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9話 相談
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ギラギラと光る夏の炎天下の土曜日。
俺は約束通りファミレスの前で一芽と出会う。今日は聞かれたくない話をするので、リナには悪いが留守番を頼んでいる。
「よっ!」
「今日はありがとな」
「俺もいい暇つぶしができるからなっ」
一芽はいつも通りニヤけ顔で話す。
店内に入ると窓際のテーブルに案内される。俺と一芽はテーブルを挟んで座る。
「で、何頼む?」
「え?」
一芽は早速メニューを開いて、オーダーを決めている。
「今日はそんなんじゃなくて」
「わーってるっよ!でも、まずは腹ごしらえからだろ?大体お前の話ぐらい簡単に想像できるからな」
やはり、一芽は勘が鋭い。よくよく考えてみれば、テスト前に『会ってほしい』って連絡しただけなのに、勉強道具を全く持ってきている様子を見せないのは流石だ。
「成、何そんな驚いた顔してんだよ。俺とお前、どんだけの時間を過ごしてきたと思ってんのか?」
「まだ3カ月だけどな」
「あれっ?そうか!?」
一芽はかっこいいことを言ってみようとしたのだろうが、俺らは出会って3カ月である。
3カ月でここまでの関係になるとは思ってもいなかったがな。
俺たちは簡単に食事を済ませ、店員に食器を下げてもらった。
「んじゃ、本題に入るぜ。まぁ話の内容は察してはいるが、とりあえず話ってなんだ?」
一芽の顔が真剣味を帯びる。
「実はなリナのことなんだが、リナにはどうやって社会に出で貰えばいいんだ?お前に相談することじゃないが、自分だけじゃ全く分からないから」
「なるほどなぁ」
一芽は眉にしわを寄せ、数十秒ほど考える。
どうやら考えがまとまったらしく、顔を上げて目を合わせる。
「あくまでも客観的意見だが、リナちゃんには、いずれかではあるが必ず成の家を出ていってもらった方がいいと思う。これは絶対だ。まず、未成年同士が同居していること自体が「社会のルール」を破っているからな」
「うっ、」
確かに、リナと俺がどうこうという話の前に、俺らは今社会のルールを破っているのか。
「そんな難しい顔すんなって、リナちゃんは今、成の家がベストポジションだからな。今、一番考えなくてはならないことは「いつ巣立ってもらうか」だ」
「やっぱり、長い時間をかけて少しずつ慣れてもらうのがいいのか?」
俺にはすぐにリナを社会に出したくはない。その理由は『時間は大事』という考えの優先順位が一番だからだろう。
「ちなみに俺は短いほうがいい」
一芽は俺と間反対の意見を待っているので動揺してしまう。
「どうしてだ?」
「リナちゃんをゆっくり育てるほど、お前とリナちゃんは辛くなるだろうからな」
一芽は俺の目から視線を離さない。一芽がここまで真剣になるのは珍しい、というか初めてだ。
「時間をかけてはいけないのか?」
「そんなの簡単だろ?お前と彼女が長い時間を過ごしてしまったら2人にはどんな思いが生じると思う?」
「信頼や友情⁇」
「それだけならいいけどな。その思いが何かをきっかけに別の形に変化してしまったらもう離れられないだろうからな」
一芽は所々ボカした言い回しをしてくるが、強く推してくる。
俺にはその「思い」というものがわからない。ましてや「ゆっくりと成長すること」のデメリットさえも理解できない。これは俺が幼少期から祖父母に育てられた影響だろう。
手に持つドリンクグラスが震える。本当に本当に俺はどうすればいいんだ?
「成、深く考えんな。俺もお前もリナちゃんもまだ高校生なんだ。ゆっくりとは言えないが、時間を使うところではあると思う」
「でも、このままじゃっ!!」
テーブルを叩き、机から乗り出し前のめりになる。辺りの視線がこちらに集まる。少し声を出しすぎた。
「落ち着け、ならこうしよう。期末テストの日までに期限を設けよう。そこまでにお前が決断しろ。あくまでもこれは成とリナちゃんの問題だ」
終業式か。1週間後のテスト、それがタイムリミットか。
「分かった」
「最後に1つだけな。これは2人の問題だからな。お前の気持ちだけを優先することは絶対にNGだかんな」
「ああ」
俺は下唇を噛みながら深く頷く。
「じゃ、帰るか!」
一芽は立ち上がる。きっと長く続いた重い空気を嫌ったのだろう。
俺も荷物を持ってレジに向かう。
「1680円になります」
今日はテスト前なのに時間を割いてくれたんだ。俺の問題なのにこんなに真剣に話を聞いてもらってるんだから俺が払うのは当たり前だ。
「成、ここは俺が払うよ」
「はっ!?今日のところは俺が払うべきだろっ!?せっかく相談に乗ってもらってるのはこっちなのに」
慌てて財布を取り出す。しかし、その手を一芽に止められる。
「俺らが話してる時にリナちゃんは何をしてるんだ?」
「家でちょっとした家事を…」
「なら、ここは俺が払うから彼女には今晩良いご飯を作ってやれよ。お前はもっと周りの人の気持ちに目を向けろ」
「わ…悪いな」
『周りの気持ちに目を向けろ』か、俺はずっと自分の事情ばかりを考えてたな。今夜はしっかりリナと話してみるか。
