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しおりを挟む人目につきにくい場所、というのはありそうでなかなかないものだ。
ましてやその芸術品の如き美貌で人々の視線を容易く釘付けにして止まない彼と一緒ならなおさら。
興味があったのは互いに嘘じゃないけど……それでもそれなりに離れた王都の外れ近くまでわざわざ出向いたのは、目的の店よりも遠出というその道のりが魅力的だったのかも知れない。
なにせ馬車の中は誰の目も気にせずにいられる密室。
いまもぴったりと体温を感じるほどに隣に寄り添っていられるから。
「招待状は届きました?」
貴重な古書を取り扱う専門店の帰り、戦利品を「ちょっとだけ……」とパラパラとめくっていた手を止めたレイヴァンが問いかけてきた。
「ああ、使用人たちが大慌てだった」
苦い笑みを浮かべてそう答える。
なにせ俺はあまりそういった場に出ない。
勿論、これでも貴族の端くれなので完全にというわけにはいかないけれど、父さんや兄さんと違って気楽な立場の俺が絶対に出席しなくてはならない場合というのは限られている。
ましては今は領地を離れた学生の身という大義名分まである。
つまりは……王都邸にはあまり準備が整っていない。
使用人たちは本家から装飾品を取り寄せたり、仕立て屋を頼んだりと大忙しだ。
「やっぱり卒業後は領地へ戻られるんですか?」
「ん?」
「クラウ・ソラスへの入隊や、王城で働く気は?領地の発展に貢献なさるのはご立派ですが、ラファエルならクラウ・ソラスでも王城でも素晴らしい活躍をなさると思います」
じっと見つめてくるレイヴァンに瞬く。
「ラインハルトは貴方を側近にと望んでるようですよ。もしくは兄君の、と」
「……」
まさか、と呟いたつもりが声にはならなかった。
紹介ってそれで?
嘘だろ?!
ぱっち、ぱちと無駄に瞬きの回数が多くなる。
誰か、目薬をください。
「僕は卒業後はクラウ・ソラスに数年在籍する予定です。その後は王城で勤めようと考えています」
「うん、君なら確実だろうね」
予定とか謙虚な言葉を使っているが、レイヴァンの実力ならクラウ・ソラスへの入隊は確実に可能だし、関係性から見ても王子の側近はほぼ決定だ。
なんなら次期宰相候補。
「ありがとうございます」
俺からの太鼓判にはにかんでお礼を告げたレイヴァンの指がきゅっと服を掴んだ。
「貴方には貴方の将来を選ぶ権利がある。勝手なことを言っているのはわかってます。……でも、もしラファエルと一緒に仕事ができるならすごく嬉しい」
かっわいいなっ!あざと可愛い!
そんな言葉を飲み込んで、こっそり口の中を噛んだ。
いかん、表情が崩れそうだ。
「それに……」
ぽすっ、と胸元に顔を埋められ、ふわりと揺れた髪から芳しい香りが広がる。
「貴方が卒業して領地へ戻ってしまったら、少なくとも2年は会えないのは寂しい」
「……っ」
息を飲み、パシンと口元を押さえた。
耳が熱い。
じわじわと顔中に熱が集まるのが見なくてもわかった。
発言が可愛いし、なにより……当然のように2年後の未来でも俺の存在を側に置いてくれていることに胸が詰まった。
天使の輪を描くプラチナブロンドに顎を乗せて抱きしめる。
いまは顔をあげて欲しくない。なにせ真っ赤だ。
どうするべきか。
レイヴァンとの関係性、これからのこと。
最近揺らぎはじめた、漠然と思い描いていた平凡な未来。
タイムリミットはあと半年ちょっと。
それまでに、答えを出さなきゃいけない___。
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