【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴

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現在、俺はご機嫌取りに必死だった。

ついさっきまでは至ってご機嫌だった彼は、唇の両端を幾分下げて、代わりに眦と眉の角度を上昇中。つまりはムッとした不機嫌顔だ。

「ほらレイヴァン。クレープが売っているよ。食べるかい?」

「いりません」

クレープの屋台を見つけて指さすも、見向きもせずにお断りされた。
人混みの多い街中のため、繋いでいない手を腕組みしながら大股でずんずん歩くレイヴァンに途方にくれる。

切っ掛けはついさっきまでいた武器屋。

急いでいたわけでもないし、別の機会にでもよれば良かったんだ。
それを心底後悔する。

発注していた商品の入荷の連絡があり、ちょうど店の前を通ったこともあり「寄ってもいいかい?」と聞いてしまったことが間違いだった。
快く了承してくれたレイヴァンは依然と同じく興味深そうに武器を眺めていた。

……親方がを口にするまでは。

「ほらよ!そーいやあの後もあのにゃ会ったのか?武器の使い心地なんか言ってたか?」

の一言に明らかにレイヴァンの空気が変わるのがわかった。

ヤベッ!!と思いつつ、親方は話をやめてくれない。

もはや武器ではなく確実に俺らへと興味を向けている彼の視線を背中に痛いほど感じながら、冷や汗をかきつつ適当に話を切り上げた。

商品を受け取り、代金を支払い、店を出た途端に尋問が始まったのはお察しだ。

予期せず共に過ごした休日のこと、そして…………。

あの祭りの夜の出来事について__________

「まさか不埒ふらちなことはされていませんよね?」

探るような視線と押し殺した声に肩がピクリと揺れてしまったのがマズかった。

「まさかっ!それはないよ」

「いまの一瞬の動揺はなんですか?」

顎クイと唇ふにふには不埒ふらちにカウントされますか?って一瞬考えてしまったからです……とか言えねぇ。

その後に問われた「キス」は断固として否定したものの、彼のご機嫌はいまだ直らず。


早足のレイヴァンを追い掛けつつ、必死にご機嫌取り中だ。

「レイヴァン」

情けない声で名前を呼び、へにょりと眉を下げれば彼の視線がチラリと向いた。
足を止め、こちらを振り返ったかと思えば手首を掴まれ、そのままずんずんと引っ張られる。

「……レイヴァン?」

「いいから。黙ってついてきてください」

進行方向を変えた彼に訝し気な声を上げるもそう返され、大人しくそれに従う。
やがて足を止めたのは通りからいくらか進んだ路地裏だった。

影になったそこはジメジメと薄暗く、タバコの吸い殻などがいくつも落ちていた。
人影はない。
野良猫が一匹すぐそばを通り過ぎる。

猫に視線を奪われていると、ぐいっと首に腕が絡みついた。
視界の端でプラチナブロンドが僅かな光を受けてキラリと輝いた。

強く押し付けられる唇。
ぼやける程の近距離に瞳を閉じたレイヴァンの秀麗な顔がある。

あの月の下でのそれを思い起こさせるような勢いに溢れた口付けだった。
……幸い今回は出血なし。


何十秒ほどそうしていただろうか。
目の前でさらりと揺れたプラチナブロンドがゆっくりと離れた。

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