込んでいるらしい。
全校集会でも二回ほど倒れたことがあるしな。

校長の話が長すぎて、寝落ちした。

睡眠は人間の本質で、生物として当然の欲求だ。
なので仕方がないことな気もするが…………いつでもどこでも寝るのは貴族としてマズイらしい。

僕は貴族だ。
しかも公爵家なうえに容姿もいい。

体面とかいう面倒くさいものもあれば、なにより誘拐だの襲われたりの危険がある。

なので人前ではいつも頑張って起きているのだ。

僕、えらい。

家族や使用人たちからも身内のいない場では絶対に寝てはいけない、と厳命を受けている。
エリオットは身内枠。

そんな僕の涙ぐましい頑張りもあって、僕が常に寝たい派なことはおおやけになっていない。

半分意識が飛んでいるのは = 憂い気な表情。
ふらふらしたり寝落ちするのは = 貧血気味、病弱で儚い。

そんな感じに変換されているらしい。

「至って健康だがな」

病弱どころか風邪すらほとんどひいたことがない。
これぞ睡眠の力!!

「まぁ、お前はまだいいよな。姫なんて呼ばれててもいい方に勘違いされてるし。エリオットなんて “王子(笑)” だぞ」

書記の言葉に副会長たちもプッと吹き出した。

どうでもいいけどみんな(笑)ってどうやって発音しているんだろう?

エリオットから腹に肘内を食らわされた書記がうずくまった。
人目に触れないような一瞬の早業だった。

その表情は暴力をふるったなんて微塵も疑わせない完璧な王子さまスマイルで「大丈夫か?」なんて白々しい言葉をかけている。

この見た目は王子さまとして百点満点のエリオットが親しい者に “王子(笑)” と呼ばれる最大の原因は実は僕だ。

例の劇「sleeping beauty」で僕は姫を、エリオットは王子役をやった。

さて、ここで「sleeping beauty」の内容を知っているだろうか?

姫が魔女の呪いを受け、100年の眠りについた姫が王子のキスで目覚める。
一言で言うならそんな話だ。

呪いとはいえ、100年も眠り続けるなんてとんだお寝坊のお姫さまだ。

ところで飲まず食わずで体の方は大丈夫だったのだろうか?

……脱線した。

姫役の僕は前半部分で魔女の糸車で指を刺し、あとは王子がくるまでベッドの上だ。
瞳を閉じ、身動きもせずに寝たふり。

ここまで言えばその後の悲劇は予想できるのではないだろうか?

僕は寝てしまった。

ガチ寝した。
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