オレとアイツの脅し愛

夜薙 実寿

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第一章 ミイラ取りがミイラ化現象

1-5 階段下倉庫。パイプ椅子と、縄。

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 目を覚ますと、全身が鈍く痛んだ。体が重い。頭の中に靄が掛かったみたいで、ぼうっとする。
 呻くと、すぐ傍から九重の声が降ってきた。

「起きたか」

 ハッとした。瞠目し、顔を上げる。見下ろす九重の冷たい瞳と目が合って、息を呑んだ。

「お前……っ」

 反射的に動こうとして、上手く身体に力が入らないことに気付く。……何だ。何があったんだ? ていうか、何で九重の目線がこんなに高いんだ?
 不意に、九重が手にした黒い物体をオレに見えるように掲げた。

「最弱にしといたんだが、充分威力あるんだな。まだ痺れるか?」

 黒い、端末みたいな物体……スタンガンだ。まさか、これでオレ……?

「そんなの……持ち歩いてんのかよ、お前」
「金持ちの息子だと色々物騒だからな。むしろ、お前は何で持ってないんだよ。不用心にも程があるだろ」

 コイツ……っ! また痛いところを……。

 どうやらそれで気絶させられたらしいことは分かった。改めて自分の状況を確認しようと、視線を巡らせる。場所は変わらず、階段下倉庫。
 次に、身体に目を落とす。オレはパイプ椅子に座らされていた。それはまぁ、いい。問題は、体勢だ。……後ろ手に縛られてる。
 更に椅子の背もたれを経由して、それぞれ両足首にまで縄が掛けられていた。無理矢理脚を開かされる形で。固定……いや、拘束されてる。パイプ椅子に。
 一気に血の気が引いた。

「おい、何だよ、これ!? 縄なんてもんも持ち歩いてんのか、お前!?」
「いや、それは元々ここにあった。倉庫だからな。こんな便利な場所に呼び出すとか、本当バカだろ。返り討ちに遭う危険性とか考えなかったのか?」

 返り討ち? いやだって、まさかここまでするなんて……。ていうか。

「な……にを、するつもりだ?」

 情けなくも、声が掠れた。緊張で喉が渇くのに、身体からは嫌な汗が伝う。九重は、手にしたスタンガンを別のパイプ椅子の上に置いた。テーブル代わりに使われているらしい座面には、他に携帯端末が二つ乗っている。九重はその内の一つを手に取って、オレの眼前に示した。
 とき色のラバーケースを纏ったそれは、オレの相棒スマホだ。
 例の録画画面を表示させると、九重はオレに見せつけるように勿体ぶった動作で消去ボタンを押した。――証拠隠滅、って訳か。

「俺はお前と違って甘くないんでな。こんな音声だけのものでも、他人の手に切り札を握らせたまま放っておく訳にはいかない」
「……たかが隠滅の為に、随分周到なんだな」

 呆れた。それをわざわざオレに見せて悔しがらせる為に、縛った上にオレが起きるまで待ってたってのかよ。どんだけ負けず嫌いなんだよ。
 ……まぁでも、これで奴の目的は達成しただろ。結局約束はおジャンで小池さんには申し訳ないが、早い所解放して貰ってとっとと帰ろう。身体が痛い。
 そんなオレの心中を読んだのか、九重はさらりと恐ろしいことを言った。

「まさか、これで終わりだと思ってないよな?」
「は?」

 オレの携帯を椅子の座面に戻すと、九重はもう一つの方の端末を手に取った。紫のカバーの携帯。九重自身のやつか?
 九重はそれを手早く操作してカメラアプリを起動させると、くるりと背面をオレの方に向けて構えた。カメラのレンズが、オレを睨む。

「人を呪わば穴二つって言うだろ? オレを脅そうとしたお前には、相応しい罰を与える」

 ――罰?

「は、はぁ!? 何言ってんだよ!?」
「安心しろ。服を脱がせて写真を撮るだけだ。お前、モデルだろ。綺麗に撮ってやるよ」
「脱っ!? ……おい、嘘だろ!?」
「それじゃあ、精々いい顔しろよ」


   ◆◇◆


 どうして、こうなった?
 考えても、もう分からない。

「――触んな!」
「触らなかったら脱がせないだろ」
「そんなとこ、触る意味……っ」

 慈しむような手付きでオレの頬を撫でながら、九重は感心したように言う。

「お前、本当に顔は綺麗な」

 クスクスと、愉しげに笑いながら。――自分だって、綺麗な顔で。
 うるさい。こんな状況で褒められても、嬉しくない。
 輪郭をなぞるように下降した指先は、何を思ったのか今一度上昇し、不意にオレの耳に掛けられた。ぞわりと背筋が浮いて、思わず首を竦める。

「っやめろ!」
「お、もしかして〝トキくん〟、耳弱い?」
「な訳ねーだろ!」
「ふぅん……」

 そうやって、わざとオレの耳元で低く囁く。九重の声が、熱い吐息が耳朶を擽って、ぞわぞわが増す。九重は今度は耳の輪郭をなぞり、耳朶をふにふにと弄び始めた。オレは息を詰めて顔を背けることしか出来ない。
 九重がお得意のイヤミを垂れた。

「その割には、えらく反応いいな」
「お前……遊んでるだろ!」
「そうだけど。なんだ、花鏡は早く脱がされたいのか」
「違っ……! んな訳!」

 不意に、耳を離れた九重の指先が無造作にオレのシャツの胸元に掛けられた。オレは目を見開いて、九重の顔を窺う。九重は相変わらず普段見せないような酷薄な笑みを浮かべて、宣言した。

「それじゃあ、お望み通りに」

 ゆっくりと、丁寧に。わざと焦らすような手付きで、九重はシャツのボタンを外し始める。
 コイツ……こうして、オレの反応を見て楽しんでるんだ。
 そうとなれば、平静を装え。誰が楽しませてやるものかよ。こちとら、モデル業やってるんだぞ。上半身はだけた写真くらい普通に撮ることもあるし、全然恥ずかしくないんだからな!

 ボタンを全て外され、シャツの前を開かれる。外気の冷たさにうぶ毛が逆立った。
 九重はオレの肌を見て、またぞろ感心したように喉を鳴らす。……そうやって羞恥心を煽ろうとしても、無駄だぞ。

「……見てないで、早く撮れよ」

 とっとと終わらせろ。
 しかし、九重の手が伸びたのは、カメラのボタンではなくオレのズボンのベルトだった。

「ちょ、おい!?」
「上だけだとでも思ってたのか? つくづく甘いな、お前。下を写さないと意味が無いだろ」

 ――下!? 嘘だろ!?
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