【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴

文字の大きさ
152 / 164

152

しおりを挟む


女性のような華奢でしなやかなそれとは違う、だけど美しい彼の手を無意識に弄びつつ不意に口を吐いた言葉だった。

「掌なら懇願、か……」

誓って他意はなかったんだ。

気障キザ台詞セリフのつもりも当然なかったし、本当にポツリと口を吐いただけだった。

親指の腹でレイヴァンの掌をすり、と撫でながら頭に浮かんだのはかの有名なキスの格言。

「懇願?」

「あ、いやなんでもないよ」

首を傾げるレイヴァンに、ただの独り言だった俺は首を振った。
だけど「気になる」と視線で告げてくるレイヴァンに負けたのはいつものこと。

「昔なにかで読んだ台詞を思い出しただけ。キスの意味についてでね……ほら、さっき掌に口付けたのは無意識にそれが影響してたのかな、って思って」

「なんて本です?作者は?」

「う~ん、随分前にチラッと一節を目にしただけだから……覚えてないんだ」

ごめんね?と謝りながら誤魔化した。

読書家だし、わりと本の好みなんかも似てるから気になったんだろうけど……素直に答えるわけにはいかなかった。

なにせ、そんな本はこの世界にはない。
俺がふと思い出したのはグリル・パルツァーの『接吻』だし。

色んなとこで引用されたりするからご存じの方も多いだろうキスの格言だ。
そんな俺もなにかの小説で引用されているのを目にしただけで、『接吻』自体を読んだことはないけど。

「そうですか、残念です……」

心持ちしょんぼりした姿に罪悪感を刺激されつつ、再度ごめんね、と言葉を紡いだ。

「掌に口付けをするシーンがでてくるんですか?」

「そういうシーンが……というより、キスの場所と意味について書かれてるんだ」

「淑女の手をとって口付けるのは尊敬や敬愛、とかですか?」

「うん、そんな感じ」

貴族社会では挨拶として一番マイナーな口付けとも言えるだろう。

……俺はしたことないけど。
レイヴァンも…………もしかして、あるのかな?

想像してみたら、めっちゃ絵になるけどかなりモヤッとする。

「ほかには?」

そんな不快感を消し去るように、身を乗り出したレイヴァンが聞いてくる。

これはアレだ、好奇心モード発動ですね。

相変わらず知識欲旺盛な姿を微笑ましく思いつつ、顎に手を当てて記憶を探る。
なにせ前世のことだからパッとは思い出せない。
それでも一節を思い出せば、つられるように記憶が呼び覚まされた。

「たしか……」

言葉を紡ぎつつレイヴァンの手を持ち上げた。

「手の上なら尊敬のキス」

手の甲に口付けを落としながら告げ、そっと肩を引き寄せる。

「額の上なら友情のキス」

前髪をどけて、秀でた額にチュと口付け。

「頬の上なら厚意のキス」

ポカン、としていた彼が突然の実演に慌てだすのに構わず、淡く色づいた柔らかな頬にも口付けを。

「ラ、ラファエル?」

「唇の上なら愛情のキス」

困惑と共に俺の名を呼ぶその唇も唇で塞いだ。

「ね?目を閉じて」

頬に手を添えながら眦を撫でれば、窺うようにじっと上目遣いで見つめてきたあとで長い睫毛がふるりと震えた。

「閉じた目の上なら憧憬のキス」

唇の下に震える瞼の動きを感じながらそう呟き、再び彼の腕を持ち上げる。

「掌の上なら懇願のキス」

さっき懇願を込めたその場所にも唇を落とす。

その腕を掴んだまま、反対の手で彼の腰を引き寄せた。
ベッドの上に身を乗り出すような形になったレイヴァンの首元へと顔を埋める。

「腕と首なら欲望のキス」

際どい場所に口付けを落とせば、腕の中の身体がピャ!と大きく震えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...