俺は、一芽と別れた後スーパーに寄って急いで帰った。
俺は約束通りファミレスの前で一芽と出会う。今日は聞かれたくない話をするので、リナには悪いが留守番を頼んでいる。
「よっ!」
「今日はありがとな」
「俺もいい暇つぶしができるからなっ」
一芽はいつも通りニヤけ顔で話す。
店内に入ると窓際のテーブルに案内される。俺と一芽はテーブルを挟んで座る。
「で、何頼む?」
「え?」
一芽は早速メニューを開いて、オーダーを決めている。
「今日はそんなんじゃなくて」
「わーってるっよ!でも、まずは腹ごしらえからだろ?大体お前の話ぐらい簡単に想像できるからな」
やはり、一芽は勘が鋭い。よくよく考えてみれば、テスト前に『会ってほしい』って連絡しただけなのに、勉強道具を全く持ってきている様子を見せないのは流石だ。
「成、何そんな驚いた顔してんだよ。俺とお前、どんだけの時間を過ごしてきたと思ってんのか?」
「まだ3カ月だけどな」
「あれっ?そうか!?」
一芽はかっこいいことを言ってみようとしたのだろうが、俺らは出会って3カ月である。
3カ月でここまでの関係になるとは思ってもいなかったがな。
俺たちは簡単に食事を済ませ、店員に食器を下げてもらった。
「んじゃ、本題に入るぜ。まぁ話の内容は察してはいるが、とりあえず話ってなんだ?」
一芽の顔が真剣味を帯びる。
「実はなリナのことなんだが、リナにはどうやって社会に出で貰えばいいんだ?お前に相談することじゃないが、自分だけじゃ全く分からないから」
「なるほどなぁ」
一芽は眉にしわを寄せ、数十秒ほど考える。
どうやら考えがまとまったらしく、顔を上げて目を合わせる。
「あくまでも客観的意見だが、リナちゃんには、いずれかではあるが必ず成の家を出ていってもらった方がいいと思う。これは絶対だ。まず、未成年同士が同居していること自体が「社会のルール」を破っているからな」
「うっ、」
確かに、リナと俺がどうこうという話の前に、俺らは今社会のルールを破っているのか。
「そんな難しい顔すんなって、リナちゃんは今、成の家がベストポジションだからな。今、一番考えなくてはならないことは「いつ巣立ってもらうか」だ」
「やっぱり、長い時間をかけて少しずつ慣れてもらうのがいいのか?」
俺にはすぐにリナを社会に出したくはない。その理由は『時間は大事』という考えの優先順位が一番だからだろう。
「ちなみに俺は短いほうがいい」
一芽は俺と間反対の意見を待っているので動揺してしまう。
「どうしてだ?」
「リナちゃんをゆっくり育てるほど、お前とリナちゃんは辛くなるだろうからな」
一芽は俺の目から視線を離さない。一芽がここまで真剣になるのは珍しい、というか初めてだ。
「時間をかけてはいけないのか?」
「そんなの簡単だろ?お前と彼女が長い時間を過ごしてしまったら2人にはどんな思いが生じると思う?」
「信頼や友情⁇」
「それだけならいいけどな。その思いが何かをきっかけに別の形に変化してしまったらもう離れられないだろうからな」
一芽は所々ボカした言い回しをしてくるが、強く推してくる。
俺にはその「思い」というものがわからない。ましてや「ゆっくりと成長すること」のデメリットさえも理解できない。これは俺が幼少期から祖父母に育てられた影響だろう。
手に持つドリンクグラスが震える。本当に本当に俺はどうすればいいんだ?
「成、深く考えんな。俺もお前もリナちゃんもまだ高校生なんだ。ゆっくりとは言えないが、時間を使うところではあると思う」
「でも、このままじゃっ!!」
テーブルを叩き、机から乗り出し前のめりになる。辺りの視線がこちらに集まる。少し声を出しすぎた。
「落ち着け、ならこうしよう。期末テストの日までに期限を設けよう。そこまでにお前が決断しろ。あくまでもこれは成とリナちゃんの問題だ」
終業式か。1週間後のテスト、それがタイムリミットか。
「分かった」
「最後に1つだけな。これは2人の問題だからな。お前の気持ちだけを優先することは絶対にNGだかんな」
「ああ」
俺は下唇を噛みながら深く頷く。
「じゃ、帰るか!」
一芽は立ち上がる。きっと長く続いた重い空気を嫌ったのだろう。
俺も荷物を持ってレジに向かう。
「1680円になります」
今日はテスト前なのに時間を割いてくれたんだ。俺の問題なのにこんなに真剣に話を聞いてもらってるんだから俺が払うのは当たり前だ。
「成、ここは俺が払うよ」
「はっ!?今日のところは俺が払うべきだろっ!?せっかく相談に乗ってもらってるのはこっちなのに」
慌てて財布を取り出す。しかし、その手を一芽に止められる。
「俺らが話してる時にリナちゃんは何をしてるんだ?」
「家でちょっとした家事を…」
「なら、ここは俺が払うから彼女には今晩良いご飯を作ってやれよ。お前はもっと周りの人の気持ちに目を向けろ」
「わ…悪いな」
『周りの気持ちに目を向けろ』か、俺はずっと自分の事情ばかりを考えてたな。今夜はしっかりリナと話してみるか。
俺は、一芽と別れた後スーパーに寄って急いで帰った。
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