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しおりを挟むさてそのほかは、みな__________。
続きを思い出しつつ、唇の端がわずかに持ち上がった。
だけど無意識に上がったそれとは反対に、下がる眉と細まる瞳。
浮かぶ表情は、いわゆる苦笑と呼ばれるもので……。
「……ラファエル?」
ピャッとしなやかな背を仰け反らせ、胸を手で押さえていたレイヴァンが不思議そうに首を傾げてくる姿にますます眉はへにょりと下がる。
脳裏に浮かんだのは、キスの格言の台詞にはないある一言で。
そしてそれは俺の心境と、最後の一節になんとも噛み合うものだった。
参ったな、と苦笑いが強くなる。
「どうしたんです?」
「ん?納得と、ちょっと自分に呆れただけ」
「??」
「意外に的を得てるかも、って思ってね」
「キスの格言が?……ですか?」
ん、と苦く笑い、レイヴァンの耳元で脳裏に浮かんでしまったそれを小さく囁く。
「『心臓に キス』」
ピクリと揺れる身体に合わせて震えた髪が頬を擽るのを感じつつ、そっとそれを彼の耳にかける。
その耳やすぐ目の前にある首筋も朱を孕むのを見てしまえば、不埒な欲望が疼き出すのを否応なしに感じた。
ムクムクと首をもたげた欲望に誘われるまま、ついさっきまで彼が押さえていた胸を人差し指でトン、と突いた。
「よりにもよって連想されたのがそんな言葉だったからさ。自分自身に呆れて、あとひどく納得しちゃっただけだよ」
「し、心臓に……?」
ちょこっと強張った表情に慌てて首を振った。
これはあれだ、猟奇的なナニかを連想されているかもしれないと焦ったからだ。
いやいや、心臓抉りだして口付けとかしないからね?!
そんなグロいこと!!
「心臓に。心臓は無理だけど……君の左胸に鮮やかな赤い花を咲かせ………………って。ゴメン!流石にそんな不埒なことはしないからねっ?!大丈夫だから!!」
……って待て、俺。
猟奇的な誤解はアレだが、コレはコレで別の誤解を生むだろう。
勝手に焦ったうえで否定に必死な俺の様子に「……胸に」とレイヴァンの頬も薄っすら色づく。
ちょこん、と指先が俺の袖を掴んだ。
「心臓は……?胸と心臓へのキスの意味はなんですか?」
「あ~……、それは私が勝手に思い浮かべただけで本来は出てこないんだよ。本来はね、「さてそのほかは、みな_____」ってひっくるめて続くんだ。なんて続くと思う?」
「まだ出ていないのとなると……信頼とか慈愛とか、でしょうか?」
顎に手を当てたレイヴァンは本気で悩み、ぽつりぽつりと解答をあげるが俺が「ハズレ」と答えるたびに眉間のシワがムムッ―と深くなっていく。
「降参?」って聞いても「まだです!」とムキになるところは相変わらず負けず嫌いだ。
だけどついに答えがつきたらしく、ものすごく不本意そうに「正解は?」と聞いてきた。
「正解は…… “さてそのほかは、みな狂気の沙汰” 」
「……狂気の沙汰」
すごく不可解そうにオウム返ししたレイヴァンは数秒俺を見つめ、なにかを考え、答えを探すようにまた俺を見つめてくる。
ん?
どした?
「どうしてそれで納得するんです?」
問われ、ああそういうことかと腑に落ちた。
それは、ほら……。
「 “狂おしい程に恋しい” ってのは一種の “狂気” なのかなって思ってね」
ね?と首を傾げれば、何度目かレイヴァンの顔が真っ赤に染まった。
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