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しおりを挟む吹き荒れる風と雨の音がひっきりなしに響く。
ちらりと目をやった店の窓ガラスには打ち付けるような雨の雫が外界の世界を滲ませる。
「ものすごい雨ですねぇ」
俺の視線を追った店主が商品を包みながら声をかけてくる。
「お客様はこの先に?」
そうして告げられたこの街より北に位置する領の名には首を振った。
訪れたのはそれとは反対側からで、明日出発する先も来たのと同じ方角だ。
「それは良かった」と店主は目尻を緩ませた。
「この時期には珍しいこの大雨でしょう?街道へ続く橋が流されちゃったらしいんですよ」
「橋が……」
「天気さえ回復すれば半日もあれば復旧するでしょう。ですがお祭りの時期も近くてこの辺りを通り抜ける方も普段より多いですからね。足止めを喰らった方々も大勢いるようですよ」
商品を手にした店主と連れ立って扉へと向かう。
ドアを開けばその瞬間に雨粒が風にのって顔へと飛んできた。
傘を開き「おいで」とシエルと招く。
「お気をつけて」と見送ってくれる店主から荷物を受け取って雨の中へと足を踏みだした。
雨の通りを歩く人通りはまばらだった。
ほとんどの人は大人しく室内へと閉じこもっているのだろう。
かくいう俺も、昨日立ち寄った店での商品の受け取りがなければこうして出歩くこともなかっただろうし。
地元の店や王都なら後日に伸ばすということもかのうだが、あいにくこの街に滞在するのは明日まで。
ときおり激しく吹き荒れる風の中をシエルの肩を抱くようにして歩く。
大き目の傘とはいえ、肩口や袖がときおり濡れるのは免れない。
ましてや一つの傘ならなおさらに。
薄闇が滲んだような空は暗く、夕暮れのような景色の中をふいに鮮やかな色が過った。
傘の隙間からでも目を引いたのはそれが見慣れた色だったからかも知れない。
距離にして数メートル先。
斜め前を過るようにして軒先へと走り込んだ男。
傘すら差してない男はビショビショで、服を捲り上げては豪快に布を絞る。
綺麗に割れた腹筋が丸見えだ。
髪を伝い首筋を流れる水と相まってなかなかに色気タダ漏れだが、残念ながらきゃあと見惚れるお姉さんはここにはいない。
そして俺は綺麗なお姉さんのならともかく、野郎のセクシーシーンに興味はない。
「……カイル」
雨音に混じった声は相手へと届いたようで顔を上げたカイルの瞳が俺を捉える。
「ラファエル?」
続いて放たれた「何でここに?」という問いには同じ問いを返したい。
だってコイツら今頃レイヴァンの別荘に行ってるはずじゃ……と思いかけてふと気づいた。
そういえばレイヴァンが祭りがあるとか言ってた気が……。
その祭りってさっき店主が行ってた祭りか?ってことはこの先に向かう途中で足止め喰らって??いやいや、でも出発日を考えたらもう到着してる日付だろ……などと考え込んでいると袖を引かれ「エルくんのお友達?」とシエルに尋ねられた。
頷き、とりあえずとカイルのいる軒先へと移る。
雨、すごいしな。
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