【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴

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女性のような華奢でしなやかなそれとは違う、だけど美しい彼の手を無意識に弄びつつ不意に口を吐いた言葉だった。

「掌なら懇願、か……」

誓って他意はなかったんだ。

気障キザ台詞セリフのつもりも当然なかったし、本当にポツリと口を吐いただけだった。

親指の腹でレイヴァンの掌をすり、と撫でながら頭に浮かんだのはかの有名なキスの格言。

「懇願?」

「あ、いやなんでもないよ」

首を傾げるレイヴァンに、ただの独り言だった俺は首を振った。
だけど「気になる」と視線で告げてくるレイヴァンに負けたのはいつものこと。

「昔なにかで読んだ台詞を思い出しただけ。キスの意味についてでね……ほら、さっき掌に口付けたのは無意識にそれが影響してたのかな、って思って」

「なんて本です?作者は?」

「う~ん、随分前にチラッと一節を目にしただけだから……覚えてないんだ」

ごめんね?と謝りながら誤魔化した。

読書家だし、わりと本の好みなんかも似てるから気になったんだろうけど……素直に答えるわけにはいかなかった。

なにせ、そんな本はこの世界にはない。
俺がふと思い出したのはグリル・パルツァーの『接吻』だし。

色んなとこで引用されたりするからご存じの方も多いだろうキスの格言だ。
そんな俺もなにかの小説で引用されているのを目にしただけで、『接吻』自体を読んだことはないけど。

「そうですか、残念です……」

心持ちしょんぼりした姿に罪悪感を刺激されつつ、再度ごめんね、と言葉を紡いだ。

「掌に口付けをするシーンがでてくるんですか?」

「そういうシーンが……というより、キスの場所と意味について書かれてるんだ」

「淑女の手をとって口付けるのは尊敬や敬愛、とかですか?」

「うん、そんな感じ」

貴族社会では挨拶として一番マイナーな口付けとも言えるだろう。

……俺はしたことないけど。
レイヴァンも…………もしかして、あるのかな?

想像してみたら、めっちゃ絵になるけどかなりモヤッとする。

「ほかには?」

そんな不快感を消し去るように、身を乗り出したレイヴァンが聞いてくる。

これはアレだ、好奇心モード発動ですね。

相変わらず知識欲旺盛な姿を微笑ましく思いつつ、顎に手を当てて記憶を探る。
なにせ前世のことだからパッとは思い出せない。
それでも一節を思い出せば、つられるように記憶が呼び覚まされた。

「たしか……」

言葉を紡ぎつつレイヴァンの手を持ち上げた。

「手の上なら尊敬のキス」

手の甲に口付けを落としながら告げ、そっと肩を引き寄せる。

「額の上なら友情のキス」

前髪をどけて、秀でた額にチュと口付け。

「頬の上なら厚意のキス」

ポカン、としていた彼が突然の実演に慌てだすのに構わず、淡く色づいた柔らかな頬にも口付けを。

「ラ、ラファエル?」

「唇の上なら愛情のキス」

困惑と共に俺の名を呼ぶその唇も唇で塞いだ。

「ね?目を閉じて」

頬に手を添えながら眦を撫でれば、窺うようにじっと上目遣いで見つめてきたあとで長い睫毛がふるりと震えた。

「閉じた目の上なら憧憬のキス」

唇の下に震える瞼の動きを感じながらそう呟き、再び彼の腕を持ち上げる。

「掌の上なら懇願のキス」

さっき懇願を込めたその場所にも唇を落とす。

その腕を掴んだまま、反対の手で彼の腰を引き寄せた。
ベッドの上に身を乗り出すような形になったレイヴァンの首元へと顔を埋める。

「腕と首なら欲望のキス」

際どい場所に口付けを落とせば、腕の中の身体がピャ!と大きく震えた。

